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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第三章

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魔法使い

 

 ノストがヴァイアに覆いかぶさるように倒れた。かなりの血が流れているようだ。


 くそ、魔法障壁も転移も間に合わなかった。


 一体、何がどうなった? ヴァイアに向かってくる剣が見えたので躱す様に言ったが、あのタイミングじゃ無理だったな。その代わりにノストが身を挺してヴァイアを庇ってくれたが、かなりの傷を負ったようだ。


「フェ、フェルちゃん! ノ、ノストさんが!」


 どうする? まずは安全を確保しないとまずい。まずは牢屋を出て二人を守らないと。だが、ノストはどうする? このままじゃ出血多量で死ぬかもしれない。


「おい! その男を俺の手の届く範囲に持ってこい!」


 ローズガーデンが声を張り上げた。そうか、コイツなら治癒魔法が使える。


「ヴァイア、隣の奴は治癒魔法が使える。言うとおりにノストを運んでやれ」


「え? あ! うん!」


「早くしろ! 生きてるなら絶対に助けてやっから!」


 ヴァイアがノストの下から抜け出して、ノストを移動させようとしていた。だが、その周囲に四本の剣が浮いていた。まずい。


 転移してヴァイア達を守る様に剣の前に立った。その瞬間、剣がこちらに向かって飛んできた。


 手錠の鎖を引きちぎり、素早いパンチで飛んできた剣を叩き落とす。そうすると拍手が聞こえてきた。


「すごい、すごい! 四本の剣を一瞬で叩き落すなんて! それに牢から転移したし、ミスリルの手錠も引きちぎったのかい? あれだけ弱体化されても普通に動けるなんて! これはいい! これはいいよ!」


 誰だか知らない男が大はしゃぎだ。コイツが全部やったようだな。なら、ぶちのめそう。


 男の前に転移して、渾身の左ボディブローを放った。


 金属を殴ったような音が響く。結界か? 一撃で壊せないとはかなりの強度だな。


「おお? ハハッ! この結界に傷をつけるとはすごいね! 宮廷魔導士でもそんなことはできないよ!」


 うざい。かなりイラついてきた。


「でも、いいのかい? こんなに近くに来て? 君は強くても、彼女たちはどうかな?」


 ヴァイア達の方を見ると、また剣に囲まれていた。


 また転移してヴァイア達を守る様に剣を叩き落した。あの男に遊ばれているな。


「四本じゃ駄目だね。なら倍の八本ならどうかな?」


 男は亜空間から四本の剣を取り出して放り投げてきた。


 今度は八本で狙うつもりか。私一人なら問題ないがヴァイア達はまずい。このままだとジリ貧だ。どうしよう?


「フェルちゃん、ここは任せて。ノストさんをお願い」


 ヴァイアから意外な言葉が出てきた。それに普段のやさしい感じの声じゃない。もしかして怒ってる?


「大丈夫なのか?」


「任せて」


 心配だが目に意思の強さを感じる。よし、信じよう。


「わかった、任せる。代わりにノストは任せろ」


 ヴァイアは力強く頷いた。


「あれ? こっちとしては魔族の子と戦いたいんだけど?」


「フェルちゃんの相手は貴方じゃ力不足だよ。私で十分」


 おお、ヴァイアが挑発している。ヴァイアじゃないみたいだ。


「へぇ? なら君を殺してから魔族と戦おうかな? 元々、君を殺して魔族を怒らせるつもりだったからね!」


 ヴァイアはその言葉に反応せず、金属の塊を亜空間から取り出して、無造作に床へ投げ出した。


「何の真似だい?」


 私も不思議に思っていたが、その金属めがけて周囲に浮いていた剣が引き寄せられた。重力魔法か?


「ハハッ! 君もすごいね! 重力魔法かい? いいよ、いいよ! 君も魔族も僕のコレクションとしてここで飼ってあげるよ!」


 コレクション? ここで飼う? という事はコイツが領主なのか? 随分若いな。


「さて、君の重力魔法と僕の念動魔法ならどっちが強力かな?」


 どうやら、男の方は念動魔法で剣を動かしていたようだ。金属に引き寄せられた剣を動かそうとしているが、全く動きそうにないんだが。


「ぐっ、嘘だろ……」


 ヴァイアは何も答えず、男を見つめている。怖い。


「くそっ、だけど剣はまだあるからね。そっちを使わせてもらうよ」


 男が亜空間から剣を数本取り出した。だが、その瞬間に剣が金属に引き寄せられた。


「な……」


 もしかして、武器だけ引き寄せるように術式を変えているのか? これなら攻撃を無効にしているのと一緒だな。


「ハ、ハハッ、驚いたよ! 剣はもう駄目みたいだね! なら、これならどうだい! 【炎蛇】!」


 男が手をかざすと、蛇の形をした炎が放たれた。


 炎の蛇がヴァイアの腕に噛みつくように襲ってきたが、ヴァイアの着ているローブが水っぽく変化すると、噛みついた炎の蛇が蒸発した。……理解が追いつかないんだけど。え、なにこれ?


