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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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芝居

 

 私の従魔であるジョゼフィーヌは「暴食」という大罪を背負っている。そのジョゼフィーヌがウロボロス側で戦うとなると私の方も相当な覚悟が必要だろう。最悪、殺さなければいけないかもしれない。


 できるだろうか? ジョゼフィーヌとは付き合いが長い。正直家族だと思ってる。それを私の手でやれるか?


 だが、やらなければ、ウロボロスに操られて他の魔族や獣人を手にかける事があるかもしれない。そんなことになるくらいなら、ジョゼフィーヌを私の手で仕留める。


「――フェル様!」


 耳元で大きな声が聞こえた。サルガナから名前を呼ばれていた? 考え込み過ぎて聞こえてなかった。


「どうした?」


「ようやく気付いていただけましたか。フェル様、お一人で問題を解決する必要はありません。フェル様を補佐するために皆がいるのです。ここはお任せください」


「任せるって、サルガナが戦うのか?」


「いえいえ、戦うのは最後の最後です。まずは交渉致しませんと」


 交渉? ウロボロスと交渉しようと言うのか? そもそもウロボロスは魔族をどう見ているのだろう。魔力を生産するための駒程度にしか見てないはずだ。交渉の余地なんてないと思うが。


「ウロボロス。私はサルガナと言います。話をさせてもらっても?」


『何の話だ?』


「確認をしたいのです。魔界の浄化はあとどれくらいで終わるのですか? 我々が何年閉じ込められるのか、という質問でもいいのですが」


 まさか、サルガナは閉じ込められるのを受け入れる気か? そんなことは認めないぞ。


『正確な時間は算出できない。おそらく一万年以上だろう』


 一万年? 想像すらできない。


「不老不死のフェル様はともかく、我々はそこまで生きられません。我々の子孫を含めた上での閉じ込め、なのですね?」


『その通りだ。お前達はこのウロボロスの中だけで生きていけばいい。それは今までと変わりはない。ウロボロス内の行動範囲は制限されるが、それほど変化はないはずだ』


 第二階層へ移動することを許さないということか。変化がないとかほざいているが、たとえ地表が生きられない場所であったとしても、この閉塞感の中で生きることは不可能だろう。これまで以上に精神が圧迫されるはずだ。


「ではもう一つ。我々魔族は何人程いれば浄化の魔力供給が間に合うのですか? 現在の魔族数は五百人程度ですが」


『多い方に越したことはないが、五百人いれば十分だ。だから数名なら人界へ行くことを許可した。だが、人界へ移住するとなれば話は別だ。お前達をここから出すわけにはいかん』


「なるほど、大体分かりました」


「サルガナ、もういいだろう? ウロボロスは私達を逃がす気はない。なら力で押し通るまでだ。魔族は力が全て。解決策ならそれが一番だろう?」


 正直、ウロボロスの話はどうでもいい。とっとと権限を奪って魔界から脱出する。死に怯えながら暮らすような真似は今日で終わりだ。


「お待ちください、フェル様。穏便に済ませる方法があるのです」


 穏便に済ませる方法? そんな方法があるならやって貰いたいけど、本当にそんなことができるのか?


「具体的にはどうすればいいんだ?」


「私達にウロボロスで生活しろとご命令ください。我々はそれに従います」


「なにを言ってる? それじゃ何の意味もないだろう? 閉じ込められたままでいいと言っているのか?」


 サルガナは首を振った。


「いえいえ、そんなことは言っていません。我々が人界へ移住しなければ、今まで通りだと言っているのです。ウロボロス、私達魔族が人界へ移住しないのなら、いままで通り第二階層への扉を開けてくれるのですね?」


『そんな約束はしていないが、移住しないと言うなら開放してやってもいい。必要なのは五百名以上の魔族。それが保証されるなら、お前達を閉じ込める理由はない』


「どうでしょう、フェル様。ご命令頂ければ我々はここで暮らします。それだけで今まで通りなのです。何の問題もありません」


 サルガナが何を言っているのか分からない。問題だらけだろうが。


「サルガナ、お前は私に、このウロボロスで死に怯えながら生活しろ、と命令させる気か?」


「フェル様、殺気を抑えてください。そうですね、私はフェル様にそのように命令しろと言っています」


「そんな命令をするわけないだろうが! 人界へ行けば死の恐怖に怯えることもなく、もっと豊かな生活ができるんだぞ? それは一時的に人界にいたお前自身がよく分かっているだろう? なのになぜ、この地に留まろうとする。ウロボロスから権限を奪いさえすれば――」


「ですが、そうなればウロボロスが操っている魔族達と戦うことになります。魔族同士で戦っている場合ではありません。そんな余裕がないことはフェル様も知っているでしょう?」


 それはその通りだが、うまくやれば犠牲を出すことなく対応することも可能だと思う。それでも犠牲が出てしまったのなら……それは仕方ない事だ。


「フェル様はウロボロスでの生活を快適にしてくださりました。それに人界から食糧を供給してくれるルートも作ってくださったではありませんか。以前、ルネが持ってきたお土産の食糧を食べた皆は泣いて喜んでいましたよ? 我々はそれだけで十分なのです」


「十分なものか! それが人界ならもっと喜びを得られる! なんでそれを放棄しようとする!」


「今の状況で我々が人界に移住すると多大な犠牲が必要になってしまうからです。それにフェル様にはやりたいことがあるのですよね?」


 確かにある。魔王様を探したいし、イブを倒すために強くなりたい。でも、それが何だ?


