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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十六章

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誘拐

 

 トラン王国から緊急の連絡が来た。


 話を聞いてみると、どうやら第三王女がさらわれたらしい。


 さらったのは王政の廃止を要求する組織。なんでも一週間以内に王位を廃止しろ、と要求してきたそうだ。さらに、その要求を飲まなければ王女を殺すとも言ってきたとのこと。今も精鋭の兵士達を使って探させてはいるが、見つからずに三日が過ぎてしまったらしい。


 そこで国王自らが私にお願いをしてきた。


 私の事は国王だけが知っている。魔界の魔王と同じようにトラン国では国王だけが私の名前を知っている状態だ。


 私に頼り過ぎてはいけないと、歴代のトラン国王はそう戒めている。でも、今回だけはどうしてもお願いしたいと念話で連絡してきた。


 そういうのはもっと早く連絡しろと言いたいが、いまそれを言っても意味がないので早速取り掛かることにした。


「アビス、ちょっとトラン国へ行ってくる。スライムちゃん達を連れて行くから呼んでもらえるか? 全員だ」


『畏まりました』


 数分後、何もない部屋にスライムちゃん達が集合する。そしてジョゼが一歩前に出て頭を下げた。


「お呼びと伺い、参上いたしました」


「実はトラン国で第三王女がとある組織にさらわれたらしい。探しに行くので手伝ってくれ。国の王女をさらうくらいだからな、結構大きな組織かもしれない。面倒だから潰しておく。もちろんそっちも手伝ってくれ」


「……なるほど、アンリ様のご子孫をさらったと……」


「殺気をだすな。分かってるな? お前達が暴れたら町なんてあっという間になくなる。力を抑えて軽く暴れるんだ。軽くだぞ? 本当に頼むぞ? 変に建物とか壊して弁償とかになったら大変なんだから。それに最初は調査だけだ。王女を救出するまで暴れない。ちゃんと守れよ?」


「はい、お任せください」


 ジョゼが頷くと、他のスライムちゃん達も一斉に頷いた。うん、頼もしい。


 おっと、行く前にセラに連絡しておこう。


 今日帰ってくるとは聞いていないが、たまにサプライズとか言っていきなり帰ってくるからな。王女の救出がどれくらいかかるか分からないし、言っておかないと後がうるさい。


『セラ、聞こえるか? フェルだが』


『あら? 珍しいわね、どうかしたの?』


『これからトラン国へ行ってくる。しばらく留守にするから、その連絡をな』


『そうなの? でも、何しに行くの? 旅行なら私も行こうかしら?』


『いや、トラン国の第三王女がさらわれたんだ。その救出だ』


『早く行ってあげて。私に連絡してる場合じゃないでしょ?』


『いや、言っておかないとお前、怒るだろうが』


『時と場合によるわよ。ほら、行った行った!』


 強制的に念話を切られた。まあ、事情は理解してくれただろうから問題ないだろう。


 よし、トラン国へ行くか。




 転移門を開き、ノマが使っていた隠れ家にやってきた。そこからすぐにトラン国へ移動する。


 トランの王都へは私の場合、フリーパスだ。トラン国の相談役みたいな立場の役職を貰っていて、それを示すカードを門番に見せれば何の問題もなく入れる。従魔達を連れていても何の問題もなかった。


 王都へ入り、人の少ない通りでジョゼ達と改めて意識共有をすることにした。


「さて、トラン国に着いたわけだが、やることは分かっているな? 最優先は第三王女の救出だ。それが確認できるまで暴れたりしないように。これは絶対だぞ?」


 ジョゼ達が頷く。本当に大丈夫かどうか不安な部分がある。なんせさらわれたのがアンリの子孫だからな。こう、頼もしい反面、やり過ぎる気がする。


 ジョゼが手をあげた。何か質問があるのだろうか。


「第三王女の名前や容姿を教えて貰えますか?」


「うっかりしてた。名前はナキアだ。年齢は五歳。容姿はアンリに似ている。おそらく城になら絵画とかあるだろうが、行っている暇はない。それに私達は秘密裏に行動する。騒ぎを大きくしないためにな」


 第三王女がさらわれた件はまだ一部の者しか知らない。あまりにも騒ぎが大きくなると、逆上した犯人がナキアを危険な目に遭わせるかもしれない。慎重に行かないと。


 今度はエリザベートが手をあげた。


「ナキア様が王都にいるのは間違いないのでしょうか?」


「いい質問だ。どうやらトラン国の王族にはこういう時のために、現在位置を知らせる腕輪をつけているらしい。残念ながら、細かい場所までは分からないが、少なくともその腕輪はこの王都を指しているそうだ」


「腕輪だけが王都に残っている可能性はありますか?」


「それはないそうだ。もし腕輪を強制的に外すと大音量の音が流れる仕組みになっているとか。それに腕輪には魔力登録をしているようで、ナキアから魔力が供給されなくなると、そもそも位置を教えてくれないらしい」


 つまり、腕輪が位置を教えてくれている間は生きていると言う事だ。


 しかし、中途半端な魔道具だな。魔術師ギルドでもっといい物を作って貰えばいいのに。まあ、いま言っても仕方のない事だけど。


「さて、質問は以上か? なら早速調査に行ってくれ。事態は一刻を争うという状況だ。よろしく頼むぞ」


 スライムちゃん達が頷くと、一瞬でその場から消えた。私が一瞬でも見逃す速度ってなんだ? どう考えてもスライムじゃない。


 まあ、それは後だ。私の方も色々と調べてみるか。こういう時は酒場で情報を集めるのが基本だ。推理小説を何冊も読んでるから分かる。


『ナキア様が見つかりました』


 一歩踏み出したところで、ジョゼから念話が届いた。


 聞き間違いだろうか。ナキアが見つかったって聞こえたんだけど。


『えっと、ジョゼ、いま、なんて言った?』


『ナキア様が見つかった、と言いました。トラン国の貴族が所有している倉庫の地下にいるようです。場所の座標はこの辺りです。お急ぎください』


『……そうか。すぐ行く』


 おかしいな。見つけるのは大変だと思っていたんだけど。というか早すぎないか?


