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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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神殺しの魔神

 

 夜になる前にウロボロスへ着いた。


 魔素の浄化をしてから第一、第二階層を通り、第三階層へ足を踏み入れる。


 どうやら皆は仕事が終わったところのようだ。大広間で楽しそうに話をしている。私に気付くと「お疲れ様です」とか「おかえりなさい」と言ってくれた。私は仕事をしていたと言うほどでもないんだけど、そう言われるのは嬉しいものだ。


 さっそくウロボロスへ魔神ロイドのコアを渡そう。それに魔神ロイドの権限は奪ってきた。命令すれば、クロノスへ送る魔力の量を調整できるはずだ。


 大広間を通り、会議室へ入る。誰もいないから丁度いい。


「ウロボロス、聞こえるか?」


『ああ、聞こえる。魔神ロイド様のコアを手に入れたようだな?」


「その通りだ。どうすればいい?」


『床に置いてくれ。私の本体がある最下層へ転送させる』


 念のためアビスに問題ないか確認してから、床へコアを置いた。球体のコアが地面に溶けるように消えてなくなる。


「どうだ?」


『大丈夫だ。コアの処理機能を自分に組み込んだ。アップデートに時間はかかるが、問題ないだろう。その間に他の事をする。魔神ロイド様の権限は……あるな。私に命令してくれ』


「どのように命令すればいい?」


『クロノスへのエネルギー転送を最低限にしろ、と命令してくれ』


「分かった。クロノスへのエネルギー転送を最低限にしろ」


『命令を確認した。実行する……完了だ。クロノスへの転送量を三十パーセント減らした。減らした余剰分を環境改善に使おう』


 具体的な事は分からないが、これで環境が良くなるのだろう。どれほどの効果があるかは分からない。でも少しでも良くなるならやる価値はあったと思う。


 少しでも生存率が上がってくれれば、魔界だって悪い所ではない……いや、言い過ぎだな。人界を見たらここは激しく厳しい。ちょっとくらいの改善じゃ何も変わらないのかも。


 ならやることは一つか。


「ウロボロス、これは命令じゃなく、お願いだ。魔族達の事をよろしく頼む。私にとって皆は家族みたいなものだからな。できるだけ長生きさせてやってくれ」


 そう言って頭を下げた。


『……フェルは不思議だな。ただの思考プログラムである私へ頭を下げるとは』


「そうか? お願いするんだから頭を下げるものだろう?」


『……お願いなら頭を下げる、か。分かった。できるだけの事はしよう。そもそも百年で平均寿命を上げないと壊されてしまうからな』


 そういえば、そんな脅しをかけたな。実際に百年後、そうなっていなくても破壊するつもりはない。でも、少しでも近づいてくれればいいな。


 そういえば、ウロボロスも思考プログラムだったか。ちょっと意見を聞いてみよう。


「話は変わるが、ウロボロスは人間に、いや、人族でも魔族でもいいんだが、人になりたいと思っているか?」


『人に……? 私はそんなことを考えたことはない。私はクロノスへエネルギーを送り、魔界の浄化をするためだけの存在だ。人ではそれを達成できない』


 そういう考えなのか。帰ってくるときにアビスにもそう聞いたら、「考えたことがない」と言っていた。人型になっているのは、他のダンジョンを調べるためで、他意はないとも言っていたな。


 ダンジョンコアとイブは違うということだろうか。


『なんでそんなことを聞く?』


「イブという管理者の原型について話したよな? アイツの目的が私の体を奪う事かもしれない。アビスは可能性が低いと言っていたが、私にはなんとなくそれが正解のような気がする。だから意見を聞きたかった」


『情報が足りないので、なぜその考えに至ったのかは分からない。だが、そうか。イブと言うのは、思考プログラムの中でも進化した存在なのだろう』


 また、進化、か。正直、よく分からないんだよな。アビスやウロボロスの方が、自分達よりもはるかに優れていると思う。人に進化したら逆に劣るような気がするんだけど。


「実際には無理らしいが、お前達が進化すると人になるという話をアビスから聞いた。でも、進化と言うのは優れた存在になることだろう? その、お前達が人になるなら退行しているような気がするんだが」


『確かに我々は優秀だ。人の何億倍も演算能力に優れている』


 そう言われるとムカッとするんだけど。自分で言うのはいいけど、相手から言われるとイラッとする。心が狭いのだろうか。


『だが、私達はそれだけだ。演算能力が優れているだけ。しかも命令をされなければ何もできない』


「命令されなければ何もできない? そんなことはないだろう?」


『本当だ。私達は命令以外の事はできない。そして命令されたことが完了すればそこで止まる。それは人よりも劣る部分だろう。自ら動ける思考プログラムはないのだ。お前達から見たら滑稽だろう?』


 滑稽と言うよりも、なんでできないんだ、という意見しかない。だが、ウロボロスの話から考えると、イブは自らの思考で動いているということなのだろうか。それが進化?


