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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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戦いの果てに

 

 どうしてジョゼの意識が戻ったのかは分からない。


 でも、そんなことはどうでもいい。いまはジョゼから質問されているんだ。何か困っていることはないか、と。


 もちろん困ってる。イブの悪魔達がこの部屋を目指して壁や床を破壊している。ここでイブに逃げられるわけにはいかない。悪魔達を止めてもらう必要がある。


 でも、大丈夫だろうか。悪魔は天使と同じものだ。ジョゼ達は強いが悪魔達に勝てるかどうか分からない。


「アビス、入って来た悪魔の数は?」


『四体です』


 四体。ジョゼ達は七体。勝てるか?


 ……いや、勝てなくていいんだ。私がイブを倒すまでこの部屋へ来させなければいい。


「ジョゼ、アビスの中心にある部屋へ悪魔と呼ばれる奴らが四体近づいている。ソイツらをこの部屋へ来られないように牽制してくれ」


『フェル様、そのような命令でよろしいのですか? それは我々が望む命令ではありませんが』


「まさか『倒せ』という命令をして欲しいのか?」


 回答はない。だが、なんとなく「その通りです」という意思が伝わってくる。


 やれるのだろうか。戦ったことはないが、悪魔は天使並に強いはず。ジョゼ達も私が知らない間に強くなっている可能性はある。だが、そんな危険な命令をするのか?


 ……そうだな、信じよう。ジョゼ達は私の従魔。悪魔達に負けるわけがない。


「ジョゼ、命令を変更する。悪魔達を倒せ。完膚なきまでに」


『御心のままに』


 そうだ、張り切り過ぎないように釘を刺しておこう。


「ジョゼ、お前達が意識を失くす前にした命令――いや、約束を覚えているか?」


『「体が滅びるその日まで、アビスの中で私を守れ」という命令の事でしょうか?』


「違う、ジョゼ達は私に未来永劫仕えると宣言したはずだ。覚えているか?」


『はい、もちろんそれも覚えております』


「なら分かるな? 死ぬことは許さない。お前達が死んでいいのは私が命令した時だけだ」


 ちょっとディアのチューニ病がうつった気がしないでもないセリフだが、多分、これくらい言った方がいいだろう。もし笑われても、その時はリラックスさせるためだと言えばいい。


『……畏まりました。フェル様の命令以外では死なないと誓います。では、悪魔達を倒せという命令を遂行してまいります。いくぞ、みんな! 狩りの時間だ! フェル様に勝利を捧げろ!』


 念話を通して気合が伝わってくる。でも、勝てなくてもいい。絶対に死ぬなよ。


 念話を終えて、イブの方を見た。


 イブは魔力により、魔素の体を修復させたようだ。だが、魔力が無限に続くわけがない。修復できない程、殴りつけよう。


「誰かに念話をしていたようだけど、もしかして私の悪魔達を倒す様に指示していたの? おかげで体の修復が終わったから別に構わないけど」


「察しがいいな。その通りだ。最強の従魔達を送り込んだ。残念だったな。お前を助ける悪魔達はいない。ここで朽ち果てろ」


「アハハ! 貴方の従魔がどれほど強いかは知らないけど、悪魔達に勝てると思ってるの? 蟻が象に挑むようなものよ?」


 そうかもしれない。昔は私も天使一体にようやく勝てる感じだった。スライムちゃん達の方が数は多いだろうが、あの頃の私並みに強くなったかどうかは分からないからな。そもそもどうやって意識を取り戻したのかも分かってない。


 でも、信じよう。ジョゼ達は私の従魔だ。それにアビスの中にいる限り、百鬼夜行の影響を受けるはず。ジョゼ達もさらに強くなっているはずだ。


「お前の言う事は正しいかもしれない。でも私はアイツらを信じる。お前に助けは来ない。そしてお前はここで死ぬ。未来予知はできないが、そう確信している」


「……そう。ならいいわ。どうせあと数分で分かる。それまで戦っていましょうか? まあ、私は防御に専念するけど」


 悪魔達が来るまで守りを固めるということか。タダのサンドバックのようにも思えるが、やりづらいな。


 でも、迷っている場合じゃない。少しでも早くイブを倒そう。そうすれば、ジョゼ達の負担も軽くなるはずだ。


 転移して左右のパンチを浴びせる。イブは宣言した通り、防御一辺倒だ。致命傷になりそうな攻撃を丁寧にガードしている。


 構わない。攻撃して来ないなら、こちらが休むことなく攻撃するだけだ。


 ジャブ、フック、ボディ、アッパー、ストレート、思いつく攻撃を休む間もなく与え続ける。イブの腕がボロボロになっているが、魔力による修復を続け、致命的な一撃を与えることができない。


 くそ、まだ魔力が切れないのか。


「アハハ! フェル、どしたの? 息が上がっているわよ? もしかして今から攻撃したら倒せるかしら?」


 休むな。ここからが根性の見せ所だ。ジョゼ達が頑張っているのに、私が先にへばる訳にはいかない。


 攻撃を再開しようとした瞬間、部屋が揺れた。


 それに部屋の外側になにかがぶつかった様な音も聞こえた。まさか、悪魔達か?


