転機
「なんだこのパンに肉をたんまりと挟んだこの料理は!
宰相、食ったか? もう食ったか? 凄まじいぞこれは!!」
「陛下、それよりこの黒い液体を飲まれませ!
これは凄いですぞ! 口の中で弾けますぞ!!」
宰相がさっと王様に近づき、コーラの紙パックにストローを刺し
王様に差し出すと、王様はストローを口に咥えると一気に吸い込み
思い切り咽返って宰相の顔面に猛烈な拡散液体噴霧砲を撃ち放った
「なんだこれはなんなのだ!! 甘いぞ、爆発するぞ! 心地よいぞ!」
「陛下! いくらなんでも顔にぶちまけることはないでしょうが!!」
「すまぬ宰相、わざとではない。しかしなんだこの食事は、全てが
強敵と打ち合った時のような素晴らしい衝撃を与えてくれるではないか!」
なんだこの、違法な薬物でハイになったような国の重要人物2人は?
ただのバーガーセットで雄叫びに近い声をあげて怒鳴るように喜びを
表し、相手の顔にコーラをぶちまけながら食事を続けるこの絵図は??
そして女中や執事やら近衛の兵隊やらも、大体似たような有体である
ほんと、ランチセット一つでここまで楽しめる人生って羨ましいわ
「あの、ランバートン様。私達もそろそろ中身を確認して頂きませんか?
私お腹すきました、早く食べたいです。いいでしょ、ね??」
「あああ、ごめん、こっちも食べようか。てか中身私も知らないだよね」
アタッシュケース大の耐衝撃パックを開けてみる
なんだこれ? 中にまたなんか入ってるぞ??
この小さいのはなんだ? カップチーズケーキだこれ
この中くらいのは、チョップサラダかこれは美味しそうだ
もう一つの中くらいのは? あ、これ好きなやつだ、ワカメスープだ
んで大きいのは何だ? これは白米か。ってことはあれがおかずか?
この平べったいのがオカズだろ? あたりだ、ロースカツだ!
この水筒みたいのはなんだ?? ん?・・・これはやばいやつだ
慌てて水筒の蓋を閉じるが、一瞬でも開けたのが運の尽きだった
あらゆる人種の枠を超えて愛される、あの香りが室内に流れ出た
最悪だ、やっちまった・・・アルベルトの渾身の弁当なのはわかる
彼の私達への気遣いと思いやりも痛いほどによくわかる
しかし、この場を想定していたら絶対出さないはずだよな
私だってこんな状態で弁当を食べるとは思わなかったよ・・・
バーガーのランチセットで狂喜乱舞していた集団に香りが届いたらしい
ぴたりとウソのように静まりかえり、動きを止めたと思った次の瞬間
ゾンビ映画を5倍速早送りで見たらこんな感じだろうな?という速度で
ずざざざざと音が聞こえてきそうな勢いで、王城組がこちらに向かってきた
アルムの村組に手で合図をして 開けるな と静止する しかし・・・
やらかしやがったチェニスの野郎・・・水筒をがっつりあけやがった
複雑で芳醇かつ食欲を掻き立てるあの香りが室内に流れ出す
王城組は完全に我々を包囲し、ギラついた目でチェニスのもつ水筒を
にらみつけている。レーダー警報装置あったらロックオンアラート
とか出してんじゃねーか? ってくらいチェニスは狙われていた
「あの、お城の方々に先に言っておきますけどね・・・
これ、私達の御昼ごはんですから、奪わないでくださいよ?
チェニス王子の分に関しては、そちらの御子息ですので
家族同士でよく話し合ってお決め下さいという事で・・・」
「ランバートン殿私を見捨てるのか!?」「いやだって、父親でしょ?」
「私が父上の横暴を何とか出来ると思うのか??」「知らない・・・」
「後生だランバートン殿! 助けてくれ!」「グッドラック!」
チェニスを生贄にして、我々は昼食を食べることにする
改めて水筒を開けると、やはり中身はカレールーだった
あー、めっちゃひさしぶり。現実でも全然食べてなかった
もうロースカツカレーとかウェストやばいので避けてたのに
そうだよこの世界なら気にしなくていいじゃん! ガッツり行ける!
