異世界人と私の存在と知識
おかしくなった男どもからPTDを取り上げてひっぱたき
レミリアとアエルにはゲームのセーブの仕方を教えてから
ゲームを終了させて、あまりおいしくない冷めたお茶を飲みながら
反省会というか、説明の続きをすることにする・・・疲れる・・・
「まあ、というように、ゲームというのは今みたいな
実際に起きてはいない事象だけど、それをこういう絵とか
あとほぼ自分が体験したように経験できるVRってのもあるけど
まあ、兎に角なんというか、現実ではない事象を体験できる物
それがゲームだってのは身をもって理解できたでしょ?」
全員が激しく頷いて同意する。純粋に楽しめていたレミリアとアエルも
初めてのゲームは衝撃的だったらしく、こんなに面白い物が存在する
のかと、セーブして中断させてから改めてそれを実感したらしい
男どもはいまだになんというか、引きずっている感じで
あんな悲劇を現実で起こしてはならないと気合がはいったハゲ
まだどこか、しょんぼりしている駄目中年
ゲームのキャラに理想の女性像をみてやばい世界に入った三男坊と
各自ゲームによる多大な悪影響が残るものの、ゲームというものが
実際には起きていないがここまで感情に影響するということは
激しく理解したらしく、なんとなく私の状況が理解できたらしい
「今皆がしたのは、特定の既に設定されたキャラクターを操作するタイプ
その操作によってストーリーは分岐して変わるので、全員が違う未来
に進んでいったように、展開は変わるわけよ。でも、キャラクターその
ものは全員同じ、孤児の女の子でスタートで、終わりまで変わらない
私がこの世界に飛ばされる前にしていたゲームは、そのキャラクターを
性別も体も顔も何もかも、設定していじれるゲームだったのよ
なので、この顔も体も本当の私じゃない。私の特徴は幾つかあるけどね
つまり私は、この世界にくる前に、この体に一度変換されて、その上で
この世界に送り付けられてるわけよ。本当にこの先どうなることやら
どうせ戻っても、もう無断欠勤が続いてるので会社には戻れないだろうし
そもそも元の世界の私の体が存在するのか、しても腐ってる可能性もある
だから私にとってはもう帰るはほぼ絶望的だし、この体で元の世界に
帰ったとしたら、確実に大問題になる。世界各国が分解してその技術を
手に入れたがるでしょうね。はあ・・・お先真っ暗だよ全く」
「どういうことだ? レイラの世界にある存在なんだろその技術は?」
「いや、ないよ。元の世界でもここまで高度なサイバーテクノロジー
は存在しないし。ここまで理不尽な個人への武力の付与を行った
兵器システムは存在しない。だってさ、基地とか兵隊別にしてさ
私に戦闘用の一番性能がいいパーツつけたら、どうなるか考えた
だけで頭が痛いよ。恐らくこの都を一人で焼け野原は楽にできる」
全員が生唾を飲み込むのがわかる。私はお茶の残りを飲み干してから
「私がこの世界に飛ばされた時ってね、忘年会っていう私の世界の
年末のパーティーの真っ最中だったのよ。だから、それに行く為に
外見が一番人間に等しくて、防御力が高いタイプの体を選んでる
まあ、お酒が入る席なので適当に撃って間違えて当たっちゃうって
事が毎年あったので、このタイプのボディーを選択してる
でもね、戦闘用はもう外見が、普通の人間じゃないってやつがある
のよ。その中でも一番貴重なボディーを私は持っていてね
ゲームの中ですら、その装備で戦闘で使う事は稀だったのよ
あまりに火力が高すぎるのと、味方に敵と間違われるのが問題でね
味方ごと巻き込んで敵を倒す事も多かったし、何より敵と間違われて
知らない他のプレイヤーに攻撃をうけて、怒りに任せて反撃して
殲滅しちゃったりってさ、トラブルが多かったんだよあのボディーは」
「つまり、今のレイラは儀典用の甲冑をきた状態みたいなものか?」
「ちょっと違う。パーティー用に着飾った状態かな。あのパーツつけた
初回起動時の動画確かのこしてるよ。ちょっと再生してみようか」
PTDをテーブル中央に置いて、ボンジリ大王、リッパー、べこ娘、私の4人
