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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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先生

 

 森の妖精亭を出ると、ちょっと暑いくらいの日差しを感じた。魔界に行けば、しばらくこの太陽にはお目にかかれない。今日は十分に日光を浴びておこう。


 広場には誰もいない。ステージもなく、昨日の片付けも終わっているようだ。結構寝過ごしていたのかも。皆はもう仕事を始めているのだろう。


 さて、魔界へ行く準備として皆に挨拶をしておかないとな。挨拶と言うか報告か。


 最初は村長の家に行こう。また、しばらく留守にするし、村長に言っておけば村全体にも伝わるはずだ。個人的に用がある場所には自分で伝えに行くけど、一人一人に報告するほどの時間はないからな。


 広場の真ん中を通り、村長の家へ足を踏み入れる。


「たのもー……なんだ?」


 部屋には村長とたくさんの子供達がいた。確か孤児院の子供達だ。見た感じ机に座って何かを書いているようだが……よく見るとアンリやスザンナもいる。


「おや、フェルさん、どうされましたかな?」


 村長が笑顔で尋ねてきた。どちらかというと私の方がどうしたんだと問いたい。


「えっと、この子供達は何をしているんだ?」


「リエル君から頼まれまして、文字や算術を教えているのですよ」


 そういえば、リエルがそんなことを言っていたな。色々なところに頼みに行ったとか。なるほど、村長には勉強を教えてもらうように頼んだようだ。まあ、勉強は大事だよな。


「アンリとスザンナ以外にも教えるとなると大変なんじゃないか?」


「いえいえ、何かを教えるというのは楽しいものですよ。それにリエル君からもお給金を頂いています。いらないと言ったのですが、どうしても、と言うことで頂きました。その分はしっかり教えないといけません」


「そうか。金銭のやり取りが入っているならしっかりやらないといけないな」


 見ると村長は嬉しそうだ。先生というのが向いているのかもしれないな。でも気になることがある。アンリとスザンナの目が虚ろだ。昨日の夜更かしが原因だろうか。


「アンリとスザンナは大丈夫か?」


「リエル姉ちゃんは大変な事をした。おじいちゃんが張り切っている。いつもより三倍は厳しい」


「それに私達は皆に包囲されてる。これはアンリ包囲網。私もそれに巻き込まれた。私達が逃げ出せないようにするなんてずるい」


 確かにアンリとスザンナの周囲を子供達が囲んで座っているな。これは逃げ出せない。可哀想だとは思うが勉強はしておいた方がいいと思う。まあ、頑張ってくれ。


「それじゃ、皆は書き取りをしなさい。覚えるのには反復練習あるのみだからね」


 村長がそういうと、子供達は「はい」と元気よく言ってからノートに文字を書き始めた。今は文字の勉強中なんだな。私も良くやった。私の場合は勉強というよりも、本を読むために文字を両親にこれはなにと聞きまくったから勝手に覚えた感じだけど。


 それに最近は書いてないが日記も書いてた。今の私なら読み書きも問題ない。


「それでフェルさん、今日はどうされました? 私に御用で?」


 おっと、そうだった。皆の後ろから書いている文字を覗き込んでいる場合じゃない。


「明日、魔界へ向けて出発することにした。その報告をな」


「なんと、もう出発されるのですか? 聖都から帰って来たばかりなのに」


「まあそうだな。でも、ジッとしているのが嫌なんだ」


 焦っても仕方ないし、私には永遠とも言える時間がある。でも、魔王様を探さないといけないし、イブの動向も気になる。正直、不安だ。今はそうでもないが、何かをしていないと不安に押しつぶされそうな気がする。極力何もしない日は作りたくない。


「魔王様とやらを探しに行かれるので?」


「いや、魔界にはいらっしゃらないだろう。あそこは生きるのが難しい場所だ。眠りにつくならもっと安全な場所、つまり人界だな、そのどこかで眠りにつくと思う。今回行くのは色々と魔界で調べたいことがあるだけだ」


 魔王様が魔界にいる、それは否定できない。もしかしたら、魔王様の家族を埋葬したという無人島とやらにいらっしゃる可能性はある。でも、かなり低いはずだ。一応調べてはみるが、いい結果は得られないだろうな。


「そうですか、分かりました」


 その後、クロウ達を連れていく話をした。またもやアンリとスザンナが付いていくと言ったが、危険度が人界の比ではないので、断固拒否した。こればかりは仕方ない。人族じゃ大人だって危ない。アンリ達じゃ危険すぎる。


 アンリ達を説得してから村長の家を出た。


 次は冒険者ギルドに行こう。


 報告義務があるとは思えないが、冒険者ギルドも私の動向は知っておきたいだろう。それに専属冒険者だからな。どれくらいの期間になるかは分からないが、連絡しておかないと怒られるかもしれない。


 冒険者ギルドの扉を開けると、カランカランとドアベルが鳴った。


 中にいる皆がこちらを向く。めずらしいというか、始めて見た。こんなにこのギルドに人がいるなんてびっくりだ。


「フェルちゃんいらっしゃ――」


「いらっしゃいませ! 冒険者ギルドへようこそ!」


 ディアの挨拶にかぶせるように、ネヴァが大きな声で挨拶してきた。二人ともカウンターの中にいてちょっと狭そうだ。そしてディアはネヴァの方を見て、口をパクパクしている。