 イブも同じ考えに至ったようだ。口角を上げて憎たらしいくらいに笑っている。


「アハ! アハハ! アハァハハハァ! 残念ね、時間切れよ! 負けるかもしれないなんて初めての経験だったから面白かったわ。それじゃ、また日を改めてまた戦いましょ? それまでに貴方以外の人達を消していくわ。貴方は最後。全部消すまで待っててね?」


 ジョゼ達は無事なんだろうな? くそ、どうする? このままではまずい。


『フェル様、聞こえますか? 悪魔を放り投げたら壁に当たってしまいました。戦いの邪魔をして申し訳ありません。悪魔達は対処しましたので、安心して戦いを続けてください』


 そんな声が部屋に響いた。ジョゼの声だ。


 悪魔達を対処した? まさかこの短時間で四体の悪魔を倒したのか?


「嘘よ! 何を言っているの! 私の悪魔達がタダの魔物に負けるわけないでしょう! 魔素の体を極限まで強くしている悪魔達を倒せるわけがない!」


 イブが半狂乱の様になっている。


『お前がフェル様の敵か。残念だが私達は強くなるために数百年戦い続けた。意識を失くして本能だけになってもな。そして今はフェル様のスキルでさらに強くなっている。大罪の称号を持つ私達を甘く見たな。この程度の相手なら、あと百体いても勝てる』


 それって私よりも強いんじゃ? というか、私がイブを圧倒できるほど強くなってるのは、ジョゼ達のおかげなのか?


「なにが大罪だ! そんなもの――」


『まあいい。私とおしゃべりをしている暇はないだろう? お前の目の前にいる相手は、私達の主であり、魔族達の王――いや、魔族達の神だ。神に喧嘩を売っているのだから、できるだけ高く買ってもらえ。では、フェル様。また後ほど』


 ジョゼの声は聞こえなくなった。でも、そうか。悪魔達を圧倒できるほどの強さを持っていたんだな。ちょっと怖いくらいだ。


 それに大罪の称号か。そういえば、昔、ウロボロスで聞いたことがある。


「なにが神よ! 神がいるなら、私が神でしょう!? 管理者達の母と言ってもいいこの私が神よ! 私が、私が――」


「そうか、ならイブ、お前は神だ。私が認めてやる」


 イブが私を睨む。


「フェエェルゥゥウゥ! 私を! この私を馬鹿にしているのか! 私はこの世界で最も優れたプログラムなのよ! アダム様の隣にいることが許されるのはこの私だけなのに!」


「馬鹿になんかしていない。ただ、お前が神だと都合がいいだけだ」


「何を……何を言っているの!」


「ウロボロスにいる魔物達の間で言われている話を知っているか? 七つの大罪をすべて背負ったものは神をも超える力を得るそうだ。そしていま、私にはすべての大罪が揃っている。そしてお前は神。どちらが勝つかは明白だろ?」


 ウロボロスに聞いたらそんな仕組みはないと言われた。当然だな。だからこれはただの挑発。でも、それを本当にしてやる。


 百鬼夜行の影響でスライムちゃん達の称号はすべて私に集まった。だが、そんな話よりも、重要なのは、私がみんなのスキルも使えるということだ。殴り倒すだけじゃない。あらゆる手段を使ってイブを倒そう。


