お出かけ準備
「ランバートン殿、これで全部ですかな?」
練兵場に並べられたおびただしい量の物品を前に近衛が固まる中
宰相はごく短時間でインベントリから物を取り出す私に慣れたらしく
さらっと当たり前のような口調で提出物の確認をしてきた
「あ、申し訳ない。一つ忘れていたものがありますね」
インベントリから、王都で襲撃してきたローブの集団の死体と
チェニスの直上に現れレミリアが撃ち殺した死体とその武器を取り出し
新たに提出物として並べられた物品の横に置く
「これは例の洞窟ではなく、王都で襲撃してきた者の死体と武器です
特に最後に取り出したこの3体の死体は、いきなり真上に現れました
魔法とやらを使ったか、特殊な道具を使った可能性がありますので
調査の際には十分に気を付けらた方が良いかと思われます」
渡してしまえばもう私の責任は一切ないので、親切で警告を加える
「これは・・・機硬弓・・・帝国でしかこれは作れない代物です」
「そうらしいですね、チェニス王子からそういう話を聞きました」
「この弓は鎧を貫く上に、誰でも一定の射手にしてしまう
欠点は熟練した弓手よりは射程が得られない事と
直線的な攻撃しか行えないので防壁の内側等に撃ち込む等には
適していないという程度なのですよ。我が国でもこれが作れれば
随分と戦が楽になるのですがね・・・ない物強請りですな」
「王国ではこれは作れないのか・・・私の世界ではね、これは
2000年以上前に、これより構造が単純な物だけど存在したよ
1000年前には、戦争でそれなりの数が使われていたけど
あまりに殺傷力が高いので、当時の教会が同じ神を信じる者
どうしでの戦いでは使用してはならないって制限つけたくらいよ」
「これが1000年も前にあった・・・恐ろしい世界ですな」
「いずれこの世界も私のいた世界のような恐ろしい世界になります
さて、次は町に出て冒険者ギルドなる場所に行く予定なのですが
宰相閣下がそのままの恰好で一緒に行くと多分大騒ぎですよね?」
インベントリから衝立と椅子を取り出して、空いている場所に
周囲から目隠しされた小ブースみたいなものを作っていく
「ランバートン殿、どうなさるおつもりで?」
「一緒に街に行くのに騒ぎになると困るので、変装して頂きます
ええ、もちろん、変装の内容については私に一任して頂きます」
「あの、私の意見とかは?」「基本無視でいきます」「え??」
バルロイを手招きして呼び、宰相と二人で目隠しされたブース
に入るように伝える。宰相が少し不安気な表情で後に続く
インベントリから、宰相に合いそうな服を適当に探す
ガチャ品でなくベースで生産可能な服の項目の中に
非戦闘地帯用の一般服が多少あったのでそちらの収納フォルダ
を探すと、革製のバイカースタイルの服が幾つかお試しで
生産したのがあった。黒い革のパンツとブー、指出しグラブ
灰色のタンクトップと黒い袖なしの革ジャケットを取り出す
衝立の向こうにぽいぽいと投げて、バルロイにお願いして
宰相の着替えを手伝わせる。何やら衝立の向こうで騒いでいる
が、バルロイにお任せして着替えが終わるのを待つ
終わったと合図があったので横から顔を出してみると
妙に恥ずかしそうにしている宰相のキモイ姿があった
しかし予想通りいいガタイをしていて似合っていたので
悪戯心をくすぐられて、インベントリから追加のアイテムを出す
シルバー系の宗教的シンボルに見えないタイプの指輪やネックレス
等のアクセサリーをいくつか取り出して渡し、ごつい腕時計も渡す
それらをつけさせてじろじろ眺めてから、これいけてるやんと思い
椅子に座るように促して、以前バルロイに使った潜入工作パックと
