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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十六章

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黒い髪の少女

 

 トラン国にあるダンジョン「黄泉比良坂」。ここへ入ってから二週間が過ぎた。いまだに最下層に着かない。


 なんて深いダンジョンなのだろう。セラがすぐには来れないと言っていたが、これほどとは。


 ダンジョンなのに造りは人工的ではなく、鍾乳洞みたいな感じだ。ごつごつした岩が歩きにくく、かなり寒い。そして出てくる魔物はアンデッドばかりだ。


 グール、レイス、ワイト、ヴァンパイア……どうやらアンデッドと言ってもダンジョンが作り出した魔素による魔物のようだが、その数が多すぎる。


 スライムちゃん達のおかげでそれ程大変ではない。でも、セラは一人のはずだ。セラは勇者だから死ぬことはないだろうが、こんな場所を一人で奥まで行けるものなのか。


 それに魔物を倒して得られる魔石の数は多いが、魔物の強さに比例した魔石がでない。ほとんどが小粒だ。アビスのように武具が残る訳でもなく、儲けにならないだろう。普通の冒険者ならここへは来ないな。


 セラはここの最下層に旧世界の物があると言った。


 私を呼びよせるほどだから大層な物があったのだろうが、一体何があったのだろう? それにあの時のセラはおかしかった。なんとなくだが、胸騒ぎがする。早く行かないとな。


 そう思って足を早めようとしたら、ジョゼが歩くのを止めた。


「フェル様、少しよろしいですか? 気を悪くされるかもしれないのですが、進言したいことがあります」


「なんだ? なにかあったのか? 遠慮はいらないから言ってくれ」


「このダンジョンの最下層にセラ様がいるとのことですが、本当にいるのでしょうか?」


 セラがいるのかどうか? いや、セラはここの最下層にいると、そう言った。ここにいないと言う事はセラが嘘を言ったことになる。そんなことをする理由はないと思うのだが。


 それに私はセラを信じてる。セラがここにいると言った以上、いるに決まってる……ああ、そうか。だからジョゼは私が気を悪くするかもと言ったのか。


「ジョゼ、いないと思う理由はなんだ?」


「はい、ここは転移ができません。それに念話も使えないようです。つまり外部との連絡が完全に断たれています。フェル様と私達はここへおびき寄せられたのではないかと……申し訳ありません。フェル様の親友であるセラ様を悪く言うつもりはないのですが」


「いや、お前達の進言に気を悪くすることはない。だが、その話は――」


 おびき寄せられた? いや、セラは確かに念話でここの最下層に――念話?


「念話が使えない……? ジョゼ、ここでは念話が使えないのか?」


「はい、私達は魔物との戦いで念話による連携を使うのですが、ここではそれが使えません」


 ためしにジョゼへ念話を送ったが、確かに通じていないようだ。


 このダンジョンの最下層なら念話が使えるという可能性はある。だが、ダンジョンの構成上、そんなことをするのは意味がないはずだ。なら、セラはどこから念話を送った?


 最下層にセラがいるのか、いないのか……行けば分かるか。


「ジョゼ、セラについての疑念は分かった。だが、このまま最下層へ行こうと思う。状況的には怪しいが、それでもセラを信じたいんだ」


「はい、差し出がましい事を言いました。では、スピードを上げて最下層を目指しましょう」


「すまんな、よろしく頼む」


 最下層へ行くのが少し怖い。


 セラとは家族のように付き合ったつもりだ。でも、セラは違っていたのかもしれない。昔、いつも言っている「あの人」よりも優先するとか言っていたが、それは冗談だったのだろう。


