間者 2
「まさかこの王族専用区画まで間者が入り込んでいるとは
使徒殿の御蔭で発覚したものの、使徒殿がこられなけれ
ば発覚せずに今も何かしらの工作をされていたわけか・・・
宰相、此度の事は儂にも責任があるが、お前にも責任がある
責任をとって罰を受けよとは申さぬ。代わりに責任をもって
この件の調査と解決に当たれ! 我が国に仇名すものを
一人残さずこの王城から燻し出せ、良いな」
「はっ! ふざけた輩をこの王城、いえ、このエルスリード王国
から燻り出し、その愚行を魂にまで叩き込んでくれましょうぞ!」
間者と思われる女中が駆け付けた近衛により運び出され
室内は大慌てで血やらテーブルの上からちらかった物やらを
片付ける少数の女中によって慌ただしくなる中
王様は静かな怒りを込めた命を宰相に発し、宰相は見違えるように
精気溢れる体で胸を張ってその命を受け力強い声でそう答えた
「既に王城にこの間者がいた。何のためかは分からないけど
ただ、ここからは勘なんですが、間者の役割は恐らく
この国の施政の実務者である宰相閣下の判断力と行動を
鈍らせて、王国内での味方の活動の支援が目的だったのかな・・・
宰相閣下の能力が鈍れば、その分王国の対応が遅くなる
またうまい事気付かれずに宰相閣下を亡き者にできたら
王国の有事対応能力の低下を招ける・・・こんな所なのかな?」
適当に勘で推論を言う。結構あてずっぽうなんだけどね
誰もが似たような事を考えていたのか頷くものも数名いた
それにしても、バルロイがテーブルの上を走った所為で
誰も恐縮して手をつけてなかった出されて放置されてたお茶
が見事にすっ飛んで、飲み物すらない状態になってしまった
あのカップとか高いんでしょ? バルロイ弁償請求されたら
どうするんだろ・・・まあ、支払えない事は無いと思うけどさ
「ところで宰相閣下、オマケのハエールEXλ使いますか?
一応確認で言いますが、生えてくるかは正直不明です」
「・・・今は止めておきましょう。私は大きな失敗を犯しました
王城にあのような者が潜り込んでいたにも関わらず気付きせず
にこの城で自由に行動させて王国に大きな損失を与えていた
このような愚か者が、その責任を果たさずに自分の欲を満たす
等、とても許されたことではありませぬ。陛下、この毛生え薬
は一度陛下にお預けします。この件が解決致しましたらお返し
いただければと思いますが、如何でしょうか?」
「うむ、宰相のその覚悟、誠に見事である
よかろう、儂が責任をもって使・・・預かろう」
「陛下今何言いかけました? それ私のヘソクリで買った奴です
からね?? お願いですから興味本位で使わないで下さいよ??」
どうやらこの二人、かなり仲がいい関係みたいだな
恐らく付き合いが長いってだけじゃないな、何か個人的な交友
関係みたいなものがありそうな気がする。まあ、それでなあなあ
にならないで国家運営が出来てるなら問題ないんだろうけど
あと宰相、まだ金もらってないので早く払え
「取り合えず、ちょっと整理してみましょうか
宰相閣下が毒を盛られても魔法の道具でわかると仰っていましたが
先程治療した、鉛中毒というのは厳密にいえば毒ではないのです
だからその魔法の道具で検知されなかった可能性があります
鉛というのは自然界に普通に存在して食べ物にも少量含まれ
ている物質で、人間が生きて食事をしていれば普通に摂取します
なので、それを毒とは認識しないのではないか?というのが一つ」
全員が妙に神妙な顔で私の話を聞いている。凄いやり辛いぞ!?
しかも宰相とかメモ取ってるし、執事まで話に食いついてきてるぞ
科学がない世界の人間にこういう話って面白いのかね??
