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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十四章

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レオ

 

 レオとジェイ、そして数人と一匹が城への道を塞ぐように立っている。さらにその後方にはゴーレム兵達がいるようだ。


 アビスが言うには、レオ達は最高傑作らしい。たしかに技術的には凄い物なのだろう。だけど中身がな。


 そんな風に眺めていたら、レオがなにかを取り出した。それを口元に運ぶ。


「あー、聞こえるか? 俺の名はレオ。ここを通すわけには行かないんでな、城壁があった場所よりもこちらへ来たら問答無用で斬る。死にたくなければ来るな」


 イヤリングの魔道具からそんな言葉が聞こえた。あの辺りにいるメンバーのイヤリングから音を拾ったのだろう。どうやらレオが使ったのは声を大きくする魔道具のようだ。昔、ヴァイアの魔道具にそんなのがあったな。


 それはいいとして、レオの言葉はかなり挑発的だ。近寄ったら斬る、か。


 不思議だな。レオなら普通の人族に負けないと思うのだが。それにジェイもそうだ。狼と他の奴らは知らないがあの二人だけでも相当な戦力なはず。


 あの場所の方が戦いやすいのだろうか。それとも他に理由が……?


 大体、アイツらはトラン国の王や博士の護衛をしないといけないのでは? なんで前線に出てきているのだろう。


 ……時間稼ぎかな。何かを待ってるという可能性がありそうだ。


 これはとっとと行って済ませてしまおう。相手の思惑に乗る必要はない。


「アビス、私が行っていいんだよな?」


「はい。あの者達を相手にしたら、皆さんは怪我じゃすみません。面倒なのでとっとと倒してください。そもそもあれは本命じゃないです。こんなところで時間を取られている場合じゃないですからね」


「それはいいんだけど、私への扱いが酷くないか? 雑用を任されている感じでちょっとモチベーションが下がった。もうちょっとこう、やる気を出させるいい方ってあると思うぞ? ……まあ、それは後だな。ところで、アイツらが時間稼ぎしている可能性はあるか?」


「時間稼ぎ、ですか?」


「ああ、あの場所で近寄るなって言うのはおかしくないか? アイツなら一人で突撃してもおかしくないと思うんだが」


「可能性はありますね。ただ、何のための時間稼ぎなのかが分かりません」


 アビスでも分からないんだな。


 よし、こんなところで手間取っても仕方ないだろう。私が行ってサクッと終わらせて来よう。


 アンリ達とレオ達がにらみ合っている真ん中に転移した。


 まず、アンリの方へ体を向ける。


「アイツらは私がやる」


「……分かった。ここはフェル姉ちゃんに任せる」


「ああ、任せろ。お前の出番は最後だ。それまでは力を温存しておけ」


 今度はレオの方へ体を向けた。


「久しぶりだな。悪いがお前達の相手は私だ」


「願ってもない事だ。魔族を倒すために磨いた技術を人族に使う理由はなかったんでな。勝負してもらうぞ」


 レオが腰の剣を抜きながら近寄って来た。近くにいるジェイとかは立ったままだ。


「一対一か? 時間がもったいないから全員で来い」


 これも時間稼ぎの一環なのだろうか。一人一人相手をするのは時間がかかるんだが。


「……魔族とは言え舐めすぎじゃないか? 俺一人じゃ足りないと?」


「舐めてるのはお前達の方だろう? 私を倒すのにお前だけなのか?」


「まさかとは思うが、魔王で不老不死だから負けないとか考えていないだろうな? 殺すことはできないが、動けなくするくらいはできるぞ?」


 なんでレオが知っているのだろう? コイツらには言ってないのだが……いや、博士からの情報か? 機神ラリスの技術を持っているなら、その情報も持っている可能性は高い。


「博士から聞いたか?」


「まあ、そういうことだ。戦いは一対一で譲らんぞ。魔族に勝つために何年も修練を積んだ。あの頃の私と思わないほうがいい」


 レオはなんの装飾もないシンプルな剣を構え、剣先をこちらへ向けた。見た目は質素だが、その包含している魔力は相当なものだ。もしかして、レオの本体か?