アルムの村組に、最初に例を見せるからこうやって食べてと伝え
白米のはいった容器を開け、そこにロースカツを乗せる
それから水筒からどぼどぼとカレールーを白米のケースの隅にかける
ケース内のスプーンをとって、こうやって食べてみと先に一口食べる
ああ・・・たまらん、これだこれ・・・この口から鼻に抜ける香り
ちょっとカレーが粘度高いな、これ機内で食べること前提かな?
あー、チョップサラダも粘度が高いドレッシングだね
でもワカメスープは? あー、これもトロミがついてるのか
ほんとアルベルトって、こういう細かい所気が利くよね
私が感心しながら食べていると、まずはレミリアが手をつけた
同じようにご飯にカツとカレーをかけて、しょっぱなから
スープン山盛りを口に放り込み、もしゃもしゃと食べ始める
「ヤバイですこれはなんか世界が明らかに違う食べ物です!
なんですこれ?? こんな臭い嗅いだことないですよ???
この辛いのに美味しいってなんです? 意味分かんないです!」
「・・・??? 私はあんたの発言の意味が理解できてないよ?
辛いのに美味しいって、え?? この国って辛い食べ物ないの?」
「辛いのは傷口の消毒に使ったり体を温める食べ物に使いますけど
こんなにいい匂いがまずしません! あと味も辛いのが際立つだけで
こういう風になんていうか、複雑に絡み合った不思議な味はしません!
これは辛いだけでなくって甘いもあるし色々あっておかしいです!」
「なるほどね・・・西洋に近い文化かとおもったら
そういう訳でもないのか。でもあんた、前にさ
スパイシーバーガー食べたでしょ。あれも辛みあったでしょ?」
「あれとはもう全然別の存在ですこれは! 辛さがもっと強いのに
おいしさはあれを遥かに超えてます! こんなの危険ですヤバイです!」
「レミリア、ちょっと落ち着け・・・あとな、そういうこといってるとだ
そのバーガーくってた城の人たちがチェニスの・・・遅かったわ」
チェニスの方を見ると、王様がチェニスに何やら命令をして退かそう
としていた。宰相も王様と手を組んだらしく、チェニスに何やら言っている
チェニスがこちらを涙目、いやもう泣いてるわあれ、で見てきたが
まあ、私には部下と仲間を守るという義務があるのだよチェニス君
君は親を敬い孝行をするという義務を果たし、互いに義務を果たそう
ではないかと目で訴えるが、まるで通じてはいないようだ
チェニスよ 孝行したいときに親は無し と昔の人は言った
食いたいときにカレー無し とも誰かが言ったかもしれない?
ということで、諦めろ。と勝手に自分の中で決着をつけて食事を続ける
「ランバートン殿酷いではないか! 何故助けてくれぬのだ!」
あ、チェニスあのゾンビの群れみたいのから脱出できたんだ
てか綺麗な身だしなみだったのに、ぼろぼろだね
「いやあの・・・助けたらさ、私ご飯食べられないよね
ここはチェニスの家みたいなもんだよね?
家庭内トラブルは、家庭内で解決してもらうしかないじゃない
それともあれ、実の父親を撃ち殺せとでも私に言ってるの?」
「いやそうではないが、何か手はなかったのか??」
「いやないから・・・そちらの息子さんの食事をどうするかは
ご家族で話し合いの上で決めて下さい、って言ったんだよね
というか、この世界の人間は食に関してはおかしいんだよ
私の国じゃ、よほど飢餓状態でもない限り、他人の食事を
奪うなんて倫理観はないよ? もうね、そこについてはね
この世界は明らかに私の世界と違うので、なんも言えない」
「しかしだな、私はあれを食べる機会を失ってしまった・・・」
「いやさ、チェニス。よーく考えてみてよ?
私達、客の立場でここにお招きされて本来は歓迎される立場だよ
王家の公式な謁見とか国民の義務できてるわけではなくってさ
王室のプライベートエリアに一応は客として迎えられているわけじゃん
その人間に、自分の家の問題解決しろってのは間違ってると思わない?
