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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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魔王叙任式

 

 部長会議から三日後、人界へ戻る日になった。今は人界へ行くメンバーが最後の準備をしている。


 私の魔界での用事は終わった。


 旧世界の本を片っ端から読み漁ったし、重要そうなものは亜空間へ入れた。宝物庫や開発部で戦闘の役に立ちそうなものを、オリスアの許可を得て貰ったし、やり残しはないと思う。


 クロウは魔界を満喫できたようだ。


 宝物庫からお土産を貰ったようだし、ドレアとの魔法談義で毎日盛り上がってた。本人はまだ残りたいようだが、広いとは言え、閉鎖空間にいるのは精神的に辛いと思う。また時間があるときに来いと説得して帰らせることにした。オルウス達は何も言わないが、結構疲れがたまっているはずだ。あまり長居するのは良くない。


 人界へ行くメンバーはちょっと変わった。


 ドレアはそのままだが、オリスアとサルガナはここに残る。ルハラへはラボラとフフルが代わりに行くことになった。オリスアは魔王をやるし、サルガナもサポート役で残る。英断だと思う。オリスアは私に関する件だと暴走するからな。それを止めてくれる奴がいると安心できる。


 ガリプトとルントブグはそのままズガルへ戻ることになる。


 ズガルは私の国じゃなくて、魔族の国という位置づけにした。王政も廃止して、種族間による合議制の国にしてくれと頼んだ。いまのところ、人族、魔族、獣人を考えているが、他の種族が増えたら、その都度増やすかどうかは全部お任せだ。最初の代表としてクリフにお願いする。多分、お酒をあげればやってくれるだろう。


 それと人界へ行く獣人達が増えた。


 ヤトのお願いにより猫の獣人を何人か連れて帰ることを伝えたら、希望者が続出した。どうやらウェンディの歌と踊りに感銘を受けたらしい。「自分もアイドルになるニャ!」と鼻息を荒くしていた。とりあえず二人だけ、と言うことにしたら血で血を洗う戦いが勃発したようだ。ボロボロになりながら勝利宣言した猫獣人を二人連れていくことになった。ちょっと心配だ。


 そういえば、獣人は何人連れて行っても問題ないらしい。ウロボロスが言うには獣人の魔力総数が低いので、吸収できる魔力は獣人全員でも魔族十人に満たないらしい。必要な数だけ連れて行って構わないと言われた。むしろその方が食糧的に楽になるだろうと進言までされた。


 なので、獣人は徐々に人界へ移住するという計画になった。おそらく十数年単位になるだろう。ここに骨をうずめる気の獣人達もいるので、強制にはしないとサルガナは言っていた。


 こんな場所でも生まれ育った場所だからな。いきなり移住しろと言っても難しいだろう。それに移住先の事も考えないといけない。人界に移住するならズガルかウゲン共和国。ウゲンの方は獅子王オルドに相談するとか言ってたな。


 私からオルドへ話すか、と聞いたら「フェル様の手を煩わせるわけにはいきません」とサルガナが言い出した。どうやら、自分達がやるべきことだと考えているようだ。頼もしい限りだ。


 ウェンディは特に問題なし。


 墓参りも済ませたようだし、ネヴァへのお土産も宝物庫から取って来たらしい。魔族の何人かがウェンディのファンになってるけど、それくらいは問題じゃないだろう。アイドルというのが増えたら、なんとなくモヤっとするけど。


 レモはウロボロスへ残ることになった。


 ルネの暴走を止めるストッパーとして残ってほしいと総務部に懇願されていたようだ。本人も彼氏がいるから残りたいという旨をそれとなく言ってたとか聞いた。そんな情報はまったく要らないんだけど、総務部って噂話が好きなんだな。


 ジョゼフィーヌはどうすればいいんだろう。


 なんかサキュバスとミスリルタートルとヤタガラスを連れてきた。どうやら人界へ連れていくようだ。そもそもこの魔物達をどうしたのか聞いてみると「大罪の称号を持っていたので倒して部下にしました」と報告してくれた。いつの間にそんな事していたんだと問いたいが、結構放っておいたから仕方ないのかもしれない。


 念のため、ウロボロスに大罪を背負っている奴を連れて行っていいのか聞いたら、「もうすでに四体も人界にいるし、全部連れて行って構わない」と投げやりに言われた。多分だけど、怒っている気がする。私のせいじゃないんだけどな。


 そんなことを考えていたら、全員の準備が整ったようだ。


 見送りのために、ほとんど全員が大広間に集まっている。遠巻きに見ている集団から、オリスアとサルガナが近寄ってきた。


「フェル様。また行ってしまわれるのですね。ですが、フェル様にはやるべきことがあることも理解しています。大丈夫だとは思いますが、お気をつけて」


「ありがとう、オリスア。皆の事、魔王としてよろしく頼むな」


「もちろんです。この魔王という役職は、魔神であるフェル様からお預かりしている物。決して魔王の名を汚すことはないと誓いましょう!」


「……なんだ、その設定は? 私から魔王の名前を預かっているのか?」


「はい! サルガナが言うには魔王という立場になったからと言って慢心しないように、あくまでも魔王という役職は借り物だという設定にしました! もし、魔王の名前を汚すようなら、フェル様から鉄拳制裁されるという設定も加えております!」