「その剣は――」


「ああ、俺の本体だ。クラウ・ソナスが壊れたんでな、これしかなかった。名乗っておこう。魔剣ダーインスレイヴだ」


「そうか。なら私も名乗っておこう。魔王――いや、神殺しの魔神フェルだ」


 死ぬほど恥ずかしいが、仕方あるまい。一応、魔界で公認されている役職みたいなものだ。こういう時くらいは言わないと。


 レオは左手を開きこちらへ向ける。体を半身にして剣を持った右手は後方に構えてる。相変わらず変な構えだ。


 さて、いつも通り弱い方に先手を譲らないとな。


「来い、先手は譲ってやる」


「後悔するなよ? 『身体ブースト』『高速演算起動』『虚空領域接続』『疑似未来予知展開』『限定世界規則改変』」


 魔素の体が行えるスキルか。だが、どんなに強くなったとしても勝敗は目に見えてる。


「『紫電一閃・乱』」


 おそらく短時間に数十回の紫電一閃を振るうという技なのだろう。空間を斬るという剣筋が私の周囲を覆った。


「とった!」


 反応できないと思ったのだろう。だが、それは違う。全部見えている。そして直接私を斬ろうとした斬撃を左手で受け止めた。


 レオは驚きの表情でこちらを見ている。


「ば、馬鹿な! 空間すら斬る斬撃だぞ! なぜ斬れない!」


「魔力で体内の魔素を硬質化した。私以上の魔力を使わない限り私の体を斬ることは不可能だ」


 何もない空間なら斬れただろうが、高濃度の魔力を持つ私の体は斬れない。今、私の体は濃度の濃い魔力を循環させている。


 空間を斬ると言ってもそれは魔素の力。なら、より硬質な魔素で受ければいいだけのことだ。


「この十数年でお前は強くなったのだろう。だが、私も強くなることを考えなかったのか?」


「くっ!」


 レオが後方へ飛びのいた。


 先手は譲ったし、これ以上時間をかけるのも面倒くさい。終わらせよう。


 レオの目の前に転移した。すかさず左フックを放つ。


「ぐっ、お……!」


 レオは剣のガードが間に合わなかったようだ。右腕の上腕にフックが当たり、吹き飛んだ。だが、まだ立ったまま。自分で飛んだか。


「くそ! なぜ未来予知が働かない! なぜ予知以上の行動ができる!」


「ネタバレはマナー違反だから言わんぞ」


 単純に図書館にある私の情報がフェイクだからだ。十数年前から偽装してる。すぐに情報が元に戻るから何度も書き換えてるんだけど、今では無意識にやれるようになった。


 嘘の情報を使って未来を予知しても正しい結果は得られない。魔王様から学んだことだ。


 レオはさらに剣で攻撃してくるが、すべて躱してカウンターを入れる。残念ながら例え剣が当たったとしても私を斬ることはできない。最初からレオでは私に勝てないということだ。


「悪いな。普通の魔族なら勝てたかもしれないが、私は普通の魔族じゃない」


 もう勝負を決めたいが、体内のどこに魔石があるか分からないんだよな。魔石を壊したら本当に死んでしまうし、どうしたものか。元々思考プログラムみたいなものだから、善悪の概念がなさそうだけど、悪い奴の様には思えないからチャンスはやりたい。


『アビス、レオの魔石がどこにあるか分かるか? できればそれを避けた上で動けなくしておきたい』


『高性能スキャンをしてみます……どうやら心臓と同じ位置にあるようですね』


 ならそこ以外を狙えばいいな。


 フラフラしているが、レオはまだ戦おうとしている。疲れや痛覚などはないだろうが、打撃を受けて体が思うように動かないのだろう。それでも戦おうとするとは、見上げた根性だ。


「それだけボコボコにされても戦う意思があるのか。負けを認めて倒れてもいいんだぞ?」


「……まだ動ける。動けるうちは負けじゃない」


「そうか。なら続行だ」


 だが、もう止めを刺してやるのが優しさだろう。


 転移して右ボディを一発。ガードさせる間もなく、レオの体に風穴を開けた。


「が、はっ」


 レオは右手で剣を振りつつ、前のめりで地面に倒れた。


 剣を当てようとしたか。最後まであっぱれだな。だが、私の勝ちだ。


 レオから視線を外して、ジェイの方を見た。


「さて、次はお前か?」


「レオを単独で倒すような相手と戦うわけないじゃん? と、言いたいところだけど、今回はやらなきゃいけないんだよねぇ。はー、やだやだ。こんな天気のいい日に戦争なんて趣味じゃないよ。ショッピングしたい」


「戦争なんて趣味じゃないのは私も同意見だ。ところでレオはどうする? 持って帰っていいぞ?」


 新しい魔素の体があるかもしれないが、何度来ても同じだ。私が勝つ。


「あー、それはそのままでいいよ。しばらくは動けないだろうし……さてと、今回ばかりは本気でやろうかなっと」


 そう言ってジェイは何かを取り出した。顔全部を覆うような仮面だ。


 それをジェイは顔に付ける。仮面はなんだか泣いているような顔だ。


「これが私の本体。ダーレンスレイヴみたいな名前なんかないよ。しいて言えば『クライ』かな。まあ大量生産された仮面の一つだね」


 クライ、泣くって意味の言葉か? 普段のジェイからはまったく想像できない。


 しかし、ジェイも戦うのか。やっぱり時間稼ぎが濃厚のような気がする。


「じゃ、いくよー」


 間の抜けた声だが、一瞬で距離を詰められた。ふざけていても魔素の体か。負けるとは思わないが油断はしないようにしよう。


 ジェイは体術での攻撃だ。パンチや蹴り、肘や膝の攻撃もある。超接近戦だ。


『ちょっと! フェル! 悪いんだけど、戦いながら聞いて!』


 なんだ? ジェイが小声で話し掛けて来た?


『私とレオって、今、超ヤバイの! 助けて! お願い!』


 ジェイの事だからこれも作戦のような気がする。聞こえない振りをしてぶん殴ろうかな。


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