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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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人生

 

 ピラミッドの町ラオザルまで戻ってきた。


 このままロモン国へ向かおうと思ったのだが、アビスが言うにはまだ準備ができていないそうだ。


 それに闘神ントゥが獣人達の暮らしを見たいと言い出した。小さなバッジのようなものを渡されてそれを胸のポケットのところに着けている。これでントゥには映像と音が送られるらしい。


『すまないな。我も獣人達を見て創造主と同じ様に思えるか確認したかったのでな』


『まあ、それくらい構わない』


 それにナギの家族に料理を作ってくれと言ったのを思い出した。もしかしたらナギはヤトの料理の腕前を受け継いでいるかもしれない。ちょっと楽しみになってきた。


 さっそく入り口からラオザルに入ろう。


 当然、入り口では門番に止められた。昨日の犬の獣人と象の獣人だ。


「いつの間に外に出てたワン? 昨日、町で色々あって騒がしいワン。大丈夫だとは思うけど、気を付けるワン」


「ああ、ありがとう」


 顔を隠しているのにバレた。まあ、ちょっと怪しげな感じだから仕方ないだろう。


 町へ入り、市場通りを通る。


 騒がしいのは間違いないが、昨日よりも活気がある様に思える。もしかしたらシシュティ商会が色々やっていたのかもしれない。それが排除されて活気が戻ったのかも。


 冒険者ギルドの前を通りかかった時、扉が開いた。そこにはクロム達がいる。


 クロムは私に気付くと、笑顔で右手を上げてきた。


「よお、フェル。ものの見事にシシュティ商会を潰したな」


「でかい声で言うな。一応、無関係だ」


「わりぃわりぃ。で、どうしたんだ? ギルドに用事か?」


「いや、単に通りかかっただけだ。私がすることはもうない。後はヴィロー商会が上手くやってくれるだろう」


「あー、そっか。俺も礼を言っておかないといけないな」


「礼? ……思い出した。リンゴをやるって言ったな。えっと、五人か。ならリンゴを十個やる。一人に二個ずつだ」


 亜空間からリンゴを取り出してクロム達に渡した。皆、リンゴを受け取って嬉しそうにしている。


「いやいや、そうじゃねぇって。俺がフェルに礼を言うんだよ」


「礼を言われるような事はしてないが?」


「それがそうでもないんだわ。おれがヴィロー商会の関係者だって言ったら納得してくれるか?」


 ヴィロー商会の関係者?


「どんな関係なんだ?」


「一応ヴィロー商会を受け継げる程度の肩書は持ってるぜ? まあ、今は親父が頑張ってるけどな。なんか知らねぇけど、すげぇ支援者ができたみたいだな」


「ならローシャの子孫という事か」


 懐かしいな。ローシャは会うたびに「なんか売りなさいよ」と言ってた。そしてラスナが笑って登場するまでがセットだ。冒険者ギルドに売れない物はほとんど売ってやったのに。


 支援者というのは私のことだろう。これから頑張ってお金を増やしていけばいいと思う。


「ローシャ様か。ヴィロー商会を人界一の商会にまでしたご先祖様だな……でも、なんで知ってんだ? かなり昔の話だぞ?」


 私の名前に反応してなかったし、それは聞いていないのだろう。なら不老不死の事は言わなくていいか。でも、ソドゴラにいた店主が知ってるのに商会を受け継げる奴が知らないのは、もしかして継がせる気がないのだろうか。まあ、その辺はどうでもいいけど。