 裏切られたとか、そんな風には思っていない。魔王様が私の心の支えであるように、私がセラの心の支えになれなかったのが、とても残念だ。


 いや、まだいないと決まったわけじゃない。最下層へ行こう。そこに答えがあるはずだ。




 あれから一日ほどかけて、最下層へ到着した。来るだけで半月掛かったか。


 最下層だけは人工的な場所だ。


 岩だらけの場所に場違いな金属の扉があった。その扉の先には階段があり、下りてきたら殺風景な部屋だった。十メートル四方くらいの部屋だ。


 階段を下りてすぐ目に入る正面の壁には巨大なモニターがあり、部屋の中央には魔法陣のような物が描かれている。


 それ以外は特に何もない。人が隠れられそうな場所も。


 つまり、セラはいないという事だ。


 ジョゼが言った通り、私はセラにおびき寄せられたのだろう。なぜそんなことを――いや、理由は一つだけか。


 セラは復讐のために魔王様を殺すつもりなのだ。イブは言っていた。セラは自分自身を勇者にしたことを憎んでいると。


 この四百年の間に、魔王様が勇者のシステムに関わっていないことは何度も説明した。理解はしてくれたと思うが、感情的には分かってくれなかったのだろう。


 セラが探しているもの、それは魔王様の事だったんだな。この四百年間、イブは魔王様を探していたんだ。そして見つけた。


 魔王様を殺す上で、一番の障害は私だ。だから私がすぐに戻れない場所へおびき寄せて、その間に魔王様を殺すつもりなのだろう。


 ため息が出た。セラから聞いたわけじゃない。もしかしたら違う理由かもしれない。でも、いままでの状況から考えるとそれしかないだろう。


 唯一の救いは、セラが私に対して罪悪感があることか。泣いていたのは私と本格的に敵対してしまうからだろう。少なくとも、私と敵対したくないという心があったわけだ。


 どうしたものかと考えていたら、ジョゼが近寄ってきた。


「フェル様、よろしいですか?」


「どうかしたのか?」


「いえ、随分と落ち着いていらっしゃるご様子でしたので。その、状況から考えて魔王様が危険なのではないでしょうか?」


「ジョゼもその考えに行きついたか。そうだよな、セラがここまでの事をしたのなら当然魔王様が危険だよな」


「はい。ですが、随分と余裕そうですね?」


「余裕という訳じゃないんだが、そもそも魔王様は不老不死だ。殺せるわけがない。それにアビスがいる。魔王様がいる遺跡で異変があれば、すぐにアビスが駆け付ける様になっているからな。セラには勝てなくても魔王様をお守りすることはできるだろう」


 こんなこともあろうかと、対策は万全だ。


 セラを助け出した当初は結構警戒していたからな。何かあった時のために色々と準備はしてあった……もう不要だと思ってたんだけどな。


「しかし、セラ様――いえ、セラはここまでの事をしています。アビスも何らかの形ですぐに行動がとれない、もしくは連絡が取れない状態になっているのではないのでしょうか?」


 アビスが動けない? そんな状態があるのか? たとえ魔素の体がロモンにあっても、操作を止めれば本体に戻れるはず。私達と同じように行動も念話もできない状態なんてありえるのだろうか。


 でも、そう言われると心配になるな。そもそもここへ来るのに半月掛かっている。戻るのにもそれくらい掛かるだろう。戻るなら早めの方がいいか。


「そうだな、焦った方が良かったかもしれない。急いで帰ろう」


「フェル様、お待ちください」


 エリザが声をあげた。そういえば、さっきから装置をいじっていたようだが、何をしているのだろう?


「エリザ、どうした?」


「はい、ここにある装置を確認しましたところ、セラが動かしていた形跡がありました」


「セラが? そもそも、この装置はなんなんだ?」


「説明によると、これは死者を呼び出す装置の様です」


 エリザが何を言っているのか分からなかった。死者を呼び出すと言ったのか? 


「そんなわけないだろう。ちょっと私にもその説明を見せてくれ」


 どうやら壁に操作パネルが埋め込まれていたようだ。それを操作してヘルプ画面を出す。


 ……なるほど、魔法陣の上にいる人の記憶を使って、モニターに会いたい人の映像をだすという装置か。


「確かに説明では死者を呼び出すとあるが、本当に死者を呼び出すのではなくて、自分の記憶から映像をモニターに出力する装置だな」


「そうでしたか。勘違いしておりました。ですが、操作履歴とやらを見ると、セラが利用していたようです。それも相当昔から」


「……そうか」


 もしかすると、セラはここで「あの人」の映像を見ていたのかもしれないな。


「リプレイというのがありますが、見ますか? セラがここで何を見ていたか分かると思いますが」


「それは――」


 どうするべきだろう。これはセラのプライベートな物だ。勝手に見ていい物ではない。


 いや、見るべきか。セラがここで何を見て、何を思ったのかを知っておきたい。


「再生してくれ。内容を確認したい」


「分かりました――これは……」


 エリザの動きが止まった。まだモニターに映像がでていないようだが、どうしたのだろう?