入れ墨シールのセットを取り出して机を出してその上に置く
「さてと、宰相閣下。これから貴方は、偽の身分で行動してもらいます
さすらいの冒険者、ダルカス。今から貴方はそういう立場です」
「は?? ランバートン殿、まったく話が見えないのですが??」
「まあ、仕上がれば分かりますので気にしないで作業を続けます」
「いや、私が気になって仕方ないのでそこは説明をおね オブッ!?」
蒸しタオルを取り出して、顔をがしがし強めに拭く
蒸しタオルで無視したとか、くだらないギャグを思いついて
やばい私課長みたいなこと考えてる!? と一瞬青くなる
蒸しタオルで目を覆ったまま、頭に入れ墨シールを張る
額の横から耳の上くらいのサイドにかけて羽が広がり
額の中ほどから頭頂部方向に顔がある鷹の入れ墨を張り
タオルを取って顔全体にクリームをぬってつやを出し
口ひげを均等に整え得て、艶出しワックスをかける
特殊メイクのツールから傷作成キットを取り出し
額の下から目を通過して頬の中ほどまでに達する
偽の傷跡をつくってから、アイパッチをとりだしてかける
このアイパッチは裏からは普通に見えるので、視界は遮らない
最後に耳と鼻に偽ピアスをつけたらチェーンで繋いで完成
姿見の大きな鏡をとりだして、宰相に自分の姿を見せる
「は??? これが、これが今の私なのですか!?!?!?」
「そうそう、カッコいいでしょ。アメリカでバイク乗ってそう」
「いつものことながら、レイラの道具の性能はおかしい・・・」
衝立だの椅子だの道具だのを収納して、近衛の皆様にお披露目する
イメチェンした宰相閣下を紹介すると近衛第一小隊の連中は最初は
信じなかったが、宰相が 「いや本当に私なのだが・・・」 と言うと
近衛の一人が 「禿が格好良くなっているだと!」 と叫んで驚く
宰相がそれに対して 「お前減給8割!!!!」 と即座に返す
「城の備品で、袖なしのチェーンメイルと、ベルトに吊るせるタイプの
片手で使える剣とナイフみたいな小さいのあったら借りれませんか?」
近衛の方にむかってそう聞くと、すぐに持ってきますと一人が駆け足
で練兵場の片隅にいって何やら用具入れのような物をごそごそ漁って
直ぐに指定した物を持ってきた。なるほど、訓練用の物があったのか
宰相のチェインメールを着るように言って宰相に渡し、インベントリ
から黒の安物のガンベルトを取り出してナイフと剣をつけてみる
あ、意外にうまいことつくな。とおもってそのまま宰相の腰回りの
サイズに合わせて凡そで調整して宰相に装着する
うん、なんかどっからみても、中堅かベテランのおされな冒険者だ
全ての装備をつけた状態で、宰相にもう一度鏡で確認するように伝え
鏡をあと2枚だして、合わせ鏡で後ろも見えるようにしてやる
近衛第一小隊の面々も、アルムの村組の面々も、劇的に変化した宰相
の容姿に興味深々でわらわらと近づいてくる
「ってことで、さっきいった通り、宰相閣下はこれから城を出て同行
するときは、冒険者ダルカスという偽の身分で行動してもらいます
閣下と一緒に街中で行動とか、かなり面倒になると思うのでまあ
こういう変装をってことです。まあついでに、禿ててもカッコ良い
は出来るんですよって、まあ、ちょっと示したかったんですけどね」
宰相は自分の姿を鏡で何度もみて、だんだんとニヤケ顔が止まらなく
なってきている。近衛の連中はかなり羨ましそうに
宰相の革ジャケットを物欲しげな目でみている。まあ、革で黒染め
で、ポケット一杯ついてるわ、金属の飾りリベットとかついてるから
この世界だと高級ファッションになるのかねあれ? 現実でも結構
なお値段したと思うし。どっちかっていうと腕時計とアクセサリー
のほうが注目されてるのかあれ??
