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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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最後の言葉

 

 目の前に偽物が座っていると言うのに、なんで私はアンリに関する問題を答えなくてはいけないのだろうか。


 サリィに念話で時間稼ぎだと言われたが、本当にそうなのか? もしかして単に遊んでいるだけなんじゃ?


 サリィを見ると何でもないようにすまし顔だ。


 ウルスラはニコニコしながら私と偽物の方を交互に見ている。


 ウルスラの後ろに控えている男からは何も読み取れない。そもそもこちらを見ていないようだ。


 周囲を見ていたら、ウルスラがパンッと手を叩いた。


「どちらが本物か分かりませんので、お互い交互に答えていきましょう! 本物のフェルさんが先に答えていたら偽物はそれをマネするだけでいいですからね! じゃあ、今回は後から来たフェルさんにお願いします」


 私から答えるのか。


「答える前に一つ言っていいか?」


「はい、いいですよ。なにか質問ですか?」


「そもそも答えを知っていることが前提だと思うんだが、いくら私でもアンリの事を全部知っているわけじゃないぞ?」


「アンリ様の秘宝を知らないということですか?」


「いや、それは知ってる。以前、宝物庫で見せてもらったことがある」


 宝物庫に入れていいのか、と聞いたら「宝物庫は宝を入れる場所。なら間違いない」とか言って大事にしていた。


「なら答えられますよね?」


「いや、知っていても答えられないってことはあると思うぞ。確かジェット大王イカは風呂場で使う物だったような気はするが――あ」


 思い出した。アンリに風呂場で見せてもらったことがある。そしてツッコミをいれた。


「どうやら思い出したようですね! さあ、答えは!?」


 今は代理だけど、次期国王なんだよな? それとも兄や姉がいるのか? こんなノリのいい感じの国王って威厳がないというかなんというか。


「えっとアンリが言っていた言葉だと、タコの様に泳ぐ、だ。イカなのに」


 イカの泳ぎ方とタコの泳ぎ方に違いがあるのかどうかは知らないが、アンリからするとあれはタコの泳ぎ方なのだろう。足がスクリューになってジェット噴射していた。同じ湯船にいたアヒルが弾き飛ばされて大惨事だった気がする。


「なるほど、タコのように泳ぐ、と。ではこちらのフェルさんは?」


「……同じだ。タコのように泳ぐ」


「お二人とも同じ答えですね、なるほど、なるほど……」


 ウルスラは難しい顔をして胸の前で腕を組み、うんうんと頷いている。そして急に笑顔になった。


「お二人とも正解です! そう、ジェット大王イカの泳ぐ姿はまるでタコ。そんな内容がアンリ様の日記に書かれています!」


 アンリの日記? そんなものがあったのか。人の日記を見るのは良くない事だろうが、一度くらい見てみたいものだ。


「ちなみに、ジェット大王イカはあまりの威力に封印されてしまいました……友人を亡くしたとか……悲しい事ですね」


 アヒルのことか。


「では気を取り直して次に行きましょう!」


 本当に時間稼ぎなんだよな? ウルスラが楽しむためにそんな嘘をついたんじゃないのか? ちょっと、いや、かなり不安になってきた。


「では第二問。アンリ様の嫌いな食べ物はなに?」


「おい、ちょっと待て」


「なんでしょう?」


 ウルスラが首を傾げてこちらを見た。


「問題の難易度がおかしくないか? そんなのはトラン国に住んでいる奴なら誰でも知ってる。本物か偽物かなんて関係なく一般常識みたいなものだろう?」


「まあ、サービス問題みたいなものです。たまたま第二問がサービス問題だっただけですよ」


 本当だろうか。なんかこう騙されている気がする。嘘だったら本気で暴れよう。


「さあ、答えをどうぞ!」


「ピーマンだ」


「なるほど、ではこちらのフェルさんは?」


「ピーマン以外ないだろ」


「偶然にも二問目まで答えが一緒ですか。これはどちらが本物か分からなくなってきましたね! なお、正解はピーマンです。おめでとうございます!」


 有名過ぎてそんなのはトラン国民なら誰でも知ってる。大体、トラン国の学校にある教科書に載ってるはずだ。ピーマン戦争というアンリと農民との戦いがトラン国の歴史に残るくらいだからな。アンリが初めて敗北した戦いとしても有名だ。


