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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十三章

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宴 午前

 

 一通り料理を食べてから、最後にチョコレートのアイスを食べる。やはりデザートは最後にするべき。


「フェル姉ちゃん、そろそろ出し物が始まる。それを見ながらアイスを食べるのがいいと思う」


 アンリとスザンナに服を引っ張られてステージの近くに移動させられた。ゴザを敷いてそこに座る。


「アンリ達の出番はまだなのか?」


 たしかヤトとメノウのバックダンサーをやるはずだ。あのキレキレのダンスで。


「ヤトちゃんとメノウちゃんはウェイトレスの仕事があるから出番は最後の方になったんだ。だから私達も出番は最後。トリを務めるという事は責任重大だから頑張る」


「そうかスザンナ達は最後か。まあ、楽しみにしている。じゃあ、最初は誰だ? 村長か?」


「ううん。最初は最大のライバル。ヤトちゃんとメノウちゃんの敵だから、お仕事で忙しい二人に代わって私とアンリでその腕前を見る」


「スザンナ姉ちゃんの言う通り。まずは敵の情報を集めないと」


 何となく分かった。アイツが最初にやるのか。構成的にどうなんだろう。単に村に来た奴が一番手を務めるのか? 最初は村の住人がやるべきだと思うけど。


 ステージにウェンディが出てきた。露出がほとんどない普通の服だ。


「これから、歌う。よろしく」


 歓声が上がった。特に男共から。まあ、ウェンディは髪で目が隠れているけど、美人だからな。男達には受けがいいだろう。


 ウェンディって正直なところどうなんだろう。露出の高さで人気があったとか聞いてたけど。それに普通に歌えるのか? 言葉を話すのが苦手なはずなんだけど。


「【能力制限解除】」


 おい。


「では、聞いてください。『精霊と踊る私は超最高』」


 それ、歌のタイトルなのか?


 ……どうやらそうらしい。どこからか音楽が流れてきて、そんな感じの歌詞を歌ってる。しかも声がいい。高い声も出てるし、聞いていて癒されるような声だ。振り付けというか踊りが音楽にマッチしているし、曲のテンポがいいから楽しくなってくる。


 そして住人からは合いの手というか、掛け声が練習したようにタイミング良く入った。何だこれ。


「フェル姉ちゃん、ノリが悪い。例え敵でも盛り上げないと」


「これ、有名な曲なのか? どこで合いの手を入れるのか分からん」


 例え知っていてもそんなことをするつもりはないけど。曲に合わせて上半身を左右に振るのも標準的な行動なのだろうか? 怪しげな宗教にしか見えない。


 そんなこんなで歌が終わり、ウェンディは両手で自分の肩を抱きしめるようにして斜め下を向いた。なんだそのポーズ。


 音楽が止まると歓声が上がった。男だけじゃなく、女達からも歓声が上がってるな。


「ウェンディ姉ちゃんはすごい。あの山を越えないとアイドルの頂点には立てない。ヤト姉ちゃんもメノウ姉ちゃんもこれからが大変」


「二人とも給仕をしながら殺し屋のような目で見てる。すごいやる気だね」


「スザンナは殺し屋を見たことあるのか……? ああ、うん。言われてみるとそんな感じだな。親の仇を見るような目だ」


 ウェンディは拍手が鳴りやまないステージを降りてネヴァとハイタッチをした。そして息を切らしながら、こちらへ近づいてくる。


「私の歌はどうでしたか? できれば感想を聞かせてください」


「最初に能力制限解除をしたのにびっくりした」


「はい。制限していると歌をつっかえちゃうので。あの、そういう感想じゃなくて、歌の感想が欲しいのですが。こう、魔王様としての感想を頂けないですか?」


 魔王としてってどういう事だ? そんな感想って必要なのだろうか?


「歌のタイトルはどうかなって思った。有名な曲なのか?」


「有名ですね。タイトルや振り付け、作詞作曲も全部私が作りました」


「全部お前かよ」


 まあ、そういう才能があったのかな。私にはよく分からなかったが、なんか受けてるし、いい曲や歌詞だったのだろう。魔族達にも流行るだろうか。連れ帰ったら歌ってもらおうかな。


 ウェンディが、まだありますよね、という目でこちらを見ている。歌や踊りに対する評価をしないと終わりそうにないな。


「私には芸術的な物は分からないが、いい歌と踊りだったと思うぞ。こう、癒される感じだ」


「ありがとうございます。でも、癒し? 歌はロック系なんですけど……?」


 ロック系? あのルハラにいるマッチョの事じゃないよな?


