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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第三章

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幸せオーラ

 

 宿に戻ってくると、夕食に丁度いい時間なのか結構混んでいる。


 ただ、いつも座っている席は空いていたので、そこに座った。すぐにヤトがやって来て、水の入ったコップを置いてくれた。


「お疲れさまですニャ。大盛で良かったですかニャ?」


「普通はあり得ない。大盛で頼む」


「分かりましたニャ。少々お待ちくださいニャ」


 村長の家で食事はしたが、宿の料理も食べる。なんせ無料だからな。いくらでも食べたい。


 ヤトが食事を運んできた。今日はシチューという料理らしい。ドロドロの液体に肉と野菜が一緒に入っている。美味しそうだ。


 そうだ。ミノタウロス達の食事もお願いするか。スライムちゃんや植物達と違って普通に食べるだろうしな。こっちは有料だが仕方ない。でも、お金にそれほど余裕があるわけでもないから、今後は自分たちでも頑張ってもらおう。


「ヤト、ミノタウロス達の食事もお願いしたい。六食分お願いする。金は私が払う」


「分かりましたニャ。えーと、大銅貨五枚が六食で大銅貨三十枚、もしくは小銀貨三枚でお願いしますニャ」


 結構掛かるな。一応、夜盗退治の時のお金がまだあるから何とかなるけど、夕食以外も払っていたら厳しいものがある。あいつ等には狩りとかしてもらった方がいいかもしれないな。


 とりあえず、亜空間から大銀貨一枚を渡す。大銀貨だから小銀貨七枚が返ってくるはずだ。ヤトが大銀貨を受け取ると、四角い箱っぽいところでお金を両替してきてくれた。


「小銀貨七枚のお返しですニャ。あと、食事は私の方で運んでおきますニャ」


「助かる。腹を空かせていると思うので早めに行ってやってくれ」


 ヤトは頷くと、厨房へ向かった。


 さて、私もシチューとやらを食べよう。スプーンですくって食べればいいのかな。……おお、美味いな。甘いような、しょっぱいような、判断に迷う味だ。小癪な。


 スプーンで食べていたら、近くのテーブルに座っていた村人に、そのまま食べても良いが、パンに付けても美味いという助言をもらった。なるほど、攻め方は一つではないのと一緒だな。


 そしていくつかの技を教わった。シチューにパンを直接つける、ダイレクト。シチューを食べ終わった後に皿に残ったシチューをパンでふき取る様につける、ワイプ。あと、サイクロン、というのもあるらしいが、素人の私には教えられないそうだ。経験を積まねば。


 とりあえず教わった二種類の両方をやりたいがパンが足りない。くそう、パンだけおかわりしないと。商売がうまいな。




 村長の家でも食べて、ここでも食べて、今日は良い日だな。日記に書いておこう。


 デザートとしてニアが切ってくれたリンゴを食べていると、男女二人の村人が入ってきた。ここに来る女性はあまりいないから珍しく感じる。


 二人の組み合わせをどこかで見たと思ったら、この間、村長の家で結婚するとか報告していた奴らだ。


 私に気付いて近づいてきた。なんだろう、私に用事だろうか?


「フェルさん、こんばんは」


「こんばんは。村長の家で結婚するとか言っていた二人だな?」


「まあ、覚えていてくれたのですね!」


 村人が少ないからな。名前は聞いたことが無いけど顔は知っているし、村長の家でも感じた幸せオーラを纏っているから気づいた。だが、そのオーラはちょっとひっこめろ。周囲の奴等が舌打ちしてるから。


 テーブルに二人とも相席した後、男の方が話を切り出してきた。


「司祭様から聞いたのですが、今度、村に来るシスターを迎えに行って頂けるとか?」


「ああ、三日後にリーンの町に向かって出発する予定だ」


「そうでしたか、それはありがとうございます。実はシスターが来ないと結婚することが出来ないものでして」


 よくわからんが、そういうものなのだろうか?


 私が不思議そうな顔をしているのに気づいたのだろう。色々と説明してくれた。


 結婚に関しては精霊に報告する儀式があるが、そういう手順とかしきたりを女神教の奴等がやってくれるそうだ。


 本来なら女神教の爺さんがそういうことをするのだが、新しいシスターが村に来ることになっていたので、村に溶け込んでもらうためにも、そのシスターにやらせることになったらしい。


 だが、シスターがなかなか来ないということもあり、式が延期されていて、ちょっとモヤモヤしていた。そこに私がシスターを迎えに行くことになったので、そのお礼を兼ねて挨拶しに来たとのことだ。


「そういうことか。でも、気にするな。これは爺さんから受けた仕事だ。感謝されるようなことじゃない」


 正直なところを言うと感謝されるのが苦手だ。なんかこう背中が痒い。


 それを聞いた女性の方が顔を横に振った。


「でも、夜盗のこともありましたし、私達が結婚できるのもフェルさんのおかげですから、改めてお礼を言わせてください。あ、もちろん、結婚できる一番の理由は貴方が勇気を出してくれたからなのよ?」