「今までフェル様は私達のために色々やってくださいました。今度は私達がフェル様のために色々やらせてもらう番です。フェル様がこんなところで足止めされているなんて無駄の極み。フェル様には魔界や魔族の事など、余計なことは気にせずに思うがままに行動してほしいのですよ」


「……そんな事、できるわけないだろう? やりたいことはある。でも、魔界や魔族の事を気にしない、なんてのは無理だ」


「なら、もっと厳しく言いましょう。魔王を辞めるフェル様に、魔界や魔族の事を気にしてもらう必要はありません。我々はフェル様がいなくても十分にやっていけます」


 確かに魔王を辞めるとは言った。ただ、気にしてもらう必要がないと言われるのはちょっとショックだな。ショックを受けるように言ったとは思うんだけど。


「サルガナ! 貴様、フェル様になんてことを言うのだ! その首、斬り落とすぞ!」


「黙れ、オリスア。フェル様から次期魔王を任命されるという名誉を受けておきながら、いつまでもグダグダと引き延ばしているお前に何かを言う権利はない。何かを言う気なら、お前が新たな魔王となり、私に命令しろ」


「いいだろう! 望み通り魔王になってやる! フェル様に楯突いたことを後悔しろ、サルガナ! 魔王としてお前の首を大広間に――」


「皆、聞いたな?」


 サルガナがオリスアの言葉を遮るようにそう言うと、ドレアやガリプト、ルントブグやルネも頷いた。


「よし、決まりだ。オリスア、言質は取った。今日からお前が魔王だ。拒否権はない」


 オリスアが口をパクパクしている。私もちょっとついていけないんだけど。なんだこれ?


「サルガナ? えっと、これはどういうことだ?」


「はい。オリスアが魔王になることになかなか首を縦に振らないので一芝居打ちました。ですが、オリスアがさっき魔王になると言いましたので、これで終わりですね」


「ちょっと待て。もしかして閉じ込められたって嘘なのか? まさかウロボロスもグル?」


「いえ、それは本当です。ただ、事前に取引はしました。オリスアを新たな魔王にして魔族達をここに留める事ができたら、ウロボロス内に閉じ込めるのはやめてもらうぞ、と」


「いつの間に?」


「取引をしたのはフェル様が休まれている頃ですね。部長クラスでの打ち合わせをしている最中にウロボロスが話しかけてきまして」


 サルガナがそう言うと、オリスアが円卓を両手で叩いた。


「そ、そんなこと私は知らんぞ! 大体打ち合わせってなんだ!」


「お前を魔王にするための打ち合わせなんだから、お前がいる訳ないだろう? 本人を呼んでどうする?」


 オリスアが哀れになってきた。というか私も騙されたのか? まったく危機感がない状況なのか?


「ウロボロス、これはどういう事なんだ? サルガナとどんな取引をした?」


『私の要望は常時五百人以上の魔族がここにいることだ。サルガナの話ではフェルはそれを絶対に認めないはずなので、オリスアを魔王にして、オリスアから魔族へ命令させるという筋書になるそうだぞ』


「フェル様は私達に色々な事をやってくださいました。これからはフェル様がいなくてもやっていけるということを証明して見せます。ですから、フェル様はご自身のやりたいことを存分にやってください。もちろん、困ったことがあれば助けてもらいますが」


「お前、そこまでして……お前達はここで生きることに不満はないのか? いつ死んでもおかしくないんだぞ? この過酷な環境で家族や恋人が死んでも同じように思えるのか? 私は……誰にも死んでほしくない」


「人界に比べたら過酷な場所ですし、ここでの生活は辛いです。ですが、フェル様が魔王になった三年前に比べたら相当快適になっていますよ? これからはもっと快適になるでしょう。フェル様はその礎を作ってくださったのです。人界の様にはなれません。ですが、死の恐怖を感じない程度まで環境を向上させてみせますよ」


 サルガナが自信ありげにそんなことを言った。もしかしたら何かの案があるのかもしれない。


 人界へ移住するという私の意見が間違っているとは思えない。でも、サルガナ達は私のために穏便に済まそうとしているのだろう。


 こんなことをしなくてもウロボロスの制御権さえ奪ってしまえば、もっといい生活が送れると思う。でも、それをやるためには魔族に犠牲が出る。ここに残ろうとしているのは、私にそんなことをさせないため、というのもあるのかな。


「フェル様は不老不死ですよね?」


 サルガナが穏やかな顔でそんなことを言ってきた。


「……急にどうした?」


「いつになるかは分かりませんが、いつか浄化が終わった魔界をその目で見てくれませんか? 私達が決断して得た結果をフェル様に見て頂きたいのです。聞いたところによれば、浄化が済んだ魔界は緑豊かな美しい場所になるらしいですよ」


「そうなのか……分かった。約束する。魔界の浄化が終わるその日まで生き続けよう」


 約束をしてしまった。これは長生きしなきゃいけないな。


「少女と魔族と聖剣と」の第八話を投稿しました。

よろしければ見てやってください。

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