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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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漆黒

 

 ドラゴニュートの集落で宴をした翌日、ウゲン共和国の砂漠へやって来た。


 転移先として登録した場所はピラミッドから少し離れた場所だ。


 ドゥアトがピラミッドの中に直接転移されるのは抵抗があると言っていたので、仕方なく場所を移した。アビスの場合は直接転移していいのだけど、何か違いがあるのだろうか。


 日差しもそれほど強くないし、ゆっくりピラミッドの方へ歩こう。


 歩きながら、ドラゴニュート達の事を思い出す。


 お土産としてドラゴニュート達から干し肉を貰った。贅沢にドラゴンの肉を使った干し肉だ。昨日のドラゴンステーキを思い出すと自然と頬が緩む。


 昨日の宴は良かった。ドラゴンステーキはただ焼いただけで美味しいし、何と言っても私が龍神として崇められることがないのが素晴らしい。


 ドスの奴が色々と歓待を受けていたが、私はドスの戦友ということで普通の対応だった。あれくらいでちょうどいい感じだ。


 それにしてもドスの奴、ヨルシャに結婚を迫られてタジタジだったな。あれを見たら私が男として伝わっていることくらい許せる。


 それに他にもいいことがあった。ドラゴニュートとソドゴラの商売が再開される。


 百年ほど前にソドゴラとの商売は廃れてしまっていたようだが、それが復活する訳だな。


 本当にシシュティ商会はろくな事をしない。余りにも不平等な取引になったのでやめたと言う話がドラゴニュート達に伝わっているそうだ。ヴィロー商会が取り仕切ることになるので大丈夫と説明したらあっさり決まった。


 ヴィロー商会にも連絡は入れておいた。店長が驚きで絶句してたけど、昔もやってたんだから驚くような事でもないと思う。


 妖精王国でドラゴンステーキとかドラゴンエッグを取り扱うようになったら、今まで以上に料理が期待できるな。ものすごく値段が高そうだけど、今の私なら余裕で払えるはずだ。いろいろとやることが終わったらまた宴会したい。


 そんなことを考えながら歩いていると、ピラミッドが見えてきた。ここまでくれば普通の転移で移動できるのだが、どうしたものか。


 近くにはシシュティ商会の奴らがいそうだし、あまり目立ちたくない。とはいえ、砂漠のど真ん中で立っている方が目立つような気もする……やっぱりここはとっとと転移してしまおう。


 ピラミッドの入り口は南側にある。転移先として登録したのは北側の砂漠だ。何もないし、誰も来ないからという理由で登録したのだが、今回はそれが役に立った。確かに北側には誰もいない。誰にもバレずにピラミッド周辺の町に入れそうだ。


 ピラミッドの入り口付近にヴィロー商会が町を作った。最初はスザンナにお願いして小さなオアシスを用意していたが、その後、ヴァイアの魔道具で水を作り出す様にしているはずだ。ピラミッドで見つかる出土品をヴィロー商会が高く買ったりしていたから、冒険者達が集まって来てそれなりに栄えた。


 皆や獣人達が頑張って作った町をシシュティ商会に奪われているかと思うとかなりイラッとする。


 歩いてやって来た旅人のように見せるため、頭もすっぽりと入るフード付きの日よけマントを持ってきている。ジャケットやベストは亜空間に入れて、マントですっぽり体を隠す。どこからどう見ても旅人だ。


 ピラミッドの北側から南側にぐるっと回って町に近づいた。町は柵で覆われているだけなので、転移で入れるけど、視線が多すぎる。普通に入り口から入ろう。


 犬と……象かな? 町の入り口で二人の獣人が門番をしているようだ。


「町に入りたいのだが」


 私がそう言うと、犬の獣人が首を傾げた。


「どこから来たんだワン? 北から来たのかワン?」


「えっと、アーカムというオアシスから来た。ちょっとピラミッドがどれくらいの大きさなのか見たくて、着いてからピラミッドを一周してきたんだ」


「不思議だけど分かったワン。ラオザルの町へようこそワン。この町が初めてなら注意事項があるけど聞くかワン?」


 注意事項? 昔はそんなものなかったけど、一体なんのことだろう。


「聞かせてくれ」


「分かったワン。あまり大きな声では言えないけど、ここではシシュティ商会に逆らわない方がいいワン。獣人の精鋭部隊をけしかけられるので注意した方がいいワン」


「獣人の精鋭部隊? それはなんだ?」


「シシュティ商会から魔族が離反した話は知っているかワン? その代わりにシシュティ商会が雇ったのが、獣人の精鋭部隊『漆黒』だワン」


 漆黒? それはヤトの二つ名だ。その名前を持つ部隊がシシュティ商会に雇われているだと?


「臭いで分かるけど、アンタは獣人じゃないワン。だから教えるワン。『漆黒』の名は獣人なら誰でも知ってる英雄の事を指すワン。その強さにあやかった部隊ということだワン。憧れるワン……」


 なんだか犬の獣人はうっとりとした感じの顔をしている。憧れるのはいいんだけど、そんな部隊がシシュティに従っているのはいいのか?


