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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十六章

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ありえた未来

 

 迷宮都市での市長選挙が終わったので、アビスまで戻ってきた。


 集計の結果、無事にスタロが市長になれたようだ。本人は不思議がっていたが、それなりに人とのつながりが多くて人柄で投票してもらえたようだな。アビスも「なんだか簡単すぎてつまらないですね」とか言ってた。


 本人だけでもそれだけの実力があるなら、お飾りの市長ということもなく、迷宮都市を繁栄させていけるだろう。思い付きで決めたことだが、なかなかいい人選だったのかもしれない。


 市長の引継ぎまで時間があるようで、その間に結婚式を挙げるらしい。まあ、めでたい事だ。これで誰もが幸せになったという事だからな。でも結婚したのが四女だったので、上三人の姉がちょっと焦っているらしい。少々結婚相手のハードルを上げてしまったかもしれない。


 でも、そこまでは面倒見きれない。そもそも、私にこういう相談をしてきた奴が問題なんだ。姉たちの結婚相手を探してくれって言われても断固拒否だ。


 さて、アビスを労っておくか。


「アビス、ご苦労だったな。スタロは無事に市長になれた。これで結婚に異を唱える奴はいないだろう」


『他の候補者達は普通の人達でしたからね。対シシュティとか対不死教団じゃなかったので意外と楽でした』


「改めて考えると、他の候補者達に悪いことをしたな。結婚という理由のためにスタロを市長にさせるなんて動機が不純すぎる」


 候補者の中にはちゃんとソドゴラの未来を考えて市長になろうとしていた者もいただろうに。


『それは大丈夫ですよ。他の候補者達を調べましたが、だれもが迷宮都市の市長という肩書が欲しかっただけですから。本気でこの都市を良くしようと考えているような人はいませんでした』


 それはそれでどうなんだろう。ソドゴラは私にとっては大事な場所だ。そんな大事な場所の市長が変な奴だったら嫌だ。まあ、今回は無理やりスタロをねじ込んだから、私も他の候補者とあまり変わらないけど。


「スタロには五年間頑張ってもらおう。市長になって結婚するまでは手を貸してやったんだ。これからは死に物狂いで市長をやって貰わないとな」


『メイドギルドが目を光らせているから大丈夫だと思いますよ。市長として変な事をしたら物理的に首が飛びますから』


「怖いな。なんでそんな状況になってるんだ? というか、市役所にメイドがいるのか?」


『メイドは人界中にいますからね。むしろいないところを探す方が難しいでしょう』


 昔はもっと小規模なギルドだと思っていたんだけどな。いつの間に大きくなっていたのだろう?


 まあ、それはいいか。あのギルドに関して常識を当てはめて考えるのは意味がない。現実を受け止めよう。


 そろそろいい時間だな。妖精王国へ行くか。




 セラがいつもの席に座っていた。こちらに気付くと軽く手を振ってくる。


 よく考えたらセラは今回、結構滞在してたな。市長選挙が終わるまではいると言っていたが、結果も出たし、また冒険の旅に出かけるのだろうか。


 そんなことを考えながら椅子に座る。セラは笑顔で小さく拍手した。


「やったじゃない。市長に選ばれたのってフェルが推してた人でしょ? 見事に当選したわね!」


「私は何もしてないけどな。そもそもスタロには会ってもいないし……そう考えると、アビスってすごいな。相手に気付かれずに当選させてしまうなんて」


「アビスとフェルで迷宮都市を支配しているのも同じね」


「支配なんかしてないぞ。そんな面倒くさいことをするわけないだろ」


「普通はやりたがるんだけどね。まあいいわ、今日はお祝いでしょ? この間奢って貰ったから今日は私の奢りよ。じゃんじゃん食べて」


 なんていい日なんだろう。奢りだ。いつもより三割増しくらいで味が良くなる。でも、セラのお金は大丈夫なのだろうか。奢って貰いたいとは思うが、全財産がなくなるほど使わせるつもりもないのだが。


「えっと、お金は大丈夫なのか?」


「私、これでもアダマンタイトの冒険者なんだけど? 稼ごうと思えばすぐに稼げるわよ。ちょっと危険な魔物を狩ってくれば、素材を売って一儲けできるしね」


「そうか。セラは普段、そういう魔物退治をしているんだな。どこでやってるんだ? どこかのダンジョンか?」


「そうね。最近、色々行くところが多いから……まあ、それはいいじゃない。お祝いなんだから乾杯しましょ。すみませーん! リンゴジュース二つ!」


 色々行くところが多い、か。一体どこに行っているのやら。


 ダンジョンだったらアビスに潜ればいいのだが、セラはなぜかそれをしなくなった。アビスに遠慮しているとかじゃないよな?


