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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第二章

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意見

 

 なんだか周囲が静かなんだけど、変なこと言ってないよな?


「フェルちゃん、どうしたの? 変な物食べた? それとも偽物?」


「食べてないし、偽物でもない」


 今日は朝食すら取っていないのに。見張り中にお弁当食べればよかった。


「フェル姉ちゃん。私が短慮だった。初めての敗北。悔しい」


 五歳児に悔しがられた。特にうれしくはない。


「別にさっきの質問に対する答えが欲しいわけじゃないから答えなくていいぞ。ただ、下らん理由で巻き込むなよ。迷惑だ」


 エルフ達が巻き込まれたらリンゴの取引ができない。それは困る。


「なら、俺はどうすれば良い?」


 コイツ大丈夫か? それをお前や部下たちが考えるんだろうが。


「なんでそれを私が考えるんだ。お前、皇帝になるんだろ? 皇帝になってからも全部他人に聞くのか? そんな奴に誰が付いてくるんだ?」


 また、黙ってしまった。もう帰っていいかな?


「フェル姉ちゃんがこの人の立場ならどうする?」


「コイツの立場じゃないから、考えるだけ無駄だ。余計なことはしない」


「後学のために教えて」


 アンリはこれを勉強してどうするのだろうか? もしかしてどこかの皇帝になるつもりなのか? 仕方ない、早く帰りたいから何か言って終わらせよう。


「私ならルハラ帝国内で味方になってくれそうな奴を増やす。味方というのは襲撃時の話ではなくて、襲撃後に味方してくれる奴だ」


「どうして?」


「現皇帝を倒して、新たな皇帝を名乗った時に円滑に済むように、だな。詳しくは知らないが、現皇帝を倒しても、すぐに皇帝になれるわけじゃないだろ。継承権があっても、反対意見がでるかもしれない。そうならないように根回しする。特に軍を率いている奴は重要だな。皇帝が変わったら他国が見ているだけのはずがない」


「なるほど。そういえば、皇帝になるには元老院の奴らから過半数の支持がないと駄目だ」


 なに重要な内容をしれっと言っているんだ。


「じゃあ、その元老院の奴らを味方に引き込まないと襲撃しても駄目じゃないか」


「そうだな」


 そうだな、じゃない。お前の事なんだぞ。本当に大丈夫か? いや、もしかして――よく見てみるか。


 ……そういうことか。謝罪ってなんだろうな。まあいい。いまさら指摘したところで、時間が掛かるだけだ。とっとと終わらせよう。


「他にはウゲン共和国とトラン王国がお互いに戦争を仕掛けそうだ、とそれぞれの国に噂を流しておく」


「ルハラから目を逸らしてもらうため?」


「そうだ。今の状態は良く知らんが休戦中とは言え、帝都を襲撃中に他国から侵攻される可能性が高い。そうなれば、皇帝うんぬんの前に、帝国が滅亡するかもしれん。そうならないように、ウゲン共和国とトラン王国にお互い牽制し合ってもらう。一番良いのは本当に戦争してくれた場合だな」


「うわ、フェルちゃん、それは酷いんじゃないかな」


 ディアなら躊躇なくやりそうだけどな。まあ、私は魔族だから抵抗はないけど、ディアは人族だし、ヤトは獣人だから、同じ種族を巻き込んだら嫌がるかもしれないな。だが、そういう判断が出来ない奴は王としては駄目だな。個人としては良い奴だとは思うけど。


「確かに酷い。だが、物事の優先順位を考えるべきだ。その時点で皇帝ではなかったとしても、皇帝を目指しているなら、ルハラ帝国とその国民を最優先に考えるべきだな。他国に攻められてしまったらルハラ帝国の国民が酷い目に遭う。そうなるぐらいなら他国同士を戦争させるぐらいの事をしなくてはな」


「シビアな考えだね」


「勉強になる」


 アンリにこんな勉強をさせたら、村長に怒られるかもしれない。あとで謝ろう。


「あとは状況が分からないから、何とも言えないな」


「そうか、色々参考になった」


 参考になったとか言っているが、さっき話した内容も正直なところを言えば無理だろうな。


 よほど帝国に不満を持っている奴じゃないと味方にはならないだろうし、そういう奴が元老院のメンバーである可能性も低い。


 ウゲン共和国とトラン王国が戦争をするなら、当然ルハラに間者を放って警戒するはずだ。そうすれば、ディーン達の帝都襲撃がバレる可能性もある。ウゲンとトランが戦争を始める振りをして、帝都襲撃に合わせて両国が攻め込んでくることも考えられるしな。


 うーん、難易度で言えばこれもアポカリプスだな。知ったことでは無いけど。


 それにしても、人族は色々と面倒だな。帝位を簒奪されたなら、それは負けたということだ。その結果に従えばいいのに。むしろ皇帝が変わらない方が良いような気がする。


 でも、それだとエルフの森、というか人族以外が大変なことになるのか。リンゴが手に入らなくなるのは困る。


 せめて、戦略魔道具は私の方で何とかするべきか?


「私の意見を聞かせてやった。代わりに情報を寄越せ。戦略魔道具はどんなものか知っているのか?」


 ディーンがウルを見た。ウルはメモ帳を取り出して何かを確認している。


「炎の竜巻を発生させる魔道具のようね。大昔に使われたことがあるみたい。かなりの被害がでたからダンジョンに封印されていたと聞いているわ。だから慎重に扱っているようね。さっき言った半年後というのも、その魔道具の解析が終わりそうな時期を言っただけよ」


 炎か。森とは相性が悪いな。エルフを助けるのは良いけど、ルハラ帝国の人族と敵対することになるから、どうしたものかな。


 人族と信頼関係を結ぶという魔王様の方針は守らなくてはいけないし、リンゴの無事も確保したい。うーん?


 帰ってから考えるか。使われるとしても半年ぐらい先とか言っていたし、もしかしたら何らかの理由で魔道具が使えなくなるかもしれないし。


「魔道具の件が分かったから、私はもういい。そろそろ帰る。いい加減、話を終わらせてくれ」


「そうですな。では、最後に一つだけ聞かせて頂きましょう。【世界樹を枯らしたのは貴方達ですかな?】」


「世界樹を枯らした? いや、そんなことはしていない」


 それは私が真犯人を知っている。絶対に言わないが。


「なるほど。良いでしょう。では、人族達の処遇ですが、今回は不問にしましょう」


 私がリンゴを盗んだ時は処刑だったのに、コイツ等はこれだけ引っ掻き回して無罪か。なにか納得いかない。魔族って大変だ。


「世界樹が元に戻った喜びがありますので、恩赦ということですな」


「そうか、感謝する」


「ただし、あなた方は我々エルフにルハラ帝国の情報を定期的に提供して頂きますぞ。提供しなくても構いませんが、その時は敵になりましょう」


「情報提供の件、了承しよう。特定の奴をこの森に来させるようにする」


 そういうのは後でやってくれ。でも、これで終わりだ。土産をもらって帰ろう。


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