 ああ、そうか、そういう歌のジャンルなのだろう。ロックがどういうジャンルなのかは知らないけど、癒されたんだからそれでいいと思う。


「歌については詳しくないが、よかったと思うぞ。本当に魔族なのかって思うほどだ。今度、魔界の魔族達にも教えてやってくれ」


 ウェンディは微笑むと礼をしてネヴァの方へ戻って行った。褒められてうれしかったのだろうか。スキップしそうな勢いだ。


 それを見送ると、背後から殺気を感じた。振り向くとメノウがいる。


「メノウ。殺気を出して私の背後に立つな。あと、ハンカチを噛んで下に伸ばすな。切れるぞ」


「アイドル冒険者時代には負けていても悔しいとは思いませんでしたが、今は違います。必ずやウェンディに勝って見せますよ!」


「あ、うん、頑張ってくれ。応援してるから」


 メノウから黒いオーラが見える。アイドルって大変なんだな。ディアの誘いに乗らなくてよかった。


「私への応援はないのですかニャ?」


 影からヤトが出てくる。こっちはこっちで面倒な感じだな。


「もちろんヤトも応援しているから頑張ってくれ。アンリやスザンナもやる気みたいだし、楽しみにしている」


「まかせてヤト姉ちゃん。今日はバックダンサーに徹する。ニャントリオンとして、ウェンディ姉ちゃんとメノウ姉ちゃんに勝つ」


「うん、その通り。でもメノウちゃんのバックダンサーで手を抜くことはないよ」


「もちろんニャ! 相手の最高のものを、最高のもので勝ってこそ意味があるニャ! 皆で頑張るニャ!」


 三人が円陣を組んでなにかやりだした。まあ、頑張ってくれ。


 ステージの方を見たら、村長とエルフ達が楽器を持っていた。なんというか安心できる組み合わせだな。


 さあ、まだまだ料理はある。食べながら出し物を見ておくか。




 結構な時間が経った。一度昼食を挟むようだ。


 さっきからちょっと気になっている。話を聞いて来るか。


「アンリ、スザンナ。私は向こうに行ってくるから」


 二人とも頷くだけで、ついては来なかった。行く方を見て遠慮したんだろうな。気の利く子供達だ。


 ドレア、オリスア、サルガナが端っこの方で固まっていた。昨日の事がまだうまく消化できていないのかな。大半は私が悪いんだけど、あまりにも真面目な顔をしているから心配になる。


「お前達、楽しんでいるか?」


 真面目な顔をしていたサルガナが笑顔になった。


「ええ、楽しんでおります。美味しい料理に出し物、魔界でも取り入れたいですね」


「真剣な顔をしていたのでな、ちょっと心配になった。だから正直に言え。昨日の事を気にしていて楽しめていないんじゃないか?」


 オリスアが顔をぶんぶんと横に振った。


「いえ! 昨日、三人で良く話し合いました。フェル様はやらなくてはいけないことがある、それは理解しています。なので、我々魔族はフェル様がいなくても、ちゃんとやっていかなくてはいけません。そのためにどうすればいいか、前向きに考えています!」


「そうしてくれるなら助かる。無茶を言ってすまないな。でも、それならどうして真剣な顔をしていたんだ? 前向きと言うよりは、沈んだ感じに見えたが?」


「午後の出し物について相談していました! 人族の度肝を抜いてやりたいのですが、なかなかうまく決まらずに――」


「やるのかよ。やるとは思わなかったけど、やるなら頑張ってくれ。一応言っておくが、危ないことはダメだぞ? いや、危なくなくてもオルドみたいにボディビルとか怪しげな出し物もダメだ」


 ボディビルは女性や獣人達には好評だったけど、男共には受けが悪かった。前回はミノタウロスがやったのを私が潰したけど、流石に獅子王にツッコミは入れられない。


 オリスア達が何をするのか知らないけど、無難なものにして欲しいものだ。


 とりあえず問題ないようなので、アンリ達がいるところへ戻ってきた。


 なぜかその場所にローシャとラスナ、そしてオルドがいる。アンリとスザンナはそんな三人を見ているけど、何やってんだ?


「貴方! いい体してるわね! ヴィロー商会に雇われない!? 好待遇で雇うわよ! あ、フェル、貴方もこの獣人に言ってあげて。うちの商会はいい商会だって」


「それはいいが、ソイツを雇う気なのか?」


「ええ、獣人で強そうだし、遺跡の警備とかに向いてそう。目利きには自信があるわ!」


 オルドの方を見ると困った顔をしている。そりゃそうだな。


「ローシャ、ソイツは獅子王って呼ばれていて、獣人達の中じゃ一番偉い。目利きが良すぎて、雇えない奴を勧誘してるぞ」


「え? 獅子王? 一番偉い?」


「オルドだ。獅子王と呼ばれているが王ではない。だが、雇うのは諦めてくれ。本来は共和国から出ない方がいい立場だからな」


 ローシャはポカンとした感じだが、ラスナは大笑いをしている。


「会長、素晴らしい縁ではないですか。雇うのは諦めてオルド殿と縁を深めましょう!」


「あ、うん、そうね……獅子王?」


 ローシャはよく分かっていない感じだけど、まあいいか。


 さて、お昼を食べよう。宴が始まってからずっと食べているからお昼という感覚はないけどな。


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