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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第三章

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奇襲

 

 目が覚めたけど、起きた直後から気持ち悪い。手錠も、首のチョーカーも、牢屋の結界も、弱体効果はたいしたことないが、気持ち悪いのは勘弁してほしい。それはともかく腹が減った。客観的に考えて、私のお腹はおかしい気がする。


 牢屋の中だから時間は分からないが、朝だよな? いつ頃、朝食は来るのだろうか? 隣に聞いてみるか。


「おい、ローズガーデン、起きてるか?」


「そっちも目が覚めたか。おはようさん。何か用か?」


「おはよう。ところで朝食はいつ来るんだ? 腹が減った」


「来ねぇよ。食事は一日一回だ。昼頃にパンと水が来るだけだぞ?」


 なんだと? ちょっと怒りで牢屋を破壊しそうになったぞ。


「何で朝食が来ると思ったんだ? そういえば、魔族ってだけで連れてこられたと思ってたけど、フェルがこの牢屋に来た経緯を知らねぇな。どういう理由で来たんだ?」


 とりあえず、説明してやった。


 門のバリスタを破壊したこと。町の門を破壊したこと。ギルドマスターと司祭の圧力で牢屋に入れられたこと。領主と会うために色々弱体させられて牢屋を移動したこと。この辺りの話をしてやった。


「なるほどなぁ。でも、なにか勘違いしてねぇか?」


「何をだ?」


「ここに連れてきたってことは、もう出さないってことだぞ? ここで魔物を飼っているから、それを知ったら出られないって話をしたじゃねぇか」


「なるほど。騙されたという事か」


 領主に会わせるためじゃなくて、私をここに閉じ込めるつもりで牢屋を移動したのか。となると、アイツ等が圧力をかけてギルドの牢屋に入れたのも、このためか?


 だが、ギルドの牢屋から私がいなくなれば騒動にならないだろうか? いや、ギルドマスターなら偽装したりできるのか。


 もしかしたら、ヴァイアやノストは私を探しに来るかもしれないな。念話を送ろうかとも思ったけど、ヴァイアやノストのチャンネルは知らない。今度、聞いておこう。


 騙されたのはイラっとするが、そんなことよりも腹が減った。仕方ないのでリンゴを食べよう。亜空間にいくつか入ってる。本当はもっと優雅に食べたいのだが。


 うん、美味い。リンゴはどこで食べても美味いな。そういえばニアにリンゴの料理を依頼したんだった。すぐには無理とか言っていたが、帰った頃にはリンゴを使った料理とか出来ているのだろうか。楽しみだ。


「おーい、もしかして何か食ってるのか? なんで持っているか知らねぇけど、俺にもくれよ」


「やるわけないだろ。これは私の好物だ。少なくともタダではやらん」


「今は無理だけどよ、ここを出られたら金を払うって。それならどうよ?」


 それでも嫌だ。だが、これも人族と信頼関係を結ぶために必要な事かもしれない。仕方ないな。条件付きでくれてやろう。


「一つ約束しろ。私は人族と信頼関係を結ぶために魔界から来ている。魔族ってそんなに悪い奴等じゃない、ということを女神教でも広げてくれ」


「そりゃ無理だって。女神教のトップである教皇が魔族撲滅を掲げているからなぁ。魔族が五十年近く姿を見せなかったのに、今でもだぜ? そんなことしたら異端審問の奴らが来ちまうよ。アイツ等、めんどくせーんだよ」


 教皇とやらは、昔、魔族に何かをされたのだろうか。昔の魔族達は過激だったろうからな。仕方ない、女神教徒への魔族に対する信頼向上は諦めよう。


「なら、女神教の信者じゃない知り合いに広めてくれ。魔族にタダで食事を分けてもらった、とかな」


「おっけー、おっけー、それならいくらでも広めてやるぜ」


 鉄格子の隙間からリンゴを渡してやった。もう、ストックが少ない。今回の報酬でリンゴを補充しないとな。


「これ、リンゴじゃねぇか? 盗品か?」


「失礼な奴だな。エルフからお土産で貰ったんだ」


 盗んだリンゴはもう食べた。今あるのはお土産でもらったリンゴだけだ。


「おー、そういえばエルフの男を紹介してくれるんだったな! そうか、ちゃんとエルフと交流出来ているんだな! 昨日のことは夢じゃなかった!」


 夢だと思っていたのか。寝る前にあんなに祈りを捧げていたのに。あの祈りが終わるまで気持ち悪くて寝られなかったんだぞ。


「なあ、何か切る物を持ってねぇか?」


 ウサギの形にするのかな? 味は変わらないが遊び心はあるからな。


「いくつかに切り分けて、魔物達にも分けてやりてぇんだよ」


「魔物達? ああ、他の牢屋に魔物達がいるんだったな」


「言葉は分からねぇけど怪我を治してやったから、多少は信頼されてんだよ。美味いもんがあるなら、皆に食わせてやりたいだろ?」


 そういうことなら仕方ないな。残り少ないリンゴを切り分けて全員に行き渡るようにしよう。


「分かった。残りのリンゴを魔物達に配布してやる。さっき渡したリンゴを一旦返してくれ。切り分けて配布する」


 あまり出したくないが、聖剣を取り出した。うお、気持ち悪さが増大した。超辛い。


「おいおい、なんか、ものすごい事をしてるのか? フェルの牢屋から活力が漲る感じの波動を感じるんだけど? なんだこれ?」


「今、聖剣でリンゴを切ってる。集中したい。話しかけるな。手元が狂う」


 聖剣で切ったリンゴは私では食べられないな。なんというか、聖なる波動でリンゴが生き生きしている。切ったのに。


 とりあえず切り終わった。一つのリンゴを四等分した。十二個あれば全員に行き渡るだろう。たった三つのリンゴを切り分けただけなのにかなり辛かった。使い終わった聖剣を亜空間に放り込んだら、ちょっと楽になった。


