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魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十二章

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魔王の物語

 

 日記に赤い文字が書き込まれていく。


 ヴァイアの話ではこの赤い文字が忘れてしまったことのようだ。こんなに忘れてしまうなんて、一体何があった?


 おそらく空中庭園で何かあったのだろう。忘れているということに不安を覚えるが、思い出すこともなぜか不安を感じる。だが、記憶が無くなっていると知っていて、無視するわけにはいかない。


 日記から輝きが無くなり、赤い文字による書き込みが終わった。本を手に取り読んでみる。


 そこには私ではない魔王の物語が書かれていた。


 その魔王は家族を殺された。その悲しみや苦しみから、人を蘇らせるという許されない行為を行う。家族は生き返ったが目を覚まさない。生き返った体には魂が無かった。魔王はさらに罪を重ねる。目覚めることのない家族を自らの手で殺したのだ。


 魔王は復讐のために、とある国を罪のない人まで巻き込んで滅ぼしてしまう。その時に魔王が開発した技術で人間達は不老不死になるが、最終的に人間は魔王を一人残して全滅してしまった。


 魔王は不老不死。決して許されない罪を永遠に償いながら生きていくことになるのだ。


 本を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。


 他にも色々書かれていたが、この内容だけですべてを思い出した。


 私は魔王様の事を忘れていたんだ。


「フェルちゃん。その、大丈夫? 泣いてるの?」


 ヴァイアが心配そうにこちらを見ている。


 手で頬を拭った。言われた通り、涙が流れていたようだ。


「ありがとう、ヴァイア。日記魔法のおかげで大事な事を思い出した。私にとってこの記憶は命よりも大事なものだ」


 魔王様の事を忘れるなんてな。


 おそらくだが、イブが私の頭を押さえた時に食らった技なのだろう。アレで記憶を消された。いや、消されたというよりは、思い出せないようにした、か。まあ、どちらでも同じことだが。


 まずは色々と確認しなくてはいけない。あれから一ヶ月経っている。今更慌てても仕方ないから、一つ一つ確認して行かないと。


 イブはなぜ私の記憶を消した? 魔王様やイブの事、それに空中庭園での出来事を記憶から消された。空中庭園でセラと会ったことも忘れていたし、それには理由があるはずだ。


 でも、全く分からないな。そんなことをしてもすぐにバレると思う。そもそも魔王様は皆の前に姿を見せていた。誰かが私に魔王様のことを聞いたら思い出す可能性は高い。


「三人に聞きたいのだが、私の師匠を覚えているか?」


 三人とも首を横に振った。


 そうか。おそらく魔王様は認識阻害をしていたのだろう。聖都を襲撃した時はみんな覚えていたと思うが、すぐに記憶から抜け落ちたかもしれない。それにあの時から一ヶ月も過ぎている。覚えておくのは困難だろう。


 なら誰か詳しく覚えていそうな奴に――そうか、アイツがいた。


「アビスが聖都に来ているんだよな? 呼んでもらってもいいか?」


 そう言うと、ディアが顔をしかめた。


「ねえねえ、フェルちゃん。それはいいんだけど、本当に大丈夫なの? 日記を読んだら泣き出したし、いきなり変な事を聞くし、かなり心配なんだけど?」


「ああ、私はもう大丈夫だ。色々と思い出したから情報を集めたいんだ。悪いがアビスを呼んでくれ」


「うん、なら呼んでくるね。昨日までパンドラ遺跡で調査してたみたいだけど、帰って来てるはずだから。ちょっと待っててね」


 ディアは部屋を出て行った。部屋にはヴァイアとリエルが残る。


「心配かけたな。もう大丈夫だ。聞きたいんだが、私とリエルは白い球体に乗ってレメト湖に落ちたんだよな? それ以外にも白い球体が空中都市から飛び出さなかったか?」


 ヴァイアが首を横に振る。


「私は見てないけど、もしかしたらステアさんかナガルちゃんが見ていたかも。一番近くにいたのがその二人だしね。私が聞いてこようか?」


「ならお願いする。大事な事だ。白い球でなくてもいい。空中都市からなにか放出されなかったか聞いてきてくれ」


 ヴァイアは頷くと部屋を出て行った。


 リエルが笑顔で近寄ってきた。そして嬉しそうに私の肩を軽く叩く。


「いきなり顔色が良くなったな? 以前のフェルが戻ってきたみたいで嬉しいぜ」


「ああ、どうやら記憶を消されていたらしい。全部思い出した」


 そういえば、私は魔王様に脱出ポッドへと入れられた。その時に何か渡されたような気がする。肌身離さず持っていてくれとか言われたものがあったはずなんだが。


 確かウィンのバックアップデータが入っているとか言っていた気がする。バックアップって後方支援のことか? 後方支援のデータ? それが何かは分からないが、魔王様のことだからなにかあるはずだ。


