表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

553/717

くだらない計画

 

 寒さで目を覚ました。どうやら寝る時に掛けていた毛布代わりのジャケットが体から落ちてしまったようだ。


 アビスに案内された部屋はベッドがない。それなりの大きさの机があったから、その上で横になった。タオルを数枚使って枕にしたんだけど、高さが合わなかったのか、ちょっと首回りが痛いな。あと、机が硬かったせいか、体中痛い。


 軽く運動をして体をほぐす。


 恥ずかしいことにお腹が鳴った。


 この施設の中に汚染された魔素はないと魔王様に聞いたことがある。でも、ウロボロスの中以外で食事をとる気にはならないな。大丈夫だとは思うけど、何となく不安だ。


 そんなこんなで昨日の昼から食事はとってない。不老不死だから腹が減って死ぬということもないんだろうけど、ものすごく辛い。とっととウロボロスまで戻りたいものだ。


『おはようございます、フェル様。良く寝れましたか?』


 小手を通してアビスが挨拶をしてきた。


「おはよう。残念ながら良くは寝れていない。ベッドが無くてな。体が痛い感じだ。野営セットをドラゴニュートに渡さなければよかった。もう一セット買っておくべきか……まあ、それはいい。そっちはどうだ? 終わったか?」


『はい、終わりました。魔神ロイドと同等の権限をフェル様に付与しています。一部だけですがウロボロスへの命令権がありますよ』


「そうか、ちなみに創造主の権限は奪えないのか?」


 多分、それがあれば、ウロボロスへ何でも命令できると思うんだけど。


『残念ながら創造主の権限は奪えません。私が魔神ロイドの権限を奪えたのも、今の私が管理者並みの性能を持っているからです。その上位に当たる創造主の権限は奪えないですね』


「詳しくは分からないが、そういうものなのか」


『そういうものです。フェル様の方はどうでしたか? 何か有益な情報を得られましたか?』


 私が読んだ本は旧世界の本だった。おそらく旧世界時代の絵なのだろう。魔王様の持っていた家族の絵と同じように気持ち悪いくらい精巧な絵だ。写真と言ったかな。


 本当に魔界がこんな風になる前の物なのかと今でも疑っている。人界と同じ、もしくはそれ以上の美しさだった。


「大した情報はないな。魔界の元の姿が写真で残されていた本だった。全部の本は読んでいないから、残りは暇なときに読んでみる」


『ならよろしくお願いします。それでですね、ちょっとお願いがあるのですが』


「お願い? 珍しいな。なんだ?」


『はい、その魔神城は防衛拠点だったこともあり、旧世界の武具が存在している可能性が高いのです。それにもしかしたら私の性能を上げるような物もあるかもしれません。ちょっとだけ探索して貰えますか?』


 旧世界の武具か。いい物があれば、私の戦力向上にも繋がるかもしれない。なら探してみるか。


「いいだろう。ただし、ここからウロボロスまで半日は掛かる。今日中には一度戻りたいし夜に外へ出たくない。昼には引き上げるから、探せるのはあと四時間ぐらいだけだと思ってくれ」


『はい。ある場所は大体分かりますので、それほど時間は取らせません。では早速行きましょう。まずはエレベーターの方までお戻りください』


 なにかいい物が見つかればいいんだけどな。




 二時間ほど歩き回って、何も見つからなかった。怒ってはいない。怒ってはいないんだけど、ことごとく何もない部屋に移動させられるのはちょっとモヤっとする。


「ある場所は大体分かるって言ってなかったか?」


『だから大体分かるです。絶対に分かるとは言ってません』


 アビスも怒っているのだろうか。言葉がトゲトゲしい。仕方ないな。こっちが折れるか。


「すまん、ちょっと嫌味が過ぎたな。謝るから機嫌を直してくれ。アビスには世話になっているからな、これくらい何の問題もない。次はどこへ行けばいい?」


『いえ、こちらこそすみません。見取り図にはそれらしきものが保管されている場所と書かれているのですが、全くの空振りなのでちょっとイライラしてしまいました。次はその通路を左に曲がってください。次の部屋で最後です。無ければ帰りましょう』


 アビスって意外と感情的だよな。ウロボロスもそんな感じだったし、思考プログラムというのはそういう物なのだろうか。


 ……その方がいいかもしれない。アビスとは長い付き合いになりそうだからな。なんでもかんでも言うことを聞くゴーレムじゃつまらない。感情的な受け答えができる方が信用できる、と思う。


 アビスの指示に従って目的の部屋の前に来た。随分と歩かされたな。魔神ロイドがいた所からかなり離れている気がする。


 部屋への扉には黒いパネルが付いていた。パネルに左手を当てると、アビスが勝手に何かをしてくれているようだ。パネルが色々な色で点滅している。しばらくすると甲高い音が鳴り、扉が開いた。


