冒険者への扉 1
受付嬢に案内されてついた先は、ガフ君の家にもあった光る魔道具
の光でそれなりの明るさに保たれている石造りの広い空間だった
上の建物の半分くらいの大きさ、テニスの試合会場みたいな雰囲気の
中央に一団低くなった箇所があり、その周囲を段々状の座席が囲み
中央の低い箇所は、テニスコート2面程の広さがあった
訓練場を囲む段々には、疎らに人が座って酒を飲んだり何らかの
ゲームのようなことをしたり、ぼそぼそ喋ったりと
暇を持て余した冒険者と思われる人間がだらだらと過ごしている
ただここでそうやって過ごしているということは、一日に何人かは
ここを使う事が毎日のようにあるってことなんだろか?
しかしそんなに毎日登録者が現れるわけでもないだろうし
普段は名前の通り訓練で使われたりしているのだろうか?
「あの中央の低い所で試験を受けるわけか
ザロス君は剣とナイフどっちも使えそうだからいいけど
さて私達はどうするか、だな・・・ま、使える武器を出すしかないね」
フルボーグである私の場合、対エイリアンや対装甲車両用のための
作った奴の頭を疑うような武装がいくつかあるので問題はない
主力戦車みたいな装甲をもった大型のエイリアンを相手にするために
作られた、対装甲刀という呆れるほどでかい刀も装備としてある
軽戦車並みの装甲で、四つ足で壁や木を足場に立体機動で襲い来る
ハウンドと呼ばれるエイリアンに対抗するための装備である、超振動
電磁鞭なんて際物すらフルボーグ用の武装では存在する。体内にある
反応路の出力を武器に回せるので、そういったゲテモノが使えるのが
フルボーグやサイバーの利点なのだが、人間相手に使ったことはない
問題はレミリアとアエルだ。彼女達は生身なので、そういった武装に
エネルギーを供給する装置を内蔵していない。そのためそれらの装備
は使えないし、そもそも作動したとしても、あまりの重さに振り回す
ことすらできないであろう。さてどうするか・・・
まあ、銃剣戦闘術を使うしか手がないだろうと考えて、インベントリから
M590A1を2丁とM7バヨネット2個を取り出して、M7バヨネットをM590A1に
装着して具合を確かめる。まあ、これでいけるだろう・・・
M590A1はモスバーグM500と呼ばれる散弾銃の軍用バージョンだ
モスバーグM500はポンプアクション式のショットガンで、使いやすく
民間、警察、軍用まで幅広く使われている。また操作性がよく信頼性が高く
3000発以上の連続射撃に耐える高い耐久性を誇り、軍用規格の審査を
パスしている数少ないショットガンだ。そのため、銃剣をつけ格闘に使用
しても、破損する可能性が少ないと考えて彼女達に支給することにした
使用弾薬として特殊弾を取り出す。Taser XREPというとても変わった弾で
弾自体が小型のスタンガンになっており、着弾すると20秒もの間
電撃を流し続けて対象を行動不能にするというユニークな弾丸だ
これならバルロイの注文である、殺すなを何とか達成できるだろう
まあ、万が一銃剣での戦闘になった場合は、流石にわからないけど・・・
それと9mm用のゴム弾を取り出してGlock用のマガジンを6つ取り出す
ゴム弾ををマガジンに詰めてレミリアとアエルに渡して今あるマガジンと
全て交換してチャンバーの通常弾も抜くように指示する
「レミリア、アエル。使い方は体で覚えろ。弾は特殊なのを支給する
一応、予備も支給しておくが戦闘中のリロードは基本的に不可能と思え
あと、チャンバーに弾をいれた状態で格闘すると暴発する危険性がある
いざとなったらGlockなりナイフなりに切り替えて拘らずに戦うこと」
二人にフルロードしたM590A1を渡す。二人は妙に神妙な顔でそれを受け取る
「もし負けたらランバートン様の顔に泥を塗る・・・負けられない・・・」
「負けたらご褒美が出ない・・・勝てばきっとあの茶色いケーキ・・・」
意外にもレミリアは超真面目な理由だった。そしてアエルは食欲だった
「二人とも目的を勘違いしないでよ? 試験に通過すれば良いのよ?
