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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十四章

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迷宮の町

 

 村長達に見送られ家を出た。


 アンリが本当の事を知る年齢……村長は昔、十五歳になったら教えると言っていた。それを聞いたのはアンリが五歳の頃だ。あれから十年経ったことになる。いつの間にか、そんなに経ったんだな。


 ふと思い立ち、周囲を見渡した。


 あの頃の名残はたくさんあるが、随分とこの村も変わった。正確にはもう村ではなく町だな。


 迷宮の町、ソドゴラ。


 アビスというダンジョンがあるから発展した町と言うことで、今ではそう呼ばれている。


 いまや村長も村長ではない。いまでは町長だ。いまだに私は村長と呼んでいる。いや、あの頃から住んでいる皆は村長と呼んでいる。町長と呼ぶのは新参者だ。


 アビスというダンジョンの情報が展開されてから多くの冒険者が来ることになった。それにヴィロー商会の社員などもこの村に住むようになり、たった数年で村は町の規模になった。今は常時五百人くらいいるだろうか。


 大半は冒険者で森の妖精亭、いや、今は名前が変わって妖精王国か。そこをねぐらにしている。ここに家を持って住んでいるのは二百人もいないだろう。それでも、この広場を中心に森を開拓していき、随分と広くなった。昔は店と言えばヴァイアの雑貨屋ぐらいだったのに、今では色々な店がある。


 それはそれで寂しい感じがするが、村が大きくなるのは何となく嬉しい気もする。あの頃のままでいて欲しいと言う気持ちと、もっと発展して欲しいと言う気持ちがせめぎ合ってる感じだ。


 なんだか感傷的な気分になってしまったな。


 まあいい。行動を起こそう。今日はルハラへ行けない。行くなら明日だ。やるべきことをやってから準備をするか。


 まずは冒険者ギルドへ行こう。


 広場を歩き冒険者ギルドの前へ移動した。入る前にギルドの建物を眺める。


 冒険者ギルドは随分と大きくなった。昔は閑古鳥だったのに、今では多くの冒険者が出入りしている。掲示板に依頼なんか一つもなかったんだぞ、と言っても、信じてもらえないかもしれないな。


 ギルドの入り口から中へ入る。建物が大きくなった分、中も広くなった。カウンターは五ヶ所もあるし、テーブルは十もある。同じ規模で二階もあるはずだ。


 いままでは気にしてなかったけど、十年という年月を意識したからかな。随分と変わった、としみじみ思ってしまった。


 ここへ来るのも一ヶ月ぶりだ。亜空間にある魔石の量も多い。とっとと換金してしまおう。


 入り口から換金カウンターまで移動しようとすると、強面の男達に囲まれた。またか。


「おう、嬢ちゃん。ここはお前みたいな子供が来るところじゃねぇよ。痛い目に合わないうちに帰ったほうがいいぜ?」


 私を心配して助言している、という理由じゃなさそうだ。取り囲んだ奴らと一緒にニヤニヤしている。子供が入って来たから怖がらせようとしているのだろう。しかも周囲から見えないように他の奴らが壁になっているようだ。