「昔の魔族が世話になったらしいからな」


「そうなのか? それは面白い縁だな。俺もじいちゃんや親父から魔族はいい奴だって話は聞いてるからさ。アンタの事もすぐに信じたぜ? あの獣人の子も助けてたしな」


 ローシャやラスナがそれを伝えておいてくれたんだろう。色々あったが、それなりの関係を結べたのは喜ばしい事だ。


「親父からの連絡でこの町にいろって言われたのはこの事だったんだな。俺達が避難誘導したりしてたからピラミッドを管理する権利はヴィロー商会で決まりそうだ」


「そうか、それは良かったな」


「ああ、これからまたピラミッドで魔物達が暴走を起こさないか確認するつもりだ」


「安心しろ。もうそんなことは起きない。だが、周囲の奴らを安心させるためにも中へ入った方がいい……そうそう、ピラミッドの壁を壊したりするなよ。呪われるぞ」


「マジかよ。確かにピラミッドって王の墓だけど、そんなことで呪われんのか。親父や冒険者ギルドに伝えておくよ」


 呪われると言うか恨まれるというか。まあ、魔物を倒す以外はしない方がいい。下手すると、また暴走が起きる。


「それじゃ俺達は行くぜ。何か用があったら冒険者ギルドの受付に伝言を頼んでおいてくれよ」


「ああ、分かった。それじゃ気を付けてな」


 クロム達は手を振りながらピラミッドの方へ向かって行った。


『あれは人族か?』


『ントゥ? 何か気になるのか?』


『いや、人族が魔族や獣人達と何の隔たりもなく会話しているのが新鮮に映っただけだ。それとここは市場なのか? 獣人達に活気があるというか、これほど楽し気にしているのを初めて見た……いや、獣人達をしっかり見たのはそもそも初めてかもしれないが』


 クロム達はピラミッドへ向かう途中、多くの屋台で話しかけたり、話しかけられたりしながら歩いている。以前、獣人が人族に虐げられていたなんて信じられないような光景とも言えるか。


『お前、本当に数字だけ見て、何も見てなかったんだな』


『……そうだな。我は何も見ていなかったのだろう。これが生きているということか。この一人一人にそれぞれの人生があるのだろう。獣人ではなく人族のことであったが、我はそれを考えもなく奪おうとしていたのだな』


 管理者って皆こうなのだろうか。でも、女神ウィンなんかは人になりたいような感じだったし、それぞれに個性があるんだろうな。


 ントゥがイブを倒した後にどうしていくのかは分からないが、色々勉強すればいいと思う。頭の回転は速いのだからすぐに理解できるだろう。


 でも、それはイブを倒した後の話だな。今はナギのところへ行こう。


 ナギが絡まれていた屋台からの道順しか分からないので、まずは昨日の屋台へ移動する。そこからテントへ向かえば迷子になることもないだろう。


 その屋台に近づくと、ナギがいるのが見えた。あの漆黒の奴らもいるようだ。また絡まれているのだろうか。


「だから言ってるニャ! 私もヤト様の血を引いているニャ! 漆黒に入れるニャ!」


「い、いや、例えそうだとしても、お前の実力じゃ漆黒に入るのは無理ニャ。諦めて屋台をやるべきだニャ」


「そうだパオ。大体ナギは何ができるパオ?」


 絡まれていると言うよりは、ナギが駄々をこねている様にも見える。一応助けに入るか?


「ナギ、どうした? 揉め事か?」


「フェル様ニャ! コイツ等に私がヤト様の血を引いているって言って欲しいニャ!」


「ア、アンタは……」


 どうやら漆黒の奴らは私の事を覚えているようだな。まあ、五人ともふっ飛ばしたし当然だろう。


「また漆黒の名を使って悪さをしているのか? その名を名乗るには実力が足りないと言っただろう?」


 その言葉に漆黒にいる黒猫の獣人が首を横に振った。


「ち、違うニャ! 悪さなんてしてないニャ! 今日はナギに謝りに来たニャ!」


 事情を聞くと、漆黒の奴らはナギに謝りに来たが、ナギが漆黒に入れたら許すと言い出したらしい。だが、ナギに戦闘力は皆無。断っているのだが聞いてくれないそうだ。


「ええと、ナギは何で漆黒のメンバーになりたいんだ?」


「それはもちろん、ヤト様の二つ名がついた集団だからニャ。獣人なら誰もが憧れるニャ」


「だから憧れだけじゃ入れないって言ってるコン」


 これは漆黒の奴らが言っている事が正しいな。漆黒が普段何をしているのかは知らないが、ピラミッドに入って探索しているのだろう。ドゥアトの事だから獣人に重傷を負わせるような事はしないだろうが、ピラミッド外の荒事だってあるはずだ。