で初回起動テストを行った時の動画を再生する。リッパーが中東の砂漠地帯
にかなり広大な基地を建設したので、その敷地を使って起動テストを行った
時の動画だ。ボンジリ大王がバーゲンセールとばかりに各種戦車を標的と
して並べ、べこ娘が大量の対戦車ヘリをスタンバイさせている
リッパーは自分の基地の外れにある滑走路で爆撃隊を準備している中
私はその広大な敷地のはしっこに、ただ一人ポツンと立って攻撃されるのを
待っている状態だ。しばらくするとボンジリ大王の姿がアップになり
これから耐久度テストを開始すると宣言が行われてから60両近い最新鋭の
戦車から一斉に主砲が発射されて私を襲うが、シールドで弾かれるか砕かれ
消滅させられる、迎撃用の粒子ビーム機銃で弾が蒸発する等で一発も着弾
せずに第一射撃が終了する。これを第八射撃まで行って、私への着弾が0で
効果がないと判定されたところで戦車達と私の位置を入れ替え、私から戦車
に攻撃して、威力テストにテスト項目が変わる。ここにきて初めて私の姿が
大きく映し出されるが、顔以外は光沢がある金属質のパーツで構成され
完全に皮膚が出ないレベルまで鎧を着こんだ女性に見ようと思えば見えなく
もないが、両肩はスラスターやハードポイントが搭載されている関係で大き
く張り出し、胸部は増設された装甲とシールド発生装置等でボリュームアップ
されているのに、腰は引き絞った形を維持している。膝丈のフリルスカート
のような下部ハードポイントと増加装甲の下には、脚線美のラインを崩さな
いようにしながらも、スラスターやシールドを内蔵した運営拘りのモデリング
と言われた足がその全体像とかみ合わない姿をさらしている
「まあ、今までのとこの動画で、主力戦車から合計480発の砲弾を受けた
けどみての通り、ノーダメージ。砲弾がシールドにあたって五月蠅かった
って記憶しかないね。ちなみにこの戦車の砲一発で、お城の城壁は着弾
箇所は崩れるよ。そういう威力のものをあれだけ食らって全く損傷がない」
「聖鋼の獣車があんなに大量に・・・それに我が国にある聖鋼の獣車より
少し小さいのですが・・・それ以上に恐ろしい迫力がある・・・
あれらの攻撃をうけて無傷とは信じ難い・・・なんという強さ・・・」
ダルカスが呆然と独り言のように感想を吐き出したあたりで、攻撃の準備
が完了した動画の中の私が動き始める。右手に身長より長い特大のライフル
のような武器を持ち、左手に腕に装着する形で大型の機関砲のような武器を
装備しているが、どちらも薬莢が吐き出される箇所とマガジンが無い
ボンジリ大王が画面内にひょこっと現れ、これから携帯型荷電粒子砲と
重粒子レーザー機銃のテストを行う旨を告げてから、私に合図を出す
ボンジリ大王のテスト開始の合図で戦車達が戦闘機動を開始して、遮蔽物の
無い砂の大地をその重さからは想像が出来ない速度と機動性で走り回る
砂漠を疾走する戦車の群れに砲身がむけられると、画面全体がかなり暗い色
に覆われる。荷電粒子砲の発射時の閃光に対処するためにフィルターがかけら
れた後に、私の動力炉からのエネルギーをたらふく食らった荷電粒子砲が発射
され、フィルターをかけているにも関わらず、一瞬画面が白一色に埋め尽くさ
れた後に現れた戦車の群れの一部には、溶解し爆発した戦車や
荷電粒子がかすったことで電子機器を破壊されて行動不能になった戦車等が
その屍をさらしていた。次に重粒子機銃の試験が行われ、20mm口径程度に
しか見えない左手の機銃から光り輝く弾のような断続したエネルギーが発射
されて戦車に到達すると、次々に戦車が行動不能になったり火災を発生させて
撃破されていく。三人はビール片手にげたげたと笑いながら
「チートだ運営に通報だな」「圧倒的過ぎて笑える」「強すぎっす姉さん!」
等と好き勝手に感想を漏らしながら、次のテストの準備に入る。もうこの辺で
いいだろうと動画の再生を止める。流石に自分が映っている動画を真剣に見ら
れるのはなんともむず痒いというか、気恥ずかしい感じなので耐えられないのだ