 来るたびに、毎回違う奴が私に絡んでくる。ギルドで何とかしてくれないかな。ここへ初めてきた冒険者には、絡んではいけない人と言うのを教えておいてもらいたい。


「分かっていないようだから教えてやるが、私は魔族だ。絡む相手をよく見たらどうだ?」


 そう言うと、男達は少しだけ眉をひそめて私を見る。そのまま退散すると思ったが、予想外に笑い出した。


「頭に角が生えてるぜ! 本物の魔族かよ!」


「分かったらどけ。邪魔だ」


 男達は何を言われたのか分からなかったようだ。一瞬だが時が止まったかの様に微動だにしなくなった。だが、今度はもっとムカつく感じの顔でニヤニヤしている。


「おいおい、知ってるぜ? 魔族は人族と敵対しちゃダメなんだろ? 魔王の命令とかでなぁ? 殴られたってやり返さねぇって評判だぜ?」


 殴られたところで命の危険はない。だから人界に来ている魔族はやり返さない。蚊に刺された程度だからな。むしろ、痒くなるから蚊の方が強い。


「魔族なのにビビってるぜ! 仕方ねぇな。ここは一つ俺が指導してやるよ!」


 黙っていたら、男達が調子に乗った。私が図星を突かれて困っているとでも思ったのだろう。


 目の前の男が右手で殴りかかって来た。


 比喩ではあるが、鈍すぎてあくびが出る、そんな遅さだ。


 遅いパンチを必要最低限の動作で躱す。当たると思っていたのだろう。男は勢い余って転んだ。近くのテーブルに突っ込み、大きな音を立てる。


 なんだか物騒なところになったな。荒くれ者が多くなったと言うかなんというか。人が増えた弊害なのかダメな奴も増えた。こんな奴らはすぐに排除してもらいたい。


 大きな音をたてたから、ギルド内の全員がこちらに気付いたようだ。私を見て息を呑む奴、笑い出す奴、男達の方を憐れむ奴、そして真っ青になる受付嬢、反応は色々だな。


「て、てめぇ! 何しやがる!」


 殴りかかってきた奴が立ち上がると、怒りで顔が真っ赤だった。なんで怒っているのだろう? 勝手に転んだのに。いや、まあ、分かるな。私が避けたことに怒っているということか。理不尽すぎる。


 しかも今度は腰に差していた剣を抜いた。マジか。ここまでの馬鹿は初めてだ。こんな奴がこの町にいると思うだけで虫唾が走る。


「もう許さねぇ! 腕の一本は覚悟しな!」


「許さない……? それは私のセリフだ。この町でそんな真似をする奴を見逃すつもりはない」


 攻撃のモーションに入ろうとしたところで、「待ってください!」という大きな声がギルドに響き渡った。どうやら受付嬢がカウンターを飛び越してきたようだ。


「待って! 待ってください! フェルさん、待って!」


「おい、ギルドはどうなってる? なんでこんな奴らを野放しにしてるんだ? ウェンディ達はどうした?」


「すみません! 今、ウェンディさん達はアビスを攻略中でして、一週間ほど留守にしているんです。この方達はミスリルランクで取り締まることも出来ず……」


 アビスの攻略か。ならユーリ達も一緒か? アダマンタイトが誰もいないのかよ。面倒くさい時に来てしまったな。


「ギルドマスターは?」


「ネヴァさんなら、今、呼びに行ってます!」


 なら、そっちに任せるか。できるだけ、面倒な事はしたくない。


 と思ったが、男が切りかかって来た。とっさに受付嬢を抱き寄せて躱す。


「ちっ! チョロチョロしやがって!」


「お前、さっきから何の真似だ? 死にたいのか?」


「死ぬのはテメェだよ! 女子供でも、魔族を倒せたなら俺は英雄だからな! 魔王の命令で反撃できない魔族なら怖くねぇ! 俺のために死ね!」


 ネヴァを待とうかと思ったけど、そうも言ってられないな。


 受付嬢を庇うようにして、男の前に立った。


「魔族の怖さを教えてやろう。授業料はお前の冒険者生命だ」


 男達に殺気を放つ。周囲にまき散らす感じではなく、ピンポイントの殺気だ。まあ、近くにいたら巻き込まれるだろうけど、皆は離れているから大丈夫だろう。


「がっ、はっ」


 男とその取り巻きが膝をつく。私の殺気で動けないようだ。


 一歩一歩動けない男の方へ歩く。


「て、てめぇ、な、なに、しや、がった!」


「私の殺気を受けても喋れるか。ミスリルランクと言うのは伊達じゃないようだ。まあ、正規な手順でなったランクなのか怪しい所だがな」


 どんなものにも抜け道という物がある。不正な方法でランクを上げる方法もあるわけだ。単に強いだけじゃランクは上がらない。こんなことをする奴がミスリルランクになれるとは思えないな。


「お、お前は、魔族、だろ!? こ、こんな、こと、したら、魔王の、命令に、背くんじゃ、ないのか!?」


「なんで私が魔王の命令を聞かなくてはならないんだ?」


「な、何を、言って、やがる! 魔族、は、魔王の、命令に、絶対、服従だろ!」


「詳しいな。だが、私は例外だ。私に命令できる魔王様は唯一人。それは今の魔王ではない。さて、お喋りが過ぎたな。死んだほうがマシだと思うほどの恐怖を与えてやる。この町でこんな真似をした罰だ。トラウマを抱えて生きていけ」


