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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十五章

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人形遊び

 

 ニャントリオンの一階、既製服売り場でシシュティ商会の女と対峙している。


 ジェイの裏切りによって、イケメン従者達はすでに床に倒れている状態だ。他に護衛はいないようだし、戦力的には何もないと同じだろう。


「さて、嫌がらせに来ているのは知っている。私がいる以上、そんなことはさせない。その男達を背負って帰るんだな」


「嫌ですわ。わたくし、フォークより重い物を持ったことがないのです。誰かを背負ったりしたら骨折してしまいますわ」


 嫌味で言ったのだが、通じなかったようだ。


「それなら外へ放り出しておくから、後で回収するんだな。出口はそっちだ」


「それも嫌ですわ。それだとわたくしが負けたみたいでしょう?」


「みたいでしょう、ではなく負けてると思うぞ。まさか、手が出せないと思ってるんじゃないだろうな? こっちは市長から嫌がらせに対処していいと言われているんだ。強制的に外へ出してもいいんだぞ」


「ならやってみたらいかがかしら?」


 この縦ロールは随分と余裕そうにしている。まさかとは思うが戦えるのか?


「ジェイ、その女は戦えるのか?」


「よく知らない。興味ないから」


 使えない。なら魔眼チェックだ。


 ……コイツ……まさか男達もか?


「ジェイ! 男達から離れろ!」


「え? うそ! 手加減なしで蹴ったんですけど! 聞いてないんですけど!」


 男達が寝ころんだままでジェイの足を掴もうとしていた。だが、間一髪逃げられたようだ。そしてジェイは素早い身のこなしで移動し私の後ろに隠れた。


「私的には本気でやったんだってば! 今回は裏切ったふりなんてことはしてないから! 信じて!」


「分かってる。あれは本気でやっても倒すのは難しいだろう。さっきのはやられたふり、いや、一時的に支配が解けただけだろう」


「あら? なにか知っているのかしら? 誰かに教えたことはないのですけどね。それとも適当に言ったのかしら?」


 男達が全員立ち上がり、女を守る様に囲んだ。


「アダマンタイトの冒険者が裏切るとは思ってもいなかったのですけど仕方ありません。面倒ですけど、このわたくし、ヴァティが貴方のお相手を致しますわ」


 縦ロールがそう言うと、男の一人が飛びかかって来た。かなり速い。


 男のパンチを左腕でガードする。ダメージはない。殴り返そうとしたら、距離を取られた。


「おい、戦うのなら外に出ろ。ここで暴れるな」


「嫌ですわ。ここに嫌がらせに来ているのですから丁度いいですわよね?」


 こんな場所で暴れたら店が大変な事になる。それに戦うには展示している服が邪魔で思うように動けない。


「フェル様、商品は私が亜空間にしまっておきます。それまでは耐えてください。それと建物全体に状態保存をかけました。しばらくは持ちますので暴れても大丈夫ですよ」


 アビスがそんなことを言いだした。助かる。服をしまってしまえば多少は動けるようになるはずだ。でも、商品の所有権は大丈夫だろうか。他人の物は亜空間にいれられないはずなんだけど。