「そんなことはないさ。結婚できるのは君が僕の気持ちを受け止めてくれたからだよ」


 二人は見つめ合った。目の前でイチャつくのは止めてくれないかな。あと、周囲も舌打ちを止めろ。


「お礼というのなら、結婚式での料理に期待させてもらう。タダだと聞いたからな」


「もちろんです。私は狩人でして、食材は今のうちから自分で集めていますし、料理はニアさんにお願いしましたから。あ、もちろん料理が最高なのは君だよ。でも、当日は君が主役だから、料理は他の人に頼んだんだ」


「うれしいわ。でも、貴方のためにもっとうまくなるから、今はまだ最高じゃないのよ?」


 ここでメテオストライクを使っても罪に問われない自信がある。だが、止めよう。周りの奴らと一緒だと思われたくない。


 それはさておき、男の方は狩人なのか。そういえば畑仕事以外でも狩りをするような奴らがいると聞いたことがあったな。


 ミノタウロス達も食費が掛かるから狩りとかさせた方がいいかな。開拓してもお金にはならないとか言っていたし。それに結婚式とかでも料理の量が多くなるかもしれない。


「どうかされましたか?」


「今日、魔界から来た奴らに狩りをさせてみようかな、と考えていた。食費が掛かるから、自分の食い扶持ぐらいは自分でなんとかしてもらいたいからな」


「そういうことでしたら、私が狩りに連れていきましょうか? あまり狩り過ぎても生態系の問題がありますので、狩場とか色々教えますよ。フェルさんの部下なら危険はないですよね?」


 そういうのはスライムちゃんが徹底させていたな。私としても、村の奴らに手を出したら、風穴を開けてやるつもりだ。


「もちろんだ。その辺りは問題ない。教育しているからな」


「なら、明日、一緒に連れていきますね」


「よろしく頼む」


 二人はこちらに頭を下げて宿を出て行った。


 なぜだろう。二人の幸せオーラは最初のうちは微笑ましい感じだったのだが、段々、力を吸い取られるような気分になった。こう、弱体魔法を掛けられたような脱力感がある。私も似たようなことができるけど、あの二人ほどの威力じゃない。


 周囲には、微笑ましく見ている奴らと、殺し屋のような目つきで見ている奴らの二種類しかいなかったな。うらやましいなら、殺し屋のような奴らも結婚すればいいのに。


 いや、もしかしたら相手が居ないのかな? 村の女性比率はそんなに高くないし、村の女性には、ほとんどつがいがいるみたいだしな。


 そんなことを考えていたら、ディアが入り口から入ってきた。


「はー、今日も疲れたよー。今日の夕食は何かなー?」


 男たちの視線が一斉にディアに集まった。


「え? なに? どうしたの? 皆、私のこと見つめて。私の美貌に参っちゃった?」


 ディアは左手を腰に当て、右手のピースサインを横にして目のところに持っていき、舌をだしながらウィンクした。殴りたい。


「……無いな」

「ありえん」

「お金がいくらあっても足りなそう」

「猫耳をつけて出直せ」


 なにか酷い評価だ。ディアは気づいていないようで、首をかしげながら相席してきた。


「えーと、何なのかな?」


「気を落とすなよ」


「なんで、いきなり慰められているのかな?」


 知らない方がいいぞ。


 そんなことよりも、丁度良かったので服の事を聞いてみよう。忙しくて忘れてた。


「ヴァイアちゃんのお店は服を作れるほどの大きい布を取り扱ってないよ。だから、村に来る商人さんから買うのがほとんどだね」


 そうか。なら、今は仕立ててもらうのは無理だな。


「リーンの町に行けば、布も売っているはずだよ。護衛で行くなら、ついでに買って来たらどう?」


「なるほど。いくらぐらいなのか分からないが、ちょっと見てこよう」


 そうだ。リーンで買ってくるという以外にも、魔界に依頼するという手もあるな。でも、魔界の宝物庫に布とか皮ってあったかな? ドラゴンの皮はあった気がするけど。


「ちなみにディアはドラゴンの皮って服にできるか?」


「それを切れるハサミとかカッターがないと駄目だね。あと同じ強度の針も必要かな。糸も強度が強いものじゃないと縫い合わせることができないよ。でも、その前にドラゴンの皮をなめせるの?」


 ドラゴンの皮を切れるハサミかカッターか。オリハルコンならいけるかな? なめしの技術は良く分からないな。魔界の開発部にあとで聞いてみよう。


「参考になった」


「え? ドラゴンなんて冗談だよね? なにを参考にしたの?」




 ディアとの雑談が終わったので部屋に戻ってきた。それにしても、ディアのサイクロンは凄かった。私には無理だ。


 部屋に入ると、壁に執事服のジャケットが掛けられているのが目に入った。ベッドを見ると、替えのシャツが畳まれて置かれていた。スライムちゃんが洗濯したものを置いてくれたのか。綺麗になってる。


 あと、シャツの上に変なカードも置かれていた。カードには十個のマスがあり、その一つにチェックが付いていた。十個チェックが付くと、一回洗濯が無料になるらしい。色々やっているんだな。


 シャツを亜空間にしまう時に、魔王様が寝泊まりしていた部屋の扉に目が留まった。


 そういえば、魔王様は何をされているのだろうか? まさかとは思うが、また神殺し、いや、偽神殺しをする準備をしているのかな? リーンの町に行く前には一度連絡しておかないとな。扉をノックすれば魔王様に連絡できるとかおっしゃっていたので、明後日ぐらいには連絡しておこう。


 さて、体を洗って日記を書いて寝るか。


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