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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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パーティーの出し物

 

 食堂にあるステージで市長に再当選したエスカが話をしている。


 手伝ってくれたみんなへのお礼を述べている感じだな。先日、スピーチ内容を確認して私に対する内容に関しては削除させた。こういうところで目立ちたくない。知り合いが多かったとしてもでしゃばりたくないしな。


 エスカは話が終わるとコップを掲げた。


 エスカが「乾杯!」と音頭を取ると、みんなも一斉に「乾杯!」と言ってコップをぶつけたようだ。私もタルテとルミカと乾杯をする。


 そしてコップの中の液体を飲みほした。リンゴ味。素晴らしい。エリクサーは見習え。あ、そうだ、リエルのエリクサーは返しておこう。ルミカも私に渡すとき泣く泣く渡してきたからな。


 一本は飲んでしまったが、昔から持っている一本があれば十分だ。五百年以上経ってるけど、賞味期限は大丈夫だろう。


 よし、食事と洒落こもうか。




 色々食べていたら、タルテが驚きながらこちらを見ていた。


「フェルさんは相変わらず凄い食べっぷりですね。見ているだけでお腹がいっぱいになってくるんですけど」


「わかった。代わりに食べてやろう」


「ちょ、そのカラアゲは大事に大事に取っておいたものですから! 好物は最後に食べる派なんです!」


 私は最初に半分食べて、最後にも半分食べる派だ。でも、今日は多くの料理がバイキング形式で至る所に置かれている。どんどん食べないと。


 そんな私をジト目で見つめている奴がいる。ルミカだ。


「フェルさん、あの、本当に手加減してくれるんですよね? 孤児院の子達がここの料理を楽しみにしてるんですけど?」


「大丈夫だ。そもそも、残る前にお弁当箱へ詰めたらどうだ? さすがにそれを強奪するつもりはない」


「……天才ですね!」


 マナーとしてどうかと思うが、エスカだって文句は言わないだろう。


 そんなことを考えていたらエスカがやって来た。


「フェルさん、こちらでしたか」


「ええと、当選おめでとう。それと招待してくれてありがとう。何を食べても美味い」


 そういうと、エスカが苦笑する。


「礼を言うのはこちらですよ、フェルさん。アビスさんから聞きました。最も危険な候補者を排除してくれたとか。それにシシュティ商会や不死教団もほぼ壊滅状態だと聞きます。選挙の後だと思っていたのですが、その前に片を付けるとは驚きました」


「まあ、偶然な。でも、礼は要らないぞ。他の立候補がいても圧勝したんだろ? それはエスカの市長としての手腕が良かったんだと思う」


「そういう理由だったら本当に嬉しいのですけどね……では、他にも挨拶する人たちがいるのでこれで。イベントも用意してますので楽しんでください。もちろん、タルテちゃんとルミカちゃんもね。ああ、そうそう、ルミカちゃん。孤児院の子達にはテイクアウトの料理を用意しておいたから、お弁当箱に詰めなくても大丈夫よ」


「エスカさん、素敵です! エスカさんに聖母様の祝福がありますように……」


「ありがとう」


 エスカは丁寧に頭を下げてからテーブルを離れて行った。そして別の人に挨拶をしている。誰だかは知らないが、支援者の人なんだろう。


「ひゃー、エスカさんはいつも格好いいよね! またニャントリオンで服を作ってくれないかなー。でも、あんなに格好いいのにまだ独身なんだよね。すっごい不思議」


「珍しくタルテと意見が合った。都市の男達は見る目がない。エスカさんはたまに孤児院に来て寄付をしてくれるから、その度に聖母様の祝福をしているのに……なんでかしら?」


