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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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臆病者

 

 ここはどこだろう。随分と薄暗いところだ。さっきまで誰かと戦っていたはずなのに。私は死後の世界とやらに来たのか?


 ――いや違う。あれは夢か。どうやら寝てしまっていたようだ。


 意識がはっきりしてきた。ここは玉座の間だ。


 いかんいかん。気を抜き過ぎだ。ここはウロボロスの中。第三、第四階層は安全だと言われているが怪しいものだ。ここは人界とは違う。もっと緊張感を持たないと。ここで寝ようと考えること自体、緊張感が無くなっている証拠だ。


 それにしてもさっきの夢は……魔王様と初めて出会った時の夢だな。ちょっととぼけた感じの雰囲気にイラッとしたものだけど、今ではそんなところが魔王様の魅力な気がしている。


 魔王様を見る目が変わったのは、あの後だろう。


 死ぬつもりで意識を手放したはずなのに、普通に自分の部屋で目が覚めた。


 あれは夢だったんだな、と思った直後に「良く寝れたかい?」とすぐ近くから言われて驚いた。あの時ベッドから転げ落ちたことは今でも根に持っている。大体、乙女の部屋に男がずっといるってなんだよ、と当時は言いたかった。


 床から立ち上がって、何かを言おうとすると魔王様はそれを遮った。


『フェル、君はもう魔王じゃない。僕が魔王だ。異論はないね?』


 異論はあった。魔王になりたいという覚悟を見せて欲しかった。私を殺すことでそれを証明してほしかった。私は生きている。目の前の男を魔王と認められなかった。


 でも、「君はもう魔王じゃない」と、そう言われた時に心の奥底で喜んでしまった。


 死なない限り魔王という呪縛からは逃れられない。それを本能的に分かっていたんだと思う。それを魔王様が否定してくれた。魔王様が私を魔王という呪いから解放してくれた、と喜んでしまった。


 魔王様の言葉に「異論はありません、魔王様」と答えた。そして跪き頭を下げたんだ。


 魔王様は慌てた感じで私を立たせようとしてたな。私と同じだ、とも思った。それからはもう魔王様のことしか頭になかった気がする。私を救ってくれた魔王様に忠誠を誓おう、魔王様のためにこの命を使おう、それしか考えてなかった。


 皆のために死ぬのは怖くない、そんな風に思っていた。事実、魔王様に負けた時もすぐに覚悟を決めた。


 でも、本当はそうじゃない。私はいつ来るか分からない勇者に対してずっと死の恐怖を感じていたのだろう。死ぬことでその恐怖が無くなる、そんな風に思っていた気がする。


 ヴァイア達に魔王なら魔族のために死ぬべきだとか言ったのが滑稽に思えてくるな。私にそんなことはできない。魔王として勇者に殺される。それは皆のためじゃない。恐怖から逃れたいから死ぬ。それは自分のためだ。それが本心だったと思う。


 私はただの臆病者だ。


 でも、そんな私を魔王様が救ってくれた。この恩は一生をかけて返さなくてはいけない。


 大きく深呼吸をした。


 夢を見て、あの頃の気持ちを見直せた気がする。魔王様に対する気持ちも。


 私は魔王のままだ。あの頃から私の状況は何も変わっていない。でも、魔王様は言葉で私の心を救ってくれた。セラを撃退して物理的にも救ってくれた。ならば今度は私が救わないと。