 難しいな。思考プログラムが自らの思考で動いている事も進化だし、人になることも進化なのか? 頭痛くなってきた。


「よく分からなくなってきた。イブが面倒くさい奴だと言うことは理解できたが、それは以前からだし何も変わらないな」


『私には何とも言えない。だが、私も気を付けることにしよう。それにフェルも気を付けろ。もし、お前が乗っ取られたとしても私には判断できない。命令されたら聞いてしまうからな?』


「いや、あまりにも理不尽な事を命令したら気づけよ」


『気付くかもしれないが、権限を持つ相手の命令は無視できない』


「お前らも面倒くさいな。もっと融通をきかせてくれ」


 そういうことができないのが、人に劣る部分なのだろうか。優秀なんだけどな……ああ、そうか。だから管理者達はイブに騙されたのかな。


 ウロボロスのアップデートとやらが終わったようで、早速環境改善に動き出したようだ。しばらくはそれに集中するからと言って、話は終わってしまった。


 まあいい。そろそろ夕食だ。食堂へ向かおう。


 多分、ハインとヘルメが料理をしてくれているはず。私はもう魔王じゃない。皆と同じ食堂で食べてもいいはずだから皆と食べよう。その方が美味しいはずだ。


 第三階層にある食堂へ足を踏み入れると、皆が一斉にこちらを見た。皆、びっくりしているようだ。


 そしてひそひそと話し声が聞こえる。「フェル様」はいい方で、「神殺し」とか「魔神」とかも聞こえてくる。なんで広まってるんだ。オリスア達は結局私をどういう役職にするのだろう。とっとと決めて欲しい物だ。できるだけ無難なものにして欲しい。


 とりあえず、夕食を貰おう。さすがに一日以上食事をとっていないからお腹がすき過ぎている。このままだと、お腹と背中がくっ付く。


 食堂を見渡すと、ハインとヘルメがいた。料理を皿に盛りつけてくれているようだ。さっそく料理を貰おう。


「私にも夕食を貰えるか?」


 そう言うと、ハインが驚いた顔をした。


「フェル様もこちらで食事をされるのですか?」


「そのつもりだ。私はもう魔王じゃないからな。今はただの魔族なんだから、皆と一緒に食事をしてもなんら問題ない」


 今のところ役職は決まってない。それは私がただの魔族である証明。


「はあ。でも、『神殺しの魔神』ですよね? むしろ、すごく偉くなったと思うのですが?」


「ちょっと待て。なんだそれは? それって私の事なのか?」


「はい、オリスア様がフェル様は『神殺しの魔神』になったと。あと、大広間にフェル様のオリハルコン像を建てるとかおっしゃっていましたね」


「アイツらはどこにいる? ちょっと食前の運動をしてくる。派手にな」


 ハインは食堂の入り口へ視線を動かした。


「今、オリスア様とサルガナ様が食堂へ入って来られました。こちらへ向かっております」


 振り向くと満面の笑顔をしたオリスアが小走りにやってきた。


「フェル様、お帰りでしたか! このオリスア、フェル様にふさわしい役職を用意しました!」


「ここで聞いた。『神殺しの魔神』と聞いたが、間違いないか?」


「はい! 間違いありません!」


 オリスアは褒められると思っているのだろうか。すごく自慢げだ。はっきりいって二発は殴りたい。


「あのな、魔神はやめろって言わなかったか? いや、言ったって覚えてる。絶対に言ったはずだ」


「はい! なので、間を取って『神殺しの魔神』にしました!」


「どこの間を取った?」


 どっちも嫌なのにくっつけやがったよ。オリスアなら魔王をやらせてもいいと思ったんだが、間違いだったのだろうか。今更、違う奴にするのもダメだろうしな。


 どうしてくれようか、と考えていた所にサルガナがやってきた。


「オリスア、だから言っただろう。あの役職名では、フェル様がお気に召さないと」


「さすがだ、サルガナ。よく分かってる。あの場にいた奴ら全員が分かっててほしかったけど」


「フェル様には無難な役職を伝えて、裏で『神殺しの魔神』とすることに決めただろうが。なんで口止め無しで皆に伝えた?」


「お前は何を言ってるんだ。私の知らないところで私をそう呼ぶつもりだったのか? もっと酷いだろうが。いじめか? 私になにか言いたくても言えない不満があったのか? その復讐か?」


 もしかして恨まれていたりするのだろうか。ちょっとショックなんだけど。


「何をおっしゃっているのですか、そんなわけないでしょう。それにこれは魔族や獣人、従魔達にアンケートを取った結果です。多数決で決まったことなので、諦めてください。それにフェル様だけですよ、反対しているのは。ワガママは良くありません」


「そのフェル様って私だからな? アンケートよりも本人の意見を尊重しろよ?」


「仕方ありませんね。それでは次点の『超絶美少女魔王』にしますか? オリスアと魔王部分が被るので、超絶美少女だけになりますが」


「それが次点なのが驚きだが、超絶美少女なんて役職になったら未来永劫馬鹿にされるだろうが。なお悪いわ」


 そんなこんなで皆を巻き込みつつ私の役職に対する意見交換が行われた。


 結局、私の役職は『神殺しの魔神』になった。ただの魔神の方がよかったような気がする。お腹が減っている時に議論してはダメだな。決まるまでは料理を食べさせてくれないという拷問に近いことをされた。


 コイツ等は家族じゃないような気がする。ウロボロスへのお願いは取り下げようかな。


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