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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十四章

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親と子

 

 狼以外を全員一撃で倒した。狼だけはちょっと強かったな。三発は必要だった。


 全員、意識はあるだろうが、体の魔素が異変を起こすくらいの拳撃をぶち込んだから動けまい。


「まあ、こんなものだろ。アビス聞こえるか? 後は任せる」


 イヤリングの念話を使ってアビスへ連絡すると了解した旨の返事が来た。これはこっちでいいだろう。


「さて、ジェイ。皆のところで話を聞かせてもらうぞ――なんでそんな顔で見てる? 口を開きっぱなしだと、馬鹿っぽいぞ?」


「いや、うん。さっき私と戦っていたときに『手加減しやがれ、この野郎』って思ってたけど、あの時点ですんごい手加減されていたことが分かって、ちょっとショック。フェルってヤバイわ。トラン国を裏切った私って超ファインプレー」


「何言ってんだ?」


「分かんない? なら周囲の人を見るといいよ」


 言われて周囲を見ると、全員が口を開いてこちらを見ていた。一体どうした?


 不思議そうに見ていたら、アンリが笑顔でスレイプニルに乗ったまま近づいてきた。他にもスザンナ達が近寄ってくる。


「さすがフェル姉ちゃん。あの人達を一撃で沈めるなんて普通できない。強さでいえば、あの人たちはアダマンタイト級。それが十人近くいるのに、数分で倒すなんてフェル姉ちゃんはやっぱり強い」


 もしかして私の強さに驚いていたという事か?


「アイツらがアダマンタイト級? それはないだろ? 明らかにスザンナとかゾルデの方が強いと思うぞ?」


 それを聞いたゾルデが首を振った。


「いやー、アイツらは強いよ? トランの町をゴーレム兵から解放していた時に何回か戦ったんだけどね、こっちも結構被害が出たし、完全に倒しきるのは無理だったからね……フェルちゃん! 今から私と戦おう!」


「よく思い出せ、今は戦争中だ」


 相変わらずの戦闘狂だな。十数年経っても変わってない。


 断ったのにそれでもゾルデは戦おうと言ってくる。それを見ていたアンリが間に入ってくれた。


「ゾルデ姉ちゃん。戦うなら戦争が終わってからにしよう。今はトラン国を攻め落とすのが先。皆、これからは市街戦だけど、いつも通り対応して。無理はせずに危ないと思ったらすぐに退却すること」


 アンリの言葉に全員が頷いた。


 今の命令には、戦うなら戦争が終わった後、というのも含まれているのだろうか。戦争が終わっても戦うつもりはないんだけど。


 そんなことを考えていたら全員が私に近づいて来た。


「フェルのおかげで大助かりだぜ。後は俺達に任せておきな。俺もいいところをみせておかねーと、戦いの後でナンパの成功率が下がるからな!」


「フェルちゃん! 絶対に勝負するからね! 約束だよ!」


「これほどの戦闘力を身に着けるとは……これはこの戦いの後が楽しみだ!」


「フェルさん! 私! 感動しております! 是非とも傭兵団で戦いの指導をお願いします!」


 ミトル、ゾルデ、オルド、レなんとかが、私に一言だけ言ってから、それぞれの部隊を連れて、町へ入って行った。なんでアイツ等は自分の都合しか言わないのだろうか。


 市街地での戦闘だから少数精鋭で対応するようだ。それ以外の兵達は別の門、東や西、それに南の門の方へ配置するらしい。逃げられないようにするための対策だろう。従魔達もそっちに配置されている。


 北門に残ったのは五千くらいの兵だけだ。


 そしてこの場所には、アンリ、スザンナ、村長、アンリ母、父、それにジェイとレオだな。アビスもいるが、私が倒した奴らに対して何かしているようだ。


「私の名はアンリ。そっちの貴方はジェイ? それに貴方はレオ?」


「そうだよ! よろしくね、アンリちゃん! ジェイお姉ちゃんって言っていいよ!」


「レオだ。三年ぶり、だな」


 そうか、レオは村で会ったな。あの時はクラウ・ソナスが村長を刺したんだっけ。怒ったアンリが剣を破壊したんだ。レオはメッセンジャーとして生かされていたんだよな。


「フェル姉ちゃんから聞いてるだろうけど、裏切ったら体内の魔石を破壊する。それは理解してる?」


「モチのロンだよ。私にはやらなきゃいけないことがあるんで、死ぬわけにはいかないんだよね……そうそう、殺されそうになったら裏切るからよろしく!」


 そう言うこと言うか?


「分かった。命は大事だから好きにして構わない」


 え? いいのか?