仕方がないので、努めて冷静を装い話を続ける
「それと、毎日そのまま即死とか摂取から短時間で影響が出るような
量ではなく、少量を、それもゴマ粒より少ない量をじわじわと長期
に渡って毎日摂取させることによって、今この物質を摂取しても直接
の被害は無いという状態で宰相陛下の体内に蓄積させていく事により
毎回の摂取でその魔法の道具の機能の穴をついて体内に蓄えさせ
蓄えられた総量による健康被害を起こされた可能性があると思います
鉛というのは大量に短期に摂取して急性中毒を起こす事もありますが
長期に渡りじわじわと摂取して、体の排出機能を上回る量を毎日摂取
することで、慢性中毒という状態を引き起こす事が可能です」
誰も口も挟まず、質問もせずに、ものすっごい真剣に聞いてる
てか、めっちゃ注目されてる・・・教師ってこんな気分なのか??
やばい、プレッシャーすっごい。でもここで止めるのもあれだな・・・
「宰相閣下の症状は、典型的な慢性中毒症状ですね。正直、驚きですよ
あれだけの中毒症状になると、脳や神経系にかなりのダメージが出ます
鉛中毒は体のあちこちに痛みを発生させて、血の作りを悪くして貧血
という症状も起こします。腹痛に便秘、思考能力の低下に精神障害
私の世界でも過去においてかなり大規模にこの被害が出た事があります
その事例があまりにも古い、1000年以上前の出来事なので正確な
記録がなく、当時の記録や掘り起こされた死体の調査結果からの推論
になるのですが、鉛の長期に渡る慢性中毒は、人格にすら影響が出る
脳の機能を破壊するので、そういう恐ろしい中毒なんです
宰相閣下はかなり重度の中毒症状でしたので、その状態でまともな思考
を維持できていただけで驚愕に値します。さすがは王国の宰相陛下ですね」
「相変わらず、レイラの話は理解できない所も多いが、どこからそんなに
ぽんぽんと知識を引き出してくるんだって呆れるしかないな
レイラ、前から疑問だったから聞いちまうが、お前は学者か何かか?」
「いやだから、前にも言ったけどただのOLだっての」
「だからそのOLってのは何だ??」「今度暇があったら説明する長いから」
しゃべり過ぎて喉が渇いたので、無意識にインベントリから紅茶の
ペットボトルを取り出して、蓋を捻ってごくごくと数口飲む
そこで執事が、新しいお茶を出していない事に気付いて慌てる
「申し訳ありません、お客様に大変な失礼を・・・」
「あ、気にしないで。私こういうの一杯持ってるし、どうしても自分
の世界の味のほうが馴染みがあるから。こちらこそ御招きされたの
に自前で飲食物出して勝手に飲み始めてごめんなさいね」
いつのまにか、王様が私の近くに来ていて、じーっと紅茶のはいった
ペットボトルを見ている・・・すんごい嫌な予感がする
そうか、チェニスから報告いってるから・・・狙ってんのかこれ!?
「使徒殿、息子からの報告では使途殿の出される食事等は
まるで天界の食べ物の如しと聞き伝わっておるのですが・・・
我らにもそれらを賞味する機会を与えては頂けないであろうか?」
きたよ、オイーヌ星人(仮称)どもめ、本領発揮してきたよ!
「というかランバート様、そろそろ御昼の時間ですし、どうします?
アルベルト様がお弁当持たせてくれたじゃないですか?
皆でわけて食べるとかどうでしょう? あ、でもでも私
あの洞窟から村にいった時の美味しいのでもいいなぁ・・・」
「レミリアの言うことはとても難しい。私も、あれも食べたい
でもアルベルト様の料理もおいしい・・・・・・とても悩む」
アエルお前言葉が変だぞ あれも?
あれを でなくって も??
お前は2食分食べるつもりか???
「アルベルトの作ってくれた弁当2食分あるので、全員が
同じ物でなければ人数分はあるんだけどさ
今それやると、明日の帰りの弁当なくなるんだよな
アルベルトが折角つくってくれたので、私達はお弁当にして
国王陛下と宰相閣下には何かお出しするって形でどうでしょうか?
その、礼儀とかマナーとして招待された私が飲食物を出すのが
問題にならなければ、という前提は付くのですけど。どうでしょう?」
室内の全員が無言で激しく首を縦に振って同意をしているのだが
なんで、女中とか執事とか、あのあときた近衛らしいのまで
一緒になって首振ってるんだ?・・・お前らの分もかまさか??
