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守護神/異世界乙女ゲー転生=Re:mix.100  作者: ペイントロイド
序章: ま い は み ん な を 笑 わ せ る 道 化
3/22

プロローグ:#1


 …

 ……

 ………。

バタバタと慌てて駆け込んだ保健室。

しかし、姫愛鈴の体には少しもケガらしきものはなかった…!


「姫ちゃん、怪我してなくてよかったぁー!」

「もぉ~狐塚くんは心配症だよぉ…」

「だって、だってっ…」ぐすんっ

「相変わらず狐塚くんは姫ちゃんが絡むと動転するよね」


「ほんとっ相変わらず姫ちゃんはモテモテね~」

「も、モテモテぇ!?」

「モテモテじゃあん!なにとぼけちゃって~!

それよりも新しくできた夢春ってお店が出来たんだって。一緒にいこっ!」


「いいねー!じゃあこの”5人”で行こう!」

「僕たちも来てもいいの?」

「勿論!ねっ、姫ちゃん!」

「うん。みんなで行った方が楽しいもんっ!」

「ところで夢春ってどんなお店?」

「確か。女子高生が好きそうなお店って、雑誌に載ってたかなぁー」

「そうなの!?じゃあ有名なお店なんだ!」

「男子二人には、可愛すぎるかもねぇ~」(・∀・)ニヤニヤ


「えへへ、大丈夫です!僕可愛いのとか大好きなのでっ」

「俺も気にならない。姫の部屋なんて可愛いので埋め尽くされているし、目が慣れてるよ」

「もぉ!余計なこと言わないのっ!」



 「―――ぇ」


 姫愛鈴を軸に、彼女をもてはやしていた頃。

ウチは姫ちゃんが男子にさらわれた姿を追いかける為に、また入り口を塞いだ女子の群れを通り抜けようと奮闘し、姿を見失ったから思い当たる場所へと進んでいたら、もうウチを外した5人はいつの間にか夢春に行く約束をして笑い合っていた…!


「悠もつむつむもからかわないで~…あっ、木村さん!」

「木村さんどこ行ってたの!?」


姫ちゃんとつむぎちゃんが保健室の入り口からウチがやっと入ってきたことに驚いた様子で、気が付いてくれた。つむぎちゃんは迷子の子をみつけたお母さんのようにムッとした顔で問いただす。

皆が早いものだから、「ごめん。まだウチ…」とだけ口に出来たのに。

「ほんとボーっとしてるんだから!ちゃんとついていかなきゃダメでしょ!?」

と悠ちゃんが話をピシャリ と止める。


「まあまあ…二人とも。木村さん、姫はケガしてないから大丈夫だよっ」

「えっ、あっ、よかった…ゴメンね姫ちゃん。ウチを庇ってくれて…」

「木村さんがケガしなかっただけでいいよっ!」にこっ


…と天使の笑顔がウチの罪悪感を薄めてくれた…

彼女らとは喧嘩したり、仲が悪いわけじゃないのだけど。ウチだけ別の空間に取り残された気がして、うまく笑えてるのかわからない。多分これはウチの性格が、皆の行動をネガティブにとらえ歪曲しているからだと思う…そう思いたい。


こうゆうことは、意外と一回だけじゃなくて。

自然と横に歩きたいのに、後ろから必死についていく感じになったり。


話に乗りたいのに上手く会話出来なければ、余り話を聞いてくれない。(例えばウチが話した内容が、次の日になったら自分が手に入れた話として盛り上がっていたりだとか。話をさも自分で調べたかのように話すのだ)……そうなると、つい周りを疑ったり。

自分だけが友人たちと思っているけど、周りはそうでもないのではないかと勘ぐってしまう…


で、やっと話が回ってきてもウチにとって不利な場面がやってきたり、どうでもいい話題で場が白けたりと残念な結末になることが多い…結局、タイミングがとことん悪いタイプなのだと後悔した。


「ねえ木村さん、私たち夢春って新しくできたお店に行くんだけど、一緒に行く?」

「えっと―――」


   『行かなくていいよ』

「えっ」

   『行かなくていい』


「どうしたの?」


「…ううん。なんでもないっ」


ボワーンとした、頭の中に鐘が響く揺れと同じ感覚がし始めてくる。

すこし人酔いしたのかもしれない。

強くぐらっ、とやってきて。その一回だけで済んだ。ただの眩暈めまいだと思う。


『でも疲れただろ?今日は早く帰ろう?』

(うん…でも、どうしよ…)