 魔王様を見つけ、イブを倒す。セラは分からないが、できれば交渉で何とかしよう。セラは人質を取られているような気がするが、イブを倒せば解決するはずだ。


 もっと情報を集め、強くならないとな。


 玉座から立ち上がり、両手を上にあげ伸びをした。


 ちょうど一時間だ。休憩は終わり。夢で魔王様に会えてちょっと気分がいいからな、クロウ達をしっかり案内してやろう。




 玉座の間を後にして、広間に戻ってきた。そのまま、クロウ達が使っている部屋の方へ移動する。


「クロウ、いるか?」


 部屋の扉をノックしながら尋ねると、「お待ちください」というハインの声が聞こえた。どうやら一緒にいるようだ。


 扉が開き、ハインが出てくる。中を見ると、オルウスやヘルメも一緒にいるようだ。別の部屋をそれぞれ提供しているけど、普段は一緒にいるのだろう。


「いらっしゃいませ、フェル様。どうぞ、お入りください」


 ハインに促されて部屋に入る。


 ずいぶんといい部屋を提供したようだ。来賓用の部屋でも用意しておいたのかな。以前はこんな部屋は無かったと思う。


 さて、大丈夫だとは思うが、念のため確認しておくか。ここはウロボロスの中と言っても魔界だ。人族に影響があるかもしれない。


「クロウ、体調は問題ないか? 少しでも違和感があればすぐに言って欲しいのだが」


「いや、今のところは問題ないようだ。オルウス達はどうだ?」


 オルウスとメイド二人は問題ない旨の回答をした。大丈夫みたいだな。


「そうか。なら他に問題はないか? お前達は客人だし、ここに人族を招くなんて初めてだからな。色々と気が回らないところがあると思うから、何でも言ってくれ」


「いやいや、快適だよ。窓がないので少々閉塞感はあるが、この魔道具を使ってみたらそんなことを気にすることもないのでね。ちなみにこれは何と言うのかな?」


 クロウが指す魔道具を見る。球体の魔道具だ。


「ああ、それはプラネタリウムという魔道具だ。部屋の中に夜空を映写するものだな。他にも森や湖を映写する魔道具もあるぞ」


「うむ、それも見た。オルウス達の部屋にも似たような物があって全部見てきたのだよ。いや、面白い物だね。どんな利用価値があるのかは分からないが、外に出れない魔族が娯楽のために作ったのかね?」


「いや、魔族は夜空なんて見たことはない。作れるわけないだろう? それは旧世界の魔道具だ」


「ほう、これが旧世界の魔道具……一つ買わせてくれないかね? 是非とも解析してみたいのだが」


 個人的には渡してもいいのだが、こういうのを勝手に渡してしまうとルキロフがうるさいんだよな……ちょうどいい。クロウ達を宝物庫へ案内して、ルキロフに渡してもいい魔道具を確認するか。


「私の一存では渡せないんでな。これからそれを管理している奴がいる場所へ案内する。ソイツに確認してみよう」


「おお、本当かね! ならさっそく行こうじゃないか!」


 クロウ達を連れて宝物庫へ向かった。


 ウロボロス第三階層にある宝物庫。財務部が管理しているが、そもそも財務部はルキロフ一人。ずっと、宝物庫の中で色々な物を管理している。宝物庫の番人だな。


 一応、宝物庫の中の物は魔族の共有財産なんだけど、ルキロフが気に入っている物は提供を渋るんだよな。別に自分の物にするとかそういう考えはないようで、単純に見ているのが好きという状況なんだけど、ちょっと、いや、かなり怖い。


 正直、ドレアの次に会いたくない……最近のドレアはマシになって来たから一番会いたくないかな?


 宝物庫の扉の前に着いた。大きな金属製の扉なので、ノックではなく、強めに叩く。


「ルキロフ、フェルだ。いるか?」


「いません」


「いるだろうが。開けろ」


「今、掃除中だから後にしてくれませんか? ちょっと手が離せなくて」


「そうか、分かった。なら力づくで勝手に中に入り、お前の許可なく必要な物を持っていくからな?」


「今、開けます」


 大きな扉が左右に開いていく。中には女性の魔族が一人立っていた。ボサボサ髪でぐるぐるメガネをかけている。サイズが合っていない大き目な白衣を着て、ポケットに手を突っ込んでいた。着こなしはドレアに似てるけど、なんというか雑だ。


「久しぶりだな、ルキロフ」


「お久しぶりです、フェル様。宝物庫から持っていった物はお役に立ちましたか?」


「ああ、役に立った。宝石や装飾品をエルフ達は喜んでいたしな。流石はルキロフが激選したものだな。見事な審美眼だ」


「いえいえ! 私の審美眼なんて何の価値もありませんよ! フェル様のお役に立てたのは持って行った物が素晴らしい物だったからでしょう! 宝石や装飾品は見た目だけでなく、素晴らしいスキルも備えて――」


「ああ、うん。そろそろやめてくれ。皆も引いてるし」


 ルキロフは「おや?」と言って、メガネをくいっと動かす。


「フェル様、こちらの方達は?」


「人界で世話になった人族だ。クロウ、オルウス、ハイン、ヘルメだ」


 簡単な自己紹介をした後に、ここに来た理由を説明した。


 元々お土産として何かあげようと思っていたからな。メイド達には料理を作ってもらうし、クロウやオルウスには世話になっている。気に入った物があれば持ち帰ってほしい。


「ははぁ、こちらの皆さんに贈り物をすると?」


「その通りだ。せっかく魔界まで来たのだからな。なにか記念の品でも持って帰って貰おうかと思ってる」


「なるほど。分かりました」


 意外と物分かりがいいな。珍しいこともあるものだ。


 ルキロフは両手を広げてこちらを威嚇した。


「ここの宝が欲しければ、私を倒すのだな! ここにあるものは全部私のだ! 絶対にやらん!」


 いつも通りだったか。


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