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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第二章

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責務

 

 新たな皇帝になる、か。ずいぶん大きく出たな。


 人族のことは詳しくないが、皇帝を倒したぐらいで新たな皇帝になれるものなのだろうか?


 周囲から反発があると思うけど。もしかして皆殺しとかなのかな。危ない奴だ。


「貴方が皇帝になる? 帝位を簒奪するということですかな?」


「傍から見たらそうだろう。だが、俺は継承権を持っている、いや持っていた、か。簒奪したのは今の皇帝だ。それを取り戻す」


 元々皇帝だったのに奪われたということなのだろうか? 興味ないから聞かないけど。


「信じられませんな。それに仮に貴方が正当な皇帝だったとしても、力を貸す必要はありませんな」


「何故だ? このままではエルフの森は戦略魔道具によって滅ぼされる可能性があるのだぞ? そうなるぐらいなら力を貸してくれても良いのでは?」


「エルフにメリットがない。それに――もがもが」


「アンリ、黙ろう。な?」


 いきなりアンリが言い出したので手で口を塞いだ。大人の会話を邪魔してはいけない。それに余計なことを言うと帰りが遅くなる。


「お嬢ちゃん、どういうことかな?」


 子供の意見に食いつくな。あと、アンリも私の手に食いつくな。うお、手に涎が。


「皇帝になったら森に攻め込まないと言っていたけど、そんな保証はどこにもない。そんな口約束に命は掛けられない」


 抑えていた口を解放したらまた何か言い出した。もう言わせてしまった方が早いな。


「俺が皇帝になったらエルフの森だけでなく周辺国とも戦争はしない。それは決定事項だ。今の仲間たちにも公言している。だからその約束を破ることはない」


 アンリが「フン」と鼻で笑った。こいつ本当に五歳なのかな? こんな五歳児は嫌だ。


「笑止」


 私が死ぬまでに一度は言ってみたいセリフを言いやがった。


「なんだと?」


「ルハラが戦争を止めても、ウゲンとトランは止めない。それ以前にルハラが内戦状態になったら確実に侵攻してくる。戦争を起こしても貴方が皇帝になる前にルハラが滅ぶ。エルフはそれを待つだけで良い」


「待つのは良いが、戦争が始まる前に戦略魔道具がエルフの森に使われるぞ?」


「それはない。使われた後なら周辺国がルハラに隷属して、もっと強大になる。そうなればルハラには勝てない。貴方は戦略魔道具が使われる前に戦争を始めるはず」


「なら、俺が帝位を諦めた場合はどうする? 内戦がなければ、ルハラ帝国はエルフの森に戦略魔道具を使ってくるぞ? 今、手を組めば、俺たちを利用できるとも言えるぞ?」


「貴方は諦めない。だからその条件は意味がない」


 ディーンは驚いた顔になったが、徐々に笑みを浮かべた。


「そうだな、諦めない。お嬢ちゃんが正しい」


 アンリは腕を胸の前で組んでのけ反った。髪が顔に当たって邪魔なんだけど。くしゃみでそう。


「お嬢ちゃんならどうする?」


 子供に聞くな。


「ルハラの皇帝になれても、国内が疲弊しては他国に攻め込まれる。短期間で疲弊することなく決着をつけることが必要。国内で陽動的なクーデターを起こして、手薄になった帝都に少数精鋭で攻め込み、皇帝を倒すのが手っ取り早い。ただし、暗殺は駄目。皇帝を倒したときに貴方が正当な皇帝だと宣言しなければ、別の人が皇帝になる可能性が高い」


「なるほどな」


 なにか納得しているけど、もしかして採用する気なのか?


「でも、この作戦は貴方が正当な帝位の継承権を持っている、もしくは持っていたことが大前提。無ければ、ただの反逆者で終わる」


 そりゃそうだ。他にも継承者は居るだろうし、周囲が認めないよな。


「それは問題ない。言うことは出来ないが証明できるものをいくつか持っている」


「なら、私の言えることはこれぐらい」


 アンリはリンゴジュースを飲んだ後、やり切った顔になった。そのリンゴジュースは私のなんだが。


「なあ、ウル。あの子、うちの参謀にしないか」


「確かに欲しいわね。かわいいし。あとで交渉しましょう」


 止めてくれ。アンリが連れていかれたら私が村長に怒られるだろうが。


「なあ、アンリっておかしくないか? どう考えても五歳児の思考じゃないぞ?」


 隣にいるディアとヴァイアに小声で聞いてみた。


「村長に英才教育を受けているからね!」


「村長さん、どこかの国の宰相だったとか聞いたことがあるけど、あの話、本当なのかな?」


 村長は常識のある人だと思っていたのだが、そうでもないようだ。


「ほっほっほ、そこのお嬢ちゃんが言いたいことを全部言ってくれたようじゃな。これでわかったじゃろう? お主たちに手を貸す必要はないのじゃ。もし、お主たちが帝位の簒奪に失敗したとしても、ルハラ帝国は疲弊する。そうなれば、当然他国が見逃すはずがないしの」


「そのようだな。俺は戦略魔道具が使われる前に今の皇帝を何とかしないといけない。だが、戦争を起こせば他国に攻められるから、他国に知られる前に倒す必要がある。さらに出来るだけ軍を疲弊させないように、少数精鋭による帝都への襲撃か。悪くないな」


 そうだろうか? でも、私には関係ないな。早く解放してくれ。


「フェル殿は何か意見がありますかな?」


「ああ、アンタの意見も聞きたい」


 こいつらは何を言っているのだろう。というか、この集まりって謝罪がメインなんじゃないのか? なんで皇帝を倒すことをメインに話をしているのだろう?


「いや、興味がない。もう、終わりで良いだろ」


「フェル姉ちゃんの意見も聞きたい」


 何でアンリが聞きたいんだ? 面倒くさい。しかし、何か言わないと終わりそうにないな。


「作戦のことはどうでもいい。だが、ディーンは皇帝になって何をしたいんだ?」


「何をしたいか?」


「そうだ。人族のことは良く知らないが、皇帝というのは国の頂点なんだろ? 周辺国と戦争はしないとか言っていたが、具体的に何か考えているのか? 国の政策とか周辺国との関係についてどう考えている? 仮に正当な継承権を持っていても、周囲が認めてくれるのか? 認めない奴は皆殺しか?」


 なにも回答を返してこないということは考えていないのだろうか?


「仮に襲撃に成功して皇帝になれたとする。だが、一時的に国は麻痺するはずだ。その間に他国に攻め込まれたらどうする気だ? 軍が疲弊していないとしても、帝位を奪ったお前の言うことを軍が聞いてくれるのか? それに他の継承権を持っている奴が改めてクーデターを起こさない理由があるのか?」


 まだ、何も言い返さないのか。面倒だな。


「皇帝になることだけを考えていて、なってからのことを考えているようには思えない。それを皇帝になってから考えるとかなら、その間にまた皇帝が変わるぞ。もしくはルハラ帝国が無くなる」


 ディーンは考え込んでいるようだ。周囲の奴らも考えているようだがどうした? まあ、いい。続けよう。


「皇帝になりたいのなら、最初に国民のことを考えろ。私怨だけしかないのなら、皇帝になるのを諦めろ」


 頂点に立つものは下の者のことを考えなければいけない。考えていない奴は頂点に立ってはいけない。これは頂点に立つ者の責務だ……望む、望まないは関係なく、な。


 その辺り、分かっているのかな?


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