 ……思ったことがあるけど、言わないでおくか。偶然だと思いたい。


 そんなことを思っていたら、タルテが急いでカラアゲを食べてしまった。狙ってたんだけど、どうしたのだろう。


「ルミカ! そろそろ行かないと間に合わないよ! 急がないと!」


「……本当に私もやるの? 嫌なんだけど?」


「鏡の前であんなにはしゃいでたのに何言ってんの! あれだけ練習したんだからやるよ!」


「はあ、仕方ない。でもやるならやるで頂点を目指すわよ! フェルさん、すみません。席を外しますね」


「ああ、なんだか分からないが用事があるなら行った方がいい。食事は任せろ」


 二人は揃ってどこかへ行ってしまった。寂しくも感じるが、一人で美味しい料理を食べるというのも乙なものだ。今のうちに追加の料理を取りに行こうかな。


「へーい、フェル、元気? 私? もちろん元気だよ! え? 聞いてない? もっと興味持ってよ!」


「おい、ジェイ。フェルが面食らってるだろう。ちょっと落ち着け」


 ジェイとレオがやって来た。そういえば、ソドゴラでの護衛を依頼していたっけな。


「お前らも招待されていたんだな」


「言われた通り、みんなで迷宮都市の色々な場所を護衛してたからね。さすがに全員は呼んでもらえなかったけど、二人だけならいいって事だったからレオと来たんだ。そうそう、見てよ、このドレス。ニャントリオンの新作だよ。隣の唐変木に聞いたらつまらない答えだったから、フェルには期待してるんだけど?」


 感想を聞く人選からして間違っていると思うんだが……だが、ここは魔眼でも見えないステータス、女子力が試されていると見た。ちゃんと答えてやろう。


 見た感じピンクが主体となってるみたいだな。多分、髪の毛の色と合わせているのだろう。


「いい感じだと思うぞ。桃っぽくて」


「うっわ、ないわー。この唐変木と同じ感想じゃん。このドレス見て桃っぽいって……あれ? もしかして本当に桃に似てるの?」


 レオと同じレベルの感想を言ってしまったらしい。ちょっとショックだ。しかもレオがちょっとドヤ顔なのが傷つく。


 ひとしきり、二人と話したあと、レオが真面目の顔になった。


「俺達は冒険者家業を辞める。しばらくしたらギルドカードも返却するつもりだ」


「急だな? そうなのか?」


「ノ……アモンが亡くなってから体のメンテナンスができなくなってな、色々とガタが来ているんだ。これ以上戦って体の寿命を減らさないようにしようと思ってる」


「お前達の体は魔素の体だったな。ならアビスに頼んでやろうか? アビスならメンテナンスくらいできると思うぞ?」


 その言葉にレオは首を横に振った。ジェイの方を見ると、同じように首を横に振る。


「不要だ。私達もこの体が動かなくなったら眠りにつく。それに、そろそろ核である魔石が壊れそうなんだ。それまで体が持ってくれれば十分だからメンテナンスは必要ない」


 魔石が壊れる……? そうか、たしか魔石に思考プログラムをダウンロードしているとか聞いたことがある。魔石が壊れたら体が残っていても動けないと言う事なのだろう。


「そうか、お前達とはそれなりに付き合いがある。寂しくなるな」


「あー、でも後百年くらいは大丈夫だよ? だから体を大事にして長生きしようって話なんだ」


 百年。期間としては長いだろう。でも、いつか別れが来る。それは寂しいものだ。


「魔素の体だが、生活は大丈夫なのか? よければ支援してやるが」


「それも平気。確かにアダマンタイトの稼ぎに比べたらかなり落ちるけど、今もリーンで細々と本屋をやっているからね。魔素の体を動かすための魔力を食事で賄ってるけど、生活する分には問題ないよ。まあ、大口の取引でもあればもっと楽なんだけどねー」


 ダズマがアモンから引き継いだ本屋か。


 ダズマは事情を知って皇位継承権を捨てた。そしてアモンと本屋を営みながら、ペンネームで本を書いた。それはノマと母親のラーファの事が書かれた本だったな。二人は普通に出会い、普通に恋をして、結ばれる。そんな恋愛ものだった。私には分からなかったが、あの二人はそういう関係だったのかもしれないな。


 でも、そうか本屋か。


「二人とも本の出版についての知識はあるか?」


「やり方は近くで見てたから知ってるよ。リーンには製本屋みたいなのもあるし。なに? フェルも本を出すつもり? もしかして、超絶可愛いピンク色の髪をした女の子が出ちゃう? 印税一割ください!」


