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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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大罪

 

 どこから突っ込みを入れればいいのだろう。


 そもそも、この宝物庫にある物はルキロフの物じゃない。魔族全員の共有財産みたいなものだ。魔王の許可、つまり私の許可がいるけど、基本的に誰が使ってもいい。


 それをコイツは自分の物とか言いやがった。しかも宝が欲しければ、ルキロフ自身を倒せと。一体、何をこじらせたらこんな感じになるのだろう。


「ルキロフ、残酷な事を言うが、ここにある物はお前のじゃない。皆の物だ」


「そんな馬鹿な!」


「それはこっちのセリフだ。しばらく見ないうちに、相当変になってるぞ? 大丈夫か? いままでも変な奴だとは思っていたが、ここにある物を自分の物だとは言ったことはなかったはずだ。なんでそんなことになってる?」


 ルキロフは首を傾げた。


「……変になっている? 私が? 確かにその可能性は否定できませんね。なぜかここにある物をフェル様にも渡したくないと思ってしまいます」


「ここにある物の中には呪われた物もある。もしかして呪われているんじゃないだろうな?」


 そもそもここにある物が全て分かっている訳じゃない。ルキロフに管理と共にリストを作ってもらうように頼んでいたが、それをしている間に呪われた可能性はあるな。


 よし、ちょっと魔眼で見てみよう。


 ……ステータスに異常はない。だが気になることがある。


 ルキロフの称号に「強欲」とあった。これってジョゼフィーヌが言っていた大罪の一つか? あれって魔物だけって聞いたけど魔族にも付くような称号ということか? 念のために説明も見ておこう。


『強欲の大罪を持つ者。自分の所持品数に応じてステータス上昇補正。ウロボロス内においてのみ上限を超えて強くなる』


 間違いなく大罪を背負ってる。これはどうすればいいんだろう? ジョゼフィーヌに相談するべきか?


『フェル様。今よろしいですか』


 サルガナからの念話だ。かなり急いでいるようだが何かあったのだろうか?


「どうした? 問題か?」


『はい、問題です。ラボラが第五階層以下の魔物を引きつれて第四階層へ攻めこんできました。現在第四階層で魔物達が防衛しています』


 ラボラ? 営業部のラボラか? 戦うにはちょっと面倒な魔物達との交渉なんかを任せていたのだが、なんでラボラが攻め込んでくるんだ?


「意味が分からん。なんでそんなことになっている?」


『それがまったく理由が分かりません。ここから見た限りラボラも虚ろな感じでして、意思がある様には思えません。ただ、そんな状態でも、魔物達を魅了の力で操っているようでしてこちらへけしかけています』


 どういう事だろう? なんだ? 一体何が起きてる? こんなことは一度もなかったはずだが。


『フェル様、よろしいですかな?』


 今度はドレアか? まさか、何かまた問題が?


「今、問題が起きていて、サルガナと念話しているんだが、急ぎか?」


『はい。聞くだけ聞いてもらえますかな。今、第二階層への階段付近にいるのですが、階段までの扉が閉まりだしました。初めて見たのですが、フェル様が何かされましたか?』


 第二階層への扉が閉まる? なんだそれ? そもそもそんなところに扉があるのか?


 何か危ない気がする。とりあえず全員第三階層へ集まる様にしよう。


「ドレア、扉が閉まるのは私も知らない。何があるか分からん。何もせずにそのままにしてくれ」


『畏まりました』


「サルガナ、今、第四階層だな? 第三階層まで引き上げろ。第四階層へ行くための階段に結界を張って、魔物の侵入を防げ」


『はい、すぐに対応します』


 一体何が起きているのだろう? こんなことは初めてだ。


「なにかあったのかね?」


 クロウやオルウス達が不安そうな顔をしている。客がいるというのに問題が起きるとはな。


「すまん、色々と問題が起きている。初めてのケースで何が起きているか分かっていないところがあってな、クロウ達は一旦部屋に戻って貰うつもりだ。あそこなら安全だから四人で固まっていてくれ。もちろん魔族の護衛も付けるから」


「ふむ、なにか面倒な事が起きているようだね。ならそちらの指示に従おう」


「すまないな。せっかく来てもらったのに」


「なに、魔界は危険だと言うことは知っていた。これが魔界の醍醐味という物だろう。ここに来るときからちゃんと覚悟はしている。何かあったとしても恨まんよ」


 クロウはそうかもしれないけど、オルウス達は違うと思うぞ。まあいいか。今は時間が惜しい。早めに部屋に戻そう。


 あれ? ルキロフはどうしたんだ?