「木村さん帰ったら?」

「っ!」

「辰也くん?」


“同じ声”がウチの後ろから聞こえ、反射的に驚く。

周りのみんなもかなり驚いた顔をしていたので後ろを振り返ると、あのバスケやっていた彼…辰也がウチを見下すように立ってて、威圧感を与える。


「木村さん帰ったら?…帰ったら?」

「……………うん。わかった…。

 …なんで?」

「何となく、顔色悪そうだから。あってるでしょ?」

「…んー…うん、まあぁ」


なんとも反論できないピリピリした空気に、ウチは思わず同意してしまう…

姫愛鈴ちゃんはびっくりした声で「そうなの?大丈夫!?」と心配をしてくれた。

ウチは「まあ~、人酔いしたのかな?今日は帰るよ」と何とも否定できない空気に、辰也の考えを尊重するかのようにそう告げる。

悠は「ふーん。お大事にねっ」とどうでもいい対応をし、つむぎちゃんは「また変態に目をつけられないようにするんだよ?出会ったら逃げなさいねっ!」とお姉さんらしく、心配をしてくれた。


「また明日ね、木村さん」

「うん。またあした~…」


ウチは内心グダグダな対応だったと思いながらもその場から離れるしかなくなり、保健室から茶道を通り過ぎ。とうとう廊下にまで進み校門を出た…。

その後皆が口々に何かを言っていたけど、辰也がやってきたことの話をしていたように感じる。

とても楽しそうな高いトーンの会話。


虚しさだけがウチの心を縛る。


……

………。


「………やっぱりどうゆうことぉ!?」


 素直に靴まで履いて下校していたけど、次第に「帰ったら?」って言葉に違和感と疑問に変わり。

疑問から不満に変わった!どうゆうことだってばよっ!!


もうウチはバス亭まで進む細い道のりを進んでおり、一人で頭の中を巡らせて文句を口にする。

いや、確かにめまいしたけどさぁ!「突然帰ったら?」ってないよね!?

彼がウチの体調を本当に気づいての対応だとしても、普通の人たちはそんなことなど気が付かない。


仲のいい皆…姫愛鈴ちゃんたちですら気づいてもらえないことが多く。

家族ですら気づいてもらえないほど、ウチは態度や顔に出ないタイプだ。だから辰也がウチの体調に気づくという神対応が出来る事に気味悪さを覚えた。


「どう思う?”神様”…

ウチだけ、帰ったら?って言って!ウチは、何もしてない、よね?そうだよ、ねぇ…?」


『さて、どうだろうな。

でも早く帰るべきだったのは本当なんだし、また戻るのも変だろ?

今日はそんな日だったとくくっといて、おとなしく帰ろうっ』


「イケメンだからって、なんでもっ、許されると思ったら、大間違いなんだぞ…!


―――はぁ…帰るか。

で、コッソリ寄り道しながら、帰ろうかなぁ…」


 ウチは人気がないことをいいことに、ブツブツと“脳内に住まう住人”と小声ながら会話する。

たしか辰也…もそうだが、“神様”も家に帰ったほうが良いと語っていたので、神様はこの流れに納得らしい。どことなく満足しているようにも見えるし、やっと二人っきりになったことに安堵しているようにも見える…


学校にいた時からずっと語りかけてきたり、ウチが描いたアリスの作品をよくわからない相手に見せて喜んだり、自己紹介をしだしたりしていたのは何を隠そう。

“神様”だ。


神様は常にウチの考えを反してたり、自分が気づかない場所を何故か答えてくれたりした。

テストの答えは教えてはくれないけど、朝のクイズやじゃんけん問題で、どれを選べば当たるのかを教えてくれて。“必ず”と言っていいほど当ててくれたり。

廊下を歩いていると、そっちに行くと危険だと教えてくれて別の道を選ぶと。選ばなかった道に男たちが喧嘩してたりしてたことがあった。


かなり偶然を言い当て、先を伝えてくれたりするが。まあ所詮彼は…



”ウチの空想からできた架空の「神様」、いや。「オリジナルキャラクター」だ。”



彼は常にウチの近くにいて、上にいたり右や左にいたり、そして背後にいる。

ウチは彼を正確に顔を認識はしていないけれど、彼は男性的で中性的なイメージだ。

たまに背中辺りが暖かかったり、時には人に触られる感覚も起きている、ひとりじゃなくてもどこでも、こうして頭の中にポツリと語りかけては、無邪気に雑談を楽しんだりするのだ。