「俺からすればだ、レイラのおっかなさが更に上がったしか感想はないんだが
それより、この中の三人はレイラの友達か? 仲が良さそうだな」
「ああ、この三人はゲーム内での腹黒フレンズだね。よく遊んだり、話したり
酒飲んだり、喧嘩して互いに基地に弾道弾ぶちこみあったりいい友達だよ
もう二度と会えないだろうけどね。三人が幸せにな人生であることを願うよ」
「やはり、帰りたいのか?」
「・・・・・・酷な質問ねそれ。そうね、そりゃ帰れるものなら帰りたいよ
あっちには両親のお墓もあるし、友達もいる。兄の事だって気がかりだよ
でも帰ってもさ、誰も私を私と認められないんだよ。変わってしまったから
それにさ、戻ってもさ・・・・・・無断欠勤で解雇された女が、26を超えて
再就職は厳しいよ。戻りたいけど、戻ったところで待っている現実は絶望
戻らないでこちらにいれば、ずっと戻りたいと願い続ける未来だよ
どちらに転んだとしても、何処かに何かしらの問題が残る。まったくもって
私はどんな罪を犯してこんな状態になったんだろね。女神って奴を私が殺そう
と思うのは当然でしょ? ただ懸命に働いて普通に生きてきただけで、こんな
解決できない状況に陥れてくれたんだから・・・全くもって憂鬱だよ」
「まて、26だと?? レイラお前、26歳なのか??」
「そうだけど。さっきも言った通り、この体は本来の私ではないから
年齢不相応に見えるかもしれないけど、それは仕方がない事なのよ
20歳くらいの私を思い出して願望と美化を入れた形だからね」
「いや容姿や顔の事じゃない。26歳でなんでそんなに知識があるんだ?
それに物事の考え方が26にはとても思えないんだよ・・・・・・・
失礼を承知で正直に言うがな、俺はレイラは500歳くらいだと思っていた」
「・・・まってバルロイ、そこまでババ臭い私? やばい?? おっさん臭い?」
「いやそういう事じゃなくてだな・・・病気を根絶するだの、輸送網を作るだの
あと、村の生活改善のために風呂を作って無償で開放するだの、チェニスへの
説教の事だの、なんかなんていうんだ・・・俺達の物の考え方と明らかに違う
んだよ。レイラに比べると俺達の考え方は、場当たり的にしか見えないんだよ」
「んー、それは仕事と人生経験の所為かもしれないね。会社が魑魅魍魎が昼から
闊歩するようなところだったからね。商社ってのは下手すると小さい国だと
その国の政治や経済まで把握しちゃうような恐ろしい存在だからね
うちは国内3位のそこそこの大手だったけど、そういう先をみた仕事しないと
あとで売り上げの回収できないとか、それとか世界がこう動くからどう手を
打っておくかとか考えないと大きな損をしたりする仕事だったんだよ
だからまあなんだろ・・・今は大した利益にならないけど、将来お金になるから
これはしといたほうがいい、みたいな事例を上司だの先輩だのに教えてもらった
ってのはあるんだよ。10年20年先を見て動けってのは、よく言われたよ」
「先を見て仕事をするか・・・今金になることをして、それを変えていけば
良いんじゃないのか? そのほうがたぶん、損失はないだろ?」
「んー・・・じゃあ私の仕事ではないけど一例を話すよ
昔、私のいた国の漁獲量が低下したことがある。採り過ぎたと皆思った
でもそうじゃなかった。国が発展して自然が失われて、山が開発されすぎて
山から海に流れ込む川の水に含まれる、栄養が失われていたのが原因だった
だから、川の整備をしなおして、山の手入れをして山を豊かにして
山から海に流れ込む水を豊にした。そしたら少しずつ漁獲量が戻っていった
今だけみるとこういう、その先にある色々な影響がわからなくて、結局はさ
全体の収益が下がったり、本来得られるはずだった利益が失われるんだよ
だから一つの物事をするのに、その先にどんな影響がどの範囲で及ぶかを
考えて動かないと、勿体ないんだよ。それは世界が違っても同じなんだよ」
ダルカスがいつのまにか、身を乗り出して話を聞いていた
彼の立場からすれば、国を豊にするとか、発展させるってのはやっぱり重要
な課題だろうから、興味がある内容なのかな?
