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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十四章

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襲撃

 

「村長!」


 良くは見えなかったがレイヤが剣で村長を刺した。アンリを狙った攻撃だったが、村長が庇ったのだろう。村長は倒れ込み、床は血で溢れている。


「レイヤ!」


 スザンナが叫ぶと、スザンナの腰元にある水筒から水の塊がムチの様に飛び出してレイヤを吹き飛ばした。その隙をついて、倒れている村長へ駆け寄る。


 アンリがそばにいるが、ショックで動けないようだ。


「お、おじいちゃ……」


「アンリ! ぼーっとするな! まずは止血だ!」


「う、うん!」


 村長を抱き寄せて、腹部を見る。刺されたのは一ヶ所だけだ。まずはタオルで血を止めよう。それに治癒魔法だ。


 亜空間からタオルを取り出して腹部を押さえる。そして治癒魔法を使った。


 リエルから医学知識を教えてもらっているが、私の治癒魔法じゃ応急処置程度にしかならない。それに魔法を使い続けないと傷が開くかもしれない。このままじゃマズイ。リエルを呼ぼう。


「リエル、聞こえるか!?」


『お、おお? いきなりなんだよ? そんな大声で念話されたらびっくりするだろ?』


「村長が刺されて重傷だ! お前の治癒魔法がいる! 急いで村長の家まで来てくれ!」


『ああ!? 分かった! すぐ行く! 刺されたところを押さえて止血しながら意識を保たせろ!』


 意識を保たせる……? 話し掛ければいいと言うことだな。


「村長! 聞こえるか! 返事しろ!」


 村長はうっすらと目を開けると、周囲を見渡した。


「ア、アンリは、ぶ、無事、ですか……?」


「大丈夫だ! アンリには怪我一つない! 今、リエルが来る! それまで頑張れ!」


 一応血は止まった。だが、ちょっと血を出し過ぎだ。


「アンリ! ポーションを持ってないか!?」


 すぐにアンリが亜空間からポーションを取り出して村長に飲ませた。これで多少は持ちこたえられるだろう。後はリエルがくれば安心だ。


「アンリ、村長に話し掛けろ。リエルが言うには意識を保たせた方がいいらしい」


「う、うん、おじいちゃん! 聞こえる!?」


 村長は苦しそうにしながらも、目を開けて頷いている。もう少しの辛抱だから頑張って耐えて欲しい。


 そうだ、レイヤはどうした?


 周囲を見ると、スザンナとアーシャ、ウォルフがレイヤと戦っていた。


 レイヤの剣さばきが恐ろしいくらいに速い。スザンナが近寄れないってどれほどだ?


「チッ、お前ら邪魔だぜ?」


「レイヤ、なんであんなことを……!」


「さあな! おらよ!」


 レイヤが剣を横に一閃すると、スザンナ達が吹き飛ぶ。三人とも家の壁に激突して、崩れ落ちた。


 まずい、こっちは無防備だ。


「さて、本来の仕事をやらせてもらおうか。アンリと言うガキはお前でいいんだよな? 悪いが死んでもらうぜ? それがトラン国王の依頼だからな」


 なんでレイヤがアンリを見て確認するんだ? そんなことは前から知っているはず。それに口調が違う。まさか操られている?


 ふと、レイヤが持っている剣を見ると、以前、どこかで見た気がした。


 そうか、あれはあの時のインテリジェンスソードか。あの剣がレイヤを操っているわけだな。


 となると、やはりトランの奴らが乗り込んできているのか。くそ、私も探索魔法を使っていたのに気づかなかった。いや、それは後でいい、どうする? 今のアンリじゃ戦えそうにないし、私も治癒魔法をかけ続けていて手が離せない。