「どうかしたのか?」


「いえ、再生できる映像にタイトルがついているのですが、それに驚いてしまって」


「そうなのか? なんてタイトルなんだ?」


「……まずは見てみましょう。なにか分かるかもしれません」


 一体なんだ? でも、エリザのいう通り、まずは映像を見るか。


 エリザがパネルを操作すると、モニターに映像が映った。そこには頑固そうな職人風の男が映っている。セラから特徴を聞いたことがある。おそらく「あの人」なんだろう。


 でも、ちょっと暗いな。画面は薄暗く、明かりは画面下に見える何本かのロウソクの火だけだ。


『誕生日おめでとう』


 セラの声が聞こえた。ああ、そうか。これは誕生日のお祝いか。


『願い事をしながら一息で火を消すのよ?』


 誕生日にそういう事をするのは知ってる。アンリが子供の時に良くやってた。でも、画面にいる男は随分と大人だ。大人になったらやってはいけないと言う事はないが、少々違和感があるな。


 息を吹きかける音が聞こえた。そして画面が暗転する。


 今、どこから息を吹きかけた? 少なくとも「あの人」じゃないはずだ。それにこの画面はセラの視点だろう。セラも消してないはず。もしかしてもう一人いるのか?


『【光球】』


 セラの声が聞こえると、画面が明るくなった。どうやら魔法で周囲を明るくしたようだ。


 そして、モニターには二人が映った。「あの人」ともう一人。十歳くらいの黒い髪の少女。


 セラと同じ黒髪、そしてなんとなくだが、目や鼻が「あの人」に、似ているような気がする。まさか、この少女は……!


『何の願い事をしたの?』


 セラが少女の方をみて優しそうに話し掛けた。


『うん、お父さんとお母さんがずっと元気でいますようにってお願いした!』


 少女は笑って答えた。すると、モニターに少女に近づいてから見えなくなる。


『お、お母さん、苦しいよ! ギブギブ!』


『セラ、苦しそうだからやめてあげなさい』


『いま抱きしめないでいつ抱きしめるのよ! もう、この子ったら、可愛いんだから! 来月のお小遣いアップよ!』


『やったー!』


『その分、お父さんは減額ね』


『……なぜだ?』


 そんな幸せそうな家族の映像が流れている。


 どう見ても、この少女はセラと「あの人」の娘だ。


 セラの奴、子供がいたのか。昔、聞いた時はいないって言ってたのに……いや、あれは私に余計な事を言いたくなかっただけかもしれないな。


 もしかすると、これが魔王様に復讐する理由なのか? セラはおそらく、自分の子を見送った。それはどれだけ辛い事だろう。知り合いではなく自分の子だ。身を引き裂くような痛みを伴うかもしれない。


「エリザ、もう止めていいぞ。セラの事情は何となく分かった気がする。『あの人』だけでなく、娘も見送ったのだろう。それなら確かに不老不死にした原因を許せないだろうな」


 セラの事情は分かったが、それでも復讐させるわけにはいかない。すぐにでも戻ってセラを止めないと。


「フェル様。念のためタイトルを見てもらってもいいですか?」


「タイトル? ああ、そういえば、タイトルに驚いたと言っていたな。なんて書いてあるんだ?」


 エリザが困った顔をしている。一体、どうしたのだろう?


「言えないのか? 分かった。直接見てみよう」


 操作パネルに近づいて、エリザが指す部分を見た。


「……なんだこれ? 最初からこのタイトルだったのか?」


 エリザが頷いた。


「いや、しかし……これはあり得ないだろ? いや、あり得るのか?」


 タイトルには「フェルの十歳の誕生日」と書かれていた。


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