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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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籠城

 

 昨日は結構遅い時間にソドゴラ村へ着いた。


 朝、いつもの部屋で目を覚まし、準備に取り掛かる。まずはシャワーを浴びよう。


 暖かいお湯を頭に受けながら、昨日の事を思い出す。


 初めて人界を見る奴らは感動していたな。私もそうだったからよく分かる。初めて見る太陽は素晴らしい。明るさもそうだけど、暖かさを感じるからな。魔界で暖かいのは火か溶岩ぐらいだ。


 感動していたラボラとフフルは、ドレアが帝都の方へ連れて行った。私が一ヶ月程眠っていたこともあって、かなりの期間、ドレア達が不在だったからな。


 さすがにそれくらいでルハラからの魔族へ対する評判が下がるとは思えないが、できるだけ評判を上げてもらいたいし、とっとと移動してもらった。おそらく今日中には帝都に着くだろう。


 ドレアにはお願いしておいたが、ラボラとフフルにも、ウルを鍛えろとお願いしておいた。ディーンを放置しておくと色々問題が起きそう。とっとと決着をつけておきたい。


 ウルをディーンに勝たせて嫁になるように仕向けることが最優先課題の一つだと伝えた。本当はオリスアにウルを鍛えさせてたかったんだけど、オリスアには魔王をやってもらうことになったからな。オリスアよりも弱いが、ラボラもフフルも強いから何とかなるだろう。


 ガリプトとルントブグには大量のお酒を持たせた。クリフには申し訳ないが、ズガルの人族代表として頑張って貰いたいから、その励ましというかなんというか……謝罪に近いかな。


 魔族の代表はガリプトにした。獣人の代表はまだ決まっていないけど、オルドと相談して決めてくれと伝えた。オルドはズガルに結構な獣人を連れて来ていたらしい。合議制になったら最初は混乱するだろうが、色々な種族がいるんだから王政よりは良くなる気がする。丸投げとも言うけど、仕方ないよな。


 残りはカブトムシのゴンドラに乗ってソドゴラ村を目指した。


 事前にカブトムシには連絡していたから、ゲートを出た時には既に迎えに来ていたな。仕事が早いというか、移動速度が速いというか。ゴンドラもパワーアップしていたし、なんか青雷便のロゴマークを作りましたとか言って自慢していた。


 それにしても、カブトムシの運ぶゴンドラに乗れば、一日で村まで戻って来れるというのが驚きだ。実際に乗った自分でも信じられない。まあ、カブトムシもかなり張り切ったのだろう。相当なスピードを出していた。連れてきた猫の獣人が気絶するくらいだったし。


 さすがにジョゼフィーヌが連れてきた魔物達、ミスリルタートルは大きすぎてゴンドラに乗れなかった。全長十メートルの亀じゃな。試すまでもなく無理だ。


 それとジョゼフィーヌが帰りにも遭遇したデイノスクスを倒して一緒に連れてきた。このワニもゴンドラに乗せられないので、ジョゼフィーヌ達は徒歩で村に向かっている。おそらく、明後日くらいには到着するだろう。


 シャワーを浴びながら色々思い出していたら目が覚めてきた。シャワーの出る魔道具を止めて、タオルで体を拭く。髪の毛を乾かしてからいつもの服に着替えた。


 単純にこの服が気に入っていると言うのもあるが、私が魔王様にお仕えしている従者であることの証明でもある。オリスアが魔王と言う名前を私から預かっているのと同じだ。理由はともかく、私は魔王様から従者として選ばれた。魔神でもなく、魔王でもなく、魔王様の従者。それを肝に銘じておくための服装だ。


 準備を整えて部屋を出る。食堂の方からいい匂いがしてきた。早速食事にしよう。


 食堂までくると、ヤトと連れてきた二人の猫獣人がウェイトレス姿だった。なんでだ。


「お前達、いいニャ! アイドルは一日してならずニャ! ここでウェイトレスをしながら、アイドルの修行をするニャ!」


 ヤトがそう言うと、二人の獣人は「サー、イエッサーニャ!」と言っている。


「えっと、皆、おはよう。話しかけても大丈夫か? ダメならやめておくが。むしろダメだと言って欲しいのだが」


「あ、フェル様おはようございますニャ。もちろん大丈夫ですニャ」


 ヤトの挨拶に合わせて二人も「おはようございますニャ!」と元気に挨拶してきた。


 色々話を聞くと、どうやら猫獣人の二人もウェイトレスとして雇われたらしい。昨日、夜遅くにチェックインしたのだが、私が知らないうちにロンが交渉したそうだ。そもそもヤトもそのつもりだったらしいので、ウェイトレスをしながら三人でアイドル活動を頑張るとのことだ。


 ヤト、昔のお前はどこへ行ったんだ。重症というか手遅れというか……まあ、血なまぐさいことから脱却するのも悪くないかな。獣人の立場を向上させたいとか言ってたし、その方がいいのかもしれないな。