「ルキロフ、えっと、ここにいた魔族はどこに行った?」


「先程、ここの扉を閉めて、どこかへ行ってしまったようだが?」


「中に入ったんじゃないんだな? 一体、どこへ……?」


 いや、まずはクロウ達だ。早く部屋に戻してやろう。




 クロウ達を部屋に戻して、近くにいた魔族に護衛を頼んだ。二人いれば大丈夫だろう。


 さて、まずは部長クラスのメンバーを集めるか。


 サルガナに念話を送る。すぐに反応があった。


『フェル様。とりあえず、第四階層への階段で食い止めました。負傷した者はおりません』


「結界はしばらく持ちそうか?」


『はい、五人がかりで結界を張りました。安心はできませんが、数時間は大丈夫でしょう』


「なら、部長クラスを会議室へ集めてくれ。状況を確認したい」


『それでしたら既に手配済みです。それと、魔族や獣人、魔物達は第三階層の大広間に集まる様にしています』


 さすがだ。やってほしいことを既に実施していてくれた。


「分かった。助かる。では会議室で話を聞かせてくれ」


『はい、では会議室で』


 よし、会議室へ行くか。




 会議室では部長クラスの魔族が円卓の椅子に座って待っていた。だが、空席がある。


「ラボラは分かるが、他の奴らはどうした? えっと、フフルとルキロフがいないようだが? まだ来ていないのか?」


 そう質問すると、私が座る椅子の背後にいるサルガナが答えた。


「フフル、ルキロフにも念話を送りましたが反応がありません。ラボラと同じように何かしらの問題があったと思われます」


 探索部のフフルもか。そしてルキロフも。もしかして大罪の称号が関係しているのだろうか。ラボラを魔眼でみることで何か分かるかもしれないな。


 とりあえず、自分の席に着いた。魔王が座る席だ。背後にはサルガナが立っているけど、総務部の席に座らないのかな?


 その席を見ると、ルネが座っていた。そうか、今はルネが総務部の部長だったな。


 ルネと目が合うと、ちょっと泣きそうになっている。


「あのー、私ってここにいていいんでしょうか? 場違いな気がする……!」


「ルネ、久しぶりだな。元気だったか?」


「ついさっきまで元気でしたけど、今は元気ないです! 人形に代わっていいですか? いいですよね?」


 元気そうに見えるけどな。まあ、部長クラスしかいないから委縮しているのだろう。これも経験だと思う。逃がさないでおこう。


「状況を教えてくれ」


 ルネが何か言ってるけど無視。まずは状況確認だ。


 問題は三点。


 一点目はラボラが魔物を率いて第五階層から第四階層へ攻めてきたことだ。


 理由が分からない。ただ、これによる負傷者はなく、第四階層にいた魔族や獣人、魔物達を連れて第三階層まで逃げられたらしい。オリスアとウェンディが墓地エリアにいたのが良かったとのこと。二人はすぐに異変に気付き、防衛してくれたそうだ。あとで礼を言っておこう。


 二点目は第二階層への階段が使えなくなったことだ。


 ドレアの話では、階段へ続く通路の天井から壁がゆっくり落ちてきたらしい。そもそもは開発部の魔族がそれを確認して、ドレアに報告をしたのだとか。今は完全に階段への通路はなく、嫌な言い方をすれば、閉じ込められた、ということだ。


 三点目はフフルとルキロフのことだ。


 二人とも意図的に念話に出ないらしい。探索魔法により、いる場所は分かっている。どうやら二人とも一緒のところにいるそうだ。探索部へ提供している倉庫らしく、そこで何かしているらしい。倉庫にいた他の探索部へ危害を加えるということはなく、部屋を追い出されたそうだ。


 これって全部が独立した問題じゃないような気がする。でも、それが何かと聞かれても答えられないな。


「今回の問題だが、誰か理論的に説明できるか?」


 誰からも答えは無かった。


「なら、まずはラボラ達に絞ろう。アイツら、最近おかしいところはなかったか?」


 全員の視線がルネに集まる。


「え? あれ? なんで皆さん私を見るんですか? こういう感じで目立ちたくないんですが?」


「私達は最近まで人界にいたんだ。アイツらがおかしくても分からないだろう? ルネはずっとここにいただろう? なにかおかしなところは無かったか?」


 ルネは腕を組んで首を傾げた。


「総務部の方へにそういった類の報告はありませんでしたね。でも噂話で良ければあります」


「噂話?」


「はい、魔族に関する情報交換を給湯室でやってるんですよ。私も仕事をさぼって――すみません。サボってないです。頑張ってます」


「分かったから早く言え」


「えっと、ラボラ様は際どい感じの服を着ることが多くなったそうです。恋人でもできたんじゃないかって話でしたね。私も彼氏が欲しい……!」


 ほんとにタダの噂話だな。


「フフル様は、その、ちょっとやる気をなくされていたそうです。探索部の人達から聞いた話ではなかなか結果を出せなくてしょんぼりしていることが多いとか。私がしょんぼりしていても、仕事しろとしか言われないんですけどね!」


 魔界の地表はかなり厳しいからな。探索の結果がでなくて落ち込んでいたのかも。メンタルケアとかができる医療部的な物を作るべきだろうか。


「ルキロフ様は相変わらずでしたね。ただ、以前よりも物を欲しがるようになりました」


「物を欲しがる?」


「はい、何でもいいからいらない物をくれって色々な部署を回ってましたね。リサイクルするのかなって期待してます。今日、メノウっちが作ったゴスロリ服を受け取ったので、以前の服を渡そうと思ってたんですけど」


 そういえば、ソドゴラ村を出る時、レモがメノウから受け取っていたな……今着ているのがそれか。


 聞いた限り大した話じゃない気がする。


 だが、ルキロフの称号を見た感じ、その称号に関係するような行動をとっているように思えるな。本人の意思か、それとも別の意思によるものか。別の意思だとしたら、考えられるのは一つだけだ。


「もしかしたら、今回の問題は――」


『魔族達よ』


 声が響いた。初めて聞く声だ。だが、大体誰だか分かるな。ここでこんなことができるのは奴だけだ。


『私は疑似永久機関ウロボロス、タイプ、プリズンだ。お前達をこの牢獄に閉じ込めることにした。私のエネルギーを生み出す生命体として、ここで生き、そして死んでいくがいい』


 面倒な事になったな。


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