勿論。これは妄想の産物なのだけれど、たまに本当にいるのかと錯覚してしまうが、そんなものは自分の思い込みからくる錯覚だと、この年でもう理解している。


彼がウチの中で動き出したのは、かなり昔っからで。たしか小学生?からか…それよりも前からなのか。気づいたらずっと一緒だった。


そういえば彼の名前を決めようとしたけど、空想の中の彼は「名前は教えない。あるけど、語ることはできない」と言われ、名前を付けることも、言う事ができなかった。まあ、登場するキャラクターは彼ひとりだったし。彼を「神様」とだけ言うしかなかった。


ウチは彼に対して嫌な感情もないし、独り言言ったり、対話したりするけれど。別に精神に異常もないしウチの人生に支障もなにもないから。直す気もない…今のところはねっ☆


『まあ、所詮人間同士の浅い関係でしかないからな。特に特別視しなくていいだろう…。


逆に!そのままのほうがまいにとってとても有利になることだろう!

人間を一番に考えるよりも、神である俺を一番に考え、一番に愛すればいいだけなのだからな。


俺を大切に扱えば物にも金にも困らない人生でいさせてあげるよ?

まいは俺を拒絶したり、別 の 誰 か と … 

添い遂げる道なんて…出過ぎた考えは選ばないことだ、いいね?』


(金に困らせないなら宝くじを当ててくれ)

『善処する』


 まだ色々と頭の中の住人と話していたけど、獣道だった場所が次第に道路が見えてきて、昭和テイストなアパート近辺にあるバス亭まで辿り着く。


ウチの学校は田舎の山の上に建てられており、都内からかなり離れた場所にある。

獣道を通るのは、バス亭から近くに行くための近道で。別の道を選ぶとまた20分くらい時間を奪われてしまうのだ…やっとの思いで~とは行かないがやっとバス亭に辿り着いてみると、またイケメンの集団がそこにいた…!


ウチは車なんて滅多に通らない道路をサッサと渡り切り、最後の列に並ぶ男子の横を静かに並んだ。


眼鏡をかけた、ややくせっ毛の紫色の短髪男子が周りなど気にせず本は読んでいた。

どんな本を見ているのかと、ちらりと横目で見てみるとライトノベル…異世界ものが流行っているからか、異世界もののオジサンが主役のライトノベルを持って見ている。

彼はきっと主人公のオジサンに自分を重ねては、世界観に浸っているのだろう…


物を作っている人間としては、他人の作品だとしても、こうやって黙々と読んでいる姿を見れるのは嬉しいものを感じる。

(ウチもあれぐらい、読み応えある物語を作りたいなぁ…)


そして他のイケメンは。確かに顔が良いのだけれど、とても柄が悪そうで耳にたくさんのピアスを開けた人物たちだ。何だかそいつらの説明をするのもめんどくさいが、取り敢えず悪そうなイケメン三人組だ…


(あーあ。バスの中うるさくなりそうだな…こいつらと一緒のバスになるなら自転車通学にしようかな)

『ダメだよそんなこと。自転車に乗ってたら車にはねられてしまうだろ。危険だっ』

(バスに乗っても車と衝突して、死ぬ可能性だってあるんだよ?考えたらキリないよ)

『…そうか。じゃあ、学校を辞めよう』

(無理だっ!!)


 その後頭の中で雑談しながら、二人しかわからない話を心の中で語り、相槌をうった。


すると、森の奥からバスがやっとやってきて、柄悪いイケメンが我が物顔で乗り込んでいく。

眼鏡君とウチは、こいつらが大人しく座ったのを見計らいバスに乗り込み、ウチは彼らがバスの後ろに乗ったのを見計らって運転席の後ろにある一人分の席に座り、バス内の窓を見入る。


バスはやはりうるさくなっていて「あのバカを」どーとか「俺が」どーとか。

興味も面白みもない話で盛り上がって、馬鹿笑いしていた…


田んぼと、古い一軒家が窓の外を通り過ぎていく頃。次第に景色はホームセンターが移り、大通りが移り、段々オシャレな家と子会社とビルが移りだしてきた。ウチは景色の中に夢春の店が目の前を素通りしていったのを見逃すことはなく、目線だけが夢春を追いかけ。

見えなくなった後に「あの後、5人は夢春に行くのだろう」と他人事のように考えた…


すると、神様はウチの心境に気づいたのか。元気づかせたいのはどうかはともかく。

急に夢春の事を話す。


『…まいが考えているような文房具はなかったよ』

(見たの?)