「個人的な意見だけどね、国の発展というのは農業と近いのかもしれない
まず土地を開墾して畑を作る。これは土地を切り開いて村を作ってさ
そこに人が住める環境を作ることと似ていると思うんだよね
次に畑の周辺の環境を整える。害獣や害鳥に農作物や種が食べられない
ように、囲いをつくったり、威嚇のための案山子を作ったりさ
これは村が発展して町になって、防壁で囲って警備兵を配置してさ
外敵に襲われないようにするのや、犯罪や襲撃への抑止として兵隊を配置
するのと似てるじゃない。で、これらの対策費ってのは全て利益に繋がらない
建築、人件費、装備の購入費、これらは全て、投資に対して利益は生まない
でも、利益の損失を抑える抑止として、継続的な安全な利益の確保に繋がる」
「確かに、町の発展におけるそういった安全対策は莫大な金がかかりますが
それ無くしては安全でさらなる発展は手に入りませんな。必要な費用で頭
が痛い出費ですが、そういわれてみれば、金をかけた分、金を失う可能性
を減らせているので、ただ単に無駄に金が使われているわけではありませんな」
「道路もその一旦なんだよ。畑から村に荷物を運ぶのにさ、道がないと困るでしょ
で、道があれば簡単に収穫したものを運べる。逆に道路がないとさ、収穫して
貯蔵場所まで運べる限界量ができてしまう。その限界量の底上げをするのに
道路はいる。それに畑まで資材を持ち込むのも楽になる。大きな農機具や
大量の肥料や水を楽に運べるようになれば、農地を拡大しても人数を増やさずに
ある程度の拡張ができる。その上収穫物の運搬も楽になる。これは町でも同じ
でしょ。町の中の道が整備されれば、馬車が荷物をもってお店に直接行けるし
町の中に倉庫があれば、そこに大量の品物を馬車で一度に大量に運べる
で、これをさ、畑同士でつながってたとしたら、Aの畑の機材をBの畑でも
楽に使いまわしできるでしょ。町も同じで、AとBがつながってれば、その間
を楽に物資や人を輸送できるでしょ。そうすれば商売の可能性も増えるけど
一番大きいのは、情報と知識の移動が円滑になるんだよ。特に情報が大事」
再びPTDを取り出して、テーブルの上に置く。ゲームじゃないぞと釘を刺し
戦術リンクからアルムの村を現在哨戒しているUAVの可視光線映像の情報を
転送して、PTDに表示させる。ダルカスは上空からの映像というのを見て
いなかったので、うめき声をあげてから盛大に音を立てて生唾を飲み込み
PTDに映し出された高度1000からのアルムの村の映像を目を見開いて
凝視して固まっていた
「これは情報の伝達が高度に発展した例ね。リアルタイムで遠隔地の映像
が手に入る。この意味は分かるよね? 監視の兵隊を前線に置かないで
でいいじゃないんだよ。これが国境にあったら、有事の際にさ、一瞬で
国境を敵が超えてきたと伝令が到着する数日を待たないでわかるよね
即座に兵をだせば、国境の陣地が蹂躙される前に援軍が間に合うかもし
れない。更にさ、今まで10日で到着したところが、夜でも安全に行軍
できる整備された道路があればさ、3日の強行軍で援軍が到着するかも
しれない。3日持ちこたえれば味方が来てくれるぞ! と現地で指揮官
が鼓舞して、それが嘘ではなく難しいが不可能ではないと分かっていれ
ばさ、現地の兵隊は3日は必死で戦うよ。防衛力にも道路はなるんだよ
だから私は、アルムの村から王都までって限定したんだよ。道路はね
防衛の道具にもなるけど、侵攻の道具にもなるんだよ。だからその先に
攻める他国がないアルムの村から王都までに現状は限定したんだよ
侵略の道具に使われた場合、私の影響でエルスリード王国が増長して
とんでもないヘマをやらかす可能性がある。その可能性がないのがさ
あそこから先は山しか行き場がないアルムの村なのよ。わかったかな?」
「お前はそこまで考えて行動してたのか・・・俺はなんか自分が・・・
とんでもない間抜けに思えてきたよ・・・この圧倒的に敵わない絶望感
なんか俺は、本当にとんでもない仕事の相棒が出来ちまったな
味方である限りはこれほど心強い事はないが、敵になったら戦う前に
白旗上げるか逃げるしかないなこりゃ・・・乾いた笑いすら出ない」
「バルロイはマシだよ。私を利用しようとしたことは、酒を飲む以外で
は今まで一度もない。普通はチェニスみたいになるよ、これだけ知識
と力に差があれば。それが自分の物になればどれだけの事が出来るか
それを考えて提示してくるよ。だからそれをしなかった分、バルロイ
の事は信頼している。だから銃も渡した、そういう事なんだよ」