 ちょっとだけ放心した後、サルガナを見た。サルガナは殴りたいぐらいの笑顔だ。


「魔王の覇気を持たない魔族が魔王をやるのです。魔王という名前に負けないという気概で取り掛からないと、他の魔族がついてこないでしょう。それに魔王が最強であるという考えもよろしくありません。いま、勇者は封印されているそうですが、例え勇者がいなくとも、強者はいるという戒めを常に持ち続けることが必要なのです」


 色々とまくしたてられたが、そんな設定が必要だろうか。でも、いまさら文句を言ってもどうにもなりそうにない。なら認めておこう。


「分かった。ならちゃんとやってやる。神殺しの魔神フェルの名において、オリスアに魔王の名を授ける。その名の示す通り魔族達の王となり、皆を導いてやってくれ」


 それっぽく振る舞ったんだけど、皆がポカンとしている。しまった。すべったか。皆はこういうノリが好きだと思ったんだけど、加減が分からん。それとも間違ってる? 叙任式みたいな感じの口上でやったんだけど、間違ってるならかなり恥ずかしい。


 そう思っていたらオリスアに詰め寄られた。


「フェ、フェル様! お、お待ちください! 覇気! 魔王の覇気を出してもう一回やってください! 頭に焼き付けますので! そんな不意打ちはズルい!」


「ズルいってお前……分かった分かった。やってやるから離れろ。顔が近い。【能力制限解除】」


 私には分からないが、この状態なら魔王の覇気と言うものが出ているのだろう。


 次の瞬間に皆が跪いて、頭を下げた。クロウ達は立ったままだが、それ以外の全員が一斉に跪くのは見ていて壮観だ。


 でも、こんなのは私の趣味じゃない。とっとと終わらせよう。


「皆、頭を上げてくれ。私に跪く必要はない。では、オリスア、ちょっと剣を借りるぞ」


 オリスアの剣「狂喜乱舞」を鞘ごと借りる。確か王様が誰かを騎士にするときにこんなことをやるはずだ。詳しくは知らないけど。


「すまん、オリスアはもう一度跪いてくれ」


 オリスアが跪いたことを確認してから、剣を抜く。そして剣の腹部分をオリスアの右肩に当てた。あれ? 先に口上を述べてからだっけ? まあいいか。いい加減だし。


「神殺しの魔神フェルの名において、オリスアに魔王の名を授ける。その名の示す通り魔族達の王となり、皆を導いてやってくれ」


「はっ! 魔王の名に恥じぬよう精進いたします!」


 剣を鞘に戻す。そしてオリスアに剣を返してから、能力を制限した。


「こんなものだろう。もうやらないからな」


 そう言ったとたん、周囲から歓声が上がった。よかった。盛り上がった。


「ご、ごの、オリズア! いっじょうのぎねんになりばびだ!」


「ああ、うん。その顔で近寄るなよ。表現が難しんだが、簡単に言うと、その、酷い。ハンカチを貸す――いや、あげるから近寄るな」


 凄いな。人の体からあんなに鼻水とか涙が出るのか。


 オリスアはちょっとポンコツ気味になってるから、後はサルガナに任せよう。


「それじゃ、サルガナ、後は任せたぞ」


「畏まりました。では、フェル様、お気をつけて。不老不死とはいっても、相手が何をしてくるか分かりませんから」


「そうだな。十分に注意する。何かあれば連絡をくれ。すぐに取り掛かるのは難しいかもしれないが、可能な限り対応するから」


「そんなことを言われたら、いつまでもフェル様に頼ってしまいます。なるべく連絡はしないようにしますので……もちろんフェル様の方からはいつでも連絡をくださって結構ですから」


「ああ、その時はよろしく頼む」


 さて、いつまでもここにいる訳にはいかない。出発するか。


「それじゃ、皆、世話になった。行ってくる」


 そう言うと、また歓声が上がった。泣きながら手を振ってくれている奴もいる。ありがたいな。


 ふと気づくとクロウが私を見つめていた。そしてふと目が合うと微笑んだ。


「魔族と言っても人族と変わらないようだ。皆、気のいい人達だということが分かったよ。色々と収穫はあったが、それが分かったのが一番の収穫だ。オリン国には私が見た魔族の皆さんの事をちゃんと伝えておこう」


「そうか。魔族達は私にとって自慢の家族だ。変な風に伝えたら本気で怒るからな?」


 ちょっと言ってて恥ずかしくなったけど、間違いなく自慢の家族だ。今までも、それにこれからもずっとな。


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