『うん。先に見てきちゃった』

(え~っ)


『ダメだった…か?』

(別にいいけど…え~っ…)


『ゴメンって、でも本当に内装が子供っぽいキャラものばかりで。

まいの好みに合うものがなかったんだよ。あれは完全に小・中学生がターゲットっぽそうだった』


(ふーん…そうなんだ。

神様ってウチの妄想の住人の癖に、どうでもいい予知を当てるし…今回もそうなのかもねぇ~)

『はははっ』


すると。

バスの揺れからか、次第にその場にはいられない感覚がウチを襲ってきた…


『まい?!』

(―――っ大丈夫…またいつもの軽いものだよ…)


それでも、頭の中で「耐えられない」と焦りと困惑した感情が圧し掛かる…いったいなんだ?と聞かれると、きっとこれは“パニック障害”だと答える。


パニック障害とは。

思いがけない時に突然襲ってきて、まるで圧迫されたように締め付けては強い動悸と眩暈を起こし、感覚を奪っていく。パニック状態だ…


自分で抑える事が出来ないくらいのゆらゆらした世界が、次第にグラグラと地震が襲ってきたかのように足元が揺れ、落ち着けないものに変わっていく。目も開けられない…!ココにいられない…!

変な汗と、震えが、体中から溢れて止められないっ!

「ウチはどうしてもココから逃げないといけない」という謎の衝動に駆られていく…。


ただバスに乗っているだけで、危険も何もないのにこんな考えに至ってしまうのは、とても変な話だが。

パニックになるとどうしてか追い詰められた感覚になり、その場合が危険な場所に感じてしまう。


…いや。自分が危険だと錯覚してしまうのだ。


「このままだったら、ウチは暴れてしまうのではないだろうか?」「落ち着け、落ち着け、どうして落ち着かない?」等と別の雑念が交じり、頭が冷静になっている気がするが。

体が別人の者のように変わっている…


(こうなってしまったら、もう過ぎ去るのを待つしかない。誰にも助けてもらえない。

自分で、一人で乗り越えるんだ…!)


冷静さを保つため、ウチは不審な行動を取ることもなく。

ただジッと椅子に座るしかなかった。

パニックになろうが、なんだろうが、助けてくれる人はいない。


皆自分自身だけで手一杯だ。

そう知るようになったのはごく最近…

ウチはパニック障害だと知ったのはネットを見て、独自に判断したことなので病院にも行ってない。

精神病は今では知れ渡って、ちゃんとした病気として認定されていても、でも世間では…ウチの周りではそれは“認識されてない”。


パニック障害は本当に別の誰かがなるもので、ウチのようなストレスが少ない人にはならないと思われている。親にパニック障害の話をしても信じてもらえないし「気の迷い。自分がそうなると思うからなるものだ」と蹴られて、ウチはそれ以上何も言えなくなってしまった…

病院に行かないのも、もしかしたら医者も、同じことを言うかもと思い。

親にばれるのが嫌だったので、もう、自然と治るのを待つしか道がなかった。


「まい。大丈夫…大きくゆっくりと息を吸って…」

(……)

「パニック起こしても気にしなくていいよ。俺が止めるから、大丈夫…」


優しい声がウチの横から聞こえてきた。ウチの緊張感が薄れ、パニック状態が次第に過ぎ去ってくれた。

ウチは声の主がどうしてこのバス内にいるのかと気づくと、心配そうにウチを抱きしめている。

確か彼はまだあの保健室にいた気が…あれ?


バス亭のところにはいなかったはず…

気づいたら彼、辰也が違和感なくバスに乗ってウチの隣にいた。


これは間違ってはいけないが、ウチは辰也と別に仲良くもない。

むしろ、会話なんて姫愛鈴ちゃんが会話しているのは横目で見ているだけの、赤の他人な関係だ。

だから、辰也がこんなにも愛情深い視線でウチを抱きしめているなんて、考えられない。

もしかして、これは夢なのだろうか?

