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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第三章

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交流

 

 村長に連れられて、ミトル達と一緒に宿に来た。


「こちらが村唯一の宿で『森の妖精亭』ですぞ」


「私もここで寝泊まりしている」


「へぇー、結構良い処じゃないか。建物が全部木製なのがうれしーね」


 そういうものなのだろうか。他のエルフ達も頷いている。そういえば、エルフの村は木をくり抜いた家だったな。


 宿に入るとヤトが掃除をしていた。なんだか掃除ばかりしているような気がする。綺麗好きなのか。


「こんにちは、ヤトさん。ニアかロンは居ますかな?」


「村長、こんにちはニャ。ニア様は厨房にいらっしゃるニャ。ロンは北の小屋を掃除しているニャ」


 ニアは様付けで、ロンは呼び捨てか。分からんでもない。


「では、すみませんが、ニアとロンを呼んできてくれますかな」


「分かりましたニャ。少々お待ちくださいニャ」


 ヤトは一度、厨房へ呼びかけた後、宿の外へ出て行った。ロンを呼びに小屋に向かったのだろう。


 それをミトルが不思議そうに眺めていた。口説く気か?


「なあ、村長は人族で、ヤトちゃんは獣人だよな?」


「そうだが、それがどうかしたか?」


「いや、普通、獣人達は人族と会話をしないからな」


 そういえば、エルフの村で偽ディーンに話しかけられたヤトが怖い感じだった。そのあと、ディアに話しかけられても普通だったけど。ヤトの中では何かしら明確な違いがあるんだろうな。村の人族か、そうじゃないかの違いかな?


「そうか。ヤトは魔界で育った獣人だからかも知れん。この村で十分良くしてもらっているから、村の住人なら気を許しているのかもしれないな」


「そっかー、俺も気を許してもらえるように真面目なところを見せないとな! そうすれば口説ける!」


 私が女性のエルフの方を見ると、エルフは一度頷き、ミトルの頭を剣の柄で殴った。なんというか、仕事以上の感情がこもっている殴り方だ。


「いてぇ! 何すんだよ!」


「女性を口説こうとしたら殴って良い許可がありますので。文句なら隊長にお願いします」


「まだ、口説いてねーよ!」


 だから、口説こうとした時点で駄目なんだよ。気付け。


「ミトル殿は先ほどと印象が全く異なりますな」


「こっちが素だ。正直、村長の家にいた時のミトルは気持ち悪かった」


 何回も殴りそうになったが我慢した。私は我慢が出来る大人だからな。


「そーいうことは本人の居ないとこで言ってくれよ」


 それじゃ陰口だろうが。そんな陰険なことはしない。言うなら直接本人に言う。


「なんだい? 随分賑やかだね?」


「村長、呼んだって?」


 ニアが厨房から出てきて、それと同時にロンが入り口から入ってきた。


 全員揃ったところで話が始まり、以下のことが決まった。


 エルフ達は交易を理由にこの村に来ている場合は、宿を無料で利用できて、食事も三食無料になる。おかわり等は別料金になるので、こういう場合はミトルが今まで稼いだお金から支払うことになった。ミトルはちょっと涙目だ。


 部屋はとりあえず、二部屋を自由に使っていいらしい。この村も商人や冒険者が通ることがあるので、そういう時は宿も混むらしいが、二部屋ぐらいは常に空いているから問題ないそうだ。