 しかし、ヤトの二つ名を持つ部隊か。獣人達はシシュティ商会に従ったりしないと思っていたんだが、魔族と同じように金銭的な問題で従っているのかもしれないな。


 とりあえず話は分かった。獣人達がシシュティ商会に従っているにせよ、商会を潰すわけだから別に問題はない。


「勉強になった。シシュティ商会には逆らわないようにしよう」


「それがいいワン」


 犬の獣人は入り口から退いてくれて、中へ入る様に促してくれた。


 町と言っても広いだけで、建物とかはほとんどなく、大体がテントだ。冒険者ギルドや商人ギルドの建物なら石造りなんだけど、テントだって悪くないと思う。


 それはともかく、まずはアビスに連絡するか。ここで何をすればいいか聞いていないから、確認しないと。


『アビス。ピラミッドまで来たんだがどうすればいい?』


『それでしたら、ピラミッドに入ってドゥアトと接触してください。連絡は入れておきましたので、入ればすぐに念話が届くと思います』


『分かった。ならすぐに移動しよう』


 ピラミッドに入れば、後はドゥアトから連絡してくれるようだ。時間をかける必要もないし、早速向かおう。


 ピラミッドの入り口まではここから一直線だ。ここは市場通りとか言われていたかな。道の両サイドに露店がずらりと並んでいる。道と言っても砂漠というか砂だらけだが。


 市場通りを歩くと、いい匂いがした。ドラゴニュートのところで朝食は食べたけど、まだまだ食べられる。でも、今はやめておくか。問題が解決してから食べよう。でも、いい匂いだ。


「や、止めるニャ!」


 なにかの瓶が割れるような音と同時に、嫌がる女性の声が聞こえた。声がした方を見ると、一つの露店に人族と獣人が集まっていて、女性の獣人を囲んでいるようだ。


 囲まれている女性は、黒猫の獣人、か? 年は若そうだ。十五、六だろう。


「誰に断ってここで商売してんだ、あぁ?」


「き、昨日、シシュティ商会の人にお金を払って許可を貰ったニャ!」


「俺もシシュティ商会の従業員だが、そんな話は聞いてねぇな! 嘘つくんじゃねぇよ!」


「嘘なんかついてないニャ!」


「なら、俺が嘘ついてるって言うのか!」


 なんかこう、定番の絡まれ方をしているな。


 ……可哀想だとは思うが、こんなことに首を突っ込んでいる場合ではない。目立つわけにはいかないし、早めにピラミッドへ行こう。


 そう思って歩き出した。


 だが、運悪く、本当に運悪く、怒鳴っていた男にぶつかってしまったようだ。ああ、なんて運が悪いんだろう。


「なんだ……? テメェ、俺にぶつかったのか!? どこ見て歩いてやがんだ!」


「お前こそどこを見ている。私が歩く道を邪魔してるんだぞ?」


 男は一瞬、不思議そうな顔をした。私が何を言っているのか理解できなかったのだろう。時間をおいてから理解したようだ。顔が赤くなったが、徐々にニヤついた顔になった。


「俺がシシュティ商会の人族だと知らねぇのか? 謝るなら今の内だぜ? 土下座くらいで勘弁してやるよ」


「ああ、あの落ち目の商会か。可哀想に、あんなところに雇われているのか。あと一ヶ月も持つか怪しいと聞いてるぞ? 次の就職先は大丈夫か?」


「シシュティ商会が潰れるわけねぇだろうが! 一体、どこの誰がそんな事を言ってやがる!」


「筆頭は私だ。実現させるために色々してる。ここで暴れるのもその一環だ。理解したな? じゃあ、眠ってろ」


 軽く殴った。人族の男は弧を描いてそれなりに吹っ飛ぶ。地面が砂だからあれくらい吹っ飛んでも大丈夫だろう。


「お、お前! な、なんてことをしてるニャ!」


 男の猫の獣人が剣を抜きながら叫んだ。コイツも黒猫の獣人か?


「お前の方こそ何をしている? お前の同胞が理不尽な恫喝をされているのに、お前は相手側に立って何をしているんだ?」


「俺達『漆黒』はシシュティ商会に雇われている! 雇い主に従うのは当然だろう!」


 漆黒。漆黒ね。


「お前達は二度と『漆黒』を名乗るな。それはヤトの二つ名だ。アイツがお前らのような事をするとでも思っているのか? それはヤトに対する侮辱だと知れ」


 シシュティ商会の男にやったように軽く殴った。漆黒と思われる精鋭部隊の奴ら五人も弧を描いて吹っ飛ぶ。


「『漆黒』を名乗るには実力がまるで足りないな。アイツは私を雑魚と言えるほど強かったぞ?」


 周囲から「魔族だ」という声が聞こえた。


 どうやら殴った時の動作で頭にかぶっていたフードがはだけてしまったようだ。


 魔族がいるのが珍しいと言う訳じゃないと思うが、予想以上に騒ぎになっている。ちょっと困ったな。後悔はしてないけど。


「も、燃えるような赤い髪の魔族ニャ……!」


 絡まれていた黒猫の獣人が私の方を見てそんなことを呟いた。


「も、もしかしてフェルって名前ですかニャ?」


「私を知っているのか?」


「や、やっぱりニャ! うちに代々伝わっている名前ニャ! こっち、こっちに来てほしいニャ!」


 もしかしてヤトの子孫とか関係者だろうか。ちょっと騒ぎになり過ぎたし、この場から離れるためにもついていくか。


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