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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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不老不死の者達

 

 光が一切入って来ない真っ暗な部屋で、ロックの子孫であるダルムに襲われている。知っている奴の子孫だし、できれば穏便に済ませたいところだが、時間を無駄にしている余裕はない。


 ここは力づくで逃げ出そう。


 ここが真っ暗だったとしても単なる部屋だ。しかも狭い部屋。壁を壊してしまえばいいだけの事だ。右足は掴まれたままだが、動けないと言うほどではない。どちらに進んでいるかも分からないが、壁はすぐ見つかるだろう。


「うお、そんな細足なのに、すげぇ馬鹿力だな」


 細足というのは誉め言葉だと思うが、馬鹿力は違うな。乙女心の分からない奴め。


 右足を引きずりながら壁を目指して移動する。ほんの数歩で壁を触れるはずだ。壁の感触を確かめようとして、左手を目の前に伸ばした。


 だが、左手には何の感触もない。


 おかしいな。そんなに広い部屋じゃなかったはずだ。ほぼ部屋を横断するほど歩いたはずだぞ? なんで壁がないんだ?


「もしかして逃げようとしてるのか? 悪いがそんなことはさせないぜ?」


 暗闇の中で何回か攻撃を受ける。正直なところ、ほとんどダメージはないのだが、うざったい。


 ……あれ? 右足を掴まれて、口を塞がれているのになんで攻撃されているんだ? そもそもダルムはどんな格好でそんなことをしている?


 念のため、探索魔法を使った。魔力を言葉に乗せる必要がない魔法だから、口を塞がれていてもちゃんと使える。


 確認したが、探索魔法を使ってもダルムしかいない。もう一人いて私の足や口を押さえているわけでもないわけだが、一体どうやって?


 いや、待て。ダルムしかいない? ここは詰所だ。東門もすぐ近くにある。人の通行があるはずなのに、探索範囲を広げてもなにも引っかからないのは明らかに異常だ。


 私を転移させるほどの魔力を持っている奴はいないはず。やれてもヴァイアくらいだろう。なら転移じゃない。でも、どこかに移動させられたのは間違いないはずだ。


 少なくとも部屋が暗くなるまでは詰所にいたはずだ。ということは、暗くなってから何かされたのか?


 幻視、幻惑魔法の類は私に効かない。つまり暗闇は本物。となると、残りの可能性は……?


 そうか、コイツはロックの子孫だが、あの三姉妹ベルの子孫でもあるわけだ。スキルと言うのは遺伝する可能性が高い。ヴァイアの子孫であるフリートがあのスキルを持ってしまったように、ダルムもベルのスキルを持っているのだろう。


 予想でしかないが、影移動のスキルで私自体を影の中に入れたな。暗闇になった瞬間に私を取り込んだのだろう。ここでならダルムはほぼ無敵だ。ダルム自体が影その物と言ってもいい。


 なかなか面白いことをしてくれる。


 でも、影移動の第一人者であるヤトに色々聞いているからな。タネさえ分かれば、破るのは簡単だ。


 普段、無意識に抑え込んでいる魔力を制御せずに溢れさせた。この影の領域を私の魔力で上書きしてやる。


「お、おい、アンタ、何してんだ?」


 ネタバレしてやっても良かったが、口を塞がれているから言えないな。


「な、なんだ? 俺の支配できない領域が増えて……アンタ、本当に何してんだ!?」


 私の近くの領域から上書きされたので、口を押えている物がなくなったな。それに右足を掴む感触も無くなった。


「影の中に取り込むまでは良かったが、魔力の高い奴にこれは通用しないぞ。ほんのちょっと上書きしてやるだけでお前の領域を食い尽くせる。さて、こんなところに長居するつもりはないんでな、帰らせてもらおう」


 自分の体が把握できるくらいまで周囲を魔力で上書きした。そして出口をイメージして何もない所に両手を差し込む。そのまま押し開いた。


「強制的に出口を開く気か!?」


「まあ、そうだな。それじゃあな、土産は要らんぞ」


 出口と思われる場所を抜けて外へ出た。出た場所も暗闇のままだが、何かの隙間から光が差し込んでいる。どうやら詰所の部屋に戻って来たようだ。あの光は扉の隙間だろう。


「【光球】」


 部屋の中を光球で照らした。かなり眩しいが、暗いよりも明るい方がいいからな。


 そしてダルムもまだ光に慣れていないのか、両手をクロスさせて光を見過ぎないようにしている。おそらく防御も兼ねているのだろう。


「デタラメすぎるだろう! 俺の領域から無理やり出るなんて誰にもできないんだぞ!?」


「そうか? できる奴は他にもいると思うぞ。さて、仕切り直しだな。悪いが牢屋に入るのはなしだ。それと、皇帝が持ってるペンダントを借りたい。皇帝に頼んでくれないか?」