「・・・あの・・・この部屋にいる全員・・・ということでしょうか?」
ちょっと疲れた視線で女中だの執事だの甲冑の兵だのを見回してから
王様に向かってそう言ってみると、王様は両手の指を胸の前でいじいじ
しながら、申し訳なさそうに 駄目ですかのう? と聞いてきやがった
・・・何その、思春期の女子が男子映画に誘って返事待ちみたいな態度?
出せってか? 全員分飯を出せってか? 本当私飯炊き女だよな・・・
「まあ、出せないわけじゃないんでいいんですけどね・・・ええ・・・
ただ知りませんよどうなっても? あと私この王都にずっといません
からね? 後で普通にご飯食べられなくなっても責任取りませんからね?」
王様は問題ない、大丈夫だ。是非ともお願いしますと勘違いして返事
をしている。夕飯が食えないって意味じゃない、普通の味付けに戻れ
なくなる危険性を指摘しているのだけど、一番偉い人が良いって
言ってるんだから、もう私は心配しなくていいよね。しらね
とりあえず、人数がわかりきってるこちらのメンバーのお弁当を出す
しかし今回の弁当でかいな・・・アルベルト何作ったんだろ?
一食分でアタッシュケース一個みたいなこのケース、何が入ってる
んだろ? と気になりながらも、とりあえずアルムの村組に配る
それから何かとお世話になるBomBomバーガーランチパックを王都組
の人数分だして、エールのようなお酒もいりますか? と聞くと
遠慮なしに全員が挙手して、王様が お前ら少しは遠慮せい! と
怒鳴るが、誰も手を下げないので人数分の350mlのビールを
取り出す。バルロイとチェニスが こちらにももちろんあるよな?
と当たり前のように言うので、少しイラつきながら二人の分も出す
「この不思議な素材で出来た箱の中に食事が入っているのですか?
それにしてもこの箱は綺麗に塗られた上に文字も書かれていて
とても不思議な物ですな。使徒殿の持ち物は不思議で溢れておりますな」
宰相がボール紙で出来たランチパックを撫でまわしながら質問
してきた。これで確定、この世界、1800年代なのに未だに
紙が普及していない。どういう文明なんだここって??
「それは紙という植物を加工した材質で出来ています
元々は文字を書いて保存するために作れた素材なんですけどね
それが発展して、容器としても使われるようになったんですよ
使用後に放棄しても簡単に焼却処理できますし、何よりコスト
が安いんですよ。その箱と中にある紙の包装関連全部いれても
1セットで銅貨1枚以下で済むんですよ」
「この綺麗に色が塗られた箱が銅貨1枚以下ですと!!
使徒殿のおられた世界はどのような世界なのですか・・・」
「私のいた世界に宰相閣下が行く機会があったら、驚くとは思います
ただ、だからといって私のいた世界のほうが圧倒的に過ごしやすいか
と聞かれた場合、便利ではあるけどその分の義務と社会の矛盾が多い
ので、この世界より良いとは断言できませんね。少なくとも、この
世界に比べて、人の繋がりは希薄ですし、希望満ち溢れた世界でも
無いと思いますよ。ただ、飲食物だけは圧倒的に勝りますけどね」
全員に食事と飲み物が行き渡ったのを確認すると、私も着席する
しかしこのでかい弁当は何なんだろ? なんか嫌な予感がするぞ
弁当という名の現地破壊工作セットとかじゃないだろうね???
「皆さんにお出ししたそのセットのランチは、そうですね・・・
ビール込みで銀貨1枚くらいですかね、私の世界での価格は
なのでそんなに凄い食べ物ではないですよ。そこは理解して下さいね
あと、中に細長い食べ物が一つあると思うのですが、それはデザート
ですので、一番最後にお食べ下さい。基本的に全て手を使って食べる
外等でも気楽に食べれる庶民の食べ物ですので、優雅でないとかそう
いうのも勘弁して下さいよ。では、皆様どうぞ、お召し上がり下さい」
すみません、こちらも投稿の日付を間違えておりました・・・
昼くらいに全話とこれを予約投稿していたんですが
どっちも翌日を指定しておりました。申し訳ありません