 そう思っていたら扉が勢いよく開いた。


「村長! 無事か!」


 リエルが家の中に飛び込んできた。それにもう一人いる。黒いドレスを着た妖艶な女性。おそらくリエルを護衛してきたのだろう。これは助かったかもしれない。


「ルノス! 剣を持っている奴を取り押さえろ! 絶対に剣には触れるな!」


「おまかせクモ!」


 ルノスは両手を前方に広げると「【縛】」と発した。両手から白い糸が生き物のようにレイヤへ絡み付く。


「くそ! これは糸!? テメェはアラクネか!」


「タダのアラクネじゃないクモ。進化して女王蜘蛛になったクモ。ちなみにルノスって名前クモ」


 操られているレイヤは剣を使って糸を切っているが、それよりも糸が絡みつく方が早い。徐々にレイヤを糸で拘束している。


「くそが!」


 レイヤがそう言うと、窓に向かって剣を投げた。窓が割れ、剣が外に放り出される。まずい、逃げられる。ここまでしておいて逃がすわけには行かない。


「アビス! 聞こえるか!」


『聞こえます。どうされました?』


「町に結界を張れ! 今、この町にいる奴を誰も外へ出すな!」


『畏まりました』


 これであの剣は逃げられない。後でこんなことをした責任は取らせないとな。


 だが、まずは村長だ。


「リエル、治癒を頼む」


「リエル姉ちゃん、おじいちゃんを助けて……!」


「おう、任せろ。アンリ、そんな顔すんな。目の前にいる超絶美人は、昔、聖女って言われてたんだぞ? 生きているなら助けてやるから安心してみてろ」


 リエルが治癒魔法を使うと、私の治癒魔法とは違ってすぐに傷が修復されていった。


「結構、内部まで刺さっていたようだな。そっちの修復は時間が掛かる。もう少し待ってくれ」


 リエルはさらに治癒魔法を使い続けた。相変わらず凄いな。死んでなければ治してやるという言葉はあながち嘘じゃなさそうだ。


『フェル様、結界は張り終わりました。一体なにがあったのですか?』


 アビスからの念話だ。そうだった、事情を話してなかった。


「村長がトラン国の奴に刺された。犯人は十年前に見たインテリジェンスソードだ。アイツがレイヤを操ってアンリを殺そうとしたんだが、村長はそれを庇った。今、剣だけ逃げられそうだったから結界内に閉じ込めてもらったんだ」


