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猫使いと少女(2)

第二話です。


 

 真っ白な肌に冬の陽光が反射し、キラキラと輝く。


 束ねた黒髪の毛先が、風に遊んでいる。


 こちらを見つめる少女の大きな瞳に、思わず吸い込まれそうになる。



「魔導師用の羊皮紙って、結構するんでしょ? 少なくとも、野良猫を火葬するために使うには惜しいくらいの値段は」


「ネ、ネネちゃん!?」


「わざわざ、火葬してあげるんだ? 優しいんだね? え~と……ウィスト君だっけ」



 そこに立っていたのは、先ほどパラレスの話にあがっていた、ネネという少女だった。


 昨日の飲み会時の、スーツ姿とは打って変わって。


 Tシャツにブラックジーンズという、とてもラフな格好である。



「ど、どうしてここに?」


「あら? きちゃいけなかった?」


「いや、そんなことないけどさ」


「昨日は、グチ聞いてくれてありがとね」


「いや、そんなことは……そういえば今、パラレスさんがきたよ?」


「あの人、たしかに顔はいい男なんだけどね……どうして男って、SEXばっかりなんだろうね?」



言いながらネネは、いたずらっぽくウィストの顔を覗きこんだ。


まるで、自分のセリフの、ウィストに及ぼす効果を確かめるように。



「男だけってこともないんじゃない? 女だって、って言うより、動物なら当然でしょ」


「動物……また、ずいぶんな言われようね。でもさ、そこを理性でこらえるのが、人間でしょう?」


「どうなんだろうね。俺は人間がそれほど、大層なモノとは思わないけど」


「へえ、ひねてるね。人間嫌いなの?」


「そういうわけでもないけど、一応、猫使いだからさ。これでも」



 ウィストのセリフに、ネネは一瞬、言葉を失う。


 そして、すぐに納得したようにうなずくと、言葉を継いだ。



「そうか。それで野良猫を、あんなに丁寧に送ってあげたんだ?」


「まあ……」


「猫使いなんて、まだいるとは思わなかったよ。猫を使って、戦争の道具にする人でしょう?」



 ネネの言葉に、ウィストは驚くほど厳しい声で叫んだ。



「違う! そんなヤツラも、哀しいことにいるけれど、少なくとも俺たちは違う! ゼッタイに!」



 突然のウィストの激昂に、一瞬たじろいだネネは、生来の気の強さなのか、それでも話を続ける。



「あなたの一族は、違うんだ? でも、猫を利用して何かをする、ってことでは同じでしょう? 目的のために、猫の気持ちなんて考えずに、自由に操るんでしょう?」


「……だけど……でも、俺たちは……」


「それじゃあ、猫にとっては同じことよ! それこそ人間の勝手ってヤツじゃない。人殺しに使おうが、人助けに使おうが、操られていいように使われてる猫にとっては、おんなじこと!」


「…………」


「猫使いの家に生まれたから、何の疑問もなく猫使いになって。それで俺たちは違うって言われても、私にはわからない。その上、猫だけじゃあき足らず、魔導師になって今度は人間を操ろうっての?」



 あまりの言いように、ウィストは唇を尖らせる。



「君には……」


「わからないよ? 当然でしょう? 私は猫使いじゃないもの。だから聞いてるんじゃない!」



 話しているウチに、今度はネネの方が激昂してきた。


 そのあまりの怒りっぷりに、ウィストはびっくりするより途方にくれてしまう。


 と、ひとつ思いついたウィストは、怒られついでに聞いてみることにした。



「猫使いか魔導師に、何かひどい目にあったコトでもあるの?」



 今度は、ネネが黙ってしまう。


 反撃を覚悟していたウィストは、あわてて言葉を継いだ。



「ごめん。なんか悪いこと聞いたみたいだね。忘れてよ……そうそう、パラさんには、しつこくしないように、俺から言っておくから」


「…………」


「ホントに、ごめん。俺、どうもデリカシーがないってよく言われるんだ」


「……いいの。私こそゴメンね? あなたには、あなたの事情があるのにね」


「いや、そんなこと……」



 ここでネネは、いいことを思い付いたとばかりに。


 急に元気になると、両手をぱちんと合わせて、ウィストの顔を覗き込んだ。


 軽やかな動きに、つややかな黒髪が踊る。



「ね、ウィスト君。ご飯食べに行かない? このあと、何かあるの?」


「いや、別にないけど……」


「じゃあ決定! ABレストラントに、おいしい貝料理があるの。貝、食べられる? 大丈夫ね? んじゃ行こう!」


「いいけど…………ずいぶんくるくる、機嫌が変わる人だなぁ。まるで猫みたいだ……」



 つぶやいたウィストのセリフ、その後半の部分を聞きつけたネネは、笑いながら舌を出した。



「だからって、簡単には操れないよ? 甘く見ないでね? 猫使いさん」



 おろおろするウィストを引っ張って、ネネは駅のほうへ歩きだす。


 その一部始終を、興味深げに見守っていたオリーばあさんは。


 ネネに引っ張られるウィストに向かって、にやりと笑いながら、からかいの言葉を投げた。



「休みのたびにヘタなブルースばかり弾いてるから、心配してたんだよ。可愛い彼女が出来てよかったじゃないか?」



 ネネはいたずらっぽく笑っただけで、何も言わない。


 微笑んだ顔には、ある種の妖艶ささえ感じられる。


 ウィストはびっくりして両手を振りながら、



「か、彼女じゃないですよ!」



 と小さく叫ぶ。


 老人と少女はウィストをからかう共犯者として、意味ありげに目配せをし、次の瞬間ふきだした。


 けらけら笑う二人を見て、苦笑いしつつ。


 ウィストは今度こそ聞かれないように、ちいさな声で呟いた。



「今はまだ……ね」



 

次は異世界サイドです。

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