「もう大丈夫だ。危険は去った」


「聖剣ねぇ。その波動なら本物か。女神教が探している聖剣の一つかもしれねぇな。国宝級だぞ、それ」


「らしいな。売ろうとしたら値段がつけられなくて、買い取ってくれなかった。まったく使えない剣だ。今回は使えたけど辛かった。普通の剣の方がマシだ」


「売るなよ。だいたい、なんで魔族が聖剣を持ってんだよ?」


「昔の勇者が魔界に持ってきた。勇者が魔界で死んだから、魔族の宝物庫で保管してたんだ。売り飛ばそうとして魔界から持ってきたんだが、売れなかったから早く捨てたい」


 不法投棄は駄目だけどな。何処に捨てよう?


「勇者が魔界で死んだ? なんだそれ? 初めて聞いたぜ?」


 勇者が魔界で死んだんだから、情報が人界に伝わらないよな。説明するのが面倒くさい。それに、せっかくリンゴを切ったのだから早く魔物達に分けてやらねば。


 転移で牢屋の外にでた。一つ一つ牢屋を回ってリンゴをあげたら、魔物達に泣かれた。丸ごと一つならともかく、四分の一しかないのに。


 話を聞くと、どうやら、ロクな物を食べていなかったようだ。その上、毎日のように戦っていてかなり辛いらしい。やせ細ってはいるが、ローズガーデンの治癒魔法の腕がいいのか、怪我の跡はまったくないようだ。でも痛みの感覚は残るはずだ。領主の奴を殴る理由が増えた。そうだ、ここから抜け出すときは、魔物達も解放してやろう。


 最後に、ローズガーデンの牢屋に来た。こんな顔だったのか。


 薄暗いし、ヴェールを被っているからよくわからないが、多分、金髪かな。肩ぐらいまであるストレートだろうか。自分で「この美貌」というだけあって顔の造形は整っているな。美人なんだとは思う。ちょっと目つきがキツそうだけど。服装は修道服というやつだろうか? 全体的に青っぽいが白色の幾何学的な模様が書かれている。だけど、なんというか、だらしない着こなしをしている気がする。シスターってこういうものなのかな?


「フェル、だよな? なんで牢屋の外にいるんだ? あと、リンゴくれ」


「お互い見るのは初めてだな。牢屋の外にいるのは転移したからだ。あとリンゴだ」


「転移ねぇ。ということは空間魔法を使えんのか。じゃあ、このリンゴや聖剣は収納魔法で持ってたんだな? 納得納得」


 ローズガーデンは勝手に納得した後、受け取ったリンゴにかじりついた。なんというか、ワイルドな食べ方だ。


「おお、何度か食ったことはあるけど、これはうめぇな。もっとくれ」


「魔物達にもあげたからもう無い。諦めろ」


「なんだ、残念。美味かったよ。ごちそうさん」


 ローズガーデンはリンゴを食べ終わった後に私の方をジロジロと見た。なんだ?


 しばらくすると、胸のあたりに視線がとまった。


「ちいせぇな」


「いらない方の胸を右か左で答えろ。もいでやる。それとも両方いっとくか?」


「冗談! 冗談だよ! 女神教ジョークだから!」


「そんな笑えない冗談を言う宗教なら私が潰してやる」


 知っていたけど、女神教は駄目な宗教だな。女神教の爺さんから依頼があったら必ず受けよう。


 とりあえず、転移で自分の牢屋に戻った。この怒りは領主にぶつけよう。


 さて、領主が来るまで本でも読んで過ごすか。前の牢屋では途中までだったからな。確か、宿から帰るときにお土産を渡されるシーンだ。大きい宝箱か、小さい宝箱を選ぶ場面だな。ここは慎重に選ぶべきだぞ。私なら大きい方だ。




 本を読んでいたら展開していた探索魔法に反応があった。誰か近づいてきている。三人か?


「おい、誰か来るぞ」


「食事の時間にしては、いつもより早い気がするけどな?」


 階段から三人が姿を現した。ヴァイアとノストだ。もう一人は……誰だ?


「フェルちゃん!」


 ヴァイアとノストが私の居る牢屋に駆け寄ってきた。


「よくここまで来れたな」


「フェルちゃんが脱獄したっていうから探索魔法で探したんだよ! どうして脱獄なんてするの!」


 私は脱獄したことになっているのか? まあ、ギルドマスターがそういう事にしたんだろうな。


「私は脱獄なんてしていない。ここに連れてこられたんだ」


「え? そうなの?」


 脱獄したなら牢屋に入らないだろ。今の状況をよく見てくれ。


「領主に面会させるから牢屋を移動させると言って、昨日の夜に移動したんだ」


「領主様に面会させる? それで牢屋を移動させるなんてことは無いはずですが?」


 ノストが不思議そうにしているが事実だぞ。それはいいとして、後ろの奴は誰なんだろう?


「ところで、後ろの奴は――ヴァイア! 躱せ!」


「え?」


「ヴァイアさん! ぐあっ!」


 ノストがヴァイアを庇って斬られた。


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