「閣下、戦闘の経験の有無。それと腕前は?」
突然話を振られた宰相は、ニヤケ顔をぴたりと止めてから
「一応これでも昔は、家出息子として世界を放浪して色々とね
Bランク冒険者資格までは昇級しました。今も有効かは分かり
ませんが。これでも陛下と共に、スタンピードに立ち向かった
事もありますので、剣の腕でなら騎士団の上位の者に匹敵する
と思いますぞ。バルロイとならいい勝負になるでしょうな」
「ああ、そりゃ間違いない。今の閣下はかなり肉体が全盛期に近い
レイラあのな、その禿親父はな、今は宰相なんて偉そうな立場に
いるがな、昔はそりゃ酷かったんだぞ。俺がガキの頃とかな
わざわざ夜のスラムに陛下と御忍びでいって、チンピラをぶちの
めしては世直しだなんだと理由をつけて、喧嘩を楽しんでたらしい」
「バルロイ、その辺りで儂を虐めるのは止してくれ
あれは今思い出しても恥ずかしいのだ・・・
若気の至りとはよく言ったものだ・・・」
「なるほど。じゃあちゃんとした装備があれば自衛位できますね?
では、そのチェインメールと剣とナイフを一度こちらに渡して下さい
強化して実用レベルの性能にしましょう。そうすれば安全性が増える」
インベントリからカスタムベンチを取り出して、空いている空間に
ごとんと設置する。今回は防具もなので、防具用のカスタムベンチも
取り出して隣に設置する。近衛の連中が驚いて、宰相の体をカスタム
ベンチから遠ざけようと引っ張る。危険物ではないのだが・・・
宰相がチェインメールと剣とナイフを渡してきたので、まずは
チェインメールを手に取り、防具用のカスタムベンチの投入口に
放り込む。さらにインベントリからケプラー繊維と対衝撃ジェル
それにセラミック防弾プレートとゴム系素材を取り出す
《グーデリアン、モニターしてて状況分かってるでしょ?
ってことで、防具と武器の改造と強化なんだけど、んー・・・
チェインメールの表面にケプラー素材で斬と通常弾対策
裏地に耐衝撃ジェルで衝撃対策はいいとして・・・・
ケプラーのさらに表層にセラミックプレートベースのさ
スケールメールみたいな鱗装甲をゴムでコーティングして
動きやすさを阻害せずに、それほど重くならない鎧って作れる?》
《そうですね・・・動力補助がないのでどうしても重量による
運動機能の低下は発生しますが、チェインメールをベースにですね
ミスリルニウム合金のチェインメールにすれば相当軽くはできると
思いますが・・・結局はセラミックプレートと対衝撃ジェルの重量
が加算されますので、プレートメールほどではなくても、一般的な
スケールアーマーのような重さにはなってしまうと思います》
《ミスリニウムか・・・ミスリルどれくらい必要になる?》
《20グラムもあれば触媒として問題なく作成できます
現在、例の鎧を分解した際に抽出したミスリルが
350グラムインベントリに存在しますので、十分作れます》
《そんな添加率でいいの? 100キロ貰う約束したんだけど??》
《それはいずれ、我々の兵器に転用すれば宜しいかと
ミスリニウム合金のバレルやチャンバー等は面白い結果になるかと》
《あー、それいいね、それおもろいわ
よし、じゃあ、ミスリル20添加でいってみようか》
インベントリからミスリルを探し出して引っ張り出す
20グラム分、サイコナイフでカットして素材投入口に入れる
先に出した素材も全てぽいぽいと投入口に入れて、作成ボタンを
押そうとして、大事な事に気が付いてグーデリアンに指示を出す
《表面コートはマットで。目立たないように光沢低減処理入れて》
《了解しました。セラミックスケール装甲にマット処理を施します》
グーデリアン君がワークベンチに作成データを再送信して
Readyのグリーンのランプが点灯したのを確認して、ワークベンチの
作業実行ボタンを押して、結果をまつ
毎度のことの、がうんごうんがっしゃんどこんと、激しい騒音が響き
まあ、普通に終わるだろうとおもった矢先に、眩い閃光が走る
また大成功しやがったのか!? と思って取り出し口を見ると
なんというか、まったく想像していたのと違う代物が出てきた
