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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第二章

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賢神

 

 道を三十分ほど進むと、一瞬、なんだか眩暈に襲われた。何だろう?


 さらに進むと、辺りが明るくなってきた。どうやら世界樹に着いたようだ。


 最初なにかの壁かと思ったが、これが世界樹か。なんというか複数の木が巻き付いて一本の木になっているように見える。上を見上げても、枝や葉は見えない。かなり上空にあるのだろうか。それに、木の太さはどれくらいなんだろう? 立っている場所だけ日光が当たっていて、周囲は暗いからどこまで木が続いているのかよく分からない。


 もっと世界樹に近づくと石碑があった。円柱の石碑で私の腰ぐらいまでしかない。断面部分が斜めになっていて、その断面になにか書いてある。あと、手の形をしたマークがついていた。


【右手を乗せてください】


 石碑にはそう書かれてあった。このマークに手を乗せれば良いのだろうか?


 いや、まずは魔王様を待とう。多分、近くにいらっしゃるはずだ。いらっしゃるまで周囲を確認しておこう。


 まず、この石碑だが、石じゃなくて金属だろうか? 魔界のダンジョンでもよく見かける金属に似ている。似たようなものを見たことがあるんだが、どこだったか。


 そうだ、魔神城だ。手を乗せると扉が開くアレだ。しかし、なぜ同じものがここにあるのだろう? 同じように見せかけて違う物なのだろうか? 他にもあるかな?


 この辺りには何もないが、正面に見える世界樹の一部が同じ金属に見える。


 もしかして、手を乗せると、そこが開くのか? エルフ達が世界樹をくり抜いて中に何か作ったのかな? エルフは木を家にしていたし、ありえそうだな。


 そんなことを考えていたら、魔王様がいつのまにか私の後ろに立っていた。びっくりした。心臓に悪い。


 もしかして魔王様は転移魔法が使えるのだろうか? 宿の部屋にも、いつの間にか戻られていることが多いし。あとで聞いてみよう。


「やあ、フェル。見事に使命を果たしてくれたね」


「ご期待に応えられてうれしく思います」


 難易度アポカリプスをクリアした。もっと褒めてもらいたい。


「さて、ここからが本番だよ。さっそく中に入ろうか。あ、疲れているかな? 休憩するかい?」


 クリアしたと思ったら続きがあった。エクストラモードだ。疲れてはいないが、お腹は減っている。


「魔王様、申し訳ありませんが、食事をさせてもらっても良いでしょうか?」


「そっか。お昼が近いね。じゃあ、食事をしてくれて構わないよ。あ、ワイルドボアを狩ってこようか? 好きだよね?」


「いえ、村でお弁当を買いましたので、それを食べます。魔王様もいかがですか? 美味しいですよ」


「興味はあるんだけど、今はお腹が減ってないんだよね。僕は良いから、食事をしてくれて良いよ。周囲を見てくるから、ゆっくり食べて」


 お優しい言葉をかけてもらえた。それだけでお腹いっぱいな気もする。だが、物理的にもお腹を満たしたい。お弁当を食べよう。




 うーん、保温が出来る魔道具をヴァイアに作ってもらおうかな。保温の魔法を弁当箱に付与すれば行ける気がする。冷めても美味しいが、暖かいならもっと美味しいはずだ。そうだ、お茶の水筒にも保温の魔法を付与してもらおう。おっと、あまり魔王様を待たせてはいけない。


「魔王様、お待たせしました」


「うん、じゃあ、まず、そこに手を乗せて」


 魔王様の指示通りに右手をマークに合わせて乗せる。石碑が一瞬、光り、鈍い音を立てて世界樹の一部が開いた。予想通り。


「行こうか」


「はい、お供します」




 内部が暗かったので光球をだして周囲を明るくする。造水の魔法のようにあたりに被害はないが、眩しすぎてつらい。よく見ると、どうやら通路のようだ。魔界のダンジョンに似ているな。


