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蕎麦屋にて

「チンコがかゆい!!!!」

「お前女だろーが」


ちょっとした沈黙が流れた。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


女の子は目を閉じてスッと真っ直ぐに着席した。

一連の動作には無駄がなく、見るものが見ればその動きに感じ入るものがあっただろう。


しかして、隣に座る男は女の子の様子など全く見ていなかった。静かにスッと目の前の蕎麦を啜る。


「旨い」


トントントントン、と女の子が机を指で叩きながら男を睨む。

あまり怖いとは言えない。普段真面目な奴が急に不良の真似をして、あぁん?やんのかてめぇ?とする位脅威がない。むしろ滑稽。


「机を叩くな行儀が悪い。お前が思ってる以上に周りの人は不快に感じるもんなんだぞ」

「ヘイ、ブラザー」

「あ?」


男はここでようやく女の子の顔を見た。

じろりんと睨む女の子。


「私はお前に言わなければならないことがある」

「わかった黙っとけ」

「私はギャグを披露した。それに対してお前は少しくらい笑うとかないのか」

「笑う。はっ?」

「鼻で笑うなクソヤロウ。よし分かった本当に今大事なことを伝えるからお前は黙って聞くんだ。聞くんだよ?オーケー?」

「・・・・?」


男は眉間にしわをよせ、不審な目で女の子を見る。

女の子は頭を伏せた。男の視線から女の子の表情は見えない。


「・・・・・」

「・・・・・?」


沈黙が食堂のカウンター席を包んだ。

女の子は膝の上に置いていた手をゆっくりと握りしめる。音がするほど歯をぎゅうと噛みしめ肩を震わせた。ふー、ふーと荒く息を吐く。

そんな様子を見て男は何も言わない女の子に声を掛けようとし、


「お「死ね!何い!?『パァン!』ぐばぁ!」・・・・」


女の子は死んだ。


さて、ある程度想像は付くかもしれないが今の状況を一応説明するとしよう。

男は「おい」と一言、女の子に声を掛けようとした。だがそれは女の子の手によって阻まれる。女の子はその隙をついて必殺の一撃を放っていたからだ。それは鼻アッパー。指をチョキの形にして相手の鼻の穴に差し込み釣り上げる自分の指にヌメリがつく諸刃の剣であった。しかし男は鞘から抜こうとした刀を抜く前に相手の手を抑える様に、女の子のチョキの指の間に無音チョップを繰り出して居合い抜きを止め女の子の表情は激変する。驚愕に可愛いお目目を大きく開く女の子。その隙を男は見逃さずチョップとは反対の手でそばのお椀を持ち女の子の死角から叩きつけたのだった。女の子は何をされたのかも気付かず必殺の一撃を出す間もなく殺されたのであった。因果応報。


「マスターお会計お願いいたします」


男は席を立ちながら私に声をかけた。

お勘定いらない帰れ。

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