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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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長距離転移魔法と護衛

 

 ヴァイアの店まで来ると、中からなにかに驚くような声が聞こえた。話の内容までは聞こえないが、声の数からすると、結構な数の人がいるようだ。普段は閑古鳥なのに。


 珍しいことあるものだ。冒険者ギルドと同じように客がいるとは。なんというか、マイナーな場所がメジャーになってしまうという寂しさがある。


 魔界の魔都ウロボロスでもお気に入りの場所があったが、私がそこに良くいるということで、メジャーな場所になってしまった。あの時と同じ寂しさだ。


 そんな気持ちになりながら、店へ足を踏み入れた。


「たのもー」


 店の中にいる全員がこちらを振り向く。そして、ヴァイアが笑顔になった。


「いらっしゃい、フェルちゃん」


「随分と繁盛しているようだな?」


 客を見るとクロウ達とドレアだった。ノストも当然いる。もしかして何も買わない客しかいないのだろうか。もちろん私も買う予定はない。全然繁盛してなかった。


「フェル様、ヴァイア殿は素晴らしいですな! よもやあのような真似ができるとは!」


「うむ、私もドレア殿と同意見だ。ヴァイア君を魔術師ギルドのグランドマスターにするのは間違っていなかった」


 ドレアとクロウに絶賛されて、ヴァイアが照れている。


 魔界へ行くことを伝えに来たわけだが、まずはヴァイアが何をしたのかを聞いておくべきだろう。ヴァイアの顔が「聞いて」って感じになっているし、正直、私も興味がある。


「ヴァイアが何をしたんだ? 多分だが、魔法絡みなんだよな?」


「それじゃ、やって見せるね!」


 ヴァイアが嬉しそうにすると、カウンターの下に潜り込んでしまった。見えないんだけど、この状態から何かをするのだろうか?


 おかしいな。しばらく待っても何も起きない。クロウ達がちょっとニヤニヤしていることにイラッとするが、私が驚くのを待っているのだろうか。絶対に驚かないぞ。


「フェルちゃん」


 背後から声を掛けられた。あれ、でも、ヴァイアの声?


 振り返ると、ヴァイアが笑顔で立っていた。


 なんで私の後ろに? 入り口から入って来たのか? そうか、昨日の魔道具か。カウンターの中にいたのは立体映像だったんだな。魔道具自体は凄いけど、種さえ分かれば特に驚くこともない。


 あれ? でも、いらっしゃいって言ったり、照れたりしたのはどうやったんだ? 記録した映像じゃなくて、リアルタイムの遠隔立体映像とかなのか?


「どうかな! 距離は短いけどちゃんと転移できたでしょ!」


「転移? あ、もしかして、カウンターの下に潜ってから店の外に転移したのか?」


「うん。色々と実験を繰り返してうまく転移できるようになったんだ」


 転移だけなら私もできる。だが、それは目が届く範囲内だ。ヴァイアの場合は近い場所に転移したとはいえ、店の外、つまり目が届かない場所に転移した。簡単にできるものじゃない。


「すごいな。ちょっと、いや、かなり驚いた。小さな物を見えない場所へ転移できるのは知っていたが、自身を転移するとは驚きだ。自分で術式を組んだのか?」


「ううん、ちょっと改良しているけど、ベースはシアスさんの術式なんだ。聖都で教わって、帰ってくる間に改良してみたんだよ」


 シアス? そうか、アイツも転移ができたな。


「あの時の戦いでシアスさんの魔力上限が下がっちゃって、もう使えないんだって。だから私に託すというか、お詫びみたいなものだったのかな、色々と教えてもらえたんだ」


「そういうことか」


 シアスの胸に埋め込まれていた魔石が魔力上限を引き上げていたのだろう。魔王様がそれをシアスの胸から引き抜いた。それで転移魔法を使えなくなったと。ちょっと可哀想な気もする。