 そうだ、魔王様の指示に従ってここに来たが、理由を聞いていなかった。ちょっと用がある、とおっしゃっていたが、聞いても大丈夫だろうか。


「魔王様、この世界樹にどんな用事があるのですか? 問題が無ければ教えて頂きたいのですが」


「そういえば、言っていなかったね。ここには賢神と呼ばれている奴が居てね、そいつを倒そうと思っているんだよ」


 なんという問題発言。


「ケンシンというのは、賢い神と書いてケンシンと呼ぶ、あの賢神ですか?」


「正解」


 当てたくなかった。私的にはハズレです。


「あの、魔王様、もしかすると、また神殺しをするのですか?」


「また正解。フェルは察しがいいね」


 察したくありませんでした。自分の察する能力が憎い。


「魔王様はともかく、神が相手なら私は手も足もでませんので、ここで待っていて良いですか?」


 役には立ちたいと思うが、これだけは無理だ。魔神と戦ったときに分かっている。


「今は無理かもしれないね。でも、いつかは倒せるよ。今回は僕がやるつもりだけど、神と一騎打ちするだけで精いっぱいだから、神の護衛達を相手してもらいたいんだ」


「神の護衛……天使達のことでしょうか?」


「そう、魔神との戦いでもいた奴らね。確かここにいるのも同じタイプだったはず」


 前回、途中で気を失ったが死ぬほど辛かった記憶がある。あの頃よりは強くなった気はするけど、大丈夫だろうか。


「ちなみに能力制限は解除していいけど、魔力高炉の使用は二つまでだからね。まだコントロール出来ないでしょ?」


 釘を刺された。あれは無理すると意識を無くすから仕方ない。前回もいつの間にか気を失っていたし。


「承りました。ユニークスキルを使用しても良いでしょうか?」


 私だけが持っている二つの広範囲スキル。条件はあるが超強力なスキルだ。二つにまったくシナジーが無いのはご愛敬だ。だが、どちらかを使えば何とかなるかもしれない。


「いや、片方は天使達のことをよく知らないから効かないと思うよ。もう片方は周りに魔物達がいないでしょ?」


 超強力スキルなんだけど、役に立たなかった。生存率が下がった。


「死んだら墓に、魔王様のために散った忠臣、と書いてください」


「大丈夫、フェルは死なないから」


 一体何を根拠にそう言われるのか。魔王様の期待が重い。


「ところで魔王様、魔神の時も思ったのですが、なぜ神殺しをしているのですか?」


 殺さなければいけないほど邪魔ではないと思うのだが。


「色々あってね。でも正確には神殺しではないよ。彼らは神を騙っているだけだからね」


 神を騙っている? 本物の神は別にいるということだろうか。


「本物の神が別にいて、魔王様は神に代わり偽物を倒している、いうことでしょうか?」


「いやいや、そもそも神なんていないよ。神だと思っている奴がいるだけ。思っているのか、思いこまされたのか……。なんでそうなったか分からないけどね」


 私もさっぱりわからない。ただ、神のことはどうでも良いとして、なぜ魔王様がその偽物の神を倒さなくてはいけないのだろう?


「魔王様は何故……」


「広場に着いたようだね」


 ここは何だろう。光球で部屋を照らすと、どうやら広い部屋のようだ。


 魔王様の指示で光球を消した。真っ暗になるかと思ったが、壁の床に近い部分が等間隔に淡い緑色の光を放っている。光はゆっくりと点滅しているようだ。魔界のダンジョンとか魔神城にそっくりだな。


 魔王様は左手を耳に当てて黙られてしまった。いつものポーズだ。


「ちょっと待ってね。今、元に戻しているから」


 なにを戻されているのだろう? もしかして世界樹を元に戻されたのだろうか。


 地響きのような音が地下の方から聞こえてきた。体に響く感じが気持ち悪い。その音に少し遅れて、部屋が明るくなった。


 部屋の壁や天井そのものが白く光っているようだ。どうやら円型の部屋で直径百メートルぐらい。天井は五メートルぐらいかな。部屋の中央には高さ一メートルぐらいの円柱があって、それ以外は何もない部屋のようだ。


 魔王様は何も言わずに円柱に向かわれたので、私も付いて行く。


「フェル、すまないけど、また手を置いてくれないかな」


 円柱を見ると手形のマークがまたあった。文字は書かれていない。世界樹の入り口にあったものと似ているけど、別物なのかな。


「わかりました」


 手形に合わせて手を置くと、円柱が青く光り、しばらくすると、入ってきた入り口の正面に位置する壁が横にスライドして開いた。これも魔神城と同じだ。この先に神が居るんだろうな。とても会いたくない。


「さあ、行こうか」


 しかし、魔王様の期待に応えなくては。覚悟を決めるか。


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