 とりあえず話は聞いたので朝食を頼んだ。


 朝食を待っていると、ニアがやってきた。ニアが朝食を運んでくれるのは珍しいな。


「おかえり、フェルちゃん。久々の里帰りはどうだったんだい?」


「ああ、色々と収穫はあった。懐かしいと思うほどの期間でもないが、魔界を離れるのは初めてだったからな、それなりにノスタルジックな気分に浸れた気がする」


「そりゃよかった。それじゃ、ゆっくりしていきなよ。そうそう、今日は色々とお願いされることが多いかもしれないから、できるだけ聞いてあげてくれないかい?」


「そうなのか? 分かった。できるだけお願いは聞いてやることにする。まあ、無理のない範囲だけどな」


 そう言うと、ニアは笑顔で頷き、厨房の方へ戻って行った。


 さあ、まずは朝食だ。それにしても、この目玉焼きにはいつも考えさせられる。潰すべきか潰さざるべきか、それが問題だ。




 朝食の後、ニアの言う通り、テーブルでゆったりしていたら、村長がやってきた。アンリとスザンナもいる。だが、それに混じってクルもいた。ルハラへ帰ってなかったのか。


「フェルさん、おかえりなさい」

「フェル姉ちゃん、おかえり。お土産は?」

「おかえり、フェルちゃん」

「えっと、おかえりなさい?」

「ただいま。わざわざ挨拶に来てくれたのか? それはありがとう。でも、お土産はないぞ」


 結構嬉しいものだな。帰って来たって感じがする。でも、どう考えてもクルの存在に違和感がある。まずはそれを聞いた方がいいかな。


「えっと、クルだよな? ルハラに帰らなくていいのか?」


「うん、アビスで修行することにしたし、村長さんに勉強を教えてもらってるんだよね。それと、アーシャさんに魔法の術式を教わっているから」


「そうだったのか。でも、アーシャって誰だ? 初めて聞く名だが」


 いつの間にか私の膝に座っていたアンリが手をあげた。


「何を隠そうアンリのお母さんの名前。二つ名は灼熱。灼熱のアーシャ。アンリもいつか格好いい二つ名が欲しい」


 アンリの母親……? そうか、本当の母親じゃなくて村長の家にいる母親の事か。


「そういえば、アンリの母親は熱魔法の調整ができなかったな。ダメな二つ名がついてるような気がするから、あまりばらさない方がいいぞ」


「うん。滅多に言わない。ちなみにフェル姉ちゃんはアンリの中で、暴食って二つ名を付けてる。暴食のフェル。キメ台詞は『底なしの胃に食われるがいい』」


「本人の知らないところで変な設定を付けるな。それに、その二つ名はジョゼフィーヌに付けてやれ。暴食のジョゼフィーヌだ」


 暴食の大罪を背負ってるしちょうどいいと思う。さて、そろそろ村長の話を聞かないと。脱線しすぎた。


「ところで村長。私に用なのか?」


「ええ、実は宴を開こうと思いまして、打診をしに来たのですよ。フェルさんはしばらく村にいらっしゃいますか?」


 実は明日には村を出て遺跡へ向かう予定だった。昨日、アビスからオリン国に未発見の遺跡があったとか聞いたので、行ってみようと思ったのだが。でも、宴か。参加したいと言えば参加したい。でも、何の宴なんだろう。この村って宴ばかりしているイメージなんだが。


「なにもなければ、明日にでもオリン国へ行こうと思ってた。でも、とくに急ぎではない。宴が二、三日中なら待つぞ」


「そうでしたか。なら宴は三日後でお願いできますか? 本人達もそれなら問題ないと思いますので」


「三日後か。問題はないが、何の宴なんだ?」


「それは私の口から伝えるよりも本人達に聞いた方がいいでしょうね。皆、二人を連れて来てくれないかい?」


 アンリ、スザンナ、クルが頷いてから宿を出て行った。


「村長? 一体なんなんだ?」


「はは、まあ、お待ちください。今、三人が連れて来ますので」


 連れてくる? 一体誰のことなのだろう?


 しばらく待つと、アンリ達に連れられて、ヴァイアとノストがやってきた。


 ヴァイアがこちらへ近づいてきて、顔を赤らめながらも笑顔になる。


「おかえり、フェルちゃん」


「ああ、ただいま。えっと、どうした? 熱でもあるのか? リエルを呼んだ方がいいんじゃないか?」


「だ、大丈夫、病気じゃないから。うんとね、フェルちゃんに私の口から伝えておきたくて」


 さっきからもじもじしている。お手洗いとかじゃないよな? 一体なんだろう? 宴に関係あるのか?


 ヴァイアが大きく深呼吸してから、むせた。大丈夫だろうか。


「あ、あのね、フェルちゃん。私、その、け、結婚することにしたんだ。結婚式にフェルちゃんも出て欲しくて帰ってくるのを待ってたんだけど、その、大丈夫かな?」


 一瞬だけ頭が真っ白になった。ヴァイアが結婚する? 私が結婚式に出る?


「ヴァイア、よく聞いてくれ。私はお前と結婚する気はないんだが……」


「違うよ! 私とノストさんが結婚するの! フェルちゃんは友人代表として結婚式に出て欲しいの!」


「ああ、そういうことか。いきなりでびっくりした」


「どうしてそう思ったのか私の方がびっくりだよ……で、どうかな? フェルちゃんが出られないなら、結婚式は中止しても――」


「出ないわけないだろ。私にもやることはある。だが、ヴァイアの結婚式に参加しなければ、私は一生後悔する。どんな事情があっても参加すると誓おう」


 そう言うと、ヴァイアが抱き着いてきた。ヴァイアの抱き着きは異様に苦しい。だが、今回くらいは好きにさせよう。不老不死だし苦しくても死なないだろ。


 ヴァイアの肩越しにノストが見えた。ノストは私の視線に気づいて、頭を下げてくる。


「フェルさん、ありがとうございます。ヴァイアさんが、結婚するならフェルさん達が結婚式に出てくれるのが最低条件だと……もちろん私も同じ気持ちではあるのですが」


「そうか……あれ? フェルさん達? 他にも参加者の条件があるのか?」


「ええ、ディアさんとリエルさんですね。ディアさんには許可を貰いましたが……すみません、リエルさんを説得するのを手伝ってもらえないでしょうか? 昨日から、教会で籠城していまして――」


 なんで籠城した。


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