「何言ってんだ、アンタ。今の状況でよく、そんなお願いができるな。ご先祖様がアンタはちょっと変だと言っていたらしいが、本当だったぜ」


 心外にも程がある。ちょっと変だったのはロックの方だ。常に上半身裸だったし。それにベルもちょっと変だった気がする。なんでロックと結婚したんだろう。不思議だ。


 それはいいとして、この方向性で行くべきだろう。私が迷惑を被ったからお詫びにペンダントを貸せ、という状況に持っていくのがいいような気がする。


 となれば、まずはダルムを叩きのめして城へ持っていこう。ロックの子孫だとすれば、それなりの地位にいるはずだ。ダルムがいれば、城にも入れるだろうからな。


「おい、アンタ、目つきがちょっと怖いぞ。怒っているとは思うが、こっちだって仕事なんだからな?」


「安心しろ、怒ってない。でも、それなりの対応はしてもらうつもりだ。さて、続けようか」


 そう言った直後、ダルムは影の中へ入り込んだ。だが、何となく状況は分かる。私の背後から殴りかかって来た。


 当然、殴られる前に転移で逃げる。


「ベルの奴と一緒だな。殺気を消せていない。そんなんじゃいくら死角へ移動しても意味ないぞ。さて、こっちの番だな」


「くそっ!」


 ダルムが影に入りそうだったので、転移で近づき、ボディに一撃食らわせた。筋肉の上から殴るってちょっと嫌だ。


 ダルムは影から出てきて、腹を押さえながら床に倒れた。声を出せない感じで悶絶している。


「まあ、こんなものだろう。さて、牢屋にはいかないが、城へ行くぞ。私に迷惑を掛けたから、その謝罪をしてもらわないとな」


「あ、アンタ、何言って……」


「今の皇帝って城にいるよな? お願いをするだけだから安心しろ。暴れたりしない」


「信じられねぇよ!」


「信じても信じなくてもいいぞ。さあ、来い。ちゃんと自分で歩けよ。もし逃げたら、城の一部が壊れるからな?」


「暴れたりしないって言ったのは何だったんだよ……わかったよ。絶対に暴れないでくれよ」


 ダルムはふらふらと立ち上がった。かなり嫌そうにしているが、どうやら城まで一緒に来てくれるようだ。


 ダルムと一緒に詰所から出ると、周囲には結構な数の兵士がいた。もしかすると私を押さえこむために配置していたのだろうか。


 ダルムが兵士達を見て、首を横に振った。


「いや、無理だわ。奥の手を使っても歯が立たねぇ。やるだけ無駄だから解散だ、解散」


 兵士達はその言葉にざわついている。


 確かに影の中に入れられたら普通は出れないよな。私もヤトに色々聞いていたから何とかできただけで、知らなかったら危なかったかも。


「それじゃ俺はフェルをつれて城へ行ってくる。お前達はいつもの職務に戻ってくれ」


 ダルムは兵士達にそう言うと、私に「こっちだ」と言って歩き出した。ちゃんと城まで連れて行ってくれるようだな。


「なあ、アンタ、本当に不死教団とは関係ないのか?」


 ダルムは私の横を歩きながらそんなことを言った。


「そんな疑いを掛けられていることにびっくりしたくらいだ。確かにソドゴラ――迷宮都市で勧誘を受けたが、あの教団とは全く関係ないぞ。不老不死なだけでそう思われているのは迷惑だ」


「いや、迷惑も何も不老不死な奴なんて何人もいねぇんだから、疑うのは当たり前だろ」


 まあ、そうかな。セラも不老不死だが、アイツはイブのところで封印されていて表には出てこない。普通の奴らはセラという存在も知らないのだろう。


 それにしてもセラ、か。


 今なら分かる。アイツも知り合いが亡くなっていくのを見て辛かったのだろう。そして自分は死なない。絶望を感じていたと思う。そこをイブに付け込まれた。多少イブにおかしくされてはいたが、死にたいと言っていたのは本心だと思う。


 私も同じだ。もしレヴィアから念話を貰っていなかったら、目を覚ますことはなかっただろう。そんな状態でイブに会っていたら、助けを求めたかもしれない。いや、間違いなく絶望から自分を救ってくれと頼んだだろうな。それが死だとしても望んだと思う。


 そう考えると、セラがイブに協力したのは封印されるためか? セラは、もうずっと眠っていたい、そう思っていたのかも。そういえば、会えない人に会いたいとか、平凡な人生を望んでいるとかも言ってた気がする。


 私と同じように夢の中に逃げたということなのかな。


「おい、聞いてるか?」


 ちょっと考えすぎていたようだ。ダルムが独り言を言っている感じになってた。


「何か言っていたか? すまんが聞いてなかった。何の話だ?」


「だから不老不死だよ。フェル以外にも不老不死と言われている奴がいるって話だ」


「なんだと?」


「本当に聞いてねぇんだな。シシュティ商会の会長、それに不死教団の教祖、この二人も不老不死じゃないかって話なんだよ。でも、そんなに不老不死がいるわけないだろ? 会長は男って話だが、教祖の性別は不明だ。だからアンタが教祖じゃないかって話がでてたんだ。これが今回アンタを捕まえようとした理由だな」


「シシュティ商会の会長と不死教団の教祖が不老不死?」


 そんなことがあり得るのだろうか。イブが絡んでいるとすれば確かに可能性はある。不老不死にしてやるから言う事を聞けとか言えば、何も知らない奴は飛びつくかもしれない。不老不死なんてこんなにも苦しいものなのにな。


 でも、おかしいな。不死教団の奴は私が不老不死を与えられた唯一の魔族とか言っていた。教祖が不老不死なら唯一とは言わないと思うのだが。下っ端だから知らないという可能性はあるけど。


 まあ、どうでもいいか。その二つは潰すし、イブも倒すから不老不死でも問題はない。


「改めて言っておくが、私は不死教団の教祖じゃない。それにシシュティ商会と不死教団は潰すからそれで証明してやる」


「あの二つを潰すのか……やっぱりアンタはちょっと変だな」


「確かに私は普通じゃないかもしれないが、変じゃないぞ。撤回しろ」


 その後も私が変じゃないアピールを続けたんだが、信じて貰えなかった。どうすればいいんだろう?


 そんなことを考えていたら、いつの間にか城に着いていた。


 少なくとも皇帝に会う事はできるだろう。こっからは交渉次第だ。なんとかペンダントを借りないとな。


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