玄城武
振り向いた先にあったのは先程の球体である。空中で停止している。
(なんなんだあの球体は?)
球体にまたしても変化が起きた。
(おいおいおい、なんだよあれ...まじか)
球体は光輝いていたが、突如として黒く染まり先程とは違い光ではなく黒い霧の様なものを放出していた。
(あれ絶対やばいよな...)
やがて球体から放出される黒い霧が武の視界を埋めた。危険だと感じ距離を取ろうとしていたのだが、何故か動くことが出来なかったのである。それどころか、
「欲しい」
何故かあの球体が欲しいと感じていた。危険だと見れば分かるし、光っているときには命の危機を感じていた。実際武の体を貫かんと飛んで来たではないか。
しかし、頭では分かっていても体が本能が叫んでやまない。あれが欲しいと。
ついに目の前でまで来た武は球体を我が物にすべく右手で掴んだ。
「うっ.....くそ、やっぱりか ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?!」
球体を掴んだ瞬間全身に亀裂が走る様な痛みに襲われた。
それと同時に視界を埋め尽くしていた黒い霧が武の周りに集まっていく。否、正確には黒い霧は武の体に吸収されていった。これが彼に更なる痛みを与える。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
球体から手を離そうとしているのだが、体がその意思に逆らって離そうとしない。掴んでいる右手から全身に駆け抜ける痛みと黒い霧を吸収して起こる肌が焼ける様な痛みで頭がどうにかなってしまいそうだ。
「くそ! くそくそくそくそくそ! こんなところで死んでたまるか こんな意味のわからん状況で人知れず死んで...たまるかよぉぉぉぉぉ」
痛みが、全身を駆け抜ける痛みと全身を焦がす様な痛みが、強い痛みが彼の心に火を着けた。何の解決になるわけでもないが全身に力を込め、痛みに耐え気を強くもった。
すると球体にまたしても変化が起きた。
球体自身も霧になり武の体に吸い込まれていった。そして視界を埋め尽くしていた黒い霧は全て武の体の中に吸い込まれた。
そのまま立ち尽くしていた武だが、数秒後膝の力を抜き地面に倒れた。
「はぁ はぁ はぁ はぁ .....意味わかんねーぞ...
こんちくしょう」
そこで武の意識は途切れた。