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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第三章

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出発準備

 

 宿の外にディアを連れ出そうとしたら、ディアがリンゴをテーブルに置いた。そしてディアと目が合う。私には分かる。これは謝罪だ。受け入れよう。私は一度頷いてそれを受け取る。争いは何も生まないからな。これで手打ちだ。


「憂いが無くなったところで、話を進めるよ。と言っても、リーンの町でヴァイアちゃんの探索魔道具による人探しをしてもらうだけだね」


 仕方ないな。私の探索魔法では偽名による検索はできない。ここはヴァイアの魔道具に頼るのが正解だろう。


「うん、わかったよ。フェルちゃんのサポートを頑張るからね!」


「期待している」


 サポートというかメインな気がするけど、どっちでもいいか。とっとと見つけて報酬を貰い、結婚式で食べ放題だ。未来は明るいな。


「そうだ。向こうの冒険者ギルドには連絡しないことにしたよ。司祭様が教会は怪しいって言ってたから」


「なんでだ?」


「リーンの教会とギルドって仲が良いんだよね。変な妨害をされると困るから情報は何も伝えないつもりだよ。フェルちゃんも冒険者ギルドには近寄らないでね」


 そういえば、女神教の爺さんもそんなことを言っていた気がする。向こうの司祭とギルドマスターが懇意にしているとか。


「ただ、そうなるとノストさんにも連絡できないんだよね。連絡にはギルドの念話魔道具使ってるから。向こうでノストさんに事情を話して助けてもらってね」


 ノストは町を案内してくれるとか言っていたから、助けを求めるのはありだな。隊長をしているようだし、何かしらの情報をもっているかもしれない。


「わかった。向こうで協力を得ようと思う」


「よし、こんなところだね! よーし、景気付けに今日の昼食は私が奢るよ!」


「ディア……信じてたぞ」


「何を信じていたのかしらないけど、フェルちゃんはおかわり一回分だけだからね? それ以上は駄目だよ?」


 微妙にケチだな。




 今日の昼はホットドッグという食べ物だった。確かウル達が食べていた気がする。こんな味だったのか。パンと腸詰肉とトマトソースが絶妙なバランスだ。肉と一緒に挟んである野菜もシャキシャキして歯ごたえが良い。それにこの黄色の辛い奴。お好みで付けるらしいが、これが小憎らしい。完璧な配合のホットドックに少し加えるだけで、ホットドッグがさらに進化した。私は今、進化の瞬間を見たということになる。感動だ。


 おかわりに取り掛かろうとしたときに、ミトルがやってきた。ちょっとボロボロだ。


 ミトルはこちらに気付くと、サムズアップした。


「暴力に屈しなかったぜ!」


「そうか、頑張ったな。水でも飲んで休んでくれ」


 水はタダだしな。いくらでも飲んでくれ。


 一応、プレゼンの結果を教えてもらった。


 どうやら、この村とエルフの村の定期便に関しては需要がないとのことだ。


 そもそもこの村の奴らがエルフの村に行く理由がないし、エルフも交易以外でこの村に来ることはない。将来的には分からないが、現時点では事業にならないとの結論に至ったようだ。ここで、スライムちゃんによる物理的なプレッシャーがあったらしい。


 ただ、定期便ではなく、時間や場所を自由に指定できるような運搬サービスをしてはどうかと提案したらしい。また、この村から出発するだけでは需要が少ないので、特定の場所に呼ばれたら回収しにいく等のサービスもどうかと提案したそうだ。


 カブトムシも乗り気になって、運搬サービスを始めることが決定したらしい。


「最初の客はフェルにお願いするみたいだぞ?」


 丁度良かった。明日、リーンの町へ行くから、そのサービスを受けよう。経費として落とせるはずだ。支払いは向こうの教会持ちだから、女神教の爺さんも文句は言うまい。領収書とか貰わないと駄目かな?