「だれがお前の本なんか書くか」


 ヴァイアの本を書いてやらないとな。エンターテイメントなハラハラドキドキの小説だ。あの頃のメモは残してある。ちょっとだけ誇張するけど、創作だからな。それにヴァイアのイメージを良くするためだ。しっかり書こう。


 大丈夫、恋愛小説はたくさん読んだ。やれるはずだ。


「おーい、フェル、考えこんじゃっているけど大丈夫? 何の本を書くのかは知らないけど、うちらに任せてくれたらちゃんと流通させてあげるよ。お金は貰うけど。本当にピンク色の髪をした女の子って出ない? ――あ、そう、出ないんだ……ダズマも出してくれなかったんだよね……」


 ヴァイアと接点がないからな。それは仕方ないと思う。


 ジェイとレオは魔力供給のために食事をすると言って離れた。さて、私も料理を取りに行こう。


 次はワイバーンのピリ辛炒めだ。これをパン生地みたいのに包んで食べるのがいい。セルフでやれるところが嬉しい。量を調整できると言う事だ。包めるギリギリを狙う。人生はいつだって攻めるべき。


 その前にリンゴジュースを飲もう。勝負の前に心を落ち着けるのは大事だ。


 それにしても、ワイバーンの肉やリンゴジュースがあると言う事は、ドラゴニュートやエルフ達がソドゴラに来たのかな。さすがにこのパーティーには呼ばれていないようだが、交流が復活したのなら嬉しい限りだ。


「では皆様、これより、出し物を行います」


 パーティーで進行している男性がそんなことを言った。そういえば、イベントがあるとか言ってたな。なんだか昔の宴を思い出す。私はやらなかったけど、みんな練習して色々やっていた。


 懐かしいな。ちょっと見てみようか。


「では最初は謎のスライム達による演奏です。拍手でお迎えください! スライムちゃんズです!」


 リンゴジュースを吹いた。


 ステージの上では四角い紙袋を頭に被ったスライムが七体ステージに上がっている。紙袋は目の辺りが一つだけ穴が開いていて目がキョロキョロしている。


 というか、アイツら何してんだ? 今日はまだ百鬼夜行をしてないんだけど、意識は大丈夫なのだろうか。


 体の中からトランペットを取り出して演奏を始めた。


 聞いた覚えがある。そういえば、昔、村長が演奏していたな。あの時の曲か。スローテンポのゆったりした曲。悪くはない。


 一曲終わり、拍手が起こった。そして立て続けに二曲目が始まった。今度はアップテンポのノリのいい曲だ。謎のスライムちゃん達も陣形を変えたり、くるくる回ったりしながら曲を演奏している。


 なんか盛り上がってる。まあ、盛り上がるならいいんだけど、なんで正体を隠そうとしているのだろうか。しかもバレバレだし。


 曲が終わり、かなり盛り上がっている。拍手の中、ステージを下りるかと思ったら、そのまま居残った。


 そしてステージには頭からすっぽりとローブを被った怪しい奴らが三人出て来る。


 怪しすぎる。シシュティ商会や不死教団の奴らか? 一応いつでも飛び出せるようにしておこう。


 三人が勢いよくローブを取り払った。


 タルテが向かって右端、そしてルミカが左端にいる。ヒラヒラな服を着て。


 そして中央には黒猫の獣人ナギがいた。なんでアイツがいるんだ? 共和国にいたんじゃ?


