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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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真の龍神

 

 ベッドの上で目を覚ました。


 ここは工場と呼ばれる施設で龍神ドスのいる場所だ。


 うん、意識ははっきりしている。それに良く寝たせいか、随分と調子がいい感じだ。


 龍神ドスやアビスに話を聞くと、十八時間くらい眠っていたらしい。今は偽イブを倒した翌日の朝だ。


 残念ながらここには食糧が無いので、状態保存を掛けたリンゴを食べる。美味い。


「ドス、色々と世話になったな。偽物とは言え、イブと戦えたのはいい経験になった。自分は強いと思っていたのだが、まだまだという事も分かったし、もっと試行錯誤が必要なのも分かった。イブと戦う日まで色々やっておくつもりだ」


 死亡遊戯という私のユニークスキル。周囲にバッドステータスを振りまく凶悪なスキルだが、壁に遮られるとダメだという事が分かった。


 イブとは「何もない部屋」で戦うことになる。遮るものはなにもないだろう。問題はイブが壁を作り出すような事をした場合だ。イブならそれくらいできそうだからアビスに対策をしてもらわないと。


 それと死亡遊戯は相手の構造を理解している方が効果的だ。以前魔王様からそんなことを聞いた。医学に詳しいと治癒魔法の効果が良くなるのと同じ原理だろう。魔素の体をちゃんと理解できるように三百年前も勉強したが、今日からまた勉強しないとな。


『うむ。頑張ってくれ。だが、フェル、お前はすでにかなり強い。あれをわずか三日で倒せるとは思わなかった。だが、イブはもっと手ごわいだろう。戦闘力以外の対策も考えたほうがいい』


「戦闘力以外?」


『武器でも防具でも、魔道具でもいい。今回は純粋に戦闘能力だけで勝ったようだが、それは魔族としての矜持か? 人族ならもっと色々な戦い方をするだろう。それを真似したらどうだ?』


 色々な戦い方か。いまもイブを倒すために色々と対策しているが、それはあくまでもイブの本体を倒すための対策みたいなものだ。人型のイブを倒すための準備が必要だということだな。


 とはいえ、武器はいま使っている物がある。使い慣れた物が一番いいだろう。下手に変えると逆に弱くなってしまう。


 防具に関しては、ディアに仕立ててもらった服がある。状態保存の魔法をかけてあるからよほどの衝撃を受けないと壊れないし、シャツやズボンの上や下に何かを身に付けると恰好が変になる。それに動きを阻害される可能性の方が高い。


 となると、何かの魔道具が一番いいかな。いまは思いつかないけど。


「わかった。考えておく。イブに対して卑怯とかズルいとかいう考えはないからな。やれることは何でもやっておこう」


『そうした方がいい。私の方もアビスから言われた魔素の変更を行っておく。と言ってもやるのはイブと戦う直前だがな』


 そういえば、アビスがそんなことを言っていたな。具体的にはどうするのだろう?


「何をするんだ?」


『イブが魔素を使う場合の許可承諾を複雑にするだけだ。さすがに同じ管理者であるイブに許可を出さないという事はできない。だが、ほんのわずかな時間差を作るだけでもイブとの戦いには効果があるだろう』


「そうか、地味だが助かる。ちなみに噴火するか?」


 魔素のバージョンアップを行う時は噴火することになっているはず。必要ならエルリガにいるレヴィアに連絡を入れておかないと。


『いや、これは魔素その物を変えることじゃない。イブからのアクセスとそのプロセスを複雑化させるだけだから、噴火は不要だ。いまの魔素で十分対応できる』


 それならエルリガへの連絡も必要ないな。


 よし、ここでやることは終わった。次の場所へ行こう。


「アビス、この後はどうする? 残りは闘神、女神、機神の三柱だろう? どこから行くのがいい?」


『闘神ントゥのところへ行きましょう。少々お願いしたいことができましたので』


「お願い? どんなお願いだ?」


『はい、ウゲン共和国にあるピラミッドを覚えておいでですか?』


 ピラミッド? ダンジョンコアのドゥアトがいるところだな。墓の中なのにあそこで寝たことがある。それに魔王様に告白して振られた場所だ。忘れるわけがない。


「もちろん覚えてる。それが?」


『いま、あそこはシシュティ商会が管理しています。そこで魔物暴走を起こさせますので、ご協力ください』


 魔物暴走という事は、そろそろシシュティ商会にダメージを与えると言う事だな。なるほど、それなら協力しないと。


「なら次はウゲン共和国だな。すぐに転移門を開こう」


『お待ちください。それは明日で構いません。フェル様もまだお疲れでしょう。今日は英気を養ってください。どうやらドラゴニュート達の方でフェル様の帰りを待っているようです。そちらに顔を出した方がいいでしょう』