「俺はもう疲れた。食事を取って村に帰るよ。今日の昼食はなんだ?」


「今日の昼食はホットドッグだ。私達の目指すところがそこにある。感動するぞ」


「相変わらず訳が分からん評価だな。美味ければ何でもいーよ。あと、さっきから気になっていたんだが、鼻にトマトソースついてるぞ?」


 ウルがやっていたからそういう作法だと思っていた。違うのだろうか?


 確かにディアもヴァイアも鼻に付いていないな。そういうのは早く指摘してほしい。




 昼食後、ミトル達の帰る準備も終わったようだ。周囲には村の奴らが何人か見送りに来ていた。村長やアンリも居る。


 男性のエルフ達は、ロンや、いつも猫耳猫耳うるさい奴と固い握手を交わしていた。きっと、ロクでもない握手なんだろう。


 女性のエルフ達は、ニアから料理のレシピをいくつか貰ったようだ。ニアの料理を再現するのは難しいと思うが頑張ってくれ。


 ミトルは村の女性たちに笑顔を振りまいている。鼻にトマトソースが付いてるが指摘するつもりはない。


「村長。それではありがとうございました。引き続き良い関係を結べるように努力させて頂きます」


「そうですな。こちらも頑張らせて頂きますぞ。それから、そちらの長老にもよろしくお伝えください」


「わかりました。では、また一か月後に!」


 ミトル達はカブトムシの荷台に乗って帰って行った。




 ミトル達が見えなくなると、村長が私の方に話しかけてきた。


「エルフの皆さんと関係を結べたのはフェルさんのおかげですな。ありがとうございます」


「きっかけはそうかもしれないが、ちゃんと取引できたのは村の奴らのおかげだろう? それに私もリンゴを買えると言う恩恵があるんだ。感謝なんかしなくていい」


「相変わらずですな。では、心の中で感謝致します」


 話を聞いていたのだろうか? 感謝はいらないと言ったのだが。村長も引く気が無いようなので、好きにさせるけど。


 そうだ。明日からリーンの町へ行くんだ。一応、村長にも伝えておくか。


「冒険者の仕事で明日からリーンの町へ行くことになった。しばらく留守にするつもりだ」


「そういえば司祭様がそんなことを言っておりましたな。危険な依頼なのですかな?」


「どうだろうな? 単なる人探しだから何とも言えない。誰かに捕まっているとかなら時間が掛かるかも知れないがな」


 実際、どうなんだろう? 教会が怪しいと爺さんは言っていたが、本当にそうなんだろうか? まあ、調べればわかることか。頭が痛くなる可能性もあるが、魔眼を使えば簡単に分かるしな。


「大丈夫だと思いますが、気を付けて行ってきてくだされ」


「ヴァイアも居るし無茶なことはしない。安全第一で行くから安心してくれ。……アンリ、木剣で素振りして見せても、連れて行かないからな」


 そういう露骨なアピールをしても駄目なものは駄目だ。村長も見張っておいてくれよ。




 午後は明日のための準備をした。


 まずは魔王様に連絡するため、部屋の扉をノックした。しばらくすると、念話用魔道具から、夜にこちらに戻ってくる、と連絡を頂けた。魔王様とは夜に直接話せる。それだけで楽しみだな。


 カブトムシには、明日、東にある町まで行きたい旨を伝えた。かなり、やる気だった。ただ、割引はしてくれなかった。


 ニアにお弁当を作ってもらう依頼をした。リーンの町まで二日は掛かるらしいから食事の準備はきちんとしないとな。


 私が持っていくものは常に亜空間にいれてあるから、改めて用意するものは特に無かった。


 ただ、ヴァイアは色々準備が必要だったので、その手伝いをした。リーンの町へ行くので作った魔道具を売ってみるらしい。大量の石が必要になったので、エリザベートやコカトリス達が石集めや石作りを頑張っていた。エリザベート達は、今日だけでも結構な儲けがありそうだ。