バスの揺れに眠気がきて、見ている夢かも知れない。



「ね?今日はすぐに帰って正解だったね。」


彼は猫可愛がりかの如くウチの頭を優しくなで、甘くとろける笑顔を浮かべている。

ウチは顔を赤らめるよりも、赤の他人からの謎の優しさに顔を青ざめだす。


「……ありがとうございます」


「まい、俺に頼っていいよ。


俺は嫌な顔はしないよ。


俺ならまいを受け入れるよ。」


 …彼は悪魔の囁きのように甘い言葉で耳元で言葉を聞かせた。まるで、ウチの昔の頃までお見通しかのようにだ…この状況は確かに昔もあったが。

昔にもあった?


いつ?


どこで?


―――多分気のせいだ。


「大丈夫です、もう良くなったので…」


ウチはせっかく優しくしてくれた相手ではあるけど、少し距離をとった言いで距離をとる。

友人ですら早々抱きしめてもらった記憶もないので、急に抱きしめて来られると違和感と不快感を禁じ得なかった。


気持ちが悪い…。


しかし、彼の優しかった声が次第に別人かの如く。ガラリと変わるものとなった…!



「…“また俺を拒むのか?”」


「えっ」


「それとも、人間のままじゃ信用が出来ないのかな?」


「どうゆうこと…っ」


《―――終点です。お降りの際はお忘れ物なく…》


バスのアナウンスが流れ、気が付いたらバスは終点まで止まっていた。景色は完全に若者とサラリーマンたちがごった返して集まる駅に止まっており、今から乗り込もうと待っているお客が別の窓から見える。

不良たちと眼鏡の男子はもうSuicaで支払い、サッサと下車しているではないか。

ウチは慌ててバスに降りた…あの辰也は、もういない。


目線を別のほうへ向けた途端に、狐に化かされたかのように彼が消えていたのだ。


グラグラした感覚も、もうなくなり頭がさっぱりと冴えていた。

常に思うことだが何故。どうでもいい時に突如それが起きるのだろうか?


(帰ろう。なんか疲れた…)


体力が全てパニック状態で使い切ったみたいで、体がずっしりと重くなっていた。

少し寄り道する気力もなく、沈む心を引きづったまま、自宅へと帰る…


……

………。

 沢山の人混みをくぐり抜けることもなく、すんなりと帰る事ができてよかった。

駅から歩き、自分の家へと真っ直ぐに帰りながらも。ウチは脳内の神様と会話しようとしてみる。


時間がたち、空は次第に暗くなってきていた。

濃い紫?色と橙色が混じっている部分があって綺麗だが、気持ちが沈んでいる自分には暗く見える。


(カラオケ行ったことあったけど、あそこでも発作起きたんだっけ。

歌えなくて、苦しくて…で、途中で帰ると悠たちが嫌な顔してて…)


『カラオケ内は密閉された空間であり、空気も悪い。

わざわざ金を払ってのどを痛める部屋に好き好んで入る輩がおかしいんだ。


だからまいが苦しくて歌えないと感じるのは普通だよ?改善するべきなのはカラオケ店だ。

もっと空調のいい設備に改良しろっ、てねっ』

(ははっ確かに…)


『あっそうだ。帰ったら麦茶でも飲もう。家にあったお菓子でも食べようかっ』

(お菓子、かぁ…)

『なんだ、不満か?』

(いやぁ…なんかラーメンとか。そうゆうのを食べたかったなぁって)

『ラーメン!だとっ!!

確かに。お菓子なんかよりも、ラーメンのほうが食べる価値があるな…!そうだ、近くにできたラーメン屋へ行こうっ!ニンニクマシマシでもネギマシマシでもして食べようかっ!』


(相変わらずラーメンとなると、やる気に満ちあふれてるねぇ~。若いね!神様っ!)


『この時代に生きていると、やりたいことしたいことが多くて楽しくて仕方ないからなっ

心まで年老いていたら、楽しいものも楽しいと感じられなくなる。

どんなものにでもアンテナは張るべきだ。俺の友人からそう教えてくれたんだ。』


(やりたいこと…かあー…)


神様と会話をすると、若干。気持ちが明るくなる。

客観的な自分の心がとてもポジティブで、ウチよりも積極的で、ウチにとって理想的に見える。その“友人”というのは。さっきのよくわからない別の存在のことだろうか?


神様はとても純粋に、裏表もない子供のようにラーメンについて熱く語る。

自分の脳内が作ったものだとしても、自分の裏の声だとしても。とても気が楽になるし嬉しかった…

だからつい、思い出し笑いのようにフフッと笑う。

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