要人などがスーツの下に着る、薄手の防弾チョッキのようなもの
が出てきたのだが、よくみると面白い構造をしている
表面がブラインドを閉じたような構造になっていて、細長い板状の
装甲が折り重なって上から下へと続いているのがわかる
この板状の細い装甲はゴムに近い特性があるようで、左右から力
を加えると、外側にむかってしなるように力を逃がして変形した
脇の部分には板状の装甲が縦に折り重なっており、体を捩じる
という事が可能な構造になっているのがわかる
そして何よりも、兎に角軽い。おそらく2キロを切っていると思われる
《作業終了 大作成ニ成功シマシタ
新素材ガ開発サレ特性ガ付与サレマシタ
新素材 ミスリルセラミック複合材
付与特性 エネルギーサーフェイスシールド(自動識別自動展開)》
なんでまた大成功するんだか・・・私の武器作るときに成功してくれた
のってものすっごい稀有だったのにね・・・と思いながら、もう一度
投入口に放り込んで、エーテルスフィアを10個だして一緒に放り込む
強化作業を実行させるが、今度は普通にただの成功で何も特別な事は
起きずに、ただ普通に作業が終了された
強化された鎧を取り出し、仮想ウィンドウで概要を確認する
〔 名称 ラバーコートライトスケールアーマー
種別 軽装複合鎧
材質 ミスリニウム合金+ミスリルセラミック複合材等
強化 +10(+10を突破したので防具破壊無効)
特性 エネルギーサーフェイスシールド(自動識別自動展開) 〕
まあ、一度作ったのでレシピが手に入ったので同じものが作れる
これは性能によっては一定数量産してもいいかもしれないと考える
魔法に対しての知識と防御手段が乏しい私にとって、今回付与された
特性のエネルギーサーフェイスシールド(以下 ESS)は私に内蔵
されているのと同じタイプの、レーザーやプラズマ等の光学兵器から
の攻撃を防ぐことを目的で開発された、AOTを使った力場展開装置だ
ESSはメイジャーゴブリンとの闘いの際に攻撃魔法にも有効であること
が確認されているので、この世界での防具としては効果的な機能だろう
しかし動力をどうしているんだこれは? 私は自分の反応路からESSに
エネルギーを供給して展開しているのだが・・・見回すと、背面の腰
の部分に、汎用型バッテリーユニットを装着するソケットがあった
あー、だから自動展開なのか。バッテリーだとそんなに長く展開
できないもんね。節約型で必要な時だけ展開する仕組みか・・・
インベントリから、汎用小型バッテリーを取り出してソケットに
装着する。2つつくようなので、それなりの回数のシールドは使える
だろうと考えるが、ここは村に帰ったら確認しないとだめだな
しっかし、なんでこの世界の住人の為に作るとこ簡単に大成功するんだ?
と、よくわからない理不尽さを感じて、剣とナイフについてはそのまま
ワークベンチに突っ込んで、エーテルスフィアだけをぽいぽいいれて
強化作業のみを実行した。そしてこちらは特に何事もなく普通の
+10の破壊不可能な武器になっただけで作業が終了した
出来上がった装備を宰相に渡すと、剣とナイフは外見が変わっていない
のだが、明らかに性能が良くなった事がわかるらしくて、驚かれた
ただ、鎧を渡した際には、目玉が飛び出るかと思うほどに目を見開いて
驚かれた。伝説級のアイテムになったようでえらい価値があるらしい
「こんな高価で貴重な物を頂戴するわけには行きませぬ!」
「良いから着て。死なれると困るからわざわざ作ったんだから」
「しかしランバートン殿、これは伝説級のアイテムで
国の宝物子に収められるレベルの代物ですぞ???」
「いやあのさ、目の前で作ったじゃない? 材料あれば作れるから
で、これがいくらかとか、国にとってどれだけ貴重かとかさ
私興味ないんだって。一緒に外出して宰相が死にましたなんて
なったらさ、後が面倒だから、そのために作ったんだからさ
着ないんだったらついてこないで。わかった?」
すみません、昨日思いっきり早めに寝ちゃってました(汗
ちょっと季節の変わり目で体調崩したのか、夕食後にうとうとして
気が付いたら朝になってました。申し訳ありませんm(_ _)m