「さあ、では第三問目です! 徐々に難しくなりますよ!」


 一番最初から飛ばしてたくせに何を言ってるんだ。もうすでに疲れてるんだが。


「アンリ様は王になる前、妖精愚連隊というアイドル活動をしていましたが、それ以外にも所属していたグループがあります。あるだけお答えください!」


 ニャントリオンとゴスロリメイズだよな? バックダンサーとして踊っていた。ウェンディのバックダンサーとしては踊っていなかったはず。


「ニャントリオンとゴスロリメイズ」


「答えは二つの様ですね。では、こちらのフェルさんは?」


「同じ答えだ。ニャントリオンとゴスロリメイズ」


 これはそんなに難しい問題じゃないな。


「驚きましたね、三問目も同じ答えです! そして二人とも正解! これはサービス問題だったかもしれません! それじゃサクサク次の問題に移りますよ!」


 時間稼ぎっていつまでやるんだ? 正直、もう終わって欲しいんだが。


「第四問。先程の問題にも出た八大秘宝。昔は九大秘宝だったというのは有名な話です。抜けた秘宝とは何?」


 これも簡単すぎる。トラン国の歴史に残る様な話だ。第三問も簡単だったが、四問目も簡単だな。


 抜けた秘宝は聖剣フェル・デレ。アンリの秘宝という個人の物ではなくなり、国宝という国の宝になった。だから九大秘宝から八大秘宝に戻ったと聞いている。でも、そもそもあの秘宝は入れ替わりが激しい。九大秘宝の上で殿堂入りだったフェル・デレもいつの間にか秘宝扱いだったし。


 正直、どうでもいい話だが、結構覚えているものだな。


 そういえば、聖剣じゃなくて魔剣にしてくれってアンリに何度も頼んだけどダメだった。もう宝物庫から出さないで欲しいくらいだ。もしくはどこかの怪盗とかが盗んでくれないだろうか。


 偽物が「聖剣フェル・デレ」と答えた。私も同じ答えだ。


「うーん、正解です。なかなか勝負がつきませんね!」


 ……もしかして時間稼ぎのために相手には簡単な問題を出しているのか? とはいえ、私の事はまだ疑っているよな? 最初の質問が一番難しかったから、あの時点で終わっていたかもしれないのだが、どういう基準で問題を出しているんだろう?


「では第五問! 聖剣フェル・デレの対になっている魔剣の名前は何でしょう! ヒントは八大秘宝の一つです!」


 聖剣の対になっている魔剣? なんだそれ?


 ……ああ、八大秘宝で魔剣と言ったらあれしかないな。対になっているとは知らなかった。


「魔剣七難八苦」


「こちらも同じ答えだ」


「お二人とも正解です! 熱い勝負ですね!」


 盛り上がってるのはお前だけだぞ。というか、そろそろ飽きてきた。時間稼ぎはまだ終わらないのか? それとも騙されてる?


 あとどれくらいなのか聞いておくか。いい加減疲れた。


「ウルスラ。これはいつまで続けるんだ? 正直、これで勝負がつくとは思えないのだが」


「問題はあと三十問くらいありますけど?」


「ふざけんな」


 もうやめようと言いだそうとしたら、ウルスラの右後ろにいた宰相っぽい奴が前に出て、ウルスラに耳打ちした。


 ウルスラのニコニコした顔が一瞬だけニヤリと笑った。ほんの一瞬だけでまた普通に戻ったけど凶悪そうな笑みだった。


 もしかして私は騙されているのか? アンリの子孫だから悪い奴じゃないと勝手に思い込んでいる?


 良い悪いは主観でしかない。それでも皆の子孫には私や皆と同じような価値観を持ってほしいと思ってる。もしその価値観が私と違っていて、ウルスラやサリィが悪い奴なら私の手で断罪するべきか……?


「さて、こちらのフェルさんが言うように、このままダラダラと続けても仕方ないので、最後に超難問を出します! これで決めましょう! 最後は答えを真似できないように、筆記にしますよ!」


 最初からそうしろと言いたい……いや時間稼ぎのために長引かせていただけか?


 時間稼ぎは一体何のためだったのだろう。分からないことが多すぎる。


「最後の問題はアンリ様の最後の言葉です! アンリ様は亡くなる前にフェルさんと話をされました。その時に言った最後の言葉を紙に書いてください!」


 アンリの最後の言葉……?