 ここは何とかしてナギに諦めてもらおう。結局ナギはヤトに憧れているだけだ。その辺りをつつけば多分大丈夫。


 分が悪いと思ったのだろうか。ナギが上目遣いでこちらを見ている。


「フェル様はどう思うニャ?」


「まず、様を付けるな。ただのフェルでいい。そうだな、ヤトの事をどう思ってる?」


「それは強く格好いい黒猫の戦士って感じニャ! 返り血を浴びないことで付いた名が漆黒! 最高ニャ!」


 まあ、それが一番分かりやすいのだろうな。


「それだけか?」


「ニャ? それ以外にあるのかニャ?」


 伝わっていないのだろうか。結構有名な話だと思うんだけど。


「ヤトが天才料理人だったのは知らないのか? それにアイドル活動もしていたんだぞ?」


「ニャ!?」


 本当に知らないのか。漆黒の奴らも驚いている。つがいを見つけてからはアイドル業もしなくなったし、知らなくてもおかしくはないのだが、料理の方は知っているかと思ってた。


「知らないようだな。ヤトは料理の腕が良かったぞ。最初は料理をしない奴だったが、住み込みで修行して天才と言われるほどになったんだ。それとニャントリオンというグループ名でアイドルのセンターをやってた」


 ナギと漆黒の奴ら以外もザワザワしだした。あれ? 本当に知らないのか?


「ニャ、ニャントリオンというのは、人族の服飾ブランドの名前じゃないかニャ?」


「その通りだ。ヤトはあそこの専属モデルだったし、そもそもニャントリオンの創始者がアイドルとしてのニャントリオンをプロデュースしていた」


「ニャンダホー!」


 ナギが両手を上げて奇声を上げた。目立つ。


「フェル様……フェルさんの言いたいことは分かったニャ……アイドルとなって皆を虜にしろと言っているニャ!」


 言ってない。でも、そっちの方がまだ安全だろう。戦闘力が皆無じゃ、漆黒のメンバーになっても危険なだけだからな。


 小躍りしているナギは放っておいて、漆黒のメンバーの方を見た。


「さて、お前達。もしこれからも漆黒を名乗るのであれば、ただ強いだけでなく、弱い者を助けるような強さを持て。お前達の評判が悪くなれば、ヤトの評判も悪くなると考えろ」


「も、申し訳ないニャ。これからはそんなことがない様に気を付けるニャ」

「もちろんだガオ」

「分かったコン」

「もう権力に屈しないパオ」

「これからはヤト様の名前を汚さないようにする……ピョン」


 五人そろって頭を下げてきた。一部、語尾に照れがある感じの奴がいるようだがそれはいい。ちゃんと心を入れ替えるみたいだし、これからは大丈夫だろう。


「今日はもう店じまいだニャ! さっそくアイドル活動を始めるニャ」


「まあ、頑張ってくれ。邪魔する奴は私に言えば何とかしてやるから。ところで、その屋台で出しているのは食べ物だよな? 売ってくれないか。すごくいい匂いがする」


「フェルさんになら助けてもらった恩もあるし、タダであげるニャ。これはうちに伝わる秘伝の卵料理ニャ。その名もふんわりタマゴロールインハムカツ」


 美味しそうだ。いただこう。


 ……美味すぎる。何だこれ。いや、確かヤトが一度作ってくれたか? おかわり自由だからと言ってたのに、たくさん食べたら怒られた記憶がある。


「ナギ、これはお前が作ったのか?」


「そうニャ。でも明日からは作らないニャ。アイドルを目指すからニャ!」


「いや、ナギはアイドルじゃなくて料理人になれ。ナギには料理の才能の方がある。私の鑑定スキルもそう言ってる」


「……私がアイドルになるのを邪魔しているのはフェルさんなんだけど、フェルさんが何とかしてくれるのかニャ?」


『人にはその人のやりたい人生があると思うぞ。それを変えようとするのは良くない事なのでは?』


 ナギやントゥに何と言われようとも、これが食べられなくなるのは良くない。今日はもうどこにもいかないし、ナギの説得に力を注ごう。


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