表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様観察日記  作者: ぺんぎん
第十二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

507/717

女神ウィン

 

 魔王様は倒れているバルトスとシアスを治療した。左手をかざすだけだったけど、多分治ったのだろう。


「目が覚めたらまた暴れるかもしれない。拘束と見張りをお願いするよ」


 魔王様がお願いすると、オリスアとドレアが私を見た。私が頷くことで、二人も頷く。やってくれるようだ。


「二人とも倒したのか。魔族とは恐ろしいな」


 声のした方を見ると、アムドゥアとサルガナがいた。


「もしかしてアムドゥアの家族は救出されたのか?」


「ああ、おかげさんでな。まあ、サルガナってヤツのおかげで俺はボロボロだが」


 念話を聞いていなかったが、家族は無事だったようだ。でも、ボロボロ? なるほど、確かに服があちこち切れているし、コートもほとんど原型を留めていない。正直やりすぎだと思う。


「強かったのでちょっとだけ本気をだしてしまいました」


 そしてサルガナは悪びれていない。まあ、生きてるなら問題ないだろう。それに丁度いい所に来た。


「アムドゥア、大聖堂前にいる女神教徒達に退く様にいってくれ。何人かはオリスアの殺気で倒れたようだが、残っている奴らが立ったまま目を閉じてお祈りしているんだ。はっきりいって怖い」


「洗脳されている奴らか。あれは俺でも無理だ。リエルの事も気になるからとっとと退いてもらいたいところだが……仕方ない、なんとか説得できないか試してくる」


「よろしく頼む」


 アムドゥアが大聖堂の方へ向かうのを見届けてから、魔王様の方へ視線を移した。魔王様はシアスのローブを色々漁っているようだ。


「手元にあるエリクサーは一本だけだね。オリスア君、だったね? これを飲んでおくといい。聖剣で切られた怪我だとしてもこれなら効くだろう」


「うむ、ありがたく頂こう。しかし我ながら情けない。ほぼ相打ちのようになったわけだが、バルトスとやらは本気を出していなかったのだな。あのままやっていたら確実に負けていた。例え偽物でも勇者ということか」


 オリスアはエリクサーを飲みながら、そんなことを言っている。本気でなかったとはいえ、天使並みの奴を一瞬でも圧倒できるだけで相当なものだけどな。


「しかし、師匠殿はお強いな。それに何やら訳の分からんことを話していたようだ。あれは一体どういう意味なのだろうか?」


「おお! このドレアもその話を伺いたいですな!」


 色々面倒な事になっている。だが、魔王様は話すわけないし、話している暇もない。


「待て、リエルを助け出すことが先決だ。そういうのを師匠に聞くのは後にしてくれ」


 というか、うやむやにして聞かせるつもりはないけど。


 すぐに行きたいのに大聖堂前にいる奴らが邪魔だ。アムドゥアが説得しているようだが、全く取り合っていないようだし。ここはオリスアのように私が殺気を放って気絶させるか?


 そう考えていたら、急に祈りの言葉が聞こえなくなった。そして女神教徒達が一斉に大聖堂前から離れる。何があった?


『フェルちゃん、大聖堂前の女神教徒達が邪魔だったんでしょ? こっちで排除しておいたよ』


『ディアか? それはその通りなのだが、どうやった?』


『うん、ダンゴムシのライルさんに頼んで操って貰ったよ。あれくらいなら余裕だって』


 なるほど。魔虫で女神教徒を操ったのか。助かった。


『こっちは皆で避難誘導を続けるから、リエルちゃんの事、よろしくね!』


 ディアが念話でそう言うと、他の皆からも同じようによろしく頼むとお願いされた。


『分かった。すぐにリエルを助けてくる。それまでこっちはよろしく頼むな』


 皆から肯定の言葉を貰った。さあ、私も自分の役目を果たそう。と言っても、魔王様がほとんど対応してくれると思うが。


「それじゃ、大聖堂へ行ってくる。師匠、行きましょう」


「そうだね、行こうか」


 魔王様と一緒に大聖堂へ歩き出した。だが、ドレアに止められた。


「フェル様、お待ちください。師匠殿とお二人だけで行かれるのですか? フェル様や師匠殿の強さは疑いようもありませんが、誰かをお供に付けた方が良いかと」


 魔王様の方を見ると、顔を横に振った。まあ、そうだろう。


 この先は女神に操られた教皇がいる。それにもしかしたら天使がいるかも。例えオリスアでも危険だ。


「心配はいらない。この先は教皇だけだ。お前達はさっき言った通り、勇者達を見張っていてくれ。アムドゥア、お前もよろしく頼むぞ」


「ああ、こっちは任せろ。念話でも言ったが、リエルをよろしくな」


 その言葉に頷いてから、改めて大聖堂の方へ向かった。


 大聖堂への入り口まで白い階段を上がる。たった数段の幅広の階段。次の段を上がるまでに五歩ぐらい歩く必要があるほどだ。ここで邪魔をしていた女神教徒はもういない。はやる気持ちを押さえて一歩一歩入り口に近づいて行く。