「フェル様、そのような顔をされる必要はございません」


 オルウスが微笑みながら一歩前にでた。私はどんな顔をしていたのだろう。同情するような顔だったのだろうか。


「聞いた話ではございますが、あれはシアスやバルトスの暴走。女神と、いえ、邪神と取引して力を得るとは、馬鹿な事をしたものです。魔力上限が下がったとしても、フェル様が同情するような事ではございませんよ」


「そうだろうけど、力を失うというのは怖いものじゃないか? それに関わったと思うと多少は思うところがある」


 敵対しないなら強くたって問題ない。勇者以外の人族は弱い方だからもうちょっと強くてもいいと思うんだけどな。


「魔力上限が下がったと言うよりも、元に戻ったというだけでございます。あれが人族としては正しい状態なのです。それに本人も力を失って感謝しているようですよ。ですので、お気になさらずに」


 感謝される必要もないんだが、本人が納得しているなら別にいいかな。


「分かった。それなら気にしないようにする」


 オルウスが笑顔になると「話に割り込んで申し訳ありません」と言い、一歩下がった。オルウスの話は終わりと言う事だろう。


 ヴァイアを見ると、いつの間にかカウンターの中に戻っていた。


「これからもっと改良して、長距離の転移を実現させようと思うんだ。そうすれば、私がオリン国へ行ってもこの村へすぐ来れるからね!」


 オリンへ行ってた頃、そんなことを言ってたな。長距離転移の術式を作るとか。術式が完成したら私も教えてもらおう。魔王様を探すのが楽になるかもしれない。


「術式ができたら教えてくれ」


「うん、もちろん! 二年以内に完成させるよ!」


「二年? なんで二年なんだ?」


「あ……うん、実はね、魔術師ギルドなんだけど二年後に始めることになったんだ」


 たしか、五年、十年ぐらいを考えているとか言っていたが二年後か。かなり早い気がする。


 クロウの方を見ると、済まなさそうな顔をしていた。


「うむ、国王の依頼でな。ギルドの開始時期が早まった。ヴァイア君の魔道具に関しても相当気に入っているようで、設立の予算も相当増額されたのだよ。連絡が遅くなったのは申し訳ないのだが」


「ヴァイアが納得しているなら別に問題はない。村からヴァイアがいなくなるのは寂しいが、それまでに長距離転移を完成させて、いつでも村に来れるようにするんだろ?」


 そうヴァイアに言うと、しょんぼりしていたヴァイアが急に笑顔になった。


「うん、もちろんだよ! いつでも遊びに来れるようにするから!」


「仕事はしろよ? ディアみたいになったら送り返されるぞ?」


 ヴァイアは長距離転移魔法を作るのに相当なやる気を出している。以前みたいに寝る間も惜しんでやったりしないか心配だな。


「ノスト、ヴァイアは頑張ると寝るのも忘れるからちゃんと見ておけよ? ちゃんと寝させろ」


「はい、もちろんです。あらゆる面でヴァイアさんをサポートしますので、安心してください」


「ノストさん……!」


 いつもどおりというかなんというか。ドレアやクロウ、オルウスなんかは微笑ましいという感じで見ているが、メイド二人は笑顔で舌打ちした感じだ。まあ、私もどちらかと言うと舌打ちしたい派かな。


 その後、魔界へ行くことを伝えた。魔力コーティングの魔道具もできているようで、クロウ達も問題ないとのことだ。


 それを確認して店を出た。他にも色々と報告しないといけないからな。早めに回ろう。


 次に元女神教の教会に入ると誰もいなかった。


 中を見ると、すでに女神像は撤去されているようだ。リエルはここは孤児院にするとか言ってたが、全部取り壊すのかな……まあいい、リエルがいないならここにいる必要もない。次はアビスへ向かおう。


 畑で皆に挨拶してからアビスの入り口までやってきた。


 小屋が大きくなっている。中にはバンシーとシルキーがいてこっちを見ると笑顔になった。


 話を聞いてみると、ユーリとかゾルデ、それにクロウ達が結構アビスへ来ていたので、その対応のために小屋も大きくしたらしい。もし冒険者が増えても大丈夫、とのことだった。