「タルテ様。一時的に商品を私の亜空間に預からせてください」


「え、あ、はい、分かりました! じゃんじゃん亜空間にしまってください! そう、全てを吸い込む暗黒の球体のように!」


 そうか、タルテは店長だったな。その店長が許可を出せば所有権の問題はないだろう。


「アビス、全部しまったら教えてくれ。それと、ジェイ。そこにいるタルテを守れ」


「大船に乗ったつもりで任せて!」


 ちょっと不安だけど、大丈夫だろう。あとは私がこの男達の攻撃をしのげばいい。


「さあ、貴方達、戦いなさい。そしてその魔族を倒すのです」


 今度は男達が二人で襲ってきた。連携が上手い……当然か。そこには一人の意思しかないからな。


 何度か攻撃を受けたら、一人が水面蹴りを放ち、それを飛び越えるようにもう一人が飛び蹴りを放って来た。


 これを躱すのは無理。


 前に出した左足に力を込めて水面蹴りを耐える。飛び蹴りは腕をクロスさせてガードした。くそ、どっちも痛い。


 でも、チャンスだ。男達は大技を出して体勢が崩れている。まずは飛び蹴りしてきた奴を対処しよう。


 男が地面に着地したと同時に右のストレートを放った。相手にも腕をクロスされてガードされたが、そのままふっ飛ばした。固いな。


 そして水面蹴りをしてきた奴はしゃがんだままだ。左ボディのコースで男の顔面を殴った。その男も吹っ飛ぶ。こっちも固い。


 二人の男をヴァティの方まで殴って戻したが、あまりダメージは受けていないようだ。腕の力だけで殴っているからな。ちゃんと腰を入れたパンチを打てれば何とかなると思うんだが。


「嘘でしょ!? フェルのパンチを食らって普通に立ってるんですけど!」


 ジェイが驚いている。男達はダメージがまったく無い感じで普通にしているからな。だが、本気じゃないぞ。


「驚きましたわね。この子達の攻撃を受けきるなんて。普通ならさっきの攻撃で死んでいますわよ?」


「そうだな、危なかった」


「アハハ、マジうける! ……ごめん」


 ジェイは私が不老不死だと知ってるから、危ないというのは冗談と取ったようだ。笑わせるつもりはなかったんだけど、相変わらず緊張感のない奴だな。


「フェル様、商品はすべて亜空間へ入れました。本気を出して暴れても大丈夫ですよ」


 アビスの言葉を聞いて周囲を見渡した。どうやら服はすべてしまったようだな。


「すまん、助かる」


 アビスは「いえ、では後はお任せします」とだけ言ってタルテの方へ移動した。どうやらジェイと一緒にタルテを守ってくれるのだろう。


 よし、心配事はもうない。そろそろ終わらせよう。


「さて、ちょっとだけ本気を出してやる。だが、一つだけ聞いておきたいのだが、構わないか?」


「わたくしにですか? 何を聞きたいのでしょうか? 一応、答えて差し上げますわよ? 冥途の土産というものですわ」


「そうか。なら教えてくれ。本体はどこにいる?」


 そう聞くと、ヴァティは止まってしまった。


「あのユニークスキルの有効範囲で考えると、この都市のどこかにいるんだろう? 色々調べるのは面倒なんでな。お前の口から聞いておきたい」


「……貴方、わたくしのユニークスキルを知っているの? 強力な鑑定スキルか分析魔法かしら?」


「似たようなものだ。それに、昔使っていた奴を知ってるんでな」


「ユニークスキルは人界、天界、魔界で唯一人しか持てないスキルですわ。貴方、私より若いのに、使っていた人を知っているなんて、そんな嘘はバレバレですわよ?」


「そうか。なら嘘でもいい。本体の場所を言え」


 ヴァティは体を震わせながら笑っている。


「うふ、うふふふ。初めて貴方が怖いと思いましたわ。誰にも言ったことが無かったのに貴方にはバレているのですわね? 仕方ありませんわ。念のため、この場にいる全員を始末しましょう。私の安寧のために、ね」


 ヴァティはそう言うと、亜空間から大剣を取り出した。それを片手で軽々と持ち上げている。


「フォークよりも重い物をもったことが無かったんじゃないか?」


「それは本体の話ですわ。この子はいくらでも重い物を持てる特注品ですの。シシュティ商会ならこういう物も用意できると言う事ですわね。さあ、遊びましょう? わたくしのユニークスキル『人形庭園』に勝てるかしら? できるだけ楽しませてくださいましね?」