 更に一歩踏み出し、男へ近寄った。既に息ができるかどうか怪しい状態だろう。さらに殺気を強くして意識を奪うか。


 そう思ったところに二階から走ってくるような足音が聞こえた。そして二階からの階段から姿を現したのはネヴァだ。


「フェルさん! あ、あら? 思ったより壊れていないようですわね?」


「殺気で動きを止めただけだ。以前、こういう奴らを叩きのめしたら、建物が半壊したからな。今日は自重した。でも、過去最高に許せん奴らだぞ?」


 男達はいつの間にか気絶していた。しばらくはそのままだろうから、もう大丈夫だろう。


「申し訳ありません。ちょうどウェンディ達がアビスへ行っている時に来た冒険者でして、対応が遅れてしまいました」


「ウェンディ達じゃ無くても抑えられたと思うんだがな?」


 そう言って周囲を見たら、冒険者達は目を逸らした。


「重ね重ね申し訳ないですわ。この男はとある貴族の三男なのです。本人の強さもあるのですが、実家の力と言うのもありましたので、根回しに時間がかかってしまいました」


「人族は面倒なことが色々あるな。でも、根回しはもう大丈夫なんだろ? なら牢屋に放り込んでおいてくれ」


「畏まりました。それじゃ皆さん。手伝ってくれた方には、妖精王国の割引クーポン券を差し上げます。この男達を地下の牢屋へ運んでくださいな」


 効果てきめん。皆が奪うように男達を担ぎ出した。できなかった奴らが泣いて悔しがるほどだ。実は私も欲しい。


「はい、それじゃ皆さんはいつも通りになさってくださいね。分かっていると思いますが、ここで問題を起こしたら、ギルドどころかこの町から去って貰うことになりますよ」


 ネヴァがそう言うと、冒険者達は「へーい」と返事しながら、倒れたテーブルや椅子を元の位置に戻し、いつも通りのギルドになった。


 助けた受付嬢も私に頭をさげてからカウンターに戻った。なんで、私を見る時の顔が赤いのだろう? 怒ってんのか? アイツらが悪いんだぞ?


 ネヴァが全体を見渡してから、一度だけ頷く。


「これでいつも通りですわね。それにしてもフェルさん、久しぶりですわね。一ヶ月ぶりくらいでしたかしら?」


「そうだな……そうそう、ここへは魔石を換金しに来たんだ。対応を頼む」


「それでしたら、私が対応致しますわ。こちらへどうぞ」


 案内されたカウンターでネヴァが対応してくれた。ネヴァが対応してくれる前に「ずるい」とか「職権乱用」とか受付嬢が言ってたけど、あれは何なのだろうか。


 まあいい、大したことじゃないだろう。


「それじゃ、これとこれを頼む。それと小さい魔石はこっちの袋にまとめておいた」


 巨大な二つの魔石と、小さい魔石を亜空間から取り出し、カウンターに置く。周囲から感嘆の声が上がった。大きい魔石を取り出すといつも同じ反応だ。ちょっとだけ気分がいい。


 ネヴァも大きく息をついた後、モノクルを取り出して、魔石を触りだした。


「相変わらずフェルさんが持ってくる魔石は大きいですわね。でも、よろしいのですか? ヴィロー商会に持っていけば、ここよりも高値で買ってくださいますわよ?」


「別に構わない。どうせこの魔石はヴィロー商会へ行くんだろ? ひと手間掛かるがその差分がギルドの収入になるんだから問題はないと思うぞ」


「ギルドとしてはありがたいんですけど、ピンハネしているみたいで気が引けますわね」


 そうかもしれないが、私が直接ヴィロー商会へ行くと色々面倒なことをお願いされることが多い。その分、接待はしてくれるのだが、はっきり言って面倒だ。極力行きたくない。


「ええと、全部で大金貨が五十二枚、小金貨が五枚ですわ。全部換金しますか?」


「ああ、そうしてくれ。お金は全部ヴィロー商会に振り込んでくれればいい」


 魔界へ送る食糧を買うお金が必要だからな。手持ちのお金が少なくなる以外は全部振り込んでおかないと。とはいっても、エルフ達から提供されるもので相当なお金を稼いだ。食糧の供給でお金が足りなくなるということはないだろう。


 それに人界へ来ている魔族達も同じようにお金を稼いでヴィロー商会へ振り込んでいるらしい。ありがたいことだ。


「それでフェルさん。やはり素材の方は――」


「すまないな。素材の方はディアの店に売るつもりだ。牙や角なんかも工房に売る契約になっているので、ギルドへは売らない」


 私はディアの店やドワーフの工房と専属契約と言うのを結んでいるらしい。承諾したつもりはなかったのだが、いつの間にかそうなってた。別に構わないからそのままだ。


「残念ですけど、仕方ありませんわね。素材に関してはウェンディ達に任せますわ」


「そうしてくれ。それじゃ邪魔したな。これからディアの店へ行ってくる」


「はい、いってらっしゃいませ。ご利用ありがとうございました」


 ネヴァや受付嬢に見送られながらギルドを出た。


 次はディアの店だ。来るたびに店が大きくなっているからな。ちょっと楽しみだ。


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