 そんなこんなで、夕食前に準備は整った。明日のための英気を養おう。




 さて、夕食だ、と思ったところにディアが来た。


「色々調べてきたよ!」


「何を調べてきたんだ? 有益な情報なんだろうな?」


「それは分からないけど、知らないより知っていた方が良いと思って、念話用魔道具を使って向こうの受付に聞いたんだ。フェルちゃんのことは内緒にしたから大丈夫だよ!」


 ディアの有益な情報をいうのはこんな感じだった。


 教会の司祭はあまり良い噂を聞かないらしい。決定的な証拠はないが、寄付金とかを横領しているそうだ。なんというか私生活が贅沢過ぎるらしい。なにか悪い事でもしないとあの生活はできない、と皆が言っているそうだ。


 冒険者ギルドのギルドマスターも同様に生活が派手らしい。こちらは元高ランク冒険者ということもあり、その頃の蓄えではないか、とも言われているが真相は不明。現在でもかなり強いようで、ミスリルランクの実力はあるとのこと。下手に逆らえないので真相を究明しようとは誰も思わないらしい。


 最大の問題は、その二人と領主の次男がつるんでいる可能性があるとのことだ。さらに最悪なことに現在リーンの町に滞在しており、すでに色々とやらかしているらしい。そのおかげで町全体の雰囲気が悪いそうだ。


「面倒だな」


「フェルちゃんは運がないね」


「運なんて実力でどうとでもできる。重要なのはやり遂げる意思だ」


 すごく良い事を言った気がする。心に刻み込むがいい。


「えっと、うん、そうだね。ドヤ顔じゃなかったらもっと良かったよ」


 しまった、顔に出ていたか。もっとクールにならないとな。


「とりあえず、情報は分かった。出来るだけ隠密行動で探してくる」


「うん、頑張ってね。私の報酬のために!」


 一気にやる気を無くした。




 食事の後に部屋に戻ると、すでに魔王様がいらっしゃった。しまった。待たせてしまっただろうか?


「魔王様、お待たせして申し訳ありません」


「いや、今来たところだよ」


 おお、本で読んだデートの待ち合わせみたいだ。ちょっと不敬だが、あとで脳内補正による再生を繰り返そう。待ち合わせと言えば噴水前かな? 犬の石像の前というのも捨てがたい。おっと思考が逸れた。


「すこしだけ話を聞いたけど、東にある町へ行くんだって?」


「はい、人探しの依頼を受けましたので、明日、東にあるリーンの町に向かいます」


「そうか。人族に信頼を得るために色々やってくれているんだね。ありがとう、助かるよ」


 魔王様に褒められた。日記に書いておこう。


「ありがとうございます。ところで、魔王様は、現在、何をされているのでしょうか? よろしければ教えていただきたいのですが」


 魔王様の現状を確認しておかねば。いつ呼ばれるか分からないしな。


「そうだね。今は大坑道という場所に行こうとしているね。ドワーフ達が守っている場所なんだけど、なかなか入れなくてね」


 ドワーフと大坑道か……。ドワーフの名前ぐらいは知っている。大坑道は知らない。大きい坑道という意味だよな? あとで調べよう。


「そうそう、ドワーフ達はリーンのさらに東にある山に住んでいるんだよね。リーンの町でドワーフを見かけることがあるかもしれないから、もし見かけたら友好的な関係になっておいてね。ただ、無理はしなくていいよ」


「承りました。ドワーフを見かけたら全力で仲良くします」


「いつも言っていると思うけど、ほどほどにね。じゃあ、僕はすることがあるから」


 こんな遅い時間なのに、まだ何かをされるのか。ここは進言しなくてはいけないな。


「魔王様、もう夜も遅い時間です。お休み頂いた方がよろしいかと」


「フェルは優しいね。大丈夫、無理はしないから。じゃあ、人族との関係改善はよろしく頼むよ」


 そう言って魔王様はどこかへ転移された。


 魔王様がそう言うならそうなんだろうが、私としては心配だな。


 仕方がない。魔王様の負担が少しでも減らせるように、人族との信頼関係を結ぶことについてはしっかりやろう。出来ればドワーフとも友好関係になるのだ。


 よし、明日は早い。日記を書いて寝るか。


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