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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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玉座

 

 ジョゼフィーヌとデイノスクスの戦いは、ジョゼフィーヌが勝利した。


 デイノスクスを全く寄せ付けない強さだ。ほぼ瞬殺。ボコボコにされてちょっとだけ可哀想になってしまった。デイノスクスは傷だらけになりながら敗走。ジョゼフィーヌは止めを刺すようなことはしないようだ。


 デイノスクスなら怪我をしていても、マッドウルフに負けることはないだろう。修行仲間というか喧嘩友達みたいなものだからな。死なれるとちょっとだけ心が痛む。


 とはいえ、ジョゼフィーヌを襲ったんだ。ウロボロスの中は完全な弱肉強食。怪我が原因で死んでしまうのも仕方ないだろう。運があればまた会えるはず。今は放っておこう。


 それよりもジョゼフィーヌが以前よりも相当強くなっている気がする。この子はどこへ行こうとしているのだろうか。正直、魔族でも勝てるかどうか怪しい。流石に部長クラスに勝つことはないだろうが、ルネやレモ辺りならやれそう。


 それにさっき言ってた話ってなんだろう? 魔物の中だけで通じるような話があるのだろうか。


「えっと、ジョゼフィーヌ、ご苦労だった。ところで、デイノスクスと何を話していたんだ? 大罪とか暴食とか。少しだけ気になるから教えてくれないか?」


「ウロボロスで生まれた魔物には、大罪と呼ばれる罪を背負う事があるのです。その大罪の一つ、暴食を私が背負っているということですね。この罪を背負えるものはウロボロスで認められた者だけと言われていまして、力を得られるのです」


 称号みたいなものだろうか。私の魔王とか、ノストの守護者とか。ジョゼフィーヌを魔眼で見てみよう。


 ……称号に暴食ってあるな。説明も見える。なになに?


『暴食の大罪を持つ者。ユニークスキル「暴飲暴食」解放。ウロボロス内においてのみ上限を超えて魔力を吸収することができる』


 なんかおかしい説明が見える。目を擦っても、二度見してもその情報が変わらない。ウロボロス内限定の能力が酷い。なんだこれ? ウロボロス内ならジョゼフィーヌは魔力を無限に吸収できるってことか? なんてえげつない。部長クラスでも危ないかも。


 いや、落ち着こう。ジョゼフィーヌがおかしいのは知っていた。これくらい当然だ。ちょっと深呼吸して冷静になろう。


 深呼吸をしてからジョゼフィーヌを改めて見た。


 見た目は幼女型のスライムなんだけどな。


「ジョゼフィーヌは確かに暴食という称号を持っているな。もう一つ聞きたい。大罪の力をすべて手に入れるってどういうことだ?」


 もしかして、称号に連動してユニークスキルも増えるのだろうか? さらに強くなったらどうなるんだろう?


「大罪は全部で七つあります。すべての罪を背負うことで神をも超える力を得る。そういう風に言われているのです」


「神を超えるのかよ」


 神が何を指しているか分からないが、管理者達の事じゃないよな? この称号はどう考えてもウロボロスで付与される物だ。ウロボロスというダンジョンコア自体が管理者よりも優れているとは思えない。つまり神は超えられないはず。


 それにすべての罪を背負う、というのも怪しい。魔眼で見た限りではそんな情報はない。


「ジョゼフィーヌはすべての罪を背負う方法を知っているのか?」


「いえ、知りません。デイノスクスにも言いましたが、大罪を譲渡することはできないのです。ただ、罪の名を持つ者はお互いに戦い、相手から力を吸収するのだと言われています。眉唾ですが試そうかと思っています。魔界にいる間、時間があればウロボロスを探索しようかと思ってました」


「そうか。自由時間に何をしてもいいが、気を付けてな。ちなみにどの魔物が罪を背負っているか知っているのか? 知り合いの魔物とか?」


「知り合いといえば、知り合いですね。三名だけですが。残りの三名は分かりません。おそらく、ウロボロスの下層エリアにいると思います」


 三名は判明しているのか。さっきは興味ないと思ってしまったが、ウロボロス内のことだしちょっとだけ興味が出てきた。確認してみよう。


「ちなみに知っている奴はなんという奴なんだ? 私の知っている奴か?」


「はい、知っています。エリザベート、シャルロット、マリーの三名です」


 ものすごく知ってた。


「待て待て待て、アイツらが他の罪を背負っていると言うことか?」


「はい。それぞれ、憤怒、嫉妬、傲慢の罪を背負っています」


 ということは、アイツらもウロボロスに認められたということか? ウロボロスは人の従魔に何を勝手な事をしているんだ。


 もしかして、ウロボロスにもアビスのような思考があるのだろうか。言葉を聞いたことはないけどな……少し落ち着いたらアビスに相談してみるか。ウロボロスに意思があるなら話を聞いてみたいし。


 よし、それは後だ。まずは第三階層へ下りてからだな。


「かなり意外だったが、話は分かった。言っておくが、スライムちゃん同士で戦うなよ? 何かをやらかして罪の名が無くなったらどうなるか分からないからな」


 死んだりはしないと思うけど、力を失ったら嫌だろうしな。


「畏まりました。スライム同士での戦いは行いません」


 分かってくれたようだ。これで安心。さあ、階段を下りよう。




 階段を下りると開けた場所に出る。第三階層、居住エリア。その大広間だ。その場所に魔族や獣人達が多く集まっていた。


 私の姿が見えると、全員が整列して「おかえりなさいませ、フェル様!」と言った。なんとなく照れくさいのでそういうのはやめてほしかったんだが、ジョゼフィーヌと話をしているうちに準備されてしまったのだろう。