勝ち負けとかどうでもいい。二人が無傷で試験に通れればそれで良いの」
二人に釘をさしてから、ザロス君に話しかける
「ザロス、秘策がある。ちょっと耳を貸して」「何でしょうか?」
ザロス君に、まずは以前から使っている剣を主体にしているように戦い
実際にはその剣は囮で、ナイフが本命で戦うように告げる
怪訝な顔をして私の話に少し否定的な意見を持っているようなので
ナイフを抜かせて、そこにインベントリから取り出した鉄のインゴット
を軽く押し当てると、木材でも斬るように刃が入っていくのを見て
ザロス君はぎょっとして少し飛び上がった
「ま、こういう事なのよ。鎧だろうが盾だろうが剣だろうが、その強化
グルカナイフならこの世界の材質の物なら大抵は切れる。意味分かった?」
「凄まじい切味ですね・・・教えてもらわないで使っていたら大変な事
になりましたよ。わかりました、その戦法で相手の意表を突きます」
「狙い過ぎないように。ザロス君は根が素直なんで顔と態度に出やすい
相手に読まれる可能性が高いので、チャンスは1度と思って頑張れ」
「・・・・わかりました、一度きりのチャンスだと理解して挑みます」
全員の準備が終わったので、受付嬢のところに行き
「こちらは準備が整った。相手さんの準備を頼みます
それと事前に、きちんとルールの説明はお願いしますよ?」
「分かってます! もう試験官の方はあちらの入り口で準備終わってます!
その横の階段から降りて訓練場に入ったら試験開始になります
試験時間は1分。その間に倒れたり降参すると失格になります
武器はそちらは何を使っても結構ですが、相手を意図的に殺そうとした
と判断された場合は罪に問われる事があるので注意して下さい」
「普通で考えるなら、専用の模擬戦用の武器や刃を潰した武器を使う
んじゃないの? 本当に何を使ってもいいのね武器は?」
受付嬢は私達を見回して、鼻で笑で笑ってから
「今回の試験官はAランク冒険者の方々です。貴方達が彼らに傷を
負わせる可能性はありません。貴方達も試験に受かる確率も
限りなく低くなりましたけどね・・・ふふふっ・・・」
「おいまて、どういうことだ! Aランクが試験官をするなんて
普通じゃありえねーぞ? お前何考えてんだ??
ボイドは承知してんのかAランクが新入りの試験をやるってことを!?」
バルロイが突然、慌てたように大声で受付嬢を詰問する
受付嬢は涙目になりながらも、バルロイをキッとにらみつけて
「試験の担当を誰にするか決めるのは私の権限です!
貴方みたいな何処の誰かもわからない低ランク冒険者が
職員の行動に口出しするなら、冒険者資格を剥奪しますよ!」
「バルロイ、まさかあんた、自分が誰かこの馬鹿に説明しないで
それで上から目線でダメダメだとかディスったわけ??
これたぶん、この馬鹿女、私とあんたのこと逆恨みして
使える権限全部もちだして潰しにきたよ? どうすんのよこれ?」
「この糞アマ・・・俺はAランク冒険者の疾風のバルロイだ
お前の行動は全てボイドに報告してしかるべき処分をさせる
この試験はボイドに仕切りなおしてもらう、なしだなし!」
受付嬢の顔色が一瞬で真っ白になってから、青くなって土下座を始める
しかし既に、相手の試験官と思われる人物が訓練場に入ってこちらを
ニヤニヤと笑いながらこちらを見上げている
「いや、バルロイ。このままやらせよう、3人の実力を見たいし
何かあれば私が止めに入るし、それに回復させる手段もある
どうせなら、思惑に乗ってやろうじゃない。その上で処理しよう」
「あああ、最悪だ最悪だ最悪だ・・・俺はその展開を阻止したかったんだ
三人はいい、負ける可能性が高い。だが殺されはしないだろうよ
問題はお前だレイラ。何する気だ? 殺すのか?? マジで殺るのか??」
「また失礼な物言いするわね。いやね、面白い武器を思い出したんだわ
あれたぶん、爆笑の渦に出来ると思うんだ、ここのギャラリー全てを
で、そんなのと対戦させられた試験官、私を恨むの当然だけどさ・・・
その上4人全員が圧勝する、相手を殺さずに。そうしたらどうなる?
この馬鹿女も確実に恨むよね、あんなの聞いてないぞって」
「・・・・・・・・それは、実に、楽しそうな計画だな・・・
だが、相手は死なないんだな? 確実に死なないんだな???」
「死なない ものすっごく運が悪かったら、転んだ時に頭を打って死ぬ
これはありえるけど、全てのケースにおいてありえることでしょ?