「セラさん、フェルさん、いらっしゃい。もしかして今日もオールですか? うちとしては売り上げが良くて嬉しいんですけど、食べ過ぎは良くないですよ?」


 リンゴジュースをテーブルに置きながらウェイトレスの少女がそんなことを言った。


 雇っているウェイトレスじゃなくて、ニアとロンの子孫である少女だ。確か、名前はヘレンだったな。将来、この店を継ぐのだろうが、料理の腕はどんなものなのだろうか。ぜひとも美味しい料理を作ってもらいたい。


「美味しいからついつい食べ過ぎちゃうのよね」


「食べ過ぎってレベルじゃないと思うんですけど? どうやったらそんなに食べられるんです? お二人とも結構痩せてるのに」


「嬉しい事言ってくれるわね。じゃあ、メニュー全部と裏メニューも全部行っちゃおうかしら?」


「食べ過ぎだって話をしているのに……まあ、お二人とも料理を残したりしないから別にいいですけど、本当に無理しちゃダメですからね!」


 そう言ってからヘレンは厨房へ向かった。


「いい子ねぇ。十二、三歳くらいかしら?」


「確かそれくらいだ。料理の下ごしらえを手伝っているとか言ってたな。将来が楽しみだ」


「何目線なの、それ?」


「なんだろうな。親目線か? ……どうした? 苦しそうな顔をして?」


 セラが苦しそうな顔をしている。そして首を横に振った。


 大丈夫だ、と言いたいのだろうが、眉間にシワが寄って苦しそうなんだが。


 セラは深呼吸をしてからリンゴジュースを飲み、少し落ち着いたようだ。


「な、何でもないわ。ちょっと昔の事を思い出しただけ……あ、乾杯前だったわね。ごめんなさい」


「そんなこと気にするな。でも、本当に大丈夫か? 最近、そういう事が多いぞ? その、なんだ。なにか悩みでもあるなら聞くが?」


「……ありがとう。でも、大丈夫よ。最近は目的もできたし、悪夢も見なくなったから……本当よ?」


 私はそれを信じるしかない。セラがそう言うなら下手に踏み込めない。親友、なのにな。


「そんなことよりも、当選した市長のことを教えてよ。結婚するために市長になったんでしょ? 身分違いの恋なんて乙女の憧れよね!」


 セラは明るく振る舞っている。仕方ない。蒸し返すのもあれだし、話に乗ってやるか。


「身分違いとは言っても、元をただせば同じ先祖なんだけどな。ニャントリオンの創始者であるディアがその祖先なんだが、ニャントリオンは職人の血筋、護衛は異端審問の血筋、それが色濃く出た感じで分かれたんだ。そういえば、今までは二つの血筋で結婚することは無かったから今回が初だな」


「ディアって千年前に糸を使って私の動きを止めた子よね? 千年経って二つの血筋が一緒になるなんてちょっとロマンチックね」


 そういう見方もできるのか? でも、ロマンチックには程遠い感じだったらしいけど。


「スタロが嫁の両親、つまり私へ相談したほうだが、そこへ最初に挨拶へ行った時は結構修羅場だったらしいぞ?」


「分かるわ。父親って娘の連れてくる男性がものすごく憎いらしいわよ? でも、連れてきた男性は、お父さんの雰囲気にそっくりなのにね? あの時は笑いをこらえるのに必死だったわ。母娘ねぇ、と思って嬉しくなったけど」


「セラ? お前、何の……? いや、誰の話をしてるんだ?」


「え……? あ……!」


「まさか、お前……子供がいたのか? 婚約者との子供か? もしかしていつも出かけているのは、自分の子孫を探しているのか?」


 セラは首を横に振ってから、悲しそうに笑った。


「……違うの、そうじゃないわ……夢よ。イブに見せてもらっていた夢の話。私が勇者じゃなくて普通の人族だった場合の……もしかしたらありえた未来の夢。現実に子供を産んだことはないわ……」


「そういうことか……すまん」


「何で謝るの? フェルは何もしてないわ。私が夢と現実を混在させただけ。あれは夢だったけど、幸せだったわ……あんな未来があったかもしれないと思うと、現実は辛すぎるわね。どんなに強くて、絶対に死ななくても、なにも思い通りにはならない。勇者なんてなんの意味もないわ」


 創造主の一人もそんなことを言ってたな。神に近い存在になれても思い通りにはならないと。全てが思い通りになるならそれはそれで楽しいかもしれないが、多分、生きている理由も見いだせない気がする。


 でも、どうしても叶えたいことが叶わないというのも辛い。セラは婚約者と一緒に普通の家庭を作りたかったのだろう。しかも、それを夢で見た。例え夢でもその幸せを実感したら現実が更に辛くなりそうだ。


 でも、私もセラも現実に生きるしかないんだ。なんとか夢以上に幸せを見つけないとな。


「セラ、食べよう」


「え?」


「現実は辛い事がいっぱいだ。でも、心を楽しいことで埋め尽くせば辛くなくなるかもしれない。この宿の料理は最高だろう? 美味いものを食えば幸せになれる。たくさん食べればもっと幸せになれるぞ?」


 理論でもなんでもない。タダの暴論。そんなことでセラの気分が紛れるとは思わない。でも、私がセラを気に掛けてるって事だけでも分かって欲しい。一人じゃ辛いかもしれないが、二人ならちょっとは気が紛れるはずだ。


「……そうね。どうせいくら食べても太らないんだし、飽きるまで食べようかしら?」


「その意気だ。なんなら禁断のアイス全トッピング盛りを行くか? なんでもパフェという完全を意味するデザートにクラスチェンジするらしいぞ?」


「なにその素敵な食べ物。それは行くしかないわね」


 どうやら元気が出たようだ。


 そうと決まれば、まずは表と裏のメニューを制覇しよう。そして締めにパフェだ。


 よし、今日はセラの奢りだし、手加減なしで食べよう。


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