 ジョゼが送ってくれた場所へ移動すると、確かに倉庫のような建物がいくつも並んでいた。


 昼間だと言うのに人通りが少ない。ここら辺はそういう建物が多いようだし、商人が使う倉庫街のような場所なのかもしれないな。


 目的の倉庫をよく見ると、入り口には何人かの見張りがいる。なんというか、分かりやすいほどの悪人面だな。


 そんな風に思っていたら、いきなり見張りが倒れた。


 倒れた場所にヴィクトリアとイングリッドがいる。そして手首や指を曲げて、くるくる回し始めた。ハンドサインだろうか。


 それを見たジョゼが頷いた。


「安全を確保しました。さあ、ちゃっちゃと行きましょう」


 私は要らないような気がする。スライムちゃん達に任せてしまった方が早いのでは……?


 そんな事を考えながら倉庫に入ると、多くの人族がいた。奥の方にはロープで縛られてさるぐつわをされた女の子が座っている。


 なるほど、アンリに似ているな。あれがナキアか。


 ナキアは泣きわめくこともなく、ジッとこちらを見つめている。なかなか度胸があると見た。ソドゴラ村が夜盗に襲われていた時、アンリもこんな感じだったのだろうか。ちょっと懐かしいな……おっとまだ救出していないんだ。集中しよう。


「おいおい、なんだこのガキは? 見張りは何してる?」


 いま喋った奴が一番強そうだな。コイツがボスなのだろうか。


 それよりもまずはナキアを助けるか。


『ジョゼ、ナキアの保護を頼む』


『問題ありません。すでにマルガリータがナキア様のいる地面に潜んでいます。いつでも保護できます』


『仕事が早すぎてちょっと寂しいぞ』


『では、ここはお願いします。私とエリザ、シャル、マリーは別の拠点を潰しますので。結構数が多いようですが、とりあえず全て潰しておきます。あ、ちゃんと証拠を押さえてありますから大丈夫です』


『ああ、うん。それじゃそんな感じで』


 もう何も言うまい。


 さて、ここは任された。十五人と言ったところか。ナキアもマルガリータが守っているようだし、気兼ねなく殴ろう。


「悪いな、嬢ちゃん。見られたからには生かしてはおけねぇ。自分の不運を呪いな」


「不運なのには自信がある。だが、お前らの方がもっと不運だと思うぞ?」


 かなり手加減をしてやらないとダメだな。それに転移もしない方がいいだろう。いつも通りやると間違って本気で殴ってしまいそうな感じだ。ゆっくり、丁寧に倒そう。


 男達の方へ歩き出す。先手を譲る必要もないし、名乗る必要もないからな。とっとと済ませよう。


 三人程が剣を抜いてこちらへ向かってきた。


 剣の振り方がなってないな。それに遅い。セラならその間に五回は斬れる。これでもそこそこ強いのだろうが、どうしてもセラと比べると劣って見えてしまう。まあ、当然なんだけど。


 相手の剣を躱し、腹をちょっと叩く。それだけで相手の意識を奪えた。どうやら手加減が上手くなったようだ。昔は弱体魔法に頼っていたんだけどな。


 五人、六人と片付けていくと、ボスのような奴が怯えた感じで叫んだ。


「な、なんなんだお前は!」


「お前に名乗る名はない。さあ、まだ昼間だがもう寝る時間だ。手間を掛けさせるなよ?」


 少しだけ速く移動して、ボスの懐に入る。そして腹を叩いた……吹っ飛んでしまった。


 それを見た他の男達は散り散りに逃げ出した。残念ながら逃すわけがない。


 逃げる奴を追いかけて全員を叩きのめしたけど、その間、泣きそうな顔で私のことをオーガとか悪魔とか言いやがった。あんなのと一緒にしないで欲しい。まあ、悪者にどう思われても別に構わないけど。


 とりあえず、全員を紐で縛っておく。しかし、何だろう? さっきからナキアが鼻息を荒くしてこっちを見ている。もしかして怖がらせてしまったのだろうか? とりあえず、安心させよう。なんか目が怖いから。


 ナキアの頭に手を置いて撫でた。


「よく頑張ったな。もう大丈夫だ。すぐに兵士達が来るだろうから、それまで大人しくしているんだ」


 さるぐつわをしているから何を言っているのか分からないが、ナキアはさっきから興奮している。大人しくしろと言っているのに、一体どうしたのだろうか。なんかこう、アンリが勝負を挑んでくる時の目に似ているのだが――まさかな。


 まあいいか。トラン王へ念話してこの場所を教えてやろう。後はトラン国の兵士達がやってくれるはずだ。


 もっとかかるかと思ったけど、あっさり終わったな。スライムちゃん達のおかげだ。


 昔から思っていたけど、今日、ついに確信した。スライムちゃん達は怖い。


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― 新着の感想 ―
だって スライムちゃん達はフェルよりも強くなって フェルを守ることが永遠の目標たからね フェルが強くなればなるほど スライムちゃん達も強くなる
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