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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第一章
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村長

 

 村長の家に入ると、椅子を勧められたので座った。しばらく待ってほしいとのことだったので、待ちながら家の中を観察してみる。


 村にあった多くの家よりは、はるかに大きい。だが、家の中は質素だ。大きなテーブルがあるから、住まいとはいっても村の会議等で使うのかな。さっき「家に集まってくれ」とか言っていたしな。


 村長と言っていたから、この村では一番偉いと思う。強そうには見えないんだが。というか弱い。人族は弱くても偉くなれるのか。


 村長からは何の話があるのだろうか。こちらの要望として、この村にしばらく滞在したいのだが、大丈夫かな。


「あの、こちらをどうぞ」


 私よりちょっと年上だろうか。女性がカップに何か入れて目の前に置いた。液体のようで緑色に濁っている。さらには湯気も出ている。毒?


「これは?」


「お茶です……あ、すみません。魔族の方はお茶を飲まれませんか?」


 お茶。本で読んだことがある。葉っぱで水に味をつけたものだ。魔界で試したら、明らかに飲んではいけない何かが出来た。一度、本物を飲んでみたいと思っていた。


「頂こう」


 一気に飲み干した。


「熱い!」


 ものすごい熱い。火傷したのではないだろうか。なんという罠だ。


「す、すみません! 今、水をお持ちします!」


 女性は隣の部屋に駆け込んで、すぐに水を持ってきてくれた。それを飲んで一息。


「人族はこんな熱いものを飲むのか?」


 私は猫舌だ。ちょっとした拷問だと思う。涙出てきた。もしかして嫌がらせか?


「お茶は冷ましながらすする様にお飲みください! その、私がやると熱魔法の調整があまりうまくなくて、どうしても熱湯になってしまうんです……」


 分かる。私も顔を洗うだけなのに、魔法で大量の水が出てしまい、周囲に被害をもたらすタイプだ。


「そうか、魔力調整は難しいよな。冷ましながら飲んでみる」


 女性は一度頭を下げると部屋を出て行った。


 さて、お茶だ。どうやって冷ますのだろう。冷却魔法は使えないから、そのまま放っておくしかないのだろうか。とりあえず、すすれば熱くないかな。


 すすっても熱い。ぜんぜん冷めない。熱すぎて味は分からないし、仕方がないので自然に冷めるのを待とう。いや、息を吹きかければいいのか。


 お茶に対して悪戦苦闘していると村長がやってきた。


「お待たせ致しましたな」


「いや、大丈夫だ。色々興味深いことが多かったから」


「それはなによりです。では、改めまして。この度は村を救っていただきありがとうございました。あのままでしたら、村人全員がどこかの国の奴隷となっていたでしょう。フェル様はこの村の救い主です」


「そうか、それなら――」


「ただ、申し訳ないのですが、この村は十分な蓄えがないのです。ご満足いただけるような謝礼ができません」


 いきなり話を遮られたと思ったら、謝礼についての話し合いをしたかったのか。


「一応、各家に金になりそうな物を持ってくるように伝えてきたのですが、おそらくたいしたものは無いかと」


 正直、なんでこんな森の中に村を作ったんだ、と正気を疑うレベルだからな。どうやって生活しているのだろう。


「まず、謝礼はいらない。代わりと言っては何だが、この村に滞在する許可がほしい。魔族を受け入れてくれる人族の集落なんておそらくないだろうから、ここに住まわせてくれると助かる」


「そのようなことで良いのですか?」


「構わない。ただ、人族はお金、というものでやり取りをしていると聞いた。残念ながらお金を全く持っていないのだ。代わりに魔界から色々持ってきているので、それをお金に換えてもらえると助かる」


「おお、そういうことでしたらこちらも助かります。そうですな、村に一軒だけ宿屋がありますので、そちらに滞在してください。お礼も兼ねまして、しばらくは無料でお使い頂いて構いません」


 それはありがたい。もしかして宿屋にはベッドとか風呂とかあるのかな。でも、ちょっと気になるな。


「念のため確認するが、私は魔族だ。構わないのか?」


「ははは、フェル様も見たでしょう? 同じ人族でも金のために他人を売り飛ばすのです。それに比べれば、フェル様は礼儀正しいぐらいですよ。それに魔族とはいえ、意味もなく暴れるようには見えませんから」


 ものすごい信頼されてる。もちろん暴れる気はないが、ちょっとこそばゆい。


「もちろんだ。意味もなく暴れたりしない。従魔のスライムちゃん達にもしっかり説明しておくから大丈夫だ。ただ、私は人族の常識というものに疎い。何かあったときは、それとなく教えてもらえると助かる」


「わかりました。村の者に伝えておきましょう」


 そんな話をしていると、何かいい匂いがしてきた。


「そろそろ食事ができる頃ですな。娘が作っておりますので、ぜひ食べてください。この村の宿屋の料理は絶品なのですが、娘の料理もそれに劣らないと自負しておりますよ」


 なんと。肉以外の物が食べられる。そういえば朝食も取ってない。食らいつくそう。


 出てきた食事はワイルドボアだった。暴れそうになるのをじっと我慢。私は我慢ができる大人だ。


 それに食べてみると、このワイルドボアはうまいな。いつも食べている肉と違う気がする。表面が黒くないし、歯ごたえがガリガリしない。何が違うんだろう。


 それに野菜が入ったスープがきた。野菜って丸かじりじゃないのか。こんな食べ方があるなんて、感動でちょっと意識が飛びそうになった。よし、頂こう。


「熱い!」


 冷めるまで食べられないというのは拷問だな。ここの娘さんはもうちょっと熱魔法の練習をするか、普通に火を使ってほしい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ワイルドボアに飽きていた原因。 他にも色々とミスリードがありそうで、続きが楽しみ。
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