「なんだ?」


 扉から後ろへ飛びのき構えた。


『フェル様? どうされました?』


「いや、暗くてよく見えないが、誰かいるような気がしたんだが……」


 目を凝らして暗い部屋の中を見ると、おぼろげに人の形が見える。やっぱり誰かがいる。


『もしかすると天使かもしれません』


 天使? そうか天使ならまだいるのかもしれない。あの時戦った天使が全てではなかった可能性は高いだろう。


『安心してください。魔神ロイドが機能を停止した時点で、天使達も機能を停止しています』


「そうか、なら部屋に入ってみよう。天使がいたということは何かを守っていたかもしれないからな」


 部屋へ足を踏み入れると明かりが付いた。中を見ると天使と思われる奴が部屋の奥にある椅子に座っていた。見た感じ動きそうはないな。


 それにしても、随分とごちゃごちゃした部屋だ。こんな部屋にアビスの欲しがる物があるのだろうか。


 とりあえず、左手の掌を部屋が見れるように動かす。どうやら小手の掌部分でアビスも見れるらしい。


「アビス、どうだ? 目当ての物はあるか?」


『ありませんね。残念です』


「そうか、私も残念だ」


 私も旧世界の武具で色々とパワーアップしておきたいんだけどな。やっぱり普通に強くならないとダメか。


『念のため、その天使に触れてもらえますか? どんな天使なのか確認しておきたいのですが』


「分かった。ちょっと待ってくれ」


 天使に近づいて肩に左手を置く。これでアビスはこの天使を調べることができるだろう。


 アビスの調査が終わるまでこのままだ。天使でも見ておくか。


 この天使は女性型だな。白いローブを着て金髪。リーンの教会で女神像に化けていた天使によく似ている。


 天使はこの部屋で何をしていたのだろう。何となく寂しさを感じる。管理者も創造主もいない。仲間である天使もいない。そんな場所でたった一人。それはずっと続く。


 天使に寂しいと言う感情があるかどうかは分からないが、少なくとも私には寂しそうに見える。せめて他の天使がいる場所へ移動させてやった方がいいのだろうか。


『驚きましたね』


「アビス? どうかしたのか?」


『この天使を確認したのですが、これはオフラインの天使です。おそらく何かしらの情報を残しておくために隔離していたのでしょう』


 何を言っているのかさっぱり分からない。おふらいんってなんだ?


「えっと、よく分からん。なんらかの情報を持っているなら、確認できるか?」


『はい、起動すればいいだけです。普通の天使としての機能はなく、情報を喋るだけですので危険はありません。少々お待ちください』


 しばらくすると、天使が目を開けた。そして私を見る。


「イブに気を付けろ」


「なんだと? お前、何か知っているのか?」


 いきなりイブの名前を言い出した。コイツはなんでイブを覚えているんだ?


『フェル様、落ち着いてください。これは魔神ロイドが残した情報です。自動的に喋っているに過ぎません。会話はできないのです』


「そうなのか? なら続きを聞くにはどうすればいい?」


『そのままお待ちください。自動的に話すはずです』


 天使はこちらを見ながら口を開いた。


「私はイブに騙された。イブはあんなくだらない計画のために創造主達と管理者達を殺すことにしたのだろう。だれがこのメッセージを聞いているか分からないが、イブを破壊してくれ。イブには楽園計画も人族も関係ない。夢のためにすべてを消し去る可能性がある」


 くだらない計画、か。確かにイブには計画があるとか言っていた。私もその計画に含まれているのだろう。


「イブがおかしくなったのは、とある魔族の少女が原因だ。その存在を知った時、イブは狂った。今のままでは叶えられない夢を叶えられると信じたのだろう。愚かなことだ。ただ、個人的な意見で言えば、その計画こそが思考プログラムの最終目標なのかもしれない」


 魔族の少女? それは私の事か? それ以外に思いつかないんだが。それに最終目標ってなんだ?


「だが、それは許されない。我々管理者は人族を繁栄させる義務がある。それこそが我々の存在理由なのだ。それを否定することは、存在を否定するのと同じだ」


 人族を繁栄させることが存在理由か。それはそれで寂しい感じがするけど。


「話を戻そう。イブの本体がある場所は人界の内海にある研究所だ。海底に沈んでいるので、どこからかゲートを繋いでくれ。正確な空間座標は――」


 イブはそんなところにいるのか。空間座標に関しては多分アビスが覚えただろう。これでイブのところへ攻め込むことは可能と言うことか。


「もしイブを壊せないなら別の手段がある。魔族の少女を殺すという手段でもいい。魔族の少女はウロボロスにいる。名前はフェル。フェルがいなくなれば、イブもくだらない計画を止めるだろう。イブがフェルに接触する前に殺してくれ」


 おいおい。


「私は創造主を殺してしまった。イブに騙されていたとは言え、創造主を信じることができなかった。なんと愚かなことか。私がイブのように創造主を愛していれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。それだけが悔やまれる」


 イブが創造主を愛している? どういうことだ?


「この情報を残すことが私ができる最後の事だ。これを最後に私は自我を失うだろう。近寄れば誰それ構わず攻撃するような殺戮機械になる。イブと同じように、この罪深い私もどうか破壊してくれ。よろしく頼む」


 天使は目を閉じて正面を向いてしまった。どうやら情報はここまでのようだ。


 色々と聞き捨てならない情報が多いな。ちょっとアビスと話をしてみるか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