 巨大な木製の扉を開き、中へ足を踏み入れた。


 外から見てもかなりの大きさだったが、中を見るとより大きさが分かる。天井まで二十メートルほどありそうか? そして奥行きは百メートル以上。幅も五十メートルはありそうだ。


 でも、そんなことはどうでもいい。


 奥にリエルがいる。


 入り口から祭壇まで青い絨毯が敷かれているが、祭壇の手前でリエルがこちらを向いて立っていた。そしてリエルのすぐそばには立派なローブを着た女性が倒れている。あれが教皇なのだろうか。


 左右に並ぶ長椅子の間を通り、リエルに近づく。十メートルくらいまで近づくと、リエルが右手をあげた。


「よお、フェル。助けに来てくれたんだな。でもわりぃな、俺の方で何とかできちまったぜ!」


「……そうか。そこに倒れているのは教皇か?」


「おう。ガツンと一発くれてやったぜ!」


 リエルがドワーフのおっさんに作って貰ったメイスを得意気に振り回している。


「治さないのか?」


「治す?」


「教皇の頭から血が出ている。このままでは死んでしまうんじゃないのか?」


 リエルは笑顔になった。


「おいおい、コイツは俺を乗っ取ろうとしたんだぜ? 別に死んだっていいじゃねぇか」


 まあ、そうだよな。つまらない期待をしたものだ。


「茶番は終わりだ。とっとと正体を現せ。リエルの真似をしたつもりか? 点数を付けられないほどダメダメだぞ?」


 リエルは一瞬驚いた感じになったが、楽しそうに笑い出した。


「へぇ、私がリエルじゃないことが分かったのね? 一応理由を聞いてもいいかしら?」


 口調が変わった。これが女神、なのだろうか。


「敵とはいえ、アイツが暴力を振るうわけないだろ。それにアイツは怪我をしている奴を放っておくものか。似せたのは口調だけだったな。そんなもので騙される奴はいない」


「その辺りの機微はよく分からないから勉強になるわ。でも、どうでもいい事よね。これからは私がリエルなんだから」


「お前がリエルだと?」


「そうよ? 私が教皇リエルとして生きるの。昔の性格なんてどうでもいいじゃない」


「どうでもいいわけがあるか!」


「怖いわね。でも怒ったところで何も変わらないわよ? 今までと違い、リエルに使ったのはイブと一緒に作った技術なの。もうリエルは二度と目覚めないわ。もっと早く来れば助けられる可能性はあったけど、もう無理よ。まあ、来るのが遅くなるようにバルトス達に足止めさせてたんだけど」


 そんなわけはない。魔王様なら絶対にリエルを元に戻せる。


 隣にいる魔王様を見ると、頷いてくれた。うん、大丈夫だ。


「ウィン、君はなんでそんなことをしているんだい?」


 リエル、いや、ウィンか。ウィンがつまらなそうな顔をした。


「そんなことを知ってどうするの? まともな理由があれば私を許すのかしら?」


「それは分からない。でも君を理解したいとは思ってるからね」


 ウィンは少し吹き出すと、腹を抱えて笑い出した。


「理解! そう! 理解は大事だわ! なら理由を教えてあげる。ぜひ理解して!」


 ウィンは深呼吸してから微笑む。


「美しいでしょう、この体は? こんな美しい体がずっと欲しかったの!」


 何を言ってるんだ? 美しい体?


「それが理由かい?」


「そうよ! このリエルは人界の中でも五本の指に入るほどの美しさ! ずっと、こんな体が欲しかったわ! それがようやく手に入ったのよ!」


 ウィンは恍惚な顔になった。欲しかったものを手に入れた喜びか? だが、美しい? 確かにリエルの見た目は完璧だ。だが、それだけなのか? 美しいからリエルを?