 こういうのは苦手だが、やってくれたことを嫌がる訳にもいかないか。ちゃんと挨拶を返さないと。


「ああ、ただいま。私が留守の間、よくここを守っていてくれた。礼を言おう」


 そういうと、歓声が爆発する。悪い気はしないな。


 しばらく歓声が続くと、手を叩く音が聞こえた。どうやらサルガナが手を叩いているようだ。


「お前達、フェル様はお疲れだ。色々と話したいこともあるだろうが、まずは休憩してもらおう。それと今日の夜は宴にする。フェル様が人界から食糧を持ってきてくれたからな。それまで各自仕事に戻れ」


 また歓声が上がった。そして皆は私に笑顔で頭を下げてから、解散したようだ。


「フェル様、お疲れでしょう。まずはお部屋でお休みになられた方が良いのではないでしょうか。フェル様の部屋は以前のままにしてありますので」


「そうか。だが、休憩するとしても、色々やってからだな。クロウ達は?」


「はい、空いている部屋を三部屋貸しました。クロウ殿、オルウス殿、そしてハイン殿とヘルメ殿の三部屋に分かれています。こんな場所に来ても、主従関係は必要だそうで、主と一緒の部屋は困るそうですね」


「それはクロウじゃなくて、オルウスの考えだろうな。まあ、空いている部屋は沢山あるのだから問題はないだろう。他になにか要望を言っていたか?」


「安全なところを探索したいと言っていましたね。できればフェル様に案内をお願いしたいとのことでしたが、いかがしますか? 誰か代わりでも良いと思いますが」


 連れて来たのは私だからな。連れて来て終わりという訳にもいかないだろう。


「いや、私が案内する。そうだな、一時間ぐらい休憩してからと伝えておいてくれ」


「畏まりました」


「クロウ達はそれでいいとして、ウェンディはどうした?」


「はい、先代魔王の墓を知りたいと言うことで、オリスアが案内しています。おそらく第四階層の墓地エリアにいるかと」


 そうか。墓参りか。ウェンディにとっては数年前なのだろうが、実際には五十年も経っていて、その間に魔王は勇者に倒された。最初に行きたいよな。


 私も両親の墓参りをするべきだろう。両親は私を守ろうとしたんだと思う。そしてイブに殺された。どんな理由があったかは分からない。だが、どんな理由でもいい。イブに借りを返す。


 やられたらやり返す。徹底的に。禍根は残さない。村の方針だからな。私もそれを守らないと。墓参りをして、その決意表明をしておこう。


「わかった。なら一時間程度は任せていいか? ちょっと休憩してくる」


「一時間とは言わずにもっとお休みされてもいいのですが……クロウ殿の探索も明日にされたらどうでしょうか?」


「いや、いい。何かをしていたいんだ。むしろ、サルガナが休んでおけ。私達がいなくても魔界はちゃんとやれていたんだから、問題ないだろう」


「そうですね、なら後はラボラかフフルに頼んでおきます。ではフェル様、ゆっくり体を休めてください」


 サルガナは頭を下げてから離れて行った。周囲にはジョゼフィーヌだけがいる。


「ジョゼフィーヌ、今日は好きにしてていいぞ。ただ、あまり遠くへは行くな。今日の宴には戻って来いよ」


「畏まりました。今日は第四階層の魔物エリアで挨拶するだけにします」


「分かった。それじゃあな」


 ジョゼフィーヌと別れて、部屋に戻ることにした。


 大広間から通路へ入り、自分の部屋へ向かう。歩いているのは無機質な金属の通路だ。自分の足音だけが、カツンカツンとだけ聞こえる。


 途中、両開きの大きな扉があった。ここは玉座の間だ。


 ……そうだな。ちょっと寄ってみよう。


 扉を開けて部屋の中へ入る。


 赤い絨毯が部屋の奥まで敷かれている。絨毯の先にはいくつか段差があり、一番奥には玉座が見えた。ちゃんとこの部屋を見たことはなかったが、奥行きは百メートルぐらいだな。


 絨毯の上を歩いて玉座の前まで来た。魔王が座る豪華な玉座。以前はここに座ることもあったが、魔王様に負けてからは一度も座っていない。


 玉座にはホコリもなく、掃除が行き届いているようだ。


 ゆっくりと玉座に腰かけた。ひじ掛けに腕を乗せて、背中を背もたれに預ける。


 周囲は暗い。うっすらと天井が光っているだけだ。目を閉じると完全な暗闇になった。


 ……思い出すな。あの時もそうだった。色々と疲れていて、こうやって玉座で一人、目を閉じて寝るか寝ないかの境界を行ったり来たりしていた。そして急に声を掛けられたんだ。


『君が魔王かい?』


 魔王様はあの時、そう言った。驚くと言うよりも、夢だと思った。自分は寝てしまったのだろうと。


 頭を下げて目をつぶっていた私はゆっくりと頭を上げた。そして目を開けると、そこには魔王様がいたんだ。


 今考えると魔王様が驚いた表情になったのは、私が娘さんにそっくりだったからだろう。私は夢だと思っていたから何も言わなかったが、魔王様も驚いた様子で何も言わなかった。


 まだ一年も経っていない事なのに、酷く懐かしく感じる。


 あの時のようにここで眠っていれば、また魔王様がいらっしゃるのではないかと思ってしまう。そんな理由で玉座に来た。


 情けない話だ。そんなあり得ないことを考えるなんてな。やはり私は魔王なんかじゃない。心の弱いタダの魔族だ。


 まあいいや。ここで眠ろう。もしかしたら夢で魔王様に会えるかもしれないからな。


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