「ディア、貴方ね、例え知り合いでもちゃんとギルドの受付嬢として挨拶しないとダメですわよ!」


「でも、うちのギルドって片手で数えられるくらいの冒険者しかいませんし、流れの冒険者もほとんど来ませんよ? 挨拶は別に――」


「例えそうでもマニュアル通りの挨拶はするべきですわよ! その後にフレンドリーな挨拶をしなさいな! いらっしゃい、フェルさん、今日はどうされました?」


「これが普通の対応なのか。ちょっとびっくりした」


 ディアが、うちは家族的な付き合いが売りの支店なんです、とかネヴァに言っている。分からんでもないが、たまにはこういう挨拶も悪くないな。


 ふと思ったがディアはネヴァに指導されているのか? ここではネヴァが先生ということだな。上司や先輩という立場なんだろうけど、なんとなく先生っぽいイメージだ。


 ディア達から視線を外し、ギルドにある備え付けのテーブルを見た。そのテーブルには二人座っている。ユーリとゾルデだ。


「お前達は何をしているんだ?」


「はあ、ネヴァさんがディアさんに受付嬢の基礎を教えるとかで冒険者役をやってます。ギルドカードを作りに来た冒険者に絡む役らしいです」


「私も! 私は駆け出しの冒険者っていう設定なんだ! 無謀な依頼を受けようとして怒られる役! そういう形でディアちゃんの接客を練習するんだって!」


「おまえらアダマンタイトだよな? 他にやることがあるんじゃないのか? というか、それって練習が必要か?」


 ツッコミが多くなってしまった。まあ、テンプレ的な役だとは思うが、それってギルドで教えるような事には思えないんだけど。


「それでフェルちゃん、今日はどうしたの? 仕事の依頼はないよ?」


「貴方ね! そういう時はなんでもいいから討伐依頼を勧めるのよ! 常備型の依頼ぐらいあるでしょ! フェルさんなら何でも狩れるんだから高ランクの魔物討伐をしれっと頼むの! 見てなさい、まずこう言うのよ。フェルさんへのオススメ依頼にワイバーン討伐がありますよ。こちらのゴブリン退治もご一緒にどうですか?」


 食事を頼む時にもう一品どうですかと尋ねるような言い方だな。


「今日は仕事を探しに来たんじゃない。明日から魔界へ行くからその報告をしに来ただけだ」


 そういうと、一度、ギルドの中が静まった。そして驚きの声が上がる。


 色々と質問攻めにあったが、適当に答えていると、急にゾルデが大きな声を出した。


「あー、私も行きたいなー、強い魔物がいっぱいいるんでしょ? 私の斧ならやれると思うんだよね!」


「確かにいる。だが、止めとけ。魔界の地表は怪しげな魔素のせいですぐ死ぬ。魔力の低い奴には相当厳しい。昔、獣人達を連れ帰った時も結構大変だったらしいからな」


 ヴァイアの魔道具でも、起動するために使うのは自分の魔力だ。魔力が切れれば魔道具も使えなくなる。そうなったら大変だ。


「それじゃ、魔物を捕まえて来てよ! お金は払うよ! 冒険者ギルドに依頼しようか?」


「無茶言うな。弱そうな奴を捕まえて来ても、人界だと結構危ない。もし連れて来たら私が怒られる」


 以前、ノストかオルウスがマッドウルフ一匹で町が滅ぶとか言ってた気がする。そんな奴を連れて来ちゃダメだ。


 ディアが「ねえねえ、フェルちゃん」と話しかけてきた。


「明日、魔界へ行くとして、どれくらいで帰ってくるの?」


「わからん。そもそも明確な理由があって帰るわけじゃない。調べたいことがあるので、それが終わるまで、という感じだな。だが、クロウ達の事がある。人族は頑張っても滞在できるのは十日程度だろう。調査が終わらなくても、クロウを連れ帰る時に私も帰ってくるつもりだ」


「最大でも十日ってところなんだね。大丈夫だとは思うけど、気を付けてよ?」


「魔界は危ない所ではあるが、昔から住んでいた場所だ。勝手知ったる、というヤツだな。心配はいらない」


「あの、フェルさん、ウェンディも魔界に行くのですが……大丈夫なのですよね?」


 ネヴァが心配そうに尋ねてきた。ウェンディとは相当な信頼関係があるのだろう。魔族なのに心配してくれるというのはありがたいな。


「ウェンディからしたら数年前の話だろうし、心配はいらないぞ。多少、魔都の中がちょっと変わったとか言う程度だ。危険度が変わっているわけじゃないから大丈夫」


 そういうと、ネヴァはホッとしたようだ。


 ウェンディは問題ないだろう。記憶を少し無くしているようだが、もしかしたら私達が知らないような事を知っている可能性もある。向こうに着いたら五十年前の事を詳しく聞いてみるかな。


「それじゃ色々と報告しに行かないといけないんでな。これで失礼する」


「はい、いってらっしゃいませ! それじゃ、ディア。続きよ。次はテンプレナンバー五、冒険者が亜空間から大量の素材を取り出した時の対処を練習しましょう! こんなにあるなんてすごい、という感じの雰囲気を出すと冒険者にウケがいいわよ!」


「ネヴァ先輩、言いにくいんですけど、それってやる必要ありますか? 冒険者を捕まえておく練習っていらないと思うんですけど?」


 ディアの言い分に心の中で賛成してから冒険者ギルドを後にした。


 次はヴァイアの雑貨屋に行こう。


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― 新着の感想 ―
[一言] チート級冒険者って受付にとってはモンスターカスタマーみたいなもんなんだな…
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