「そんな理由でリエルの精神を乗っ取ったのか……?」


「そんな理由? それ以上の理由があるの?」


 今度は不思議そうにしている。本当にそう思っているのだろう。


「ふざけるな! そんな下らない理由でリエルを……!」


「下らない理由……? 貴方に何が分かるの!」


 感情が激しいというか、今までの管理者とは違う感じだな。


「私はね、何千年も人族に尽くしてきた。創造主の命令でね。でも、どれだけ尽くしても、どれだけ結果を出しても、あの方は私を見てくれなかった。あの方の興味は人族だけ。私なんか、ただの道具……いえ、それ以下だったのかもしれないわ」


 今度は落ち込んだ感じだ。だが、魔王様も同じように辛そうな顔をされている。


「それが人族の体を欲しがった理由かい?」


「そうよ。私がただのプログラムだから見てもらえない。なら人族の体を使えば、あの方も私を見てくれる。そう思ったのだけど……」


 なぜそういう思考に至るのか分からない。これがプログラムの思考というものなのだろうか。


「何も変わらなかったわ。だから人族でも美しい容姿を求めるようになった。人間でも人族でも美しいものを見るのは好きでしょう? 私が美しい容姿ならいつか振り向いてくれると思ってね」


「だが、君の創造主は死んだ。君が殺したんだ」


「そうよ。振り向いてもらうために美しくなろうとしたのに、あの方は私を止めようとした。だから私が先に止めたわ」


 止めた。殺したということか。


「そういえば、シアスに埋め込んだ天使に面白いことを言っていたわね? 創造主達が私達を子供のように思っていたですって? 子供のように思っていたのなら、労いの言葉の一つでも欲しかったわね。生まれてからそんなことは一度もなかったわ」


「それは――」


「でも、もういいの。あの方はもういない。楽園計画なんてもうどうでもいい。私は私の好きに生きるわ。でもね、私はずっと人族に尽くしてきたの。だから交代してくれてもいいでしょう?」


「交代する?」


「そうよ。今度は人族が私に尽くすの。私を称え、私を崇め、私が楽しく生きられるようにずっとね。いえ、ずっとでなくても、私が尽くしてきた同じ期間で構わないわ」


 人族がウィンに尽くす? 何千年もの間、人族がウィンのために尽くせということか。


「これからの人族は私のためだけに生きるの。リエルの体はそのために乗っ取ったのよ。あの方の気を引く必要はなくなったけど、尽くすなら美しい容姿の方が人族も嬉しいでしょう? 私は人族のためにずっと尽くしてきたのだから体を貰うくらい当然の権利だし、尽くしてもらうのも当然よね。何か間違っているかしら?」


「間違っていないよ、君の言い分は全面的に正しい」


「なら――」


「でもね、一つだけ間違ってる」


「何が間違っているのかしら?」


「彼――君の創造主は、君の事をちゃんと見ていたはずだ」


「……なんでそんなことが貴方に分かるのかしら?」


「君の名前は彼にとって大事な人の名前だからだ。ウィンという名前は、不死戦争で死んでしまった彼の娘の名前なんだよ。彼がその名前を持つ君を、雑に扱っていた訳がない」


 ウィンの顔が怒りに変わっていく。いや、困惑している?


「……そんなはずはない! そんな情報はどこにもない! 嘘をつくな!」


「虚空領域の情報を消されたようだね。もしかしたら君が個別に持っていた情報も。彼女は君が――いや、君達が創造主達を殺す様に、色々と画策してたのだろう」


「存在しない情報を信じる訳にはいかない。だが、誰がそれをやった! 答えろ!」


「虚空領域の情報を永続的に書き換えられるのは管理者か創造主だけだ。でも、管理者同士はお互いの行動を監視しているし、創造主が情報を書き換えるには管理者の許可がいる。なら、できるのは――」


「イブか? だが、イブは私と――」


 ウィンが何かに気付いた顔をした。そして祭壇の奥へ駆け出す。次の瞬間にリエルの姿が消えてしまった。どこへ行った?


「祭壇の奥に転送装置があるようだね。空中庭園へ向かったんだろう」


「追いかけましょう!」


「そうだね。でも、まずはこの子を治してからだ。すぐに治すから、この子を運ぶように誰かへ伝えてくれないかい?」


 倒れている教皇を見る。アンリの乳母に当たる女性だったな。なら爺さんや村長達にお願いするか。


『村長、爺さん。大聖堂に来てくれ。教皇が気を失っている。ここから連れ出して介抱してやってほしい。私達はリエルを追うから後は頼んだぞ』


 村長から回答があり、すぐに来るとのことだ。こっちはこれでいいだろう。


「この子の治療は終わったよ。あとはこのままにして、僕達も空中庭園へ行こう」


「はい、行きましょう」


 そう言って転送装置と思われる場所へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