「さあ、どうぞ!」


 目の前に紙とペンが用意された。


 アンリの最後の言葉……もちろん覚えている。だが、その言葉が正しいかは私とアンリしか知らないはずだ。アンリは誰にも言わないだろうし、もちろん私も誰にも言わなかった。


 目の前の偽物はスラスラと書いている。分かるのか? アンリの最後の言葉が? そんなはずないんだけど。


 偽物は紙を半分に折り、ウルスラへ渡した。


 そしてウルスラはニコニコした顔で私の方を見る。


「なにも書かれていないようですが、どうされました?」


「……一つ聞きたい。アンリの最後の言葉、その答えを知っているのか?」


 ウルスラは少しだけ目を大きく開いた。だが、次の瞬間にはさっきまでのニコニコ顔に戻る。


「それはどういう意味でしょうか?」


「言葉通りの意味だ。アンリが最後に言った言葉。それは覚えている。だが、それが他人に伝わることはない。ウルスラが答えを知っているとは思えん」


「……それはなぜ?」


「最後にアンリと話したのは念話だったからだ。念話でやり取りをした会話を誰かに聞かれることはない。そしてアンリはそれを誰にも言っていないはずだ」


「まあ……!」


 ウルスラが大げさに驚いた感じになった。そしてさっきよりも笑顔になる。


「それは素敵な話ですね! つまり、この王城でアンリ様と会話したのが最後ではない、と?」


「その時の最後の言葉なら『フェル姉ちゃん、いままでありがとう』か? そうだな、それが最後の言葉じゃない。その翌日に念話で話した」


「なんだと?」


 いきなり偽物が声を上げた。もしかして、今の言葉を紙に書いたのか?


 ウルスラが偽物から受け取った紙を見る。


「紙にはフェルさんが言った言葉が書かれていますわ……フフ、フフフ……!」


 ウルスラの顔がだんだんと凶悪な笑みを浮かべる。王族がそんな顔をしていいのか?


「面白い。面白過ぎます。両方とも偽物だと思っていたのに、まさか片方は本物とは……!」


 両方とも偽物? やっぱり私も疑っていたのか。


 ウルスラは凶悪な笑みのまま、偽物の方を見た。


「偽物さん。貴方の知識はアンリ様の日記から得たものね? 日記の内容が何らかの魔道具で見られた形跡があったの。だからその内容に沿った問題を出していたのだけど、最後の最後で罠を仕掛けていたのよ」


 罠? 最後の問題の事だろうか。


「あの日記にはフェルさんに言った最後の言葉が書かれている。でも、日記に書かれていない事もあるのよ。それは当時親友だったスザンナさんだけに伝えられていた。フェルさんに念話をしたってね。それがスザンナさんの日記に書かれているのよ。その内容までは書かれていないけど」


 ウルスラがサリィの方を見ると、サリィが頷いた。


 そして偽物は明らかにうろたえている。私にそっくりな顔でそんな風にならないで欲しい。


「フフ、フフフ、貴方が偽物なのは知っていたけれど、なかなか証拠が出なかったから苦労したわ。でも、ようやく貴方の部屋で証拠が見つかったみたい。それにこの問題を間違えたのなら、もう言い逃れはできないわね?」


 ウルスラがそう言うと、食堂に兵士達がなだれ込んできた。


「トラン国で色々やってくれていたみたいね。ならやり返されても文句は言えないはず。さあ、地下牢でお話をさせてもらいましょうか?」


 兵士達が偽物を取り囲もうとした瞬間、偽物がジャケットの内側からナイフを取り出した。そしてウルスラへ飛びかかる。


 止めようと思った瞬間、偽物が吹き飛ばされていた。


 いつの間にかウルスラが聖剣を持って真横に振り切っている。とても凶悪そうな顔で。どうやら切ったわけではなく、剣の腹部分で払った感じだが、その顔だと切り殺したと言っても信じられるぞ。


「私に負けるようではフェルさんの真似はやめた方がいいわよ?」


 吹き飛んで壁に激突した偽物は気を失ったようで、いつの間にか私ではなく見たこともない女性になっていた。なにか変装の魔道具でも使っていたのだろうか。


「連れて行きなさい」


 気絶した偽物を兵士達が連れて行った。最初から叩きのめせば簡単だったと思うのだが、裏付けというか証拠が必要だったのかもしれないな。


 とりあえず、私の容疑は晴れたと思っていいのだろうか?


 でも、ものすごくウルスラが笑ってるから怖いんだけど。


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