 男の方も絶句している。気持ちは分かる。


「な、なにをした!」


 ヴァイアは何も答えない。男を見つめているだけだ。


 その後も男が雷鳥とか氷狼とか鎌鼬とかの魔法を使ってきたが、全部ヴァイアは無効化した。すごいっていうか、おかしいだろ。


「そんな馬鹿な……」


 男も最初とは違って怯えている感じだ。実を言えば、私も怖い。


「もういい?」


 ヴァイアがゴミを見るような目で男に聞いた。


 それを聞いた男は階段の方に向かって走った。もしかして逃げる気か?


 転移して捕まえようと思ったら、ヴァイアに止められた。


「大丈夫。逃がさないから」


 そう言ったヴァイアの手のひらには石が乗っていた。それが一瞬で消える。遠くてよく見えないが、どうやら階段の場所に石を転移させたようだ。


「な、なんだこの結界! 来た時はこんなもの……」


 もしかして、階段のところに石を転移させて結界を張ったのか? ありえない使い方してるな。


「駄目だよ? 今さら逃げるのは駄目。今度はこっちの番だよ?」


 ヴァイアは両手の指に石を挟んで、計八個の石を男の方に見せた。その石が消えると、男の周囲に八個の石が出現した。


 また転移させたのか。というか、八個同時? しかも石が空中に浮いてるんだけど。どんな魔法を付与した?


 その石が小規模な爆発を起こした。これは怖い。


 だが、爆風が収まると男は普通に立っていた。


「フ、ハハ、ハハハハ! 僕の魔法も効かないようだけど、君の魔法も僕には効かないようだね!」


 どうやら男の方は結界ですべて防いだようだ。男は攻撃を防いだことに安心したのか笑っている。


「この結界は壊せないよ! さっきの魔族の攻撃でも壊せなかったからね!」


 ヴァイアがまた石を指に挟んでいた。その持ち方、好きなのか? 格好いいような気はするけど。


 その石がまた消える。すると今度は男の結界内に石が出現した。


「くそ!」


 男は結界を解いて横に飛んだ。そして改めて結界を作り爆風を防ぐ。


「なんで空間座標の計算が即座に出来る! お、お前! なんなんだ!」


 その問いにヴァイアは答えない。無視されると精神的にキツイからな。私でも傷つく。


 その後も何度か結界内に爆発する石を転移させたが、男の方は結界と張ったり解いたりして躱していた。


「ど、どうだい? 決着はつかないだろう? もし見逃してくれるなら、もう君達には関わらないよ?」


「やられたらやり返す。徹底的に。禍根は残さない。私の村なら常識だよ?」


 あれってアンリの言葉じゃなくて、もしかして村の方針なのか? やな方針だな。やられたらやり返すと言うのは共感できるけど。


 ヴァイアはまた石を転移させた。だが、結界の外だ。効かないと思うぞ。


「その爆発で僕の結界は壊せないよ!」


 爆風が収まると男の結界内でなにかが浮いていた。金属の塊だ。もしかして重力魔法で剣を引き付けていた金属か? さらに結界を囲むように剣が浮いていた。いつの間に転移させたんだ?


 浮いていた剣が金属めがけて引き寄せられた。


「ひっ!」


 男の結界で剣は止まった。だが、今も金属に向けて剣が引き寄せられている。


「結界を解いたら、貴方にも剣が刺さるかもしれないよ?」


「な、なんだと?」


 ヴァイアは両手の指に石を挟んで男に見せた。


「結界を解くのも解かないのも自由だけど、より安全だと思うほうを選んでね?」


 結界を解けば剣が刺さり、解かなければヴァイアが転送させる石が爆発するのか。酷い。


 ヴァイアは結界内に石を転移させた。


「ば、馬鹿な、僕がこんな――」


 数秒後に小規模だけど爆発が八回起きた。しかも結界内。男は消し炭だ。でも、一応、手加減はしたのかな? 意識はないが生きているようだ。


 男が意識を失って結界が消えたと同時に、ヴァイアは金属の重力魔法も止めたようだ。遠隔で魔道具を使ったり、魔力供給を止めたりと、ものすごい事をしている気はする。深く考えたら駄目だな。


 あと今回のことでよくわかった。ヴァイアを怒らせてはいけない。


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