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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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空中都市落下跡地

 

 聖都での騒動から三日目。人界最大の湖と言われるレメト湖に着いた。


 湖の周りには町ができている。昔、サーペントがいたのだが、ジョゼ達に負けて人を襲わなくなった。それ以降も湖のヌシっぽいのが代替わりしながら湖の治安を守っているらしい。


 その代わりに新鮮な野菜とか果物をヌシに捧げているとか。水の中に住んでいる奴が、そういうのを食べるとは思わなかった。


「教皇様、本当にここでよろしいのですか? 空中都市落下跡地までお送りしますが?」


 八本足の馬スレイプニルが引く馬車に乗って来たのだが、その従者が私の方を心配そうに見ている。それにしても教皇様、か。勇者様よりはマシだが、本当にちょっとだけマシな程度だ。泣きたい。


「ああ、大丈夫だ。ここからなら徒歩でも行ける。ありがとうな」


 残念ながら空中都市が落ちた場所付近には転移門を登録していない。登録先で一番近いのはメーデイアの町だったが、スレイプニルがいるからと説得されて、聖都から馬車に乗って来た。


 色々と便利な機能付きの馬車だったし、何故かメイドが二人いて色々世話をしてくれたから快適だった。だが、その二人を馬車に乗せて送り返す。快適なのはいいんだけど、色々と世話を焼こうとするのはメノウの再来だ。結構疲れる。


「それじゃ、気を付けて帰れよ」


 そう言って馬車から離れた。町で何か食糧を買って、その後空中都市に行こう。


 アビスの話だと空中都市の入り口は遺跡機関が見つけてくれたようだ。とはいってもアビスの的確な助言があったからこそだが。ただ、崩れた建物やら像やらをどける作業に結構な時間が掛かっていたらしい。見つかったのはつい最近だそうだ。


 町で買い物をした後、空中都市の方へ向かって歩き出した。そして途中まで歩いたところで周囲を見渡す。


 誰も見ていないなら大丈夫だろう。


 亜空間からホウキの魔道具を取り出した。それに魔力を込めると、周囲の重力がなくなる。後は昔ヴァイアが術式に組み込んでくれた自動操縦の仕組みを使って空中都市までいけばいい。


 ホウキの上に立って、大体の場所を指定する。すると馬車くらいの速さでホウキが動き出した。


 これで後は放っておいても着くだろう。多分、二、三時間くらいかな。


 暖かい日差しを浴びながら、優雅に空の旅だ。馬車の旅も良かったけど、一人の方が気楽でいいという気持ちもあるな。


 色々とあったから少し羽を伸ばしたい。しばらく聖都には近づかないようにしよう。正直なところを言うと、聖都からは逃げて来たからな。


 なんだかんだあって、結局私は勇者という事になった。そして教皇になって欲しいと頼まれる。教皇になるのは筋書き通りだけど、私が勇者って何の冗談だ。


 勇者候補のシオンは尊敬の目で見るし、メイド達は誇らしげ、さらには聖母の派閥が私を遣わしたのはリエルだとか言い出した。収拾がつかない程大騒ぎだ。


 その上、不死教団が聖人教に関わっていたのが判明した。かなりの数の団員が牢屋にいれられたと聞いている。その辺りは全部メイドにお任せだが、あっという間に拘束してしまったらしい。


 そしてその次の日、本当に私を教皇として認めるかの判断を全派閥のトップ達で審議した。


 断ってほしかった。でも、全員賛成で決まったらしい。その間、わずか三分。会議が始まり、挙手を依頼し、皆が手を上げて終わりだ。根回ししていた派閥もあったが、根回ししていない奴らはもっと議論しろと言いたい。


 でも、私もやり過ぎたとは思ってる。


 いきなり現れて教皇を断罪し、勇者候補を倒して、さらに聖剣を使った。しかも勇者候補のシオンに勇者とは何たるかを説いた。


 ……勇者だな。まごうことなき勇者だ。魔王なのに。


 それにロモンでは不死教団がかなり嫌われていた。洗脳まがいの勧誘をしてくるし、色々と過激な思想も持っている。それを私があっという間に証拠を突き付けて捉えたから、信者からも私を教皇に推す声が多かったらしい。


 証拠を揃えたのも団員を捕まえたのも、やったのはメイド達なんだけど、そんな事は聞いてもらえなかった。


 そして、それらをアビスに報告したら、あの野郎、笑いやがった。


『私とメイド達で考えた完璧な計画よりもさらに上をいきますか。面白過ぎてこっちは大変です。冷却装置がフル稼働してます』


 色々片付いたらアビスを一回くらい殴ってもいい気がしてきた。よし、殴ろう。


 一日は色々と手続きがあったので時間を取られたが、それ以降は聖人教の人達とメイド達で何とかできるようなので、仕事をぶん投げて逃げてきたわけだ。


 仕方がない事とはいえ、少し疲れた気がする。いつか無人島でリンゴでも育てながら生きたい。そんな生活も悪くない気がする。いまよりはずっとマシなはずだ。そこで魔王様と二人で……うん、悪くない。


 そんな妄想をしていたら、空中都市が見えてきた。


 空中都市……いや、正式名称は空中庭園か。空中庭園は空に浮いていた物だし、中に入った時は転送装置による転移だったから全貌は初めてみた。


 半球体の巨大な物体と言えばいいだろうか。それがちょっとだけ斜めになって地面に突き刺さっている感じだ。女神ウィンが何もない大地に落とす様に計算してくれたのだろう。


 そういえば、あの後、ウィンはどうなったのだろう。私もうろ覚えでしかないが、脱出ポッドで脱出した後、魔王様も同じように脱出したはず。ウィンがその後どうなったのかは知らない。