 私がこの村へ来てからアビスへ来たという冒険者は見たことないけど来るだろうか。それに村にはアダマンタイト級の冒険者はいっぱいいる。普通の冒険者が来たら難易度が高いダンジョンだと思われそうだ。


 それを私が心配しても仕方ないので、アビスへ入った。


 ここに来るのも久しぶりだ。早速ジョゼフィーヌを呼び出すか。アイツに言っておけば従魔達全体に広まるだろう。


「アビス、聞こえるか?」


『もちろんです。こちらまで来るとはどうされましたか? その小手で通信――念話はできますが?』


「明日、魔界へ行くつもりなんでな。その報告に来た。ジョゼフィーヌに直接伝えておきたいから呼び出してもらえるか?」


『そういうことでしたか。畏まりました。いま、呼び出します』


 ジョゼフィーヌと念話で連絡してもいいけど、ちゃんと対面して報告したほうがいいだろう。また村をお願いすることになるからな。


 しばらく待つと、ジョゼフィーヌがやってきた。なぜかリエルもいる。


「えっと、珍しい組み合わせだな? そもそもリエルはなんでここにいるんだ?」


「いや? 別に何でもねぇよ? ちょっとした散歩だな」


 ジョゼフィーヌを見ると、ちょっとだけリエルの方を見てから口を開いた。


「リエル様は魔物達の治癒をしてくださっています。アビス内での自然回復で十分だと言いましたが、魔物達が怪我をしたのは自分のせいなので、治すのは当然だとおっしゃいましたので」


 そういうことか。一ヶ月近く経っていても怪我をした魔物達はまだ本調子じゃなかったから、それを治癒魔法で治していたのだろう。リエルはそれを自慢げに言うような奴じゃないよな。知らない振りをした方がいいのかもしれない。


 ジョゼフィーヌには頷くだけの返答にした。ジョゼフィーヌの言葉はリエルには分からないはず。隠したいことをわざわざ暴かないのも優しさだ。多分。


 よし、なら二人に魔界へ行くことを伝えよう。


 リエルの方は普通に納得してくれた。私のジッとしていられない気持ちを分かってくれているのだろう。気を付けてな、とだけ言ってくれた。


 だが、ジョゼフィーヌはちょっと不満気だ。


「魔界にお戻りになるなら、護衛をお連れ下さい」


「魔界に帰るだけだし、護衛は要らないと思うんだが?」


「……そうですね、なら言葉を変えます。雑用をする従魔をお連れ下さい」


 雑用って。でも、細々とした事をしてもらうのは必要かもしれない。となると、スライムちゃん達の誰かしかいないな。


「スライムちゃん達の中で自由に動けそうなのは誰がいる?」


「私ですね」


「いやいや、ジョゼフィーヌは従魔達のリーダーとして皆を統括してもらう必要があるだろ?」


「それなのですが、今、エリザベートにやって貰っています。私がいない時でもやれるようにと、副リーダーを訓練中でして、今回、ちょうどいい練習になるかと思います」


 練習か。そもそもジョゼフィーヌがいない場合と言うのが想定していないのだが……まあ、たまにはジョゼフィーヌにもリーダー役を休んでもらうのはいいかもしれない。久しぶりに魔界に帰りたいだろうし、今回はジョゼフィーヌに頼むか。


「分かった。なら、雑用ではなく護衛をジョゼフィーヌに頼む。私の護衛と言うよりは、クロウ達の護衛だな。私に不測の事態があった場合、対応してもらえると助かる」


「畏まりました。全力で頑張ります」


 よし、これでいいだろう。大体の連絡は済んだし、午後は私の準備をして明日に備えれば問題ないはずだ。


 久しぶりの魔界か。皆は元気だろうか。美味しい食べ物を持って行ってやろう。


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