チェニスはこの城の人間で、ここに私達を連れてきたわけじゃない
本来はチェニスがエスコート役で、いろいろ取り仕切るんだよ」
「確かにそうなのだが・・・そうであるのだが・・・」
「別にあの女中の件はいいよ。私が勝手に宰相閣下の顔色悪いのが
気になってさ、それで勝手に始めた事で発覚したイレギュラーな
事だからさ、あれに対して対応しろっていうのはそれは酷だよ
でもさ、普通に考えたらさ。お客に飯を用意しろって言う話は
あんまり聞かないよね? 普通は招いた側が用意するもんだよ
それか飯を出す気がないなら、飯の時間前にお開きにするもんだよ
んでさ、プライベートな空間だとか言われてもさ、相手は国王陛下
という、この国で一番偉い人だよ? 嫌だとか言えるわけないよね
それについてエスコート役のチェニスに助けを求めてないでしょ
もうしゃーないって、ちゃんと全員分用意して出したじゃない
その上でのこの状態だよ、そこまで面倒も世話も出来ないって」
「しかしだ、私はランバートン殿に助けを求めたではないか!
なのに無碍もなくランバートン殿はそれを断ったではないか!」
「チェニス、すごい真面目に言うね。王位継承権を破棄して国民の為に
役に立ちたいって考えは良いと思う。それは正直、称賛に価するよ
でも貴方は王族でしかないんだよ。王族としてしか振舞ってない
自分が王族として下々に敬われて大事にされることが当然と思ってる
そういうのがね、言動のあちこちに出てる。行動理念にも影響してる
貴方が民の為になりたいだの国を豊かにしたいと本気で思うのなら
自分が何が出来るのか、自分でどう動くのかその部分が全然足りない
自分の事も出来ない人間がさ、他人を助けるとか人を幸せにするとか
それは無理な話よ? もっと自分の今を見てさ、考えてさ
そのために何が必要で何を努力するか、まずそこから始めないと
少なくとも成人した男子がパパに逆らえないから助けてくれと
客である女に助けを求めてる時点でそんな大それた事は出来ないよ
キツイこというけど、感情的にならないで、一度そこはじっくり
冷静に考えて、それでもやりたいかを確認することを勧めするよ
この際だからはっきり言うけど、私にはチェニスがこのまま行けば
暴君タイプの為政者になると思う。理想だけを掲げてそれを提示して
現場はそれを達成できなくてチェニスに許しを請う未来しか見えない
そしてチェニスは、私はこうしろといったのにどうして出来ないのだと
その許しを請うている人間に追撃を行うんだよ。そんな未来でいいの?」
はっきり言おう、めんどくさくてウザかったのである
私は体重もウェストも気にしない現状で、久々のカツカレーを満喫
したかったのである。なのでこの面倒なのをどう捌くかと、殆ど直観
だけでチェニスをなんとかする言葉がないかと適当にべらべら喋った
だけなのである。はっきりいって大した意図も啓発する気もさらさら
無かったのである。食わせろ、邪魔すんなボケ これが本音である
言葉の嵐で相手の発言を妨害して一方的に相手をまくしたてる
これは相手を封殺する手段の一つである。相手が自分より気弱ならだが
が、なぜか言われたチェニスは、ひどく衝撃を受けて真剣な顔になり
バルロイとザロスは、カレーを食べるのを止めて
私に対して尊敬を込めた眼差しを向けているのである・・・・・
カツカレー争奪戦を繰り広げていた王様と宰相ですら、動きをとめて
こちらをみてばつが悪そうな表情でうつむいている
女中や執事やら近衛たちは、まるで夢から覚めたような表情を一瞬すると
教師に叱られた小学生のような態度でうつむいて壁際に並び始めた
ちなみにレミリアとアエルは、食べる事に夢中で聞いてすらいないようだ
たのむ、もう勘弁してくれ、食わせてくれ、もう面倒はなしにして
私は彼らの様子を 見なかったこと にして、一気に本陣であるカツに
スプーンを伸ばして、一口の元にそれを平らげた
今このチャンスを逃せば食う機会を失う。そして奴らの再始動は遠くない
私は必死にカツカレーをかきこんで、次の面倒に備えるのであった・・・