「みんな! 初めましてニャ! アイドルグループ、新生ニャントリオンニャ! 応援よろしくニャ!」


 リンゴジュースを口に含んでなくてよかった。


 スライムちゃん達の音楽に合わせて歌いだした。タルテとルミカはバックダンサーとして踊っている。キレキレだ。


 なんだか盛り上がってるな。私は置いてけぼりだ。あのノリについていけないと言うか。


「なるほど、あれは私達メイドギルドへ対する挑戦ですね」


「……気配を消して背後に立たないでくれないか?」


 メイドギルド迷宮都市支部のギルドマスター、いやメイド長が背後に立っていた。そういえば、メイド達がお皿を下げたりしていたな。メイド長が来ているとは思わなかったけど。


「さあ、ご主人様。ご命令ください、ニャントリオンを潰せ、と」


「なんでだ。それに主人じゃないと言っているだろうが」


「なぜと言われれば、それはニャントリオンだからです。メイドギルド唯一の汚点、ニャントリオン。メノウ様が作られたゴスロリメイズが勝てなかったアイドルグループ。ならば我々がその汚点を消し去らねば」


「仲良くしろ。あの頃のみんなはライバルだったけど、切磋琢磨した間柄だったぞ。強敵とかいて『とも』と呼ぶような感じだ」


「なるほど、分かりました。つまりゴスロリメイズを復活させろ、というご命令ですね。では『ゴスロリメイズ・極』というアイドルグループを結成します。僭越ながらこの私がリーダーとして――」


「全然分かってないけど、もうそれでいい。この皿、下げて貰っていいか?」


 メイド長は頷くと、テーブルにある空になったお皿をまとめて持って行ってくれた。


 なんだろうな。たった一時間しか経っていないのに、結構疲れた。料理は間違いなく美味しいのに。


 これからレヴィア達も来るからその対応もしないといけないんだけどな。ちょっと休んでおこうかな。


「あー、フェル! 聞いて聞いて!」


 また厄介ごとだろうか。ジェイが近寄って来た。


「えーと、なんだ?」


「本屋じゃなくてアイドルやることにしたから! やばい、超売れっ子になりそう! それともフェルも一緒にやる!? アイドルで人界を征服しよう!」


「悪いな、人界征服は既に頼まれているから却下だ。やるなら一人でやってくれ……レオと組めばいいんじゃないか?」


 レオがものすごい嫌そうな顔をした。冗談だったんだけど、そんなに嫌か。


 うるさいジェイと、嫌そうな顔のレオを追っ払った。もう、来ないで欲しい。


「あの、フェルさん、こんにちは」


「レヴィアか。遠いところ良く来たな。それにフリートも」


 レヴィアとフリートが手を繋いですぐそばにいた。二人は馬車でここまで来たのだろう。転移門を開いても良かったのだが、既に出発した後だったので、迎えに行けなかったんだよな。


「は、はい、大丈夫です。ほら、フリートも挨拶しなさい」


「フェ、フェルお姉ちゃん、こんにちは」


「ああ、こんにちは。二人とも疲れただろう? 座って何か食べるか飲むなりした方がいい」


 椅子に座るとレヴィアはキョロキョロしだした。


「あ、あの、私達ってここにいていいんですかね? 迷宮都市の選挙にはなんの関係もないのですが……」


「魔術師ギルドのグランドマスターなんだから問題ない。市長のエスカも今後の人脈として必要な人をアビスに聞いて、招待状を送ったんだから堂々としていろ」


「そ、そうですか。ならエスカさんへ挨拶しないといけませんね。すみません、フリートの事、お願いしていいですか?」


「ああ、構わない。あそこにいる男装の麗人がエスカだ」


「ええと、あ、はい、分かりました。ちょっと挨拶して来ます」


 レヴィアはフリートを残してエスカの方へ向かった。なんだかレヴィアはペコペコしているな。なんとなくヴァイアを思い出す。


 おっと、フリートを放ったらかしだ。


「フリート、何か飲むか? リンゴジュースがオススメだ――どうした? なにか珍しいものでもあるのか?」


 フリートがステージの方を凝視している。どうしたのだろう?


「大きくなって魔法使いになれなかったら、スライムになる。あれは格好いいよね?」


「それは魔法使いになるより難しいぞ。せめてアイドル……いやメイドか? ……どっちもダメだな。すまん、オススメの職業がない。やっぱりフリートは魔法使いになるのが一番いいと思うぞ。私も教えてやるから、頑張ろう、な?」


 まずは色々と常識を教えてやろう。アイドルとかメイドの事もな。


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