「人形遊びは卒業してるんでな。それにお前のような奴にそのスキルを使われるのは少々気に障る。悪いが遊びはなしだ」


 転移してヴァティのそばにいる男の人形一体に本気のパンチを放った。アダマンタイト製の人形のようだが、周囲を気にする必要がないなら問題なく打ちぬける。


 右のストレートで胴体に風穴を開けた。だが、まだ動けるようなので、左ボディで体ごと壁に吹きとばす。


「な!」


 女の人形が驚いているが、それに構わず、他の男の人形にも同じようにパンチを放った。


 ほとんど一撃で男達を殴り倒す。壁に激突する、床に崩れ落ちる、色々な状況ではあるが、五体の人形はもう動かないだろう。


 人形はゴーレムのようなものだが、原動力は人形庭園のスキルだ。人形と言えない状態になれば、人形庭園の対象外。昔、ルネにそんなことを教えてもらったことがある。


「大層な剣を持っているようだが、それを振るチャンスは無かったようだな」


「ひっ!」


 人形なのに怯えている。多分、スキルを通して本体の方が怯えているのだろう。


 剣を床に落とし、後ずさりしているが、いつの間にかアビスが入り口にいて逃げられないようにしている。


「さて、本体の場所を教えてもらおうか? そのために残しておいたんだからな」


「い、言う訳ありませんわ! た、たとえ、この子を壊したとしても、もっと強い人形を買って貴方を襲います! それは決定事項ですわ!」


「そうか、どんなに強い人形でも私に勝てるとは思えないが、何度も挑まれるのも面倒だ。私の安寧のために、本気でお前の場所を探そう」


「な、何を言って……」


 魔眼を使って人形の情報を深い所まで見よう。


 ……なるほど。あそこか。


 結構深い情報を見たのだが、不思議と頭は痛くない。理由は分からないが、ありがたいことだな。


「妖精王国、三〇四号室か」


「ど、どうして、それを……! あ!」


 魔眼に間違いはないけど、この反応でさらに信憑性が増した。


「今からそちらへ向かう。ここから目と鼻の先だ。逃げられると思うなよ?」


 そう言ってから人形の胸辺りにパンチを放った。他の人形と同じように穴をあける。これで人形とは認識されないはずだ。


「す、すごいです! フェルさん、すごすぎます!」


 いきなりタルテが騒ぎ出した。まあ、褒められるのは嫌いじゃない。


「私ごときの闇なんてフェルさんに比べたらまだまだでした! フェルさんこそが闇! 髪の毛の炎といい、二種類の属性を持つなんて……!」


「いや、どっちの属性も持ってないから」


 というか、適当に言ってるだけだよな? 髪の毛が赤いくらいで炎の属性持ちってなんだよ。それに闇はどっから来た?


「なに、この子? 超面白い」


 ジェイが笑いながらそんなことを言っている。それには同意するが、お前も相当だぞ。


 さて、のんびりはしていられない。逃げられる前に捕まえに行こう。


「私はこれから妖精王国へ行ってくる。アビスは商品を元に戻しておいてもらえるか。ジェイは引き続きタルテの護衛をしていてくれ。アビスもいるから大丈夫だとは思うけどな」


「フェル様、お一人で行くのですか? 念のために私も行きましょう」


「だが、服がないと商売にならないだろ? アビスが亜空間にしまったんだから戻さないと」


「フェルさん、大丈夫ですよ。この時間帯にお客さんは来ないので。さっきの女がいつも来てましたから、皆、この時間帯は避けてるんです」


 そうなのか。ならアビスには一緒に来てもらおうかな。なにか不測の事態があった時にアビスは頼りになるから、いてくれたほうが助かる。


「そういうことなら、アビスは連れて行く。ジェイはさっき言った通りタルテの護衛をしていてくれ。もしかしたらシシュティの奴らが来るかもしれないからな」


「オッケー、任せて! 私もタルテに自分はどんな属性なのか聞いとくから!」


 それはどうでもいい。まあ、仲良くやってくれ。


 よし、ヴァティ本体を捕まえに行くか。


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