「……あそこにいる方が疲れるんだけど。ソドゴラに帰ったらダメか? 転移門ですぐに帰れるのだが」


『ソドゴラではシシュティ商会と不死教団がフェル様を探しているようですので、いまは帰らない方がいいでしょう。それに魔族がシシュティ商会や不死教団を潰そうとしているという話が口コミで広がっていまして、ソドゴラが以前よりも活気づいています。フェル様が帰られるのはもう少し後の方が効果的ですね。そうそう、いまソドゴラではシシュティ商会が眠れる悪魔を怒らせた、と言われてますよ』


「その悪魔って私か?」


 悪魔って想像上の酷い奴だぞ。そんなのと同じに扱われたら困る。


『いえ、どちらかというと魔族という種族を指して悪魔と言っているようです。実際にシシュティ商会へ被害を出したわけじゃないのですが、魔族が色々と力を見せつけたようで』


 どんな力を見せたんだ。


 あまりやり過ぎると、また人族との関係がおかしくなってしまうんだけど。でも、いまの魔族に対する評価ならそれくらいいいのか? 敵対さえしなければ温厚であるというイメージに戻ってくれればいいんだけど。


『そんなわけでして、今日はドラゴニュート達と一緒にお過ごしください。明日にはピラミッドの方も準備を整えておきますので』


「仕方ないな。アビスには色々やって貰っているし、今日はこっちに滞在する」


 それによく考えたら、龍神はもう目を覚ました。ドラゴニュートのところでそれを証明すれば何の問題もない。


「ドス、頼みがあるのだが」


『私に頼み? なんだ?』




 工場から外に出て、龍神の祠に戻って来た。祠にあるデカい魔石は回収する。あとでヴィロー商会に渡そう。多分、お金になるはず。


 工場へ行く道へ鍵をかけて、岩のカモフラージュを元に戻す。これで良し。さっそくドラゴニュートの集落へ戻ろう。


 一時間ほどかけて集落へ戻ってきた。転移門を開いても良かったけど、また変なタイミングで現れると大変な事になるから徒歩だ。


 私を見つけたドラゴニュート達がその場でひれ伏した。でも、チラチラとこちらの方を見ている。まあ、それは仕方ないだろうな。


「いま戻った。悪いが族長と巫女を呼んできてもらえないか? 話しておきたいことがある」


 ドラゴニュートの一人が頷いてから、集落の方へ走って行った。そして残った奴らにも立つように言う。私にひれ伏すのもこれで最後だ。


 すぐに族長のトナ、そして巫女のヨルシャがやってきた。他にも多くのドラゴニュートが集まっている。


「ああ、龍神様! お戻りになったのですね! 四日も戻らなかったので心配しておりました!」


 族長のトナがそう言ってひれ伏そうとしたので、慌てて止めた。


「待て。私にひれ伏すな」


「それはどういう――」


「姉さん、待って。龍神様、その、お隣にいる方は?」


 私の隣にいる奴、それは偽イブを作ったのと同じやり方で作った龍神だ。龍神ドスが操っているのだから本物の龍神。のっぺらぼうではなくちゃんと顔もある。どうやらドスの創造主に似せて作ったらしい。


 ここはまず私が紹介するべきだろう。


「聞け、ドラゴニュート達よ。眠っていた真の龍神が目を覚ました。私はそれを手助けしたに過ぎない。真に崇めるべきはこの龍神ドスのみだ」


「りゅ、龍神、ドス、だ。いままでご苦労だった、な」


 固い。固すぎる。それくらい神なんだから演技しろ。ずっと前はやってたんだろうが。


 そして案の定、ドラゴニュート達は騒ぎ始めた。いきなり龍神だと言っても信じないよな。


 でも、ヨルシャが一歩前に出ると、ドラゴニュート達の騒ぎが収まった。


「眠っていたと言う事は、闇落ちした龍神様という事でしょうか?」


「や、闇落ち……? う、うむ、そうだ。その際にもフェルには迷惑を掛けた。話が伝わっていないようだが、フェルは魔神であり、私の戦友なのだ。前回も、そして今回もフェルに助けてもらった」


 戦友か。そうだな、イブを倒すために一緒に戦う戦友。そういえば、魔王様も創造主達を戦友と言っていた。魔王様と創造主がどんな戦友だったのかは想像するしかないが、いい関係だったのだと思う。私とドスもそんな関係になれるのだろうか。