 荷物を運んでいるカブトムシは馬小屋には入らないので、畑の辺りで休むことになった。とある畑は戦いが激しいから近寄るなと注意しておこう。


「ところでエルフの皆さんは、食べられない物とかあるかい?」


 エルフが食べられない物か。肉とか食べないと聞いたことがあるけど。


「俺はねーけど、皆はどーだ? 肉が駄目か?」


 ミトルがそう聞くと、エルフ達は全員問題ないと回答した。どうやら肉を食べてみたいらしい。


「そうかい、じゃあ、今日は肉をメインにした料理を作ろうかね」


 早速、ニアは厨房に戻って食事の準備をするようだ。


「言っておくが、ニアの料理は次元が違うぞ。下手に食べるとおかわりが止まらん。気をつけろ」


「それはフェルだけだろ。でも、そーか。そいつは楽しみだ」


 ミトル以外のエルフ達も笑顔だ。エルフ達の料理も美味いが、ニアの料理はもっとうまい。怖れおののくがいい。


 そうこうしていると、ヴァイアが入り口から入ってきた。


「村長さん、村の皆に伝えておきました。広場に集まってます」


「では、ミトル殿、無料で提供していただけるのであれば、村の広場を使っていただけますかな」


「わかりました。皆、準備しよう」


 エルフ達は頷くと、宿の外に出て行った。


 私はどうしよう? タダなら何でも食べたいけど、村の奴等へのお披露目だから、私が食べちゃダメだよな。ここは我慢するか。




 広場では皆でエルフ達が持ってきた果物を食べている。全員、笑顔だ。くそう、私も食べたい。私は我慢ができる大人だが、限界はあるぞ。


「リンゴってうまいな。フェルがくれない理由も分かる」

「桃も美味しいわよ。ヴァイアちゃんの店でフェルちゃんが笑顔で食べてたから、美味しいのは知っていたけど」

「ジャムってこんな味と食感なのか。フェルがパンに付けているのを見たけど一口もくれなかったからな」

「リンゴジュースは至高。独り占めするフェル姉ちゃんはズルい。天罰が下ればいい」


 いちいち私を引き合いに出すな。食べていたものは私のだぞ。


「フェル……」


 ミトルも私をかわいそうな奴を見る目で見るんじゃない。魔族にとって食べ物は大事なんだ。私が食いしん坊だからではない。


 色々と盛況だった。残った物を貰おうかと思ったのに、何も残らなかった。この悲しさと怒りを日記に書き留めよう。


 そのあと、エルフ達と村の皆で色々と取引をしたようだ。


 ハチミツやワインは無かったが、砂糖というものが交換対象になっていた。食品関係はほとんどニアの食堂でしか取り扱っていないけど、各家にも多少は蓄えがあったらしい。それなりに交換できたようだ。


 宝石は無かったが、木製の装飾品がエルフ達には人気だった。装飾品と言えば金属製のものだと勝手に思っていたが、木製でも良いのか。鳥とか花とかの髪留めに関しては、入念にチェックする女性エルフの目が怖かった。


 なぜかミトルはロンから木彫りの熊を買ったようだ。「魚を咥えているところが最高」という私には分からない評価をしていた。一つしかなかったので、他のエルフ達は悔しそうにしていた。エルフの感性はよく分からないな。


 ヴァイアの魔道具もかなりの量を交換したようだ。ルハラ帝国が危なそうだから装備を充実させたいらしい。確かに準備は大事だな。戦争は始まる前から始まっている。あの本が教えてくれた通りだ。


 私は今回、交換できるものを持っていない。手持ちのリンゴは増えないと言うことだ。ニアやヴァイアから買うしかないな。


 日が暮れた頃には取引は全部終わった。村の皆もエルフ達もホクホク顔だ。ウィンウィンという奴か。私だけルーズって感じだけどな。




 宿に戻るとなにか宴っぽくなっている。エルフ達への歓迎の意味があるのかな。騒げれば何でもいい、という気がしないでもないが。


 エルフ達は多少困惑気味だったが、ミトルが相変わらずのチャラさですぐに溶け込んだので、他のエルフ達もすぐに慣れたようだ。


「はーい、おまちどー、今日はハンバーグだよ。エルフの皆さんにはこれが食べやすいと思ってね」


 ハンバーグか。たしか、肉を細切れにしてから、改めて固めて焼くという不思議な料理だ。聞いたことはあったが食べるのは初めてだな。


 エルフ達は肉類が初めてだからか、ちょっと観察しているみたいだ。ミトルも初めて見る料理なのか、ハンバーグをいろんな角度からみているようだ。


 ここは私が食べて見せるべきか。そうすればエルフ達も食べるだろう。それにニアの料理にハズレはない。警戒をするだけ無駄ということだ。


「いただきます」


 一口サイズのハンバーグを口に入れて咀嚼する。


 一瞬、意識が飛んだ。馬鹿な。柔らかい。口の中で溶けるような感触だ。肉と肉汁と少し塩気のある物が口の中で混ざり合って最高の味になっている。飲み込むのがもったいないぐらいだ。


