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決戦(2)

第18話です。

 

 寒気と雪から職員を守るための巨大な地下廊下を駆け抜けて、中央施設、敵の居城へ一気に切り込む。


 もとより、彼らの狙いはストリーク一人。


 警備の連中と争う気は、まったくない。


 彼らとて恐怖と欲に負けてストリークにくみしてはいても、まったくの最初から、悪人だったわけではないのだ。ただ、弱いだけなのだ。


 弱さは、どれだけ情けなかろうと、決して悪ではない。


 少なくとも、三人はそう信じている。



「とまれ!」



 さすがに中央施設に入ってからは、警備の人間が格段に増えた。


 しかし戦ったり、まして説得している時間など、まったくない。結界に入り込み、猫の遺骸の防御壁からも離れた今、ストリークはおそらくもう、彼らの進入に気づいているだろう。


 エデレンは駆けながら、腰のホルスターから大きな銃を抜いた。


 いや、銃と言うより、それは軽機関銃に近い大きさだ。飛行機の中でエデレンが自ら手にとった、あの銃である。


 この銃には、しかし、殺傷能力のある弾丸は込められていない。込められているのは、相手の戦闘力を奪うのが目的のゴム弾である。


 もっとも、当たり所が悪ければ、大怪我は免れないのだが。



タタタタタタタッ!



 乾いた発射音とともに、当惑する警備員たちの中へ吸い込まれたゴム弾は。


 忠実にその任務を果たした。


 うめき声を上げて倒れてゆく警備員。


 その間を、銃を持ったエデレンと、徒手空拳のフリー、ウィストが駆けてゆく。



「ここっ!」



 叫びながらエデレンは、大きな扉のある一室の前で、ついに止まった。



「ウィスト!」



 呼ばれたウィストはすでに、行動に移っていた。ウエストバッグから取り出した、缶詰のような形をした指向性爆弾を、すばやく扉に取り付ける。


 すでに距離をとっていたエデレンとフリーのところまで駆け戻り。


 彼は爆弾のリモコンスイッチを入れた。



ぼっ!



 爆弾はカップ型の筐体の中で破裂して、一方向、つまり扉の方向にだけ、その爆風を吹きつける。煙が晴れると、扉にはコブシ大の穴が開いていた。


 間髪いれず駆け寄ったフリーが、扉を蹴飛ばしながら、部屋の中に転がり込む。エデレンとウィストも、それに続く。



と。



「ストリィィィク」



 強烈な、圧倒的な怒りを、スプリングをたわませるがごとく抑えながら、フリーが低く唸った。


 その表情は、今にも爆発しそうなほどゆがんでいる。



「ふん、さすがに早いな。進入を感知してから、ここまで、わずかに12分か」



 まったく恐れも悪びれもせず、超然と椅子に座ったまま、ストリークは笑っていた。


 病的に細いその身体に、相変わらず派手なスーツを着込み、銀色の髪を整髪 料で後ろに撫で付け、酷薄な笑みを浮かべて、暗黒の魔導師はそこにいた。



「約束を果たしにきたぞ、ストリーク」


「威勢がいいな猫使い。だがここは、この間の廃墟とは違うぞ? 猫の遺骸も生きた猫もいない。私の結界を破ることが出来るなら、やってみるがいい」


「ストリィィィク……殺してやる」


「あの時は、キサマの動きに少々驚かされた。おかげで猫の遺骸の事を失念し、不覚を取った。まあ、いい勉強にはなったがな。どんな小物の 、吹けば飛ぶようなチンピラを相手にするときでも、油断してはいけないという」



 言いながらストリークは、ゆるゆると、自分の胸元をまさぐった。あの廃墟で、フリーにつけられた四本の傷をなでているのだ。



「だが、しかしだ、フリーよ。キサマようにちんけな猫使いごときが、この大魔導師ストリーク様の身体に傷をつけたという事実はなぁ。いかんよなぁ? これは、はっきりと、屈辱だよなぁ? そうは思わないか、チンピラ猫使いよ」


「大物ぶってる割には、やたらとちんけだチンピラだと、俺を貶めなければ気がすまないのか? ずいぶんの気の小さな大物だな?」



 ストリークはぴくんと眉を上げ、一瞬、激昂しかけたが、思い直してにやりと笑う。



「キサマごとき小物に、かかわっている暇はない。私は忙しいんだ」


「自分の力の小ささを知って恥ずかしくなり、魔道の発達していない、穏やかで平和な次元にコソコソ逃げ込んだ臆病者が、いったい何をそんなに忙しいと言うのだ? なあ、ノミの心臓を持つ、臆病者のはぐれ魔導師殿よ」



 刹那。



どんっ!



 フリーの身体は、トラックに激突されたかのように真横へ吹っ飛んだ。



「くっくっく。バカな男だ。キサマなら、必ず私をそう呼ぶと思ったよ、猫使い」



 吹っ飛ばされた猫使いの姿を見ながら、これ以上ないという満悦の表情で、ストリークは含み笑いをもらす。そう、ストリークはかつて北綾瀬支部でウィストに仕掛けた、言霊のトラップを仕掛けていたのだ。


 フリーが自分を、はぐれ魔導師と呼ぶことを見越して。


 転がったフリーを尻目に、ストリークは呪文スペルを唱え始める。



「T:a+~a=I足るユニバースにおいて、T1:ICa+~a……」


「いかん! やつにスペルを唱えさせるな!」



ひゅん!



 フリーが叫び終わる前に、ウィストの身体が宙を飛んだ。



「む?!」



 スペリングを中断され、ストリークはやむなく椅子から飛びのく。



「キサマは、あのときの無礼な小僧だな。その動き、キサマも猫使いだったとは笑える。魔導師としてはチリくず以下だったが、猫使いとしても、どうやらゴミ以下のようだな。私はな、本来キサマごときが近寄れるような身分ではないのだぞ?」


「近寄りたくもないね、このクソッタレの、はぐれ魔導師!」



 にやりと笑ったストリークは、しかし、そこで表情を硬くした。


 ウィストの身体が、吹っ飛ばなかったからである。


 言霊のトラップは、まだ有効なはずだ。なのになぜ、この小僧は吹き飛ばされないのだ?


 一瞬、狼狽したストリークの隙を突いて、フリーが飛びかかる。ウィストが作った隙を利用して、自己催眠をかけたフリーは、いまや人間大の猫科の肉食獣だ。


 とはいえ、本当に猫になれるわけではない。つまり、廃墟での戦いのときとは違い、今度は、結界を破ることは出来ないはずである。


 しかし……



びゅん!



 フリーの鉤に開いた指先は、猛獣のつめのごとく、ストリークのほほをえぐった。驚愕の表情を浮かべながら、ストリークは傷をぬぐった手についた、己の血液を見つめる。



「なにっ?!」



 ウィストの魔道やぶりに続いて、二度目の予期せぬ事態に、ストリークは刹那、かぁっと頭に血を上らせる。しかし、さすがに、かつての最高位魔導師である。次の瞬間には、からくりを見抜いた。



「女! キサマだな!」



 そう、後ろにいたエデレンが、ストリークのトラップや結界に、一瞬だけ対抗魔道カウンターマジックを仕掛けていたのだ。


 もちろん、ストリークの強大な力に ずっと続けて対抗できるほど、エデレンの魔道は強くない。


 しかし、ほんの一瞬、狙い済ませた瞬間に、ピンポイントでトラップや結界に小さなほころびを作ることくらいは出来るのである。


 もっとも、それは彼女にとって精一杯の魔道であり、事実、彼女はこのたった二回の魔道だけで、ひどく衰弱していた。



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