この兵器を使うと、10時間くらい効果が持続するんだよね
おそらくこの兵器の影響下に置かれた相手は、その間何も出来ない
まあ、他人の手を借りれば何とか出来るんだけど、そこも考えがある
馬鹿にお灸据えるイメージダウン作戦、やってみてもいいんじゃない?」
「よしわかった、それでいこう。ギルドマスターのボイドには俺から後で
話をつけるし報告もする。殺さない限り徹底的にやっってこい
Aランクが新人いびりとかふざけたことしてんだ、それなりの報いは
受けてもらわんと、Aランクの評判が落ちるからな」
「バルロイさ、冒険者の事なるとあんためっちゃ真面目になるよね
普段もそれくらい仕事してくれると、もっと美味しいお酒でるよ?
純粋なお酒もあるんだけど、お酒をジュースで割った飲み物とか
複数のお酒とハーブを混ぜた飲み物とか、まだまだいっぱいあるよ?
あとアルベルト、そういう混ぜたお酒をカクテルっていうんだけど
それ作るのも上手いから、真面目に仕事すんなら作らせるよ?」
「・・・マジか?」「わりとマジでいってる」「明日から頑張るわ」
「その明日って永遠にこないやつ?」「・・・酒は欲しいが否定できねぇ」
「まあいいや、で。で、そこで泣きべそ蒼白女、これからどうすんの?
今更違う担当官をなんて下らない話ややめてよ? このまま進めるから
で、相手何人いるの? 4人いんだったらもう面倒だ、チーム戦で
同時にやらせなさいよ。そしたらここの一番偉い人に、少し処罰を
軽くするようにお願いしてあげることを、考えてあげてもいいんだよ?」
ええ、考えてあげるだけ ですけどね・・・・
「わかりました! だから絶対約束守ってくださいよ!」
「約束? そりゃ貴方の頑張り次第じゃない?
私はあんたのもたらした結果次第で考えるだけだよ?
それに難癖つけるなら、気が変わるけどいいの?」
受付嬢は真っ赤な顔になってダッシュで試験官の方に走っていった
馬鹿なやつだな・・・ありゃ絶対騙されて人生で失敗する奴だ
私は約束なんてしてないし、処罰を軽くするようにお願いしてあげる
なんて言質取られること言ってないんだよ・・・駄目だなありゃ
5分程で、受付嬢が帰ってきて、同人数のチーム戦での試験という
形であちらの了承が取れたと嬉しそうに言ってきた
「これで約束守ってくれますよね!」
「なんの約束? 私は貴方とそういう約束は何一つしてないよ?
まあそうだね、一応結果は出したので、給与一週間分くらいの
退職金は出るよう交渉してあげるよ。罠にはめようとした奴にさ
こんな優しくしてくれる奴いないよ? 本当に運が良いよ貴方」
「レイラ随分と優しいな・・・俺なら絶対なんもしてやらんぞ
こいつみたいのがいるから、冒険者になろうって必死で金貯めて
この建物の門をくぐった奴が、絶望に打ちひしがれて帰りの道で
自ら命を絶つことだってあるんだぜ? 本当にやってられねーよ
おい、お前覚悟しとけよ。俺はレイラほど優しくないからな
お前のしたことは冒険者ギルドの運営に対する悪意がある妨害だ
冒険者ギルドは半公共組織だってことを忘れてるんじゃねーだろな?
お前は確実に王法による処罰を受けるように徹底的にやってやる」
受付嬢は恐らく、軽い気持ちで自分に恥をかかせた新人いびりをした
程度の気持ちだったんだろうね。ただバルロイがいたのが運の尽きだわ
それに黙って見ているけど、不快そうな顔してダルカスがさっきから
ずっと聞き耳立ててこちらの会話全部聞いてるわ。ありゃどう処罰するか
もう考え巡らしてるな。怖いね、お役所辛みの職権乱用がバレると
「さて諸君。このふざけた遊びにケリをつけにいこっか」
歩き出してからバルロイとダルカスに背を向けたまま片手をあげ
ひらひらと手を振ってから、私は訓練場に続く階段を下った
訓練場に通じる扉を開ける前に、ちょっとした悪戯道具をインベントリ
から取り出して、全員が階段を降り切ったのを確認してから扉を開ける
あの受付嬢、可愛そうに。ここの清掃の代金も請求されるんだろな
これから起こることを考えて、私はちょっとわくわくしていた