『そんなことが……村長はどんな感じですか?』


「今、リエルが治癒魔法をかけている。助かるとは思うが、血を出し過ぎているから心配だ」


『フェル様、もしかして村長に触れていますか?』


「え? ああ、倒れた村長を座って抱えている。触れているけど、それがどうした?」


『離れてください』


「アビス? 何を言ってるんだ? そんな事できるわけないだろ?」


『いいから離れてください。村長を抱えるのは誰か別の方に』


 アビスは何を言っているのだろう。そんな事をしている場合じゃないのに。


「よし、大体の治癒は終わったぜ。フェル、悪いけど、村長をベッドに連れて行ってくれねぇか……っと、その前に着替えねぇとだめか。服が血だらけだ」


「それでしたら私達が」


 いつの間にかアーシャとウォルフが起きていた。少々体を引きずるような感じではあるが、問題はなさそうだ。


「そうか、なら村長を頼む。私はちょっとあの剣を壊してくる。あの剣がレイヤを操って村長を刺したようだからな。落とし前を付けさせる」


「私も行く」


「アンリ、お前は村長のそばにいてやれ。目を覚ました時にアンリがいなかったら可哀想だろ? それにスザンナがまだ目を覚ましてない。村長とスザンナの方を頼む」


「うん、分かった。でも、二人が目を覚ましたらすぐに追いかける」


「急がなくていいぞ」


 アンリ達は村長とスザンナを連れて寝室の方へ向かったようだ。あっちはもう大丈夫だろう。


「フェル様、この子はどうするクモ?」


 糸で巻かれたレイヤが床に倒れている。おそらく操られていただけだから害はないと思うが、念のためこのままにしておくか。


「そのままでいい。またここへ襲撃があるかもしれないから、ルノスもここで待機しておいてくれ」


「了解クモ」


 さて、私はあの剣を追うか。私の目の前であんなことをしたんだ。あの剣を今日壊す。それは決定事項だ。


 村長の家を出ると、町では騒ぎになっていた。どうやら町全体を覆っている結界を見て驚いているようだ。


『フェル様、メノウです。町の結界はフェル様がされたのですか?』


「ああ、アビスに頼んでやって貰った。村長を刺した奴がいるんでな。逃がさないように結界を張った。村長はリエルが治癒しているから大丈夫だ」


『そんなことが……なら我々メイドが町の住人達に事情を説明しておきます』


「頼む。ただ、中にはトランの間者や兵士がいるかもしれない。気を付けてな」


『畏まりました』


 町の方はこれでいいだろう。早速あの剣を探すか。


「アビス、あの剣がどこにいるか分かるか?」


『はい、今は町の東、畑の方にいますね。何人かが外へ出ようとしていますが、まあ、無理ですね』


「分かった。ならそっちへ行ってみる」


 歩いて畑の方へやって来た。今は種を植えただけで何もできていない。これから荒らしてしまうのがちょっと申し訳ないな。


 畑の端に何人かが固まっているのが見えた。見知った顔もいる。


「久しぶりだな。レオ、と言ったか?」


「名前を覚えてもらえるとはありがたい事だな……この剣に用事か?」


 レオが村長を刺した剣を鞘から抜いた。


「ああ、その剣を置いていけば、見逃してやってもいいぞ」


「関係ない奴を刺したのは悪いと思っている。できれば全員見逃してほしいのだが?」


「悪いと思っているから許してくれという話なのか? なら答えよう。反省していようが、後悔していようが、許す気はない。その剣は、今日、ここで壊れる。諦めろ」


 レオは大きくため息をついた。


「分かった。なら体の主導権はコイツに渡す。好きにしてくれ――おいおい、俺に全部任せる気かよ」


 口調が変わった。今はあの剣がレオを操っているのだろう。


「もう一度聞きてぇんだが、見逃してはくれねぇんだな?」


「ああ、見逃す気はない」


「そうかよ。でも俺を壊す? それは無理じゃねぇか?」


「理由を聞いても?」


「それは――」


 レオは一瞬で私の前に移動した。


「俺が強いからさ!」


 剣を横薙ぎにしてきた。だが、それを躱すことなく左の掌で受け止める。そして剣を握り込んだ。


 レオの顔が驚愕に染まる。


「そうだな。お前は強いのだろう。だが、私はもっと強い。その程度の実力で私に勝てると思っているなら――」


 周囲が急に重くなった気がした。空気が重いというか、息が苦しいというか。それに妙に静かだ。周囲の生き物全てが息をひそめるような感じになった。


 私とレオが同時にある方向を見る。町の方だ。


 静寂と言っていいほど何も聞こえない状態で、土を踏む足音だけが妙に大きく聞こえる。


 こちらに向かってアンリが歩いている。背中には魔剣を背負っていて戦闘態勢だ。そして恐ろしいほどの殺気を纏っている。


 アンリは五メートル近くまで歩いてきてから止まった。


「フェル姉ちゃん、その獲物は私に譲って。これは私がやるべきこと」


「その前に村長は大丈夫だったのか?」


「大丈夫。リエル姉さんの治癒魔法で事なきを得た」


 まずは一安心だな。でも、アンリが言う獲物、つまりこの剣のことか。譲るのはいいが勝てるだろうか。正直、私の見立てではアンリの方が弱い。


 まあ、いざとなったら介入すればいいか。


「分かった。これはアンリがやるべきだろう。でも、無理はするなよ?」


 そう言って、剣から手を離した。


 レオは私と距離を取ってからニヤニヤと笑い出す。


「おいおい、仕留めそこなったのにターゲットの方からやってきてくれたぜ。悪いが戦うなら殺す気でやるぜ?」


 レオの挑発気味の言葉に対して、アンリは無表情だ。


「それはこちらも同じこと。言っておくけど、墓もたてないし遺言も聞かない。鍛冶師に頼んで素材にまで戻してあげるから有効利用されるといい」


「チッ、ガキが。相手との力量差も分からねぇのか」


「私は今日、成人した。ガキじゃない。それと、なるつもりはなかったけど、こんなマネをするようなら、トラン国を弟に任せておけない。だから私がトラン国の王になる。私の事はガキじゃなくて王と呼んで」


「なんだと?」


「聞こえなかった? あの程度の国なんていらなかったけど、ダメな国王に任せるつもりはない。だから返してもらうって意味」


「……ハッハー、面白いガキだぜ。だが、王? そりゃ無理だ。お前はここで俺に殺されるからな!」


「あの距離で本命を殺せない三流剣士が私を殺すというのは何かの冗談? 笑っていい所?」


「俺が……三流剣士……?」


「間違えた。三流の剣だった」


 おう、アンリの挑発が酷い。レオが青筋立てて怒ってる。


「殺す! 絶対殺す! なぶり殺しだ! 跪かせて命乞いさせてやるぞ!」


「できるならやってみるといい。そうそう、忘れているかもしれないからもう一度言っておく。私はトラン国の王。さっきから頭が高い。まずは貴方が跪いて。命乞いをしても許さないけど」


 挑発勝負はアンリの勝ちかな。


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