「さっすが、今のトラン王とは器が違うね! 何でも答えるから、何でも聞いて?」


「なら私の弟、ダズマの事を教えて。さっきの戦いで、弟は人族を辞めたって言ってた。それはどういう意味?」


「そのままの意味だよ。トラン王は自分の体を改良して、私達みたいな魔素の体になったんだよ。まあ、私達なんかよりも相当強く作ってあるけどね」


 やっぱりそうなのか。しかもジェイ達よりも強い魔素の体か。


 アンリは顎に手を当てている。何か疑問に思う事があるのだろうか。


「なんでそんなことを? 詳しくは知らないけど、体を改良するなんて危険な行為だと思う。下手をしたら死ぬかもしれない。そんな危険を冒す意味は?」


「あー、そっか知らないか。トラン王は生まれつき体に疾患を抱えていてね、そもそも長く生きられなかったんだよ。そのために強靭な体が必要だったんだよね。博士の研究がギリギリ間にあったから今も無事に生きてるわけだけど」


 この場にいる全員が驚いた。村長も驚いている。


「村長も知らなかったのか?」


「え、ええ。色々とトラン国の情報を探ってはいましたが、そんな話は初めて聞きました。まさかそんな状況だったとは」


「そりゃそうだよ。知ってるのは本人と母親、博士と私とレオくらいだからね。誰にも知られないように細心の注意を払っていたみたいだから。そんな運命共同体とも言える私達の魔石を食べるっておかしくない?」


 延命のための魔素化か。強さを求めているとかそう言うことじゃないんだな。


 それにしても体の疾患か。生まれたときからそうだったってことは、母親はアンリを暗殺しようとする前から知っていたわけだ。


 母親の名前はたしかラーファだったか? どういう考えでアンリを暗殺しようとしたのだろう? 結果的に魔素の体を手に入れて生きられたわけだが、当時は長くは生きられないと分かっていたはずだ。なら、王にさせようとは思わない気がする。それとも、博士というのが当時からいて、延命できることは分かっていたのか?


 その考えを皆に聞いてみた。


 意外にも反応したのはアンリの母アーシャだ。


「フェルさん、親は子供のためならオーガにでも修羅にでもなれます。長く生きられない命だと知ったら、それこそわずかな期間でも王にさせようと思うかもしれません」


 アーシャの言葉に村長も頷いている。


「そうか。そう言うものか」


 私には分からない感情だが、ニアやロン、それにヴァイアなら分かるかもしれないな。


「子供を思う親の気持ちはなんとなく理解できる。それじゃ確認しておきたいのだが、博士がいつ頃からトランにいるかは知ってるか?」


 村長が首を横に振った。


「少なくとも私達がいた頃にはいませんでした。城下町にはいたかもしれませんが、王城で勤務していたという事はないでしょう」


「博士は医者として町にいたみたいだよ。かなりの名医だったみたい」


 ジェイがそんなことを言いだした。


「医者? 医者って治癒魔法を使わない治療をする奴の事か?」


「そうだね。その認識であってるよ。聞いたわけじゃないんだけどさ、トラン王を治すために医者だった博士に接触したんじゃないかな? あ! もしかすると、博士が母親を焚き付けたのかもね!」


「焚き付けたってなんだ?」


「だから、アンリちゃんの暗殺。博士の技術や知識はすごいけどさ、それを活かすには相当なお金が必要なわけだよ。王がパトロンになってくれれば何でもできるじゃない? 事実、私やレオもそのおかげでこの体を貰ったわけだし」


「それじゃ何か? 博士とやらは研究費用みたいなものが欲しいから、ラーファに当時の王やアンリを暗殺してダズマを王にしろって進言したのか?」


「むしろ、そうしなければ助けられないとか言ったんじゃない? 進言じゃなくて脅迫だよね……あ、でも、これは私の憶測だよ? 本当かどうかは分からないから、あんまり本気で捉えないでね」


 可能性はありそうだな。だが、アーシャが言ったわずかな期間でも王にさせたい、ということもあり得そうな気がする。むしろ両方か?


 事情は分からないが、アンリはどうするのだろう? もし博士が元凶だとしたらラーファやダズマを許すのだろうか。


 ふとアンリを見ると、アンリも私の方を見た。そして首を横に振る。


「弟のダズマ、そしてその母親ラーファにどんな事情があったとしても、私の父と母を殺したことは間違いないはず。博士の事は分からないけど、少なくとも二人を許すつもりはない」


 どうやら私の考えが顔に出ていたようだ。


 でも、許すつもりはない、か。


 アンリは覚悟を決めてこの戦争を起こしたはず。ならどういう決着をつけるのかも考えてあるはずだ。


 今の口ぶりからすると、許さないと言うのは殺すという意味だと思う。


 アンリにはそういう血なまぐさいことはして欲しくないが……いや、アンリはもう子供じゃないんだ。自分で考えて決めたはず。なら私はそれを支持してやるだけだ。


「そうか、頑張れよ。どんな事があっても私は味方だからな」


 そう言うと、アンリは笑顔になった。まぶしいくらいだ。嬉しさがこちらまで伝わってくる。だが、アンリはすぐに真面目な顔になって、王城の方を見上げた。


 私もつられて王城を見る。


 町にいるゴーレム兵がいなくなれば、今度は王城へ攻め込むのだろう。一緒に付いて行ってアンリが王になるところを見届けてやらないとな。


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