 ただ、魔王様の小手にウィンのバックアップ、つまり本体のようなものがあるらしい。これがあればウィンを元に戻せるとアビスは言っていたが、そのあたりはよく分からないな。イブが色々と破壊していなければいいのだが。


 ある程度まで近づいたので、ホウキへの魔力供給を止めて、地上に降りる。ここからはアビスのナビゲートに従おう。


『アビス、空中庭園に着いた。どうすればいい?』


『早いですね。それでしたら、誘導しますのでこちらの言う通りに進んでください』


『分かった。よろしく頼む』


 空中庭園の中か。魔王様と最後に会った場所だ。うろ覚えだが、必ず私に会いにくると言ってくださった。


 ミトル曰く「女を待たせるのはいい男じゃねーぞ!」とか言っていた。まあ、私もそう思う。でも、待ちたいんだ。もちろん待っているだけではなくて、魔王様がいらっしゃる場所を探し当てるつもりだけど。


 アビスの指示に従って、空中庭園の庭園部分を歩く。少し斜めになっているからちょっとした登山だな。なんとなく大霊峰を思い出す。


 その後、原型を残している感じの建物の中に入り、転送装置で居住エリアと呼ばれる場所に来た。


 ここは見覚えがある。たしかこの先に、セントラルタワーとかいう物があったはず。


 記憶通り、通路を抜けた先は巨大な空間になっていて、その中央には一本の柱が立っていた。周囲には当時もあった金塊がそこら中に散乱している。


 ……ここで私はイブに負けた。次に負けることは許されない。なんとしても勝たないとな。


『フェル様、セントラルタワーに近づいて貰えますか? ウィンの状況を確認したいので』


『ああ、分かった』


 アビスに言われた通り、柱の近くに移動する。特に何かが壊れている様には見えない。もしかしたら起きているのか?


「おい、ウィン。起きているのか?」


 しばらく待ったが返答はない。やはり眠っているのだろうか。


『ウィンの状況を確認しますので、セントラルタワーから紐を取り出して小手に繋いでください』


 いつものように紐を取り出して小手に繋げた。アビスが何をしているのかは分からないが、おそらくウィンの状況を調べているのだろう。


『……状況が分かりました。ウィンのプログラムはかなり破壊されていますね』


『破壊されている? 見た目は壊れていないようだが?』


『外見に問題は無くても、心に問題がある、と言えばいいでしょうか。フェル様ならそういう状況をご理解できるかと』


 そういうことか。体は大丈夫だけど、精神的なダメージを受けているようなものなのだろう。


『それは治せるのか?』


『そのためのバックアップデータです。さすがは魔王様と言ったところですね。おそらくこうなるかもしれないと予測されていたのでしょう。少々時間はかかりますが、直せますのでしばらくお待ちください』


『分かった。ウィンにはリエルの件とか色々言いたいことがある。あの時は共闘したが、謝罪させるまで死なれたら困るからな』


『そうですね。では、しばらくこれに掛かりきりになるのでお待ちください』


 そう言う事なら食事でもして待っていよう。




 三時間程でアビスの作業は終わったようだ。


『バックアップからデータを復元しました。これで起動すれば問題ありません』


『了解した。この後はいつも通りだな?』


『はい、紐を繋げたまま起動手順通りに対応してください』


 立体モニターを動かして、いつも通りに起動する。起動中の表示とそれを示すパーセンテージが表示された。起動のパーセンテージが増える度に塔が輝いていく。下から上へ徐々に光っていく感じだ。


『貴方はフェル、ね』


『久しぶりだな、ウィン』


 どうやらちゃんと起動できたようだ。そして他の管理者と同じように情報の更新とやらをしているのだろう。ちょっと待つか。


『壊れていた部分の修正と新しい情報の取り込みは終わったわ。色々とあったみたいね』


『なら私の言いたいことも分かるな? イブを倒すのに手を貸せ』


 ウィンは何も言わない。手を貸したくないと言う事だろうか。


『何か答えろ。賛成か拒否か、どっちだ?』


『手を貸したいと思っているわ。でも、私には無理ね』


『まさかとは思うが、お前はイブの味方なのか?』


『そうじゃないわ。私はイブにすべての権限を奪われている。力を貸したくても貸せないの』


 権限を奪われている? 確かイブは権限を自分の物にできるとか聞いた気がするが、一時的なのでは?


『アビス。ウィンの言っていることは本当なのか?』


『……調べました。間違いないようです。ウィンには何かをする権限がありません。なぜこんなことが』


 アビスも驚いているようだ。でも、どうしてそんなことになっているのだろう?


『イブは常に進化している。どうやら権限を奪う技能を開発したらしいの。もちろん創造主のように無条件で使えるわけじゃないけれど、あの場で無防備だった私から権限を奪うぐらいは簡単だったでしょうね』


『つまり、イブはウィンの権限を常時使えると言う事か?』


『そういうことね。あの時、私はまったく抵抗できなかったわ。貴方達も気を付けたほうがいい』


 あの時? それは魔王様と私が逃げた後の事だよな? もしかしてウィンはイブの記憶がある?


『ウィンはイブや魔王様の記憶があるのか?』


『魔王様……創造主の事ね。そう、記憶はあるわ。私は虚空領域だけでなく、色々と情報を残していたから、それらをかき集めて記憶を再構築したの。だから色々覚えている。例えば……』


 ウィンはそこで言葉を止めてしまった。何を覚えているのだろう。


『例えば、なんだ?』


『創造主が乗った脱出ポッドがどこへ飛んだのかも覚えているわ』


 心臓がドクンと大きく動いた。


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