「さて、イブ。そろそろ決着を付けよう。お前との悪縁もここまでだ。今日から枕を高くして眠らせてもらう」


「まだ! まだ負けたわけじゃない! お前をここで殺せばいいだけだ!」


 イブが突進してきた。だが、遅い。攻撃を躱しながら、ボディに一撃を食らわせた。


 頭を下げ、体をくの字にして悶絶しているイブへ追撃しよう。顔面を狙って右ストレートを放つ。


 だが、イブが頭を起こした時、その顔はヴァイアだった。


「フェルちゃん……」


 許せ、ヴァイア。お前はもういない。目の前にいるヴァイアは偽物だ。


 目を閉じて、止めることなく右ストレートを打ちぬく。


 なにかが何度もぶつかる音が聞こえた。おそらくイブが水切りのように床を転がっているのだろう。偽物だと思っていても、嫌な感じだ。これは精神にくる。


 目を開けると、イブが立ち上がろうとしていた。


「が、がはっ! し、親友の顔を躊躇なく殴るなんてね……さすがに二度は通じないのかしら? でも、これならどう?」


 イブが立ち上がり、右手を顔に当てると、今度はディアの顔になった。


「もう殴らないでよ、フェルちゃん!」


 転移して、ディアの顔をしたイブのボディにパンチを食らわせた。


「ば、馬鹿な……ど、どうして……?」


「人選ミスだな。ディアなら殴り慣れてる。それにアイツなら躱したぞ? それは真似できないのか?」


「な、ならこれなら――フェル! もうやめてくれ!」


 さっきよりも強くボディに食らわせた。


「リエルならディアよりも殴り慣れてる。治癒魔法が上手かったから手加減もあまりしてなかった」


 とはいえ、イブがみんなの顔をするのが許せない。ここまでだ。


 膝をついて腹を抱えているイブの頭を左手で掴んだ。


「がぁ、あ、は、離せ……!」


「お前の魔力は底なしだからな。まずは極限まで吸わせてもらおう。【暴飲暴食】」


 ジョゼのユニークスキル。対象範囲の魔力を吸い取るスキルだ。これで、イブの魔力を食う。


「が、ああ、あ、あぁぁぁ!」


 イブの体から急速に魔力が抜けていく。リエルの顔が元のイブの顔に戻り、体の修復が遅くなった。どうやら効いているようだ。


 体の修復が止まったのを確認したあと、左手を離した。これでイブの魔力はほとんどないに等しいはず。


「お別れだ、イブ。安心しろ、魔王様は私が支えよう」


「わ、私が、私だけが、ア、アダム様の、お側に……! お前じゃ、お前じゃない!」


 最後の気力を振り絞ったのだろう。イブは立ちあがって私に飛びかかってきた。技も何もない。ただ、飛びかかってきただけ。


 それを転移で躱す。イブの背中側、五メートルほどの離れた場所に。


 振り向きながら右手のグローブと左手の改良した小手に魔力を込めた。左右のグローブと小手が放電を開始する。


 イブは私を見失っていたが、すぐに後ろを向いた。そしてまた飛びかかってくる。


「【ロンギヌス】」


 左足を踏み込み、腰を入れたパンチを放つ。拳は届かないが、その拳撃が空間を伝わった。そしてイブの体を貫く。


 立て続けに左手でもロンギヌスを放った。その拳撃もイブを貫く。さらに右、左とロンギヌスを何度も放つ。


 イブの体が修復されることはない。だが、ボロボロになりながらも、こちらへ向かってくる。もう、手が届く範囲だ。


「わ、私が……この私が……!」


 私を捕まえようとしているのだろうか。イブは両手を伸ばして私を掴もうとしている。


「あの世でみんなに詫びるといい。これで終わりだ。【神殺し】」


 全身全霊で打つ、渾身の右ストレート。グローブと小手に蓄えた魔力を一気に開放して拳に乗せる、まさに神を殺す一撃。


 その攻撃でイブの顔が跡形もなく吹き飛んだ。残ったボロボロの体は力を失い、脱力したように床へ倒れ込む。


 見た目にはもう動いていない。勝ったのだろうか?


「アビス、念のため確認してくれ。イブは死んだか?」


『……はい、間違いありません。この魔素の体は完全に機能を停止しています。それと管理者達もイブの本体を制圧しました。すでにイブの核となるプログラムは消去。二度と復活できないように念入りに削除しています』


「その辺りはよく分からないが、もう、イブはいないと思っていいのか?」


『はい、もうイブの痕跡は全くないです……おめでとうございます、フェル様。イブは完全に消滅しました』


「そう、か」


 体から力が抜けた。そのまま仰向けに倒れ込む。


『お疲れでしょう。後の処理は私に任せてお眠りください』


「なんとなく不安なんだが、本当に大丈夫なんだよな?」


『気持ちは分かりますが、大丈夫ですよ。すぐにベッドを用意しますので』


「いや、もうベッドで寝るのも厳しい。このまま寝る。悪いが、後の事は頼んだぞ」


『そうですか。でしたらそのままお休みください。ベッドには私が運んでおきます。では、おやすみなさいませ……いい夢を』


「ああ、おやすみ」


 このまま意識を手放そう。もう指一本動かせない。


 それにしても、いい夢、か。そうだな、今日はいい夢を見ることができそうだ。


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