「し、しかし、貴方はただの人族のように思えます! 貴方が龍神様というなら証明を!」


 ヨルシャは巫女だからな。なにか証がないと信じられないのだろう。でも、それも考えてある。


「分かった。私の真の姿を見せよう」


 人型だったドスが光を放ち始めると、徐々に姿を変えて、金色に輝く巨大なドラゴンになった。後ろ足で立つタイプのドラゴンで、前足は短い。そして大きく翼を広げ、咆哮を上げた。結構ノリノリだ。


『これが龍神である私の真の姿だ。ひれ伏すが良い』


 口で発する言葉ではなく、念話でここにいる全員の頭に直接語りかけたのだろう。いい演出だ。


 トナとヨルシャが「ははー」と言ってひれ伏した。そしてそれに続く様にドラゴニュート達もひれ伏す。


『ドラゴニュート達よ、今までの貢献、大義であった。こうして私が眠りから覚めることができたのは、フェルと、そしてお主達のおかげだ。礼を言おう』


 ヨルシャが一層頭を下げるようにする。地面に顔がめり込むぞ。


「なんと勿体なきお言葉! 未来永劫、その言葉を受け継ぎます!」


 未来では変わっていそうな気がするけど、まあ、私が気にすることじゃないかな。


『さて、面を上げよ。真の姿をさらしていない時にひれ伏す必要はない』


 ドスはまた輝くと人の姿に戻った。ドラゴニュート達は地面から立ち上がり、尊敬の目でドスを見ている。


「お前達に願いがある。今日は私が眠りから覚めためでたい日だ。宴を催してもらいたい。私と、私の戦友であるフェルのためにな」


「はい! お任せください! 実は別件で宴の準備をしておりました! 秘蔵の肉を使って過去最大の宴を催して見せます! さあ、皆! 龍神様は宴をご所望だ! 早速準備に取り掛かるのだ!」


 トナはやる気だ。私としても秘蔵の肉というのに期待せざるを得ない。でも別件での宴ってなんだ?


 私の疑問に答えることなく、ドラゴニュート達は興奮気味に村の方へ戻って行った。一応、トナとヨルシャがいるから聞いてみるか。


『おい、フェル、これで良かったのか?』


 聞こうとする前に、ドスからの念話がきた。近くにトナやヨルシャがいるからだろう。


『最高の結果だ。これで私の事を龍神という奴はいないだろう。これからはちゃんと龍神ドスとしてドラゴニュート達を導いていけよ。それと楽園計画は中止にしろ。もう破たんしているとは思うけどな』


『それを言われると辛いが、その通りだろう……分かった。これからはこの姿で工場の入り口に住み、皆と共に生きよう。そうすれば私もいつか、何かを理解できるかもしれない』


 何かを理解するってなんだ? ……まあいいか。何かを理解したいけど、それがなんなのか分からないってことなんだろう。良くある。


 さて、私はこれから宴の料理を食べるだけだ。今日はもうゆっくりしよう。


 そう思っていたら、トナとヨルシャが近づいてきた。そしてトナが口を開く。


「あの、魔神フェル様」


「トナ、私の事はただのフェルでいい。様や魔神なんて付けなくていいから」


 なぜか仲間になった管理者達も私の事を様付する時がある。そんなことしなくていいのに。メイドギルドは諦めた。あそこには言うだけ無駄だ。でも、それに慣れてきてしまった自分が怖い。


「龍神様の戦友を呼び捨てる訳には……せめてフェル様と呼ばせてください。そして、フェル様は本当に龍神様ではなかったのですね」


「ようやく理解してくれたか。その通りだ」


「はい、そのことで一つ謝らなくてはいけないことが……」


 謝らなくてはいけない事? 一体何だろう?


「えっと、何を謝るんだ?」


「はい、龍神様が祭壇に姿を現した時には巫女が龍神様に嫁ぐ約束でしたが、フェル様が龍神様でないと分かった以上、約束は――」


 なんだ、その約束って? 初耳なんだけど。もしかして別件の宴って結婚式みたいなものか? それを用意していた? でも、なんで女性のヨルシャが私に嫁ぐことになる?


「なんでヨルシャが私に嫁ぐんだ? そもそも私は女だぞ?」


「ええ? 龍神様、つまりフェル様は男性だと伝わっているのですが……? とにかくフェル様は龍神様じゃないので、約束は無かったことに……申し訳ありません」


「約束の反故はどうでもいいが、私が男性だと伝わっている事に謝れ」


 トナとヨルシャが申し訳なさそうにしている。そして隣にいるドスは大笑いしていた。この怒りはどこにぶつければいいのだろう。


 まあいい、今日はここにあるすべての食糧を食い尽くしてやる。ドラゴニュートが滅んでもいい。そんな気持ちで食べ尽くそう。


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