表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

異次元の魔導師(2)

第六話です。

 

 会議室らしきその部屋は、他の部屋と同様にガラス張りである。


 そしてその部屋の中には幾人ものギルド職員がひしめいていた。


 しかし、彼らの身体はみな半透明で、向こうの景色が透けて見えるのである。



 そのこと事態に彼ら自身も気付いていて、みな動揺を隠せないでいた。


 生きながらにして幽霊にでもなったかのような不可思議な現象に、彼らの全てが当惑している。


 さすがに魔導師ギルドのスタッフであるため、パニックを起こすようなことはなかったが、それでもこの異常事態の原因や解決を見つけるには至っていない。


 なにしろ、外部と連絡しようにも、自分たち以外の物質には触れることが出来ないのだ。


 そして、彼ら同士の身体も、お互いに触れることが出来ないようである。自分と相手の手を重ね合わせ、お互いの身体がすり抜けてしまうと言う事実を、気味悪そうに、しかし何度も試している。



「どうしちゃったんでしょうね?」


「うん……どうやら別次元がいっぺんに重複してしまっているようだけど」


「へえ、そんなこと、ありえるんですか?」


「事実、目の前で起こってるんだからね。まずそれを認めないと」


「別次元そのものの存在は、俺も魔導師の端くれですし、とりあえず知ってます。でも、こんな風に、その存在を視認できるとは思いませんでしたよ」


「あたしだってそうだよ。魔道ったって要は、別次元を利用して、モノを呼び出したり、移動したりするってことだからね。存在する以上、見えたっておかしくない道理なんだろうけど」


「でも、あれですよね? 彼らがお互い触れないってことは、彼らの人数分だけの次元が、この場所に同時に存在してるってことになりますよね?」


「まあ、そうだろうね。厳密には、あの中の全員を試したわけじゃないから、もしかしたら2,3人づつ同じ次元にいるのかもしれないけど」



 いつの間にか立ち上がって話をしていた二人の姿を、幽霊の一人が見つける。


 急いで近寄ってくるのは、彼らの顔見知りの職員であった。



「き、君達!  君達は平気なのか?」


「ええ、我々はこの建物と同じ次元にいるようですね。ご質問がそう言う意味なら」


「そうか、助かった。すまんが、急いでこの事態を千住支部のほうに伝えてくれないか? いや、ギルド本部でもいい。異常事態だ」


(異常事態は見りゃ判るって)



 心の中で突っ込むウィストを尻目に、エデレンはうなづくと携帯電話を取り出す。


 千住支部にかけてしばらく音を聞いていたが、繋がらないことを確認すると電話を切る。


 今度は本部にかけ、こちらも繋がらないことを確認し、その旨を伝えた。



 いつの間にか、彼らの周りに人が集まってきている。大人数なのに、しかも喋り動いていると言うのに、彼らの気配はまるっきり感じられない。


 ウィストは気味悪そうに彼らから少し距離を置いて、事の成り行きを見守っていた。



「繋がらないんだな? では、向こうにも同じような事態が発生しているのか……」


「どうでしょう? まだ、そう決めるのは早いような気がします。あちこちで同時にこのような事態になったと言うよりは、ここだけの異常と考えた方が可能性としては高くないですか?」


「うむ。そうだな。確かに千住だけならともかく、本部までとなると考えづらいな」


「ええ。ですから、我々が直接あちらへ行ってみます。その上で、支部長なり本部の指示を仰ぎたいと思いますが?」


「了解した。頼む。我々も、できるだけコトの究明を急ぐ。まあ、何も触れられない以上、ディスカッションくらいしか出来ないかも知れんが」


「いえ。仮定や仮説は、立てておくに越したことはないと思います。後々のためにも」


「そうだな。とりあえず、この次元混乱からそちらの次元に戻るスペルを検討してみよう。いや、エデレンさん助かる。申し訳ないが頼むよ」


「はい、できるだけ早く戻ります」



「その必要はないですね」



 突然のセリフに、みな一様に声の方向を振り返った。


 ウィストもビックリして、そちらに目を移す。


 すると視線の先には、 だぶだぶの高級スーツを着た神経質そうな男が、唇の端を皮肉にゆがめながらこちらを見つめて立っていた。



「携帯が通じないのは、あなたも既に元の次元から隔離されているからですよ、お嬢さん。急いだので、そっちの坊やとふたり一緒に同じ次元になってしまいましたが、構わないでしょう?」



 甲高い耳障りな声でそう言うと、男はニヤニヤと嘲笑する。


 言葉を発せないでいるエデレンの代わりに、ウィストが男に尋ねた。



「あんたが、これを?」



 視線をウィストに移した男は、彼をにらみむ。



「言葉遣いに気をつけ ろ、小僧。私はおまえごときが気安く声をかけられるような人間ではない」


「へえ、そうなんだ。気をつけるよ。んで? これはおまえがやったことか?」



 ウィストは、わざとぞんざいな口調でそう言った。


 瞬間。


 彼は車にぶつけられでもしたかのように、身体ごと吹っ飛ばされて壁に激突した。



「人の忠告は素直に聞くもんだぞ、小僧」



 言いながら、男は嫌味な笑いを浮かべている。


 エデレンはウィストに駆け寄ると、彼を抱き起こした。


 ウィストは意識を失っていた。



「まったく、バカなんだから。反骨精神旺盛なのもいいけど、少しは状況を考えなさいよ」



 言いながら、ウィストの口の端から流れ出る血を、ハンカチでぬぐった。


 それからキっと男を振り返る。



「スペルを唱えたようには見えなかった。ってことは、何かのキーワードに反応して、別次元から何かが飛んでくるように、事前に仕込んでおいたってコトね? 用意のいいコト」


「なかなか聡明なお嬢さんだ。そう、キーワードは”おまえ”だよ。私にそう言うクチの聞き方をする者は、決して許さないようにしてるのだ」


「あなた、ギルドの人間じゃないね? はぐれ魔導師?」


「フリーランスの魔導師と言っていただきたいね。まあ、半分は正解だ。ギルドには属していない」


「残りの半分は?」


「うむ。それも私の所属にかかわる話だな。私はギルドどころか、この次元にも属していないのだよ。言っている意味がわかるかね?」


「じ、次元放浪者?」


「次元放浪者? やめてくれ」



 男はわざとらしく顔をゆがめて、不快そうに吐き捨てる。



「彼らは自己の意思によらず、不本意ながらも次元を渡り歩かねば……いや、時限の流れに翻弄されて漂わなければならない、言わば無能力者だ。彼らといっしょにされては困るよ」


「それじゃ、ま、まさか……ジャンパー!?」


「ようやく、正しい答えにたどり着いたようだ。ご明察恐れ入る」



 芝居がかった仕草で、男はにやりと笑った。


「いかにも私は次元跳躍者にして、最高位魔導師だ。もっとも最高位は剥奪されたがね。君達も魔導師の端くれなら、私の話くらいは聞いたことがあるだろう?」


「最高位を剥奪。ジャンプ~次元跳躍の力を持つ魔導師…………黒魔導師ストリーク?!」



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