 だが、そんな幸せな時間は終わりを告げた。飲み込んでしまった。始まりがあれば終わりがある。ニアの料理はいつも大事なことを教えてくれる。


「フェルも初めて食べたんだろ? 笑顔だから美味いのは分かったが、どんな味だ?」


「生者必滅の味がした」


「どんな味だよ。フェルは時々、変になるな」


 失礼な奴だ。仕方がない。分かりやすく言ってやろう。


「お前達にも分かりやすく言うと、肉が溶けるような感じだ。だが、それだけではない。肉の中に何か潜んでいる。トロイの木馬という奴だ。気をつけろ。気を抜くと一瞬で意識を持っていかれるぞ」


 それを聞いたミトルが、スプーンでハンバーグを半分に切った。なるほど、まずは偵察ということか。慎重だな。


 切られたハンバーグの中からトロっとした白いものが皿に広がった。あれはたしかチーズだったかな? 牛乳を醗酵させるとか熟成させるとか手間のかかることをする食べ物だ。牛乳は万能だな。牛は偉い。


 エルフ達は顔を見合わせてぼそぼそ相談すると、覚悟したようにハンバーグを食べ始めた。


 全員の動きが止まった。分かる。すごく良く分かる。ちょっと泣いてる奴もいる。それも良く分かる。


 エルフ達は残りのハンバーグも食べ終えると、無言でヤトに皿をだした。おかわりの要求だ。目がそう言ってる。アイコンタクトだ。ヤトも何も言わずに頷くと皿を持って厨房に入って行った。


「ここの料理はすげーな! 俺はルハラ帝国でも人族の料理を食べているけど、ここまでじゃねーぞ!」


「当然だ。ニアの料理は次元が違うと言っただろう。病みつきになること間違いなしだ」


「なんでフェルがドヤ顔なのか分からねーけど、確かに自慢したくなる味だよな!」


 しばらくすると、ヤトがおかわりを持ってきた。皿は一つしか持っていないが、残りは亜空間にしまっているのだろう。私もよくやった。


「待ってました!」


 ミトルがヤトから皿を受け取ろうとすると、ヤトが手の平を上にしてミトルに差し出した。


「大銅貨二十五枚ニャ」


 そうか、おかわりは無料じゃないよな。ミトルは泣く泣く支払った。食べ終わると、エルフ達はまたおかわりをしようとしたが、ミトルはこれ以上お金を払えないようだ。熊の置物を買ったからだな。




 その後、お開きになって部屋に戻ってきた。


 村の皆とエルフ達がそれなりに良い関係を結べて良かった。これで定期的にリンゴを購入できるという訳だ。今の時点だと私自身がエルフと物を交換できないから、ヴァイアやニア達が交換したものを売ってもらわないとな。


 そういえば、ミトル達が来たからミノタウロス達がどうなったか確認しなかった。迷惑はかけていないと思うが、明日にでも確認しよう。そうだ、ミトルにカブトムシを紹介しなくては。


 それに明日は女神教の爺さんがリーンの町に連絡を取るとか言っていたな。結果も聞かないと。


 明日は意外とやることが多いな。


 さて日記を書いて寝るか。でも、最近日記が食べ物の事ばかりだ。魔王様の事を書きたいのに。もう、創作日記でいいような気がしてきた。色々無茶なこと書いても魔王様ならやってくれる気がする。


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