「私が入っていた脱出ポッドの中に何か入ってなかったか?」


「ああ、それなら、その机に置いてあるものじゃねぇか? フェルの入っていたポッドの中に落ちてたとか言ってたぜ?」


 リエルが指す机を見る。ベッドに備え付けてある小さな机だ。そこには黒い小手が置かれていた。


 魔王様がいつもつけていた小手だ。


「左手用の物だけで、右手用の小手は無かったみたいだぞ」


「それでいいんだ。この小手は左手用だけだからな」


 机へ手を伸ばし、小手を手に取る。思いのほか軽い。


 魔王様はイブのウィルスにより長い眠りにつくとおっしゃっていた。そうなる前にこれを私に託してくれたのだろう。これを使ってどうすればいいのか分からないが、これは旧世界のものだ。アビスに聞けば何か分かるかもしれない。


 そんなことを考えていたら、部屋がノックされ、ディアとアビスが入ってきた。


「フェル様、お目覚めになったようですね。心配しておりました」


「ああ、心配をかけたな。いきなりで悪いが質問がある。魔王様を覚えているか?」


「魔王様? 魔王とはフェル様の事ですよね?」


「なら創造主の事は覚えているか? えっと、追放された創造主だ」


 アビスは首を傾げる。本気で覚えていないような顔だ。


「追放されたとは何でしょう? 創造主は全員が亡くなっていますが、誰も追放はされていません。そもそも創造主の追放と言う意味が分かりません」


 アビスは覚えていないようだ。具体的な方法は分からない。だが、これはイブの仕業だと思う。


 魔王様の存在を無くすことが目的なのだろうか?


 イブは私やアビスから魔王様の記憶を消して何がしたいんだ?


 いや待てよ? 魔王様の存在を消すということはイブの存在も消えたことになるのか?


「アビスはイブという名前に心当たりがあるか?」


「いえ、ありません。先程から何の質問なのでしょうか?」


「アビスの記憶が改ざんされている可能性がある。私もついさっきまで一部の記憶がなかった。私もアビスも知っているはずなんだが、アビスは覚えていない様だからな。その確認をしている」


「私の記憶が改ざんされている? そんな馬鹿な」


 アビスは、自分の記憶に自信があるようだ。なら色々質問してみよう。アビスも魔王様には色々してもらっているからな。


「アビスは権限が増えているだろう? それを誰が増やしたか覚えているか?」


「お待ちください。情報を確認してみます」


 アビスが目を閉じて黙ってしまった。もしかしたら、体のリンクを解除してソドゴラ村にあるアビス本体に戻っているのかも。戻ってくるにしてもしばらくかかりそうだな。


「なあ、一体アビスと何の話をしてるんだ? 魔王様とか創造主ってなんだよ? アビスが言っていた通り、魔王ってフェルの事だよな?」


 リエルが不思議そうにしている。無理もないな。


 そうだ。この際だ、リエル達には全て言ってしまおう。皆には知っていてもらいたい。信じてくれるかどうかは分からないが、隠し事はしたくないんだ。


「ヴァイアが戻ってきたら説明する。ちょっと待ってもらっていいか?」


 リエルとディアが頷くと、ちょうどいいタイミングでヴァイアが戻ってきた。


「ステアさんとナガルちゃんに聞いて来たよ!」


「どうだった?」


「うん、全部で三つの球体を見たって。二つはレメト湖に落ちたんだけど、これはフェルちゃんとリエルちゃんだよね。もう一つは別方向に飛ばされたんだけど、どこへ飛んだのかは分からなかったみたいだよ」


 三つ目があるのか。ということはそれに魔王様が乗っていた可能性が高いな。


 多分だけど、イブやセラは脱出ポッドを使う必要がないはず。転移できないようにしていたのはイブだ。それを解除すれば脱出ポッドを使う必要は無い。


 それにイブの体は本体じゃない。魔王様にウィルスを入れられたみたいだし、無理に脱出する必要は無いはずだ。セラが乗っていたという可能性もあるが、イブとセラは協力していた。あの場で協力を解消するとも思えない。


 空中庭園に戻ってみる必要があるだろう。もしかしたら、なにか手掛かりになる様な物があるかもしれないからな。


「空中都市ってどこに落ちたんだ?」


「それなら、ほら、聖都に来るときに通った場所だよ。突風が吹いて人が住めないって私が言った場所。そうそう、落ちた時に地震があったくらいで被害はほとんどなかったみたいだよ」


 そういえば、聖都へ来る途中にディアからそんな話を聞いたな。なるほど、あそこには人が住んでいないから、そこへ落ちるようにしたのか。


「フェル様」


 急にアビスが私の名を呼んだ。確認とやらが終わったのかな。


「情報を確認しました。確かに辻褄が合わないような情報が存在します。もしかすると図書館の情報を消されたり改ざんされたりした可能性がありますね。まさか、そんなことができるとは。私が最強なのに……」


「やはりそうか。ならアビスも含めて皆に話しておきたい事がある。荒唐無稽な話なので信じられないかも知れないが、できればお前達には信じて貰いたい」


 そう言うと、当たり前的な事を三人に言われた。アビスだけは、話を聞いてから判断します、とか言ったけど。


 よし、私と魔王様の話を聞いてもらおう。


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