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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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新しい命

 

 ソドゴラ村に平和が戻った。


 教会で籠城するリエルが、ヴァイア達と和解したからだ。朝から変な体力を使わせるな。なんとなく駄々をこねたくなる気持ちは分からんでもない。でも、本気で邪魔しちゃダメだろう。


 とりあえず、森の妖精亭まで戻り、いつものテーブルについた。私とリエル、ヴァイア、ディア、そしてノストもいる。


「リエル、今日の昼食はお前の奢りだぞ?」


「まあ、迷惑を掛けたとは思ってるから奢ってやってもいいぜ。ヴァイアが独身なのは後三日だ。それまでは俺達と食事しよう。どうせ結婚したら、ノストとの食事ばっかりだろ? だから結婚するまでヴァイアは俺達に付き合えよ?」


「う、うん、それじゃ三日間は皆と食事するようにするよ。えっと、ノストさん、いいかな?」


 ヴァイアの問いかけにノストが微笑んだ。こう見ると既につがいみたいだ。結婚式って必要なのだろうか。


「ヴァイアさん、それでしたら私はしばらく別に食事をしますよ」


「え、ノストさんも一緒に……」


「嬉しく思いますが、皆さんだけで食事をされた方がより楽しくなると思いますよ。それに、ヴァイアさんとは夜に会えますから」


「そ、そうですね! それじゃ夜に!」


 ノストは皆に「では失礼します」と言って、頭を下げてから宿を出て行った。


 直後、テーブル越しにリエルがヴァイアに詰め寄った。


「おう、ヴァイア、夜にノストに会って何する気だ、コラ。まさか人には言えねぇような事をするつもりじゃねぇだろうな?」


「ちょ、ち、違うよ! 寝る前にちょっと挨拶するだけだよ! いつもそうしてるの!」


「ほう? つまり、挨拶だけだって誓えるんだな? 決してそれ以外の事はしてねぇと……なんで目を逸らした?」


 ヴァイアがリエルに尋問を受けている。ヴァイアの態度から見ると、まあ、挨拶だけじゃないんだろう。でも、そういうのは聞くなよ。察するって大事。


「お前ら、こんな朝っぱらからそんな話をするな。そんな事よりも結婚式について話が聞きたい。村長は三日後とか言ってたけど、準備できるのか? 料理とか大丈夫か? そこ、大事だぞ?」


「フェルちゃん、ヴァイアちゃんの結婚式なんだから、料理より大事な事があるでしょ?」


「ディア、今回はヴァイアの結婚式だぞ? 貧相な感じの結婚式になったら嫌だろ? こう、盛り上げないと。料理が多ければ手っ取り早く派手になると思う」


 前回の結婚式しか見てないから、それしか比較できないけど、できればあれ以上に派手にやって貰いたい。


「それなら大丈夫だと思うよ。ヴァイアちゃんの結婚式だから、ニアさんがかなりやる気になってるし、ヴィロー商会にも色々食材を頼んでたから」


「それはよかった。それじゃウェディングドレスは? あれは簡単に作れる物じゃないだろ? ディアが作ってるのか?」


 ディアが嬉しそうに「そうなんだよ!」と答えた。


「本当は最初から作りたかったんだけど、流石に時間がないからね、ニアさんのウェディングドレスを手直ししてヴァイアちゃんのウェディングドレスにしたんだ。もうできてるんだよね。はっきり言って、やばいくらい素敵」


「うん、私も一度着させてもらったんだけど、自分じゃないみたいだったよ!」


「そうなのか。なら準備は問題なさそうだな……なんでリエルは難しい顔をしているんだ? 何か問題か?」


 リエルが腕を組んで、眉間にシワを寄せている。


「ドレスの手直しって言ってもそれなりの時間がかかるだろ? 俺、ヴァイアの結婚の話を昨日聞いたんだけど、時系列がおかしくねぇか? なんでできてんだよ?」


「いや、だって、リエルちゃんにヴァイアちゃんの結婚のこと話したら、ああなるって分かってたし。だからフェルちゃんが帰ってくるギリギリまで言わなかったんだよ」


 私をリエルにぶつける気だったのか。結局私は何もしなかったけど。


「俺をそこまで信用してねぇのかよ?」


「ものの見事に教会に籠城して駄々こねてたよね?」


 これはどう考えてもディアが正しい。仕方ない、私がリエルを納得させるか。


「リエル、いつも自分より先に結婚するなとか言ってるから、ヴァイアが言い出しにくかったんだ。信用してなかったわけじゃないと思うぞ」


「う、ま、まあ、そう言うこともあるかも知れねぇけど、親友なら最初に言うだろ? 言ってくれれば、俺だって祝福したぜ?」


「いや、お前、今の今まで教会で駄々こねてただろうが。ついさっきの事だぞ? というか、子供達にも自分より先に結婚するなって言ってるらしいな? 正直ドン引きだ」


 ディアのリエルを見る目が、人を見ている目じゃない。形容しがたいけど、あれは道端の石ころを見る目だ。多分、私も話を聞いた時はそんな目をしていたと思う。


 リエルは少し慌てた感じで首を横に振った。


「いや、違うんだよ。だってアイツらモテそうじゃね? なんかとっとと結婚しそうな気がする。年功序列って知ってるか? 順番があんだよ、順番が」


 なにが違うのだろうか。まさに嫉妬じゃないか。


 リエルも黙っていればモテるはずなんだけどな。それを一番理解してないのがリエルだ。残念過ぎる。


「リエルがそんなだと、子供達もギリギリまで自分たちの結婚を報告しなくなるぞ? 下手したら、お前に内緒で結婚するかも。そんなの嫌だろ? 子供達のために精霊を呼んでやりたいだろ?」


「まあ、そうだな。アイツらが結婚するなら、俺以外の奴に精霊を呼ばせるわけにはいかねぇ……分かったよ、俺より先に結婚するなって言わないようにする」


「分かってくれたか。ついでにヴァイアの結婚報告が遅くなったのも自分のせいだと思え。リエルがそんなことをずっと言ってる事が原因だからな。それにヴァイアは私達三人が祝福しないなら結婚しないとまで言ったんだぞ? それは親友だからだ」


 リエルが大きく深呼吸をしてから頷いた。


「分かったよ。今回は全面的に俺が悪い。これからは信用されるように振る舞うぜ」


 私達からはともかく、子供達からは聖母様と言われて慕われているからな。ちゃんとして欲しい。子供達がリエルみたいになったら困る。


「あー、でもよ、これは反対してるわけじゃねぇんだけど、やっぱり結婚するのは早すぎねぇか? もちろん魔術師ギルドの事は知ってるけど、子育てと魔術師ギルドの両立は難しいと思うぜ?」


「う、うん、そうなんだけどね――」


 ヴァイアが何かを言いかけたときに、宿に誰かが入ってきた。


「フェルさん、おかえりと聞いて挨拶に伺いました」


 入って来たのは二人。結婚男と結婚女だ。名前は……忘れた。そんなことよりも、結婚女の方が大変な事になっている。


「えっと、久しぶりだな。最近見なかったんだが……その、食べ過ぎか? 食べ過ぎは体に良くないぞ?」


「いえ、違いますよ。ほら、オリエ、君の方から」


 オリエと呼ばれた結婚女が近寄ってきた。顔は笑顔、というよりも慈しむ感じと言えばいいのだろうか。微笑みと言うかなんというか。


「フェルさん、おかげ様で赤ちゃんを授かりました。どうしても私の方から報告したくて……これもフェルさんのおかげですから。本当にありがとうございます」


 赤ちゃん……?


 オリエは大事そうにお腹を抱えている。食べ過ぎじゃなくて、お腹には赤ちゃんがいる?


「そ、そうか。それは、おめでとう。でも、大丈夫なのか、歩いて。寝てなきゃダメだろ? あと、冷やすのもダメなんだよな? アレか、火か? 火を出せばいいか? 私の魔法なら火力は高いぞ? あとはお湯か。お産にはお湯が必要なんだよな? オリン国にある温泉から汲んでくればいいか?」


「フェルちゃん、落ち着いて」


「何言ってんだ、ディア。私は落ち着いている。魔族だって子供を産むんだ。それくらいの知識はある。そうだ、味覚が変わるんだよな? すっぱいものが好きになるとか……リンゴじゃダメだな。しまった、持ってない。私はなんて無力なんだ」


「あのね、フェルちゃん、出産まではまだかなり時間があるから。大丈夫だから。ちょっと落ち着いて深呼吸して」


「深呼吸? あれか、ひっひっふーってやつだろ? 任せろ、完璧にやってやる。ひっひっぐふぇ、ごほ!」


「フェルちゃんがその呼吸をしてどうするの。しかもできてないよ……いいから落ち着いて。そんなに慌てているフェルちゃんなんて初めて見たよ?」


 落ち着け? そうか、クールになれと言うことか。それは得意だ。リンゴを食べよう。それで落ち着くはずだ。五個ぐらい食べよう。


「よお、体の調子は大丈夫か? この間、診てやったばかりだけど、その後どうだ?」


 リエルがオリエに向かって問いかけた。そうか、リエルは医学に詳しい。妊娠の状態にも詳しいのかも知れない。


「おかげさまで大丈夫よ、リエルちゃん。でも、本当に助かるわ。助産婦の経験がある人は多いほどいいから」


「女神教でそういうのは結構やってたからな。何かあればすぐに呼べよ?」


 そうか。リエルはお産を手伝ったことがあるんだな。それに治癒魔法の使い手だ。お産でこれほど頼りになる奴はいない。お産は下手すると母子が危険になるからな。魔族でもお産の時は治癒魔法を使える奴をそばに置いておくものだ。


 ……あれ、もしかして、ヴァイアが結婚を早めにする理由ってこれか?


 ヴァイアの方を見つめると、照れたように下を向いた。どうやら正しいようだ。多分、ヴァイアはリエルにお産を手伝ってもらいたいのだろう。


「それじゃ、皆。お邪魔をしちゃ悪いからもう帰るわね。そうそう、私、今、すごく幸せよ。それもこれも全部フェルさんのおかげ。本当にありがとうね」


「全部は言い過ぎだ。まあ、ほんのちょっとは私のおかげかもしれないが、残りは全部オリエ達が頑張ったからだと思う。いつか赤ちゃんが生まれたら見せてくれ」


「見るだけじゃなくて、その時は抱いてあげて。絶対に喜ぶわ。それじゃあね」


 オリエと結婚男は礼をしてから宿を出て行った。


「私は始めて知ったんだが、皆は知ってたのか?」


 どうやら全員知っていたようだ。リエルなんかは定期的にオリエを診ているらしい。そっか、最近ソドゴラ村にいないことが多かったし、宴でも見なかったからな。今日始めて知って驚いた。


 そうか、赤ちゃんか。新しい命が生まれるのか。


 いつかヴァイアとノストの子も生まれるのだろう。


 さらにその子の子供もいつか生まれる……そんな風に何世代も先まで私は見ることができる。それは素晴らしい